背後から掛けられる不意の声の方へ上条は顔を向けると、上条達から後方4~5メートル。
そこに立っていたのはウェーブがかったブランドの長い髪を蓄え、その頭には黒いベレー帽とそれに合わせたように黒を基調としたどこかコスプレじみた制服のテイストの上下で決めたフランス人形のような少女、フレンダ=セイヴェルンが猫を思わせる大きな瞳を輝かせながら子供のようにこちらに向かって力いっぱい両手を振っていた。
「上条~!ちょっとこっち!このフレンダ様が呼んでるんだから結局ダッシュで来るがいい!」
「初春さん後ろは見ない方がいい…多分関わったら凄いめんどくさい奴に違いない。上条さんの第六感が叫んでる。何も見てない聞こえない。いいですか?」
「ちょっ、ホントに良いんですか?」
周囲の耳目を集めてるのをこれっぽちも気にせず早く来いと、大きな声と身振りでアピールするフレンダに上条と初春は見て見ぬふりを決め込み
「むきーっ!どういうわけよ上条!こんなかわゆい女の子が誘ってるんだから結局何を差し置いても来るのが男の甲斐性ってモンな訳よ!てか無視はやめて!」
「恥ずかしいから大声で呼ぶんじゃねえよ!一体全体なんなんですかね?」
「なんだかんだ言って放っておけないんですよね、付き合いがいいというか上条さんも難儀な性格です」
結局、無視もしきれずフレンダの元にトンボ返りしてしまう上条当麻、それに遅れて付いていく初春飾利。
上条本人が不幸と称して憚らないトラブルの多くは案外この性格に端を発してるのかもしれない。
「好きな子に意地悪したいって気持ちも分からなくはないけど、素直に好意を表してくれた方が結局女の子的には評価高いんだよ?」
「やっぱ無視しときゃ良かったか?」
「ああもう!ごめんってば!はいこれ結局、進級祝い」
そういってフレンダが差し出したのは、贈答用に包装してあるがメンズファッションブランドの袋であった。
それを上条へ押し付けるように渡す。
「いやこんな高いものは流石に貰えないだろ、フレンダ」
「あん?こういう時の遠慮は逆に失礼だって分かんないかなぁ。上条だって逆の立場になって考えてみなよ。アンタが良かれと思って必死になって選んだプレゼントを結局相手が『貰えない』なんて言われたら感上条はどう思うわけよ?」
フレンダは怒るのではなく嗜めるように上条に問う。
確かに遠慮・謙遜は美徳とされるし、それはきっと素晴らしい事なのだろう。
だがそれに重きを置くばかりに時に人は自分を評価してくれる人の想いまで軽んじてはいないだろうか?
そう訴えかけるように。
「…悪かった」
「ノンノン!素直に反省できるのは良い事だけど結局上条はバカな訳よ。私が聞きたいのはそっちじゃなくて」
「だな、ありがとう」
「二重丸!よくできました!」
その言葉を聞くと同時にフレンダの顔はいっぺんにほころぶ。めでたしめでたし
といくほど現実は甘くは無いようで
「ほんとはもっと相手の人となりとか趣味とかじっくり観察してプレゼントを選ぶのがセオリーなんだけど、結局上条の場合はそのクソダサイ私服をどうにするのが急務って訳よ!心配しなくてもサイズは合ってるはずだから。そういうの私見破るのは得意なの、ニヒヒ」
「ああ、クソダサイって言わなきゃいい話で終われたのに、この人余計なひと言付け加えて墓穴掘っちゃうタイプですね…」
「うんプレゼント貰っておいてなんなんですが、素直に喜べないこの感情は何なんですかね?つか、そんなにダサいですかね?上条さんの私服」
世の中には知らなくてもいい事が沢山ある。
知らなきゃ良かった思うことはそれ以上に沢山ある。
それでもそれを実感するのはいつだって、
「あーえーその……で、でも!でもですよ!好きな服を身に着けるのが一番だと思いますよ?」
「クソダサイわけよ」
知った後のことである。
◇
「あいつらはまだまだ選ぶの時間かかりそうだし、結局ダイヤノイドは私の庭みたいなもんだから上条達をエスコートしてやるわけよ!」
そういって憚らないフレンダの先導で、上条と初春は中学生や赤貧高校生でも手が届きそうなダイヤノイド商店区の穴場スポットのいくつかを回る事となる。
「あ、これ可愛い!それにこれならなんとか買えそうかもですね。やっぱ行き慣れてる人は違いますねフレンダさん」
「ここは私の隠し玉!ここの良さが分かる初春ちゃんはなかなかセンス良いわけよ!それに比べて麦野ときたら安っぽいから駄目だなんだって…」
「行き慣れてるも何も、フレンダはここに部屋借りてたもんな」
「あれ上条?私上条にその事喋ったんだっけ?」
なんの気無しに上条が口にしたその言葉にフレンダが反応する。
藪蛇だったかとも思ったが、もう遅い。
「まあ上条も滞空回線使えるんだしバレバレだよね、そりゃ」
金髪の少女がどことなく落胆したような、ちょっとだけ寂しそうな表情でいつものように笑う
(まずったな…)
特別クラスのクラスメイト達に装着が義務付けられた左腕の味気ないデジタル時計。
互いの監視、牽制を目的としているのであろうそれには、時計とは別の機能が付けられ、その一つが滞空回線の一部使用権である。
上条の場合はフレンダ達監視対象よりさらに上位の閲覧権限が持たされており、フレンダの過去を暴くなどたやすい事なのだが、今回に関してはちょっと違う。
そしてフレンダのちょっと寂しそうな笑顔を見て、それを誤解されるのはなんとなく気持ちが悪いと感じたので上条は包み隠さずありのままを伝える。
「大ハズレ。これに関しちゃお前の友人の浜面と加納神華、それに誰かを幸せにしようとしたペテン師が教えてくれたんだよ」
上条は大げさにわざとらしく否定する。
サンジェルマンについては言わなくてもいいのではないかと思ったが、それでもここを誤魔化すのは嘘をつくのと何も変わらない気がした。
「浜面は下僕で友人とはちょっち違うけど!加納ちゃん知ってるの?あいつ元気してた?まだメソメソしてる?」
「ああお前が贈ろうとしてた懐中時計。とっても喜んでたぞ…自分じゃ泣き虫だなんて言ってたが俺が会ったアイツは誰かの為に泣けて、誰かの為に勇気を出せる誰よりも強い奴だったよ」
「そっか…結局アイツ元気してる訳なの…うん?上条?結局、なんで加納ちゃんへの誕生日プレゼントが懐中時計って知ってる訳?まさか……入ったの?もしかして…あの…映像も…み・た?」
しんみりした空気が流れるかと思いきや思いがけぬところで地雷は埋まっていた。
不味いと思った上条は今度こそ口ごもる。
「あれは緊急処置というか…そのですね、いやなかなか可愛かったと思いますよ、あのダンス」
「言わなくていいって訳よ!!!なんでなんで?あの部屋には高度な暗証コードと物理的な防衛処置が……ああ浜面か、くっそ~あいつ!」
「二重丸~」
「結局煩い!乙女の秘密を見るなんてありえない訳よ!変態!ドスケベ!」
店内でちゃかぽこ取っ組み合いをして、結局初春から煙たげな視線を送られる羽目になった二人なのであった。そして…
「ごめん!上条さん、初春!待ったでしょ?」