とある魔術の留年生(仮)   作:ブッシュ

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サバカレーをもう一度 その3

「分かった!分かったから!忘れるから!いいかげん裸絞めは止めてもらえませんかね、フレンダ?いくらお前の体重が軽くてもキツイんですよこっちは!」

「ダッシャァーーー!本気で締め落とそうとしてんだから当たり前だっつうの!」

 

一見フレンダが上条当麻におぶさってるようにしか見えず、世間様の目も気にせずいちゃつくバカップルのような有様なのだが、彼らの言葉の端々から聞き取れる酷く物騒な単語がそれを否定する。

道行く人々は『俺たちにもこういう時代があったね』、『若いって羨ましいわね』などと見当違いな言葉を口にするが、フレンダが今上条に仕掛けてるのは立派な殺人技。

しかも彼女はかれこれ3分近くも上条にそれを仕掛けているのであった。

 

「昔から忘れる忘れるって言ってる奴が実際に忘れた試しなんかないから、物理的に記憶から消し飛ばしてやるって言ってんの!ていうか完全に頸動脈決まってるのに、なんで上条は平気でいられる訳よ?」

「え?脳に酸素が届かないぐらい別にみんな耐えられるだろ?てか胸が背中に当たってる方が上条さん的には気になりますのことよ」

「奇天烈な身体構造してんじゃねーっての!それに結局おっぱいが背中に当たってることとか、伝えなくていい訳よ!」

 

ギャグ空間にしたって無茶苦茶じゃねーか、と

暗部で様々な化け物を葬ってきたフレンダでもゾッとするような事を言い出す少年に一層締める腕に力を入れるのだが

 

「もういい加減にして下さいよね!」

 

争乱や非日常に寛容な学園都市の社会が許しても、柵川中学2年生佐天涙子は許しはしない。

 

「んもー!ちょっと目を離して帰って来てみれば、なんなんですかこのバカ騒ぎは!初春もなんで黙って見てたのかな?」

「いや~あのお二人の仲間だって思われるのはちょっとぉ……」

 

この惨状を見て長く美しく黒い髪を振り乱しガシガシと地団駄を踏む佐天と、可憐で純朴な見た目とは裏腹にさらりと腹黒いことを呟く初春。

佐天の抗議の声を聞き、フレンダはようやく上条の首筋に巻き付け締め上げていた細腕を外し、その美しいウェーブがかったブロンドの髪を払い、なびかせる。

 

「あんた、何をそんなにカリカリしてるって訳よ?意味わかんないんだけど」

「そんな!別にわたしはカリカリもイライラもしていませんけど…。ただ上条さんも迷惑そうですし、そういうのはやめた方がいいと思います」

「こんなのただじゃれついてるだけだっつうの。結局アンタは上条の彼女って訳?」

 

…本気の裸締めをじゃれ合いと評するのはいかがなもんでしょうか?

上条はそう思わざる得なかったが、いつもおかしいフレンダより今問題なのは佐天だと思いやんわりと言葉を選んで口を開く。

 

「フレンダは馬鹿なこと言ってんじゃねーよ、佐天に迷惑だろうが。佐天も心配してくれるのは嬉しいけど、上条さんはあれくらい別にどうってことないのですよ、右腕がもげてもこうして生きてたりすんだから」

「なーんだ、結局彼女でもないのにグチグチ言ってた訳よ。重たい女は嫌われるわよ?」

「なんなんですか?喧嘩売ってるんですか、あなたは!」

「フレンダ、いい加減にしろよ!」

 

激高する佐天と上条の間をスルリと抜けて、フレンダは何もなかったようにいつものよう笑いながら

 

「あーあー誰かさんのせいでシラケちゃった。上条、先に帰らせてもらうわ!あとはアンタらで勝手にやるがいい訳よ、ニヒヒ」

 

上条たちを背を向け歩き出す。

 

「佐天さん?どうしちゃったんですか、なんか変でしたよ」

「なんか勝手に熱くなっちゃって空気悪くして……ごめんね初春…上条さんも…私ホント何やってるんですかね?みんなの楽しい休日ぶち壊すようなことやって、ごめんなさいホント…ごめん」

 

もうとうに見えなくなったフレンダの背中をいつまでも見送りながら、呻くように自己嫌悪を絞り出す少女。

 

「あの人に…フレンダ…さんに上条さんから後で謝っておいてもらえませんか?」

「それは構わないけど別に佐天だけが悪いわけじゃねーだろ、どう贔屓目に見ても責任は五分五分。あいつの態度にも問題はあったんだから、あいつに謝らせに行くよ」

「ううん、きっと顔を合わせても何を言っていいか分かりませんし。あーあ、おかしいですね。また会った時に言いたかった、言おうとしたことはいっぱいあったはずなんですよ?」

「さ、佐天さん…」

 

誰かに聞かせるわけではない佐天涙子からこぼれ出る独白。

 

「フレンダと友人だったのか?佐天は」

「どうですかね?出会いのきっかけはホントくだらない事で、会ったのもたった2回だし、ひょっとしたら友達なんて思ってるのは私だけで、向こうはそんな仲だなんて思ってくれて無かったのかもしれないです」

 

要領を得ない要旨。

上条には彼女が何を言いたいのかは分からないし、きっとそれは上条が分かっても仕方ない事なのであろう。

あるいは誰に聞かせても意味のない話だからこそ聞いてほしかったのかもしれない。

 

「何があったの?なんで連絡してくれかったの、待ってたのに?あの時のサバ料理は作り過ぎて友達と一緒に食べて苦労したんだよ?良かったらまた食事に来れば?…次に会ったときは、そんなことをいっぱいいっぱいお喋りしようと思ってたんですよ」

 

佐天涙子の無理やり作った痛々しい笑顔が歪む。

 

「だから喫茶店で彼女にまた会ったときにとても嬉しかったんです。でも向こうは私に会ったことすら気づいてなくて、そしたら私なんか無性にイライラして、そんな自分がどうしようなく嫌で…私」

「はぁ……佐天!」

「へ?」

 

上条がそう呼びかけると同時、今にも泣きだしそうな彼女の柔らかな両の頬をグニャリとつまむ。

 

「ひゃ!な、な、何をやってるんですか!上条さん!んもう!」

 

不意に頬を掴まれ思わず叫び声を上げる。が、

 

「泣いてる顔よりもそっちの方がいいぞ。大体お前が泣いてたらフレンダだってどうしていいか分かんねえだろ?」

「な、何を言ってるんですか?」

「どうせ泣くんなら、友人同士の感動の再会で泣いてほしい。上条さんは意外とそういう番組好きなんですよ。実際生で一回見てみたいわけよ」

 

佐天は彼の術中にはまったことを知る。

本当にデリカシーがなくてもっとスマートな涙の止め方は無かったのかと、彼に文句の一つも言いたくなるがそれでも佐天涙子はきっと笑っていた。

 

「酷いですよ…上条さん、私だって女の子ですよ」

「佐天、俺には実際フレンダがどう思ってるかなんて分からない。ひょっとしたらお前が思ってる通り、フレンダは佐天を友達だなんて思ってないのかもしれない」

 

それでも

 

「でも0%じゃないだろ?だったらちゃんと言いたかった文句、伝えたかった約束を全部あいつに話してみろよ。それに例え通じあっていなかったとしてもフレンダは今こうして生きてるんだよ。だったらもう一回、もう一回最初からやり直してみればいいだろ?きっと失ってしまった幸福よりも未来に繋がってる不幸の方が絶対幸せなんだから」

 

記憶を失い、過去失い、もう出会う事が出来なくなってしまった、思い出すことが出来なくなってしまった上条当麻のいつかどこかでいたかもしれない友人。

自分みたいな不幸は上条当麻だけで十二分。だから自分勝手でもおせっかいでも目の前の少女にはそんな想いをさせたくないから、上条はいつものように歩き出す。

 

「だからさっきの約束は無しだ!その代わりと言ったらなんなんだがお前が自分でフレンダと話すための手助けを俺にさせてくれよ」

「で、でも上条さん、あの人の居場所なんて分かるんですか?」

「それが残念なことにな…」

 

こんなもの使うまいと思いつつ、早くもこれのお世話になる自分にうんざりしながら上条は自身の左手をちらりと見て佐天達に背を向け歩き出した。

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