とある魔術の留年生(仮)   作:ブッシュ

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いつもと同じどこか違う朝

四月。科学の都にして象牙の塔である学園都市にも春の息吹が感じられるようになった爽やかな朝、上条当麻はいつものようにバスルームの固いタイルの上で目を覚ました。

まだ覚醒しきらぬ頭と身体を無理やり起こしリビングに向かうと、そこにはいつもと違う光景が広がっていた。

 

「おはようなんだよ、とうま!ほらほらはやく身支度整えて。すぐに朝ご飯作っちゃうんだよ」

「あのインデックスさん?どうしちまったっていうんですか?」

 

上条当麻の聖域と化していた台所に陣取ってあわただしく動き回ってる白い少女。いや今はいつものように純白な布地と豪奢な金の刺繍をほどこされた修道服…歩く教会を身に付けず、上条当麻がいつかどこかでインデックスに買い与えた着丈のちょっと合わないシャツとショーパンを着て、白金のように美しい長髪も邪魔とばかりに乱雑に後ろに括っている。

 

「どうしたもこうしたもないんだよ、ほらほら顔でも洗ってくればいいかも」

 

追い立てられるように台所から踵を返し、風呂場の洗面所に向かった上条当麻であったが鏡の前で茫然と立ち尽くしていた。

なにせあの二度寝とアニメと食事をこよなく愛するインデックスが、あろうことか台所で朝ご飯を作っていたのだ。

我が目が映したのは夢か現かあるいは魔術師の攻撃か?と異能であれば神すら屠る力を備えた理外の力…幻想殺しの宿る自身の右手で胡蝶の夢であれ!とばかりに頬を力いっぱい捻り上げる

 

「痛い……やっぱあのインデックスは本物?いやいやエイプリルフールはもう終わったし」

「おい、いつまで呆けた事を言っている人間!さっさとその寝惚けた顔を洗っちまえ」

 

その声の主を探そうと振り返ると誰もおらず、視線を下げると足下には金髪隻眼で15センチサイズの高性能フィギュアもとい北欧の魔神オティヌス

世界を統べる神である彼女はとある理由で妖精さんとなり、インデックスと同じく上条当麻の下宿の居候となった。

そんな彼女に今朝の異常事態を伝える

 

「おいオティヌス!聞いてくれインデックスがおかしいんですよ!きっと魔術師の攻撃に……」

「おかしいのはお前の顔と頭だよ、わが理解者殿」

 

神様らしく傲岸不遜に上条の言ってる事がおかしくてたまらないといった様子で笑うオティヌス

 

「禁書目録が台所で腕を奮う。それの何がおかしいっていうんだ?ん?」

「あのインデックスですよ?」

「お前は「あの」禁書目録をなんだと思ってるんだ…あれだって生物的には女性だし料理の一つくらい作るだろ」

 

そりゃそうなんだが…となお未練たらしく抗弁しようとするツンツン頭に女神はなおも告げる

 

「全くいつまでも親離れできないガキだな、お前は…いやこの場合は子離れ出来ない父が正しいのか?」

「何言ってるんだそりゃ違うでしょうよオティヌス」

「何も違わないさ。いつまでも頼りなく保護すべき対象としてあいつを見ているから、朝っぱらこんなことで動揺するんだ」

 

突拍子もない意見だったからか?はたまた自分すら自覚してない心の深奥に隠したものを智慧の女神に見抜かれたか?

上条当麻は二の句を継げれず馬鹿みたいに口をパクパクさせて立ち尽くした。

 

「ひと月前にお前が留年したって聞いたときの禁書目録、それはそれは動揺していたよ。『私がとうまに迷惑ばかり掛けちゃったから!とうまがとうまが学校から追い出されちゃうんだよ!』って泣き出して、泣いたかと思えば『私がどうにかするんだよ!』って急に外に走り出そうとしてなだめるのに骨が折れたぞ。ったく、この神の説明もよく聞かずに……まったくお前らはよく似ているよ!」

「お前がアイツを大事にしたいって気持ちは分かるさ。でも禁書目録だってあの少女だって同じくらいお前を大事に思ってる。それはお前が一番理解してやるべき事なんじゃないのか?」

 

 

去年の7月29日。白い少女と上条当麻が『初めて』出会ったとてもとても暑い夏の日。

全ての記憶を失った上条当麻がこの広い世界で孤独じゃないんだと教えてくれた日。

少女が自分ではない自分を「大好きだった」と言ってくれた日。

自分はこの少女の笑顔を守るために生きていても良いんだって誓った日。

 

 

たった一人だった自分に生まれた魂の片割れ

かけがえがなくて大事だった白い少女

だからこそ上条当麻はどこかで間違えてしまったのではないだろうか?守るという事は傷つかないように真綿で優しく包み続けることではないという簡単な事を

 

「俺さ…あいつを…インデックスを守りたいって気持ちは本当だった本当のつもりだったんだ…でもさ違うんだよなそれじゃ駄目なんだよなオティヌス」

「お前の想いはこの神が保証してやるさ。ほらさっさとその不細工な顔洗ってしまえ。私は腹が減ってるんだ先にリビングにいっているぞ。」

 

朝からくちゃくちゃになった顔をどうにかしようと上条が洗面台に向き直ると、扉の向こうから聞こえるか聞こえないかの声が…

 

「進級おめでとう。理解者」

 

 

 

 

インデックスにばれない様にといつも以上に身だしなみを整え、再びリビングに向かうと既にテーブルには待ちわびたというような顔した二人と一匹が

 

「とうま!お洒落に気を遣うのはいいけどもうちょっと早くして欲しかったかも!私はお腹ペコペコなんだよ」

「禁書目録、こいつに早く料理を食べてもらいたいのは分かるがそんな急かすな。不細工には不細工の悩みがあるんだ。あとトーストにマーマイトはやめてもらえないか…」

「むう、オティヌスは我儘なんだよ!これなくして英国の朝ご飯は語れないかも!」

 

テーブルに広がっているのはトーストとサラダと目玉焼きにスープ

決して上手に出来たとは言えないが一生懸命作ったことが伝わってくる料理

 

「はあインデックスさん、ずいぶん頑張ったじゃね~か上出来上出来」

「ふふん!とうまは私を流石に嘗めすぎかも。これくらい文字通り朝飯前なんだよ!だからとうまは私をもっと頼りにするべきなんだよ」

「いやいやホント頑張ったよお前」

 

ちょっと気安いかと思ったが上条はインデックスの頭を撫でる

 

「うわうわとうま!やめるんだよ!レディーの頭をそう簡単に触るもんじゃないかも!」

「まったくいつまでイチャついてる。さっさと食べるぞ!」

 

時間は止まらず必ず流れゆく

人と人との関係だってずっと同じなんてことはなく形を変えていくものなのだろう

 

「とうま、今日から二年生なんでしょ!遅刻なんかしたりせずちゃんと学校行かなきゃ駄目なんだよ」

「うげ!インデックスお前なんでそんなことまで知ってんだよ」

「あいさとこもえから聞いたんだよ。授業もちゃんと聞いて…」

「おい禁書目録!この付け合せの赤い煮豆はやめた方がいいって言っただろ」

 

それでも上条は今はもうちょっとだけこの家族と一緒にいたいと思う

それは頭じゃなくて心から

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