「くそっ、不幸だ!」
「カミやん、このクソ狭苦しい空間で大声出すのはやめるんだにゃー」
言うまでもなく上条当麻は不幸である。
そうでなければ2年生および留年生(仮)初日の晴れがましい日に、アロハグラサンマッチョこと陰陽師土御門元春と一緒に学生寮のおんぼろエレベーターに閉じ込められるなんてことは無いはずなんだから。
なぜこの馬鹿二人が鋼鉄のかごにラッピングされることになったのか、時計の針を20分ほど巻き戻してみることにしよう。
インデックスとオティヌスそして珍奇な雄三毛猫スフィンクスに送り出される上条当麻、そして時を同じくして部屋を出る隣人、土御門元春
「おお土御門!珍しいじゃねーかこの時間に登校なんて」
「そもそも学校に行くこと自体が稀で、危うく落第しかけたカミやんにだけは言われたくないんだぜい」
「ふっふっふっ。今日の上条さんはそれぐらいの嫌味で、凹むようなやわらかハートではございませんことよ」
なんて軽口を叩き合いながら二人は通路の突き当りに設置されているよく言えば廃墟マニア向けな逸品、見たままでいえば貞子と八尺様が四つに組んだ末に友情が芽生え、フレディーと戦う舞台になっちゃいそうなおんぼろエレベーターに乗り込む
「あ?だったらカミやんはロリを否定するっていうのかにゃー!?」
「土御門、友人として言わして貰うがスーツ姿のOLお姉様もロリにしろなんて、暴挙は断じて認めるわけにはいかないんだ」
「そんなことないぜい。浴衣だって着物だってナース服だって義妹ロリに着せときゃオールオーケーなんだぜい!」
「誉を失ったかロリの権化め!」
ゴトンッ!!
二人のあまりの知性の無い会話に嫌気が差したのか、はたまた同じ趣味を持ちながら分かり合えないオタク共の愚かな戦いを止めようとしたのか真偽のほどは分からないが突然、激しく縦揺れしたかと思うとエレベータは動きを止めた
「よし小僧、戦争だ!ロリが勝つかカミやんが死ぬかの戦争だ!ってあれ?」
「ちっ!このボロエレベーター止まりやがった、えーと非常用のボタンと…」
「ダメだにゃー……そもそもそれがイカレテやがる、学生寮なのにこの緩すぎる安全意識とは自分の住んでる学生寮とはいえ恐れ入るにゃー…?」
「携帯もつながらねえぞ!」
「カミやんは聞いたことないにゃー?エレベーターっていうのは法律上、相当量の不燃材で本体を覆わなきゃいけないから、場所によっては携帯電波が全く届かなくなるんだぜい」
「不幸だー!」
かくして冒頭に繋がるわけだが騒ぎ立てる上条を余所に、土御門は落ち着き払い実家のソファーにでも寝転ぶかのように寛ぎだした
「もうこうなったらどうしようもないんだぜカミやん、幸い火災や酸欠になるような心配もないし管理人もじきに事態に気付くさ」
「そうは言うけど土御門俺もお前も学校が…」
「何言ってるんだにゃー、一日くらい休んだってなんとかなるって誰よりも知ってるのはカミやんですたい。それに下手に動いてこれ以上事態を悪化させる方が……んんん!」
弛緩しきっていた土御門の身体が弓のように弾き絞られ、口からはただ事ではない未来を予感させる声が漏れた
「どうした、土御門!大丈夫か⁉」
「いいか上条当麻、時間はそんなにない!今から要点だけ話す。質問は挟むな。そしてそれを聞いたらすぐに決断しろ!いいな⁉」
土御門の普段のおどけた口調がナリを潜め、否が応にも上条の全身に緊張が走る
「心の準備はいいか?ここ数日前から舞夏が研修で忙しくてうちに寄り付かなくてなぁ…お恥ずかしい話だが期限が切れていた保存糧食を引っ張り出して食べていたわけだが…」
聞くな、と上条は顔しかめる
これは絶対聞いてはいけない。だってこれを聞いてしまった絶対ろくでもない決断を選ばされる
「それが当たったみたいでもう括約筋が限界ぎりぎりですたい。」
「ふざけんな!土御門なんで今なんだよ!いやこれホントちょっと待ってっててば!こんなとこでそんなことされたらもう俺、お前とどんな顔して話していいか分かんねえよ。とにかくヤバいって!」
「だ・よ・な…」
上条の言葉を聞くや否や土御門はポケットから折り紙を取り出した
「黒キ色ハ水ノ象徴。其ノ暴力ヲ…」
「いやだからってこんなとこで魔術使ってんじゃねーよ!これで当たり引いたら俺どんな顔して舞夏に伝えたらいいか分かんない。」
「止めるなカミやん!もうお前は選んだんだ!ってマジで揺らさないで!出ちゃう出ちゃうんだにゃー!」
「ったく、登校初日だから可愛い後輩が一緒に行こうと誘いに家まで来てみれば、何を遊んでるんですかね」
小柄でおかっぱ頭の少女が両の人差し指を指揮棒のように振るうと同時、轟音とともに故障していたエレベーターは設計上ありえない機動を始めた。
御坂美琴であれば電子制御盤に割り込んで一時的にエレベーターを動かし上条たちを救ったに違いない。
一方通行であればもっとスマートに要所のみの破壊で上条たちを救ったに違いない。
しかしこれは力技。暴力と破壊のみを追求した能力の業。
こんな力…ここまで強力な念動能力を上条は1人しか知らない。つまりは…
「舞殿星見!」
そう上条が結論付けると同時にエレベーターの扉は幼児がノートを破るように容易くむしり取られ、破壊の元凶は恭しく優雅に会釈し告げる
「ご無沙汰してますね、上条当麻…ああ違う。こう言うべきでしたか、上条先輩」