とある魔術の留年生(仮)   作:ブッシュ

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先生だからなのです

バスを降り校庭を抜け古ぼけた校舎に入るとクラス分けや入学式前の準備で廊下は歩行者天国といった様相を呈していた。舞殿は入学や下宿について諸々手続きが残っているからと上条に別れを告げ、上条が「案内しようか?」と誘うのを予測してかそれをはねつけるように足早に人ごみの中に消えていった。

上条は呼び止めようと伸ばした腕を力なく下げると、なんだか情けなくなって頭も視線も重力に引かれるように下がっていき誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

 

「結びつく力が舞殿達を傷つける…か、そんな事考えたこともなかった」

「どうしたのですか?上条ちゃん」

 

「うわっ!」

 

下がりきった視界を突如独占したのはニコ中小学生、生ける七不思議などあだ名がいっぱいなみんな大好き小萌先生である。予期せぬ未知との遭遇に上条は音量調整のねじがぶっ壊れたスピーカーと化した

 

「ひっ!」

 

「どうした?じゃないですよ!あんた自分の身長考えてから登場してください」

「朝からご挨拶なのですよ。…それはそうとどうしたのですか?朝から小豆相場で大失敗したみたいな顔してましたが?先生は心配なのですよ?」

「はぁいやそれが…いやこれ先生に言っていいものかどうか…」

 

 

いかに教師とはいえこの学園都市の繁栄の影に長らくはびこった闇

それについてうっかり話して万が一この人に危害が及んだらと思うと上条は目の前の恩師に相談することに躊躇を覚えた。しかし…

 

 

「あのですね?上条ちゃんはちょっと先生をなめていませんかね?生徒が教師の心配するなんて百年早いのです。あ、百年早いと言っても上条ちゃんは3年でちゃんと卒業してくれなきゃ嫌ですよ?いやこれホントに」

「先生…能力者なの?そういやスケスケ見る見るとかずっと付き合ってるんだもんな、うっかり脳が開発されちゃってもおかしくない。」

「こりゃー!まーた馬鹿なこと考えおってからにー!やっぱり上条ちゃん能力開発を全く理解してないじゃないですかー!補習なのですよ!」

 

 

短い手足を一通りじたばたさせると月詠小萌は不出来な教え子を諭すように語りかけ始めた。

 

 

「まったくもう、読心能力なんかなくったて上条ちゃんの考えてることぐらい分かりますよ。先生なんですから」

「いやそれってどういう理由ですか?」

「理由なんてなくたって上条ちゃんが誰かの為に悩んで、私のために相談するのを躊躇ってくれてるってことくらい分かるのですよ。」

「それは先生だからですか?」

「でーすでーす、先生だからなのです」

「ですか」

 

 

屈託のない笑顔を教え子に向けるこの教師にはきっと100年後も敵わないだろう。というかこの人普通に100年後も同じ姿で自分を注意してきそうだなんて思いながら、上条は舞殿とのバス内での会話を恩師に相談した。

 

 

「ふむふむなるほどですね。確かに新体制になってからの学園都市の経済・研究成果は落ち込んでいるという話ですが、それは大熱波やエレメントと呼ばれる水晶生命体の出現、極めつけは統括理事長の逝去による一時的都市機能の喪失なんてものがあるから、一概に一つをとりあげてこれが要因だと決めつけることは出来ません」

「それじゃあ小萌先生は暗部組織の全面解体によるものではないと?」

「いえいえ勿論、学園都市がそういう非合法組織に超法規的権限を与え、その恩恵を得てきたことも事実です。チャイルドエラーを使った人体実験も分かる範囲ですら枚挙に暇がない街ですから。舞殿ちゃんの言っていることの真偽はさておきこの街の偉いもんさんたちがそういう計画を立てたと言っても不思議ではありませんし、事実特別クラス開設時の要項に不可思議な技術体系で製造された腕時計の着用義務なんてものがありますし、生徒さんたちの願書の中にも明らかな不審・虚偽の記載が含まれています。まあ学校側は統括理事会直々の指示という事で意にも介していませんが…それに上条ちゃんにそういう人を惹きつける不思議な力があるっていうことも先生はちゃんと知っています。」

 

月詠小萌は珍しくちょっとだけイラついたように火をつけていない煙草を口に咥えて揺らし、現在の学園都市の状況と舞殿が唱えたプロジェクト・首輪(リード)の信ぴょう性が黒みがかった灰色だと認めた。

しかし、

 

 

「ところで上条ちゃん教えてください?上条ちゃんはいったい何を悩んでいるのですか?」

「…え?」

 

意味不明だった。恩師の言葉が。だが月詠は上条の思考に更なる言葉をねじ込む

 

「だからお前はこんなことでなにを悩んでるんだって言ってるんです。」

「…それは……これ以上あいつらに干渉して舞殿たちを傷つけるのが…」

「怖いですか?」

「そりゃ怖いですよ。自分のせいで誰か…

「自分が傷ついてしまうのが。」

 

会話になっていない。だっておかしいじゃないか。自分はこれからクラスメイト・友人になるだろう人たちの事を慮って苦悩しているはずなのだ。だとしたら今の目の前にいる恩師はなぜ自分に叱り付けているんだ。おかしいのは相手じゃないとしたら…だとしたらおかしいのは

 

 

「しっかりしなさい、上条ちゃん!私の知ってる上条当麻は誰かの作為の有無で、困っているクラスメイトに手を差し伸べるのを躊躇するような人なんかじゃありません。」

「それでも自分が良かれと差し伸べた手が誰かを傷つけるかもしれない」

「それならあなたはその仲間を見捨てれるのですか?誰かを傷つけるのが怖いから上条当麻であることをやめてしまえるのですか?始まりの始まりから考えてみてください。計画なんてどうでもいい。暗部組織なんて放っておけ。あなたの頭で考えてそれでもあなたは舞殿星見って女の子と分かり合う事を放棄してしまえるのですか?」

 

数瞬の沈黙の後

 

「すいません、どうかしてたのは俺みたいです」

 

月詠小萌は帰り道が分からなくなった迷子の子供をあやすように、何度も何度も間違えあたりが暗くなるまで居残りさせられたように劣等生がようやく答えを導き出した教え子を褒めるように精いっぱい背伸びして優しく上条の当たを撫で、

 

「はい、よく出来ました。流石私の自慢の生徒さんなのですよ」

 

「やめてくださいよ子供じゃないんだから…」

「上条ちゃん、覚えておいてください。もし上条ちゃんが舞殿ちゃんを救うのを失敗しておかしくなったらきっと先生が殴ってでも上条ちゃんを救ってみせます。だから安心して留年生(仮)を楽しんできてください」

「期待しないでおきますよ」

「ふふ、そうですね」

 

上条は舞殿星見が消えた方の廊下に一目散に駆け出した。

 

 

 

 

「うう、人ごみでゴチャゴチャしてますね。いったいぜんたい第三視聴覚室ってどこにあるんですかね」

「おい、舞殿どっち向かって行ってんだよ、ほら行先は教えてごらんなさいこの上条さんがパパッと解決してやるからさ」

 

一瞬両親を見つけた迷子のような眼をしたがすぐにかぶりを振り、自分が出来る限りのぶっきらぼうな声で

 

 

「何しに来たんですかね、先輩」

「どうせこの人のこの学校の妙に規則性のない部屋配置に戸惑って迷ってるだろうからな。ほら案内書貸してみろ…ああ第三視聴覚室ってそもそもフロアが違うじゃねーか。ほら、はぐれないようについてこいよ」

 

上条はごねる舞殿の手をぶっきらぼうにつかむ

 

「じゃなくてですね!さっき話したこともう忘れたんですか!?そういうのが統括理事会に利用されるって…

「関係ねえよ、んなもん。俺は俺が舞殿を手助けしたいからやってるだけだ。そんなもん知ったこっちゃねえのよこっちは」

「…なんなんですかそれはいったい。馬鹿じゃないですか」

「へえへえどうせ上条さんはお馬鹿な留年生(仮)ですよ。自分が一番知っていますよ」

 

人ごみをかき分けるように進む二人、離れないようにはぐれないように繋ぐ右手に力がこもる

 

「…舞殿です」

「へ?」

「だからさっき先輩私の名前知りたいって言ったじゃないですか!私の本名は舞殿星見です!コードネームとかそういうのじゃないですからね先輩!ちゃんと覚えておいてくださいね!あ、あと勝手に記憶をまた失って私の事忘れてしまったら嫌ですからね」

「はいはい、分かったよ舞殿」

「はい、先輩!」

 

誰よりも普通に憧れた少女は手錠も首輪も引きちぎり、今ようやく学園生活の一歩を踏み出す。

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