孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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守護神は生命を諦めない

 最近、フォスの日常は中々に忙しい。

 博物誌編纂と見回り予備役の仕事の合間に、いつかのことをこなす。

 

「第一問! 百九年前の五月二日に出現した月人の型を答えよ! 正式名称で!!」

「ええと、三閃型……いや五閃型だったかな?」

「時間切れ! 正解は、五閃型流線形高台型でした!!」

「ご、五閃型までは合ってたし……」

「言い訳しない! 続いて第二問!!」

 

 アレキのクイズ形式での月人講座に始まり。

 

「何度言えば分かる!! 後ろに目を付ける感覚だ! 空気の流れや相手の気配を読め!!」

「ボルツ先生! これ明らかに上級者向けのコースです! もっと基本からお願いします!!」

 

 見回りの合間のボルツに稽古をつけてもらい。

 

「フォス、いったい何度割れれば気が済むんです?」

「文句ならボルツにどうぞ。あの戦闘馬鹿、気楽に砕きやがって……」

「…………」

「あの、ルチルさん? その『今なら治療にかこつけて解剖できるのでは?』みたいな目、やめてもらっていいです? 金剛先生に怒られたの、もう忘れたの!?」

 

 ルチルに修復してもらって。

 

「……君が羨ましい。ボルツに目をかけてもらって。それに比べて僕なんか……」

「いやいやいや、何言ってるのさ。僕とそんなに変わらない歳なのに、イエローとずっと組んで戦ってるジルコンの方が凄いじゃん! 僕なんか、何度もボルツに割られたし!」

「そう言いつつ、段々ボルツの動きについていけるようになってますよね……僕もいっそ、腕を交換すれば……」

「いやいやいやいや! 駄目だよ、体は大事にしないと!!」

 

 ダイヤ発案の『ボルツの良さを知ってもらおう! 相方総当たり!!』によってボルツとペアを組んだジルコンの石生相談に乗ったり……これは予定外だったが。

 

「ガルーダ~、僕の癒しは君だけだよー」

「フォス、あんまりガルーダを甘やかすな。遊ぶだけなら、後にしてくれ」

「あーん、シンシャが冷たいよー!」

 

 ガルーダの面倒を見ると言うか、シンシャに面倒を見てもらい。

 

「ゴーストー?」

 

 そして最後に行きつくのが図書室である。

 フォスが書きなぐった、ほとんど雑多なメモの集まりに過ぎない博物誌を、一応見れる形に纏めて清書するためだ。

 製紙担当のペリドットからは紙を無駄にしないでほしいと言われるが、こればっかりは仕方がない。

 

「ゴースト、ゴーストいるー?」

 

 顔なじみの図書室の主を呼ぶも、返事がない。

 

「ゴーストー?……いないのかな?」

「呼んだかしら?」

「うわあああ!!」

 

 不意に自分の真後ろから声をかけられ、フォスは素っ頓狂な声を上げる。

 振り返れば、黒が透けて見える銀髪で左目を隠した宝石が立っていた。

 

「ご、ゴースト、びっくりさせないでよ……」

「ごめん、つい、ね。フォスはいつも驚いてくれるから」

 

 図書室管理をしている宝石、ゴースト・クォーツは垂れた目を細めてクスクスと笑っていた。

 彼は気配を消すのがとてもうまく、こうして人の後ろに回り込む癖がある。

 

「博物誌の纏め?」

「うん。あと、頼んでた資料は……」

「クラゲの育成日誌でしょ? 見つけておいたよ」

「サンキュー」

 

 『熾烈! 私の激戦記!』なる戦闘記録と勘違いしてしまいそうなタイトルの古い資料を受け取り、椅子に腰かけて広げる。

 

「役に立つの、それ?」

「分からない。ガルーダを育てるのに、参考にならないかなって」

「クラゲと、あの子はかなり違うと思うよ?」

「そーなんだけどねー。シンシャにばっかり負担かけさせたくないし。僕も少しでも役に立てれば、と思って」

「そっか」

 

 ページをめくりながら明るく言うフォスに、ゴーストは笑顔のまま髪を弄っていたが、不意にムッとした。

 

「黙ってて」

 

 小さな呟きは、しかしこれまでとは違う強い口調だが、それはフォスに向けられた物ではなかった。

 

「どう? 役に立ちそう?」

「……分からないや。後でゆっくり読むよ」

 

 そう言って本を閉じるが、どうやら余り役に立ちそうになかったようだ。

 

「……いいから、黙っててよ」

 

 誰にともなく、今度はやや大きな声でゴーストは呟いた。

 だがフォスは慣れた様子だった。

 

「中の『もう一人』が何か言ってるの?」

「うん、まあね。大したことじゃないよ」

 

 目を逸らし、ゴーストは曖昧に微笑んだ。

 ゴーストは二重構造の宝石であり、透けて見える黒い部分に『もう一人』の宝石がいるのだと、フォスは特別に教えてもらった。もちろん、金剛先生やルチル、年長者組は知っていることだが……それでも自分から打ち明けたのは、フォスだけらしい。

 

「それじゃあ、博物誌の纏め、しよう?」

「うん」

 

 机の上に書いたメモを広げる。

 草花や昆虫、それにガルーダについての雑多な記録だ。

 

「この魚の記述は、確か……前に見た。魚類目録の、二十三ページ」

「ダブりかー!」

「あと、この虫も……」

「あー、そっちはそんな気がした!」

 

 何分、見たままを記録しているフォスである。

 後になって、すでに先人が記録していたのが分かることも多い。

 

「ふふふ、先に確認しておけばいいのに」

「したつもりだったんだけどさあ、うっかりしてたよ!」

「でも、翅の模様と交尾の様子については記録がなかったよ」

「よかった、完全な無駄骨は避けられたか……」

 

 ホッとしているフォスを見て、ゴーストは懐かし気に微笑んでいる。

 

「何だか昔みたいだね。前はよく図書室に来てくれたもの」

 

 昔、フォスはクロにこの浜のことを教えるために、図書室に入り浸っていた時期があった。いや今となっては実際にはクロの方がフォスに知識を付けさせるための方便だったと、何となく察せるのだが。

 この時の縁もあり、フォスは博物誌編纂において、ゴーストに大変お世話になっているのだった。

 

「ホント、博物誌はゴーストがいてこそ成り立つよ! ホントにありがとう!」

「そんな言い過ぎよ」

「シンシャが物知りだって教えてくれたのもゴーストだし、本当に助かりました!」

「……そうね」

 

 シンシャの名前が出るとゴーストの目が少しだけ泳いだ。

 かと思えば、急に怒ったように目を吊り上げる。

 

「そんなんじゃない。いいから、黙っててよ!」

 

 自分に対するのとは違う、強い口調にフォスは少し面食らう。

 『もう一人』が何か言ったのだということはフォスにも察せるが、その内容までは分からない。

 

「はー……ごめん、何だか今日はうるさくて。嫌になっちゃうわ、もう」

「気にしないで。……ん?」

 

 大きく息を吐いて気を落ち着かせ、髪を弄るゴーストの肩に数匹の蛾が停まる。

 最近、時折見る発光妖精……だが普段見るそれが白い体に青い目、赤、黒、黄色の鮮やかな翅を持つのに対し、こちらは翅の色が黒を基調として黄色と赤の稲妻のような模様があった。体も黒く目は赤い。

 

「発光妖精? でも初めている色だ……と」

 

 さっそく、フォスはその発光妖精を記録する。

 ずっと描いているからか、前に比べれば絵も大分うまくなってきた。

 

「……そうしていると、なんとなくラピスを思い出すわ」

 

 その様子を眺めながら、ゴーストが呟いた。

 

 ラピス・ラズリ。

 

 かつてゴーストと組んでいた宝石だが、今は一部を残して月にさらわれてしまった……。

 

「ラピス、か。頭のいい石だったって聞いてるよ」

「うん、凄く。賢くて『もう一人』もラピスの言うことなら良く聞いたのだけれど」

 

 口元に笑みを浮かべながらも、悲し気に目を伏せるゴーストに、フォスはグッと拳を握る。

 

(今まで続いてきた日常が不意に途切れる恐怖。そこにいて当たり前だった奴が、ある時急にいなくなる悲しみ……そいつを知識だけでなく感覚として理解したら、後戻りはできない。誰もが繋がりが切れることを恐れ、切れた繋がりを忘れることができなくなる)

 

 パパラチアの言葉が脳裏に過る。

 それは良い悪いの話ではない、とも彼は言った。

 だがクロのことがなかったら、ゴーストはもう少し、ラピスのことで悲しまずに済んだのだろうか。

 

「死、か……」

「え?」

「死はそう悪い物でもないって、パパラチアや……アドミラビリスは言うんだ。でも本当にそうなのかなって。誰かがいなくなるのは、こんなに悲しいのに」

「…………」

 

 目を丸くしたゴーストだったが、ふと笑みを浮かべた。

 今までとは違う、慈しむような笑みだった。

 

「ねえフォス、僕たちに魂はあると思う?」

「え?」

 

 質問の意味が分からず、フォスは相手をまじまじと見た。

 銀色の髪の宝石は、優しい、しかし謎めいた笑みを浮かべていた。

 

「にんげんの、骨は宝石に、肉はアドミラビリスに、そして魂は月人になった……じゃあ、骨と肉には魂はないのかしら?」

 

 窓の向こうから、さらに何匹もの黒い発光妖精が飛び込んできて、ゴーストの周りを舞う。

 紫色に光る鱗粉を散らしながら飛ぶ姿は、ゾッとするほどに美しかった。

 

「それは……どうなんだろう」

「例えば虫や魚、ゴジラにはどう?」

 

 虫や魚は分からない。そもそも『魂』という概念を、フォスは理解していない。でもクロや自分の中の先々代ゴジラにそれが無いとは、思いたくなかった。仲間たちやアドミラビリスたちの中にも。

 ゴーストは自分の手をフォスの手に重ね合わせた。

 

「僕はあると思う。……ううん、()()()()()()()()

 

 黒い発光妖精がゴーストの身体に纏わりつき、まるでドレスを着ているように見せた。

 その姿は宝石たちが知らない人間の衣装……喪服を思わせた。あるいは、死者の魂を狩る死神を。

 

「ゴースト?」

「自分の死は恐ろしいし、誰かの死は悲しい……でも死はいつかやってくる。どれだけ遠くても、どれだけ逃げても、必ず……そして魂は、旅立つの。……僕には分かる。月人にさらわれた皆の魂は、まだ旅立っていない」

「それって……ッ!!」

 

 自分の中にいる、先々代のゴジラが騒ぐのをフォスは感じた。

 危険を感じて……だが、ゴジラが危険を感じるほどの者とはなんだ?

 

「どうして、そんなことが分かるの?」

「それはね……」

 

 ゴーストはこちらをからかうような顔で自分の唇に人差し指を当てた。

 

「秘密。でもフォスの秘密を一つ、教えてくれるなら、僕も教えてあげる。できればシンシャが知らないようなのがいいな」

「…………」

 

 ここでフォスはふと、シンシャに教えていない秘密があっただろうかと考えた。

 クロのことも、腕のことも、ガルーダの出自も、彼には全部打ち明けている。

 

(秘密を知った上で、付き合ってくれる奴がいるなら、そいつを大事にしろ。そいつには秘密を作らないようにしろ。……ああ、つまり一人で抱え込まずに誰かに相談しろってことさ)

 

 再び、フォスはパパラチアの言葉を思い出した。

 その言葉の差す人物は、正に……。

 

「……いいわ。シンシャも知ってるのでいい」

 

 少しだけ拗ねたように、ゴーストはフォスの顔を覗き込んだ。

 フォスは、まだ悩んでいるようだった。

 

「ゴースト」

「なに?」

「僕の秘密を教えたら、君を巻き込むことになる。その、色々な、ことに……」

「……今更、だよ。あなたはもう、みんなを巻き込んでるの。ゴジラが目覚めた、その日から」

「似たようなこと、パパラチアにも言われたな」

 

 それなら、と腹を決めた時だ。

 窓の外から、金色の光が雪崩れ込んできた。

 いやそれは発光妖精……よくみる、翅に目玉模様がある方の群れだった。

 

「なんで……!?」

『喋り過ぎだ、馬鹿』

 

 一瞬、金の発光妖精の群れが人の形に集まり、フォスの耳に声が聞こえた。

 ゴーストとよく似た声だが、彼に比べて非常に語気が強い。

 

「君は……!?」

『悪いな。まだ知るべきではないって奴だ。まあ、さっきまでのことは夢だと思ってくれ』

「待って……!」

 

 目を金の発光妖精が覆う。

 それを最後に、フォスの意識は途絶えた……。

 

 

 

 

「う、う~ん……」

「あ、起きた?」

 

 気が付けば、フォスは図書室の机に突っ伏していた。

 顔を上げれば、ゴーストがいつもと変わらぬ微笑を浮かべている。

 

「ゴースト? あれ、僕は何で……」

「急に眠っちゃうんだもの。心配したわ」

 

 博物誌を纏めてからの記憶がない。

 何か、何か大切な話をしていたような気がするのだが……。

 

「きっと疲れていたのね。最近、忙しいみたいだもの」

「………そうかも」

 

 窓から夕陽が差し込み、金と黒の発光妖精がヒラヒラと舞っている。

 違和感があるが、それが何か分からない。体の奥にいる先々代ゴジラが咆えているのが聞こえた気がした。

 

「今日はもう、戻った方がいいわ」

「うん、そうだね……それじゃあ、また」

「ええ。またね」

 

 フォスがフラフラと図書室から出ていくのを見送ったゴーストは、不意にそれまでの笑みを消した。

 

「どうして?」

(どうして、だ?)

 

 頭の中に『もう一人』の声が響く。

 

(決まってる。あいつ(フォス)が月のことを知ったら、どうなると思う? ()()()ぞ、あいつ)

「…………」

(だから月のことは秘密にするって()()()で決めたことだろう?)

「…………うん、そうだね。ごめん」

 

 ギュッと、硬質な音がするまでゴーストを自分の拳を握った。

 

(にしたって、惚れた弱みって奴か? あんな駄目そうな奴に惹かれるとは……)

「惚れたワケじゃない。ほっとけないだけ」

 

 頭の中に聞こえる『もう一人』の声に、ゴーストは小さく反論する。

 

(なんにせよ、無駄な好意だ。見てれば分かるだろう。あいつ(フォス)の一番はシンシャだ)

「それで? 僕はフォスが幸せなら、それでもいい」

(強がりだな)

 

 『もう一人』は不機嫌そうに言った。

 

(一番に愛してもらえないのに執着するなんて、そんなのは虚しいだけだ)

「あなたに、何が分かるの?」

(分かるさ。俺は、俺を一番に愛してくれる奴に出会ったからな)

「夢の中で、でしょう?」

 

 ムッと言い返せば、さらに返ってきた言葉に呆れてしまう。

 なにせ、この『もう一人』の言う所の一番に愛してくれる人とは、夢の中で出会った()()()だと言うのだから。……王子様、という概念が何なのか、ゴーストにはよく分からないが。

 

(俺たちにとって夢は、もう一つの現実だ。……そうだろう?)

「ええ……」

 

 椅子に腰かけ深く目を瞑ると、そこにはこことは別の光景が見えた。

 どこか深い深い穴の底。広いそこは闇に満ち、でもそれは不安や恐怖とは無縁の、安らぎに満ちた場所。

 地面には大きな石が並べられ、それが十字と放射状に伸びる光を現すようなマークを描いていた。

 金色の光が舞い散る、その場所ではゴーストは白いシャツと黒いキュロットの制服ではなく、薄桃色のヒラヒラした衣装に身を包んでいる。

 ゴーストにとってここは学校とはまた違った意味で家と呼んで差し支えない場所だ。

 

「相変わらず辛気臭い面をしてるな」

 

 目の前には、黒い肌に白い髪の宝石が立っていた。

 怒っているかのようなしかめっ面で、ゴーストより一回り体が小さいが、同じ衣装を着ている。

 いや、よく見れば袖や装飾品が鏡合わせのように左右対称になっていた。

 

 ゴーストの中にいる『もう一人』の、これがその姿であるらしかった。

 

「あなたこそ、生意気な顔」

「ほっとけ」

「お互い様」

 

 二人が同じ方向を見上げる。

 天井の穴から月の光が差すなか、金色に輝く粒子の大きな塊と、黒い靄のような物の塊が浮かんでいた。

 粒子の方はしかし眩しさを感じさせず、靄は闇の中でもなお浮かび上がる。

 それぞれ、優しさを感じさせる青い目と、怒りに満ちた赤い目が浮かび、二人を見下ろしていた。

 彼らこそ、この精神世界を作り出したこの場所の主だった。

 

「ほら見ろ、二人とも怒ってる」

 

 『もう一人』がそう言うと、金色の方から鳴き声がした。二人にはそれが怒っていない、と言う風に聞こえた。

 

 反対に黒い靄の方は、やや怒りを込めて鳴き声を上げた。

 だがそれは、どちらかと言うとゴーストの迂闊さに対してと言うよりは、二人に対して等しく向けられていた。

 

「そんなに僕、フォスと距離が近かったかな……?」

「分かった! 分かったよ! 俺の王子も、そのうち二人に会わせるから! そのうちな!」

 

 ゴーストは首を傾げ『もう一人』は鬱陶し気にしていた。

 金色の光の方から、宥めるような鳴き声が聞こえるが、黒い靄は怒りを治めない……が、青い目が圧力を増すと、渋々と黙り込んだ。

 

「まったく、過保護なんだから……」

「ふふふ、それじゃあ始めようか」

「ああ」

 

 二人は手の平を合わせた。

 そして声を合わせて歌う。

 

『モスラーヤ、モスラ―♪ ドゥンガン、カサクヤン、インドゥムゥ♪』

 

 宝石たちの知らない言葉による、知らない歌詞。

 見事な唱和に合わせて、金色の粒子と黒い靄が姿を変えていく。

 

 金色の粒子は、発光妖精をそのまま巨大化させたような、目玉のような模様のある色鮮やかな翅を伸ばし、柔らかげな体毛に包まれた体と、昆虫の持つ攻撃的な部分が一切抜け落ちたような優し気な顔を持った姿になり。

 

 黒い靄は、赤と黄の稲妻のような模様の鋭角的な黒い翅を広げ。硬い甲虫の如き殻を纏った体を現し、触角の代わりに硬質な三本の角を持つ怒りに満ちた顔を明かした。

 

『ルストウィンラードア、ハンバ、ハンバームヤン♪ ランダバン、ウンラーダン、トゥジュンカンラー、カサクヤーンム♪』

 

 歌に合わせるようにして対照的な姿の二体の巨大蛾が翅を震わせると、無数の虫や魚の影が現れては消える。それはこの瘦せ衰えた星で、それでも必死に生きている者たちの姿だった。

 無数の影の中には、色とりどりの宝石たち、ウェントリコススとアクレアツスのアドミラビリスの姉弟、そして生まれて間もないガルーダの姿もあった。

 だが月人らしき影はそこにはない……。

 

『モスラーヤ、モスラ―♪』

 

 最後に現れたのは薄荷色の宝石、フォスフォフィライトらしき影と、巨大なゴジラ。そして一輪の、赤い花だった。

 

『ッ!!』

 

 だが不意に、歌が途切れ、生物たちの影が消える。

 

「ああ、また届かなかったか……」

 

 『もう一人』が悲し気に天井の穴から見える月を見上げて呟いた。

 巨大蛾たちの鳴き声も、何処か悲嘆を含んでいる。

 

「どうして届かないんだろう。僕たちが……モスラとバトラが、こんなに祈っているのに」

 

 ゴーストの声は、虚空に消えた。

 

 生命を守り慈しむ守護獣モスラ。

 生命を脅かす者を滅ぼす破壊獣バトラ。

 

 かつては相争った二体は方法こそ違えど、この星と、そこに生きる生命を守るために生まれてきた。

 だからこそ、流星の衝突を止めらなかったことに責任を感じ、今の状況を何とかするべく行動していた。

 と言ってもバトラは先代ゴジラとの戦いで、モスラは記録に残らぬもう一発の流星の軌道を逸らした際に力尽きて、共に肉体を失い精神体のみの存在となってしまった。

 永い永い時間をかけて力を蓄えてきたが、今は、現実世界には分身たるフェアリー……発光妖精を飛ばす程度しかできない。

 それでもモスラとバトラ……そして彼らと深いかかわりがあった地球の先住民族『コスモス』の魂を、残滓とはいえ継ぐゴースト・クオーツと『もう一人』と共に、こうして祈りを捧げているのだ。

 

 宝石やアドミラビリス、その他の生命がその営みを続けていけるように。

 未だ苦しみ彷徨う魂たち……月人が輪廻に戻ることができるようにと。

 

 例えそれが、地球生命の寿命を僅かに引き延ばすに過ぎないとしても。月人たちが罪深い存在だとしても。

 この星の生命を見捨てることなど、モスラとバトラにできるはずがないのだ……。

 

 




唐突に、ここまで登場した怪獣たちの意向。ざっくりまとめ。

ゴジラ(クロ)「フォスいいよね……。故にフォスとその仲間を傷つける奴は潰す」

ゴジラ(初代)「いい……それはそれとして、人間は皆殺しじゃあ!!」

ラドン「兄弟を奪おうとするやつは許さん!!」

モスラ&バトラ「世界を何とかして、月人を成仏させねば……あ、エクメア君はいずれゆっくり()()()をしようね」

デストロイア「"()"ってるぜェ! 復讐の"瞬間(とき)"をよォ!!」

無論、全て意訳。


以下、キャラ紹介

ゴースト・クォーツ
硬度:七
靭性:不明
仕事:図書室管理、長期休養所管理、見回り
愛称:ゴースト

謎多き二重構造の宝石。
大人しい口調と性格だが、気配を消していつの間にか他人の後ろに立っているという困った癖がある。図書室の管理をしており、フォスと仲が良い。
かつてはラピス・ラズリという宝石とコンビを組んでいた。
体が二重構造になっており、内部に『もう一人』と呼ばれる宝石が存在する。

それだけにとどまらず、モスラやバトラと精神的に繋がっており、彼らから影響を受けている。
どうやら彼らと縁が深い『コスモス』の生まれ変わり(のような物)であるらしい。


『もう一人』
硬度:不明
靭性:不明
仕事:無し(結果的にはゴーストの補佐)

ゴーストの中にいる、もう一人の宝石。
みんなのトラウマ。
モスラとバトラが作った精神世界では、黒い体に白い髪の宝石の姿を取る。
夢を介して、『王子様』なる人物と惹かれ合っているらしいが……。

なおモスラやバトラは彼に名前を贈ろうとしたが、本人が金剛先生につけてもらいたいからと固辞した。おかげでいつまでも仮にすら名前を付けない先生の評価が、二体の中で降下中。


モスラ
全長:65m
翼長:175m
体重:2万
異名:守護獣、巨大蛾怪獣

かつてこの世界に存在した先住民族コスモスの守護神にして、地球生命の守護者。
20世紀末に訪れる巨大隕石の軌道を逸らすことには成功したものの、力尽きて肉体を失ってしまった。
永い時間をかけて精神体のみの状態で復活したが、六度に渡る流星衝突を防げなかったことに責任を感じ、和解したバトラと共に活動している。
現在の目標は、地球環境の回復と、月人を輪廻に戻すこと=成仏させること。
また眷属たるフェアリーを介し『夢』という形で宝石たちに警告とも助言とも付かぬメッセージを送っている。

『もう一人』のお相手とは、色んな意味で一度じっくり()()()せねばと思っている。



バトラ
全長:73m
翼長:180m
体重:3万t
異名:戦闘破壊獣

地球生命が自らを守るために生み出したバトルモスラ。
戦闘本能しかないと言われ、地球生命を脅かす者を徹底的に攻撃、破壊するが、行動原理はあくまでも地球の守護である。
先代ゴジラ(クロの父)との戦いで肉体を失うが、長い年月をかけて精神体として復活した。
自分の本分たる流星破壊を成せなかったことに責任を感じ、和解したモスラと共に現状の改善を目指している。
これらの経緯もあって、昔より丸くなった。

ゴーストと『もう一人』のことは身内のように思っており、フォスや『王子』とは一度腰を据えてじっくり()()()したいと思っている。



フェアリー
全長:9cm
翼長:15cm
体重:不明
異名:発光妖精

モスラ、バトラの分身にして眷属。作中で『発光妖精』と呼ばれるのはこれのこと。
星の生命力を僅かずつでも回復させ、死した魂たちを鎮めるべく飛び回っている。
モスラに似た金色の鱗粉を纏った者と、バトラに似た黒い翅の者の二種類がいて、それぞれ『生』と『死』に深く結びついている。
主人たる二体だけでなく、ゴーストと『もう一人』にも使役されている。

発光妖精の異名は映画モスラの原作小説『発光妖精とモスラ』より。
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