孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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燐葉石はさらに『怪獣』に近づく

 毒液のドームの隙間から内部に侵入した小型月人たちはフォスに取りつくや、胴体の傷口から欠片をむしり取っていく。

 振り払おうとするフォスだが、後から後から虫のように群がってくる。

 

「!!」

 

 シンシャが悩んだのは一瞬だった。すぐに小型月人につかみかかり、フォスから引きはがそうとする。

 彼の硬度は二、月人はまだしも、硬度三半のフォスの胴体に指先が触れる度にひび割れていく。

 

「シンシャ、駄目だ!!」

「言ってる場合か!!」

 

 自分を助けようとして、シンシャが傷ついていく。

 それはフォスにとって、なによりも避けねばならない光景のはずだった。

 怒りが、フォスの内側から湧き上がってきた。

 

 瞼の裏側に、骨だけのゴジラの姿が現れた。

 

 怒り……! 月人への、そして己の無力さへの怒り!!

 

「シンシャ、離れて!!」

「だから、言ってる場合じゃ……」

「いいか、ら!!」

 

 力強い腕でシンシャを突き飛ばし、それから全身に力を籠める。

 思い起こすのは、金剛先生の戦い方……自らの身体を削り、投擲するという戦い方。先生が真似してはいけないと言っていた戦い方。

 次に頭に浮かんだのは、暴走したアレキサンドライトが体内のエネルギーを熱線として放出した技。

 

 その二つを組み合わせれば……。

 

「ぐ、ううううう……!!」

 

 体内に溜まったエネルギーを、破壊的な力に変換する。それはゴジラ族にとって、余りに簡単なことだった。

 だがクロやアレキのように熱線として吐き出すことは、今のフォスにはまだできないし、その必要もない

 

「う、わあああああっつ!!」

 

 体内を駆け巡ったエネルギーによってフォスの表面が炸裂し、礫となって小型月人を纏めて霧散させた。

それは先代ゴジラが使用した体内放射、全身発光とも呼ばれる技に似た、云わばフォス式体内放射とでも言うべき技だ。だが先代にとって所謂()()()であったその技を熱線より先に使用してしまったことが、フォスのゴジラとしての歪さを現していた。

 後に残ったのは、薄荷色の体が剥き出しになったフォスだった。衣服もほとんど残っていないが、それでも立っている姿はあたかも幽鬼のようだ。

 

「ふ、フォス!!」

「はああああ……!」

 

 力を籠めると、全身の表面がメキメキと音を立てながら盛り上がり、表皮に覆われるようにして再生した。

 元のフォスフォフィライトの外見を寸分たがわぬが、元のままのはずがない。

 そこにいたのは、よりゴジラに近づいたフォスフォフィライトだった。

 

「はあ、はあ……」

「フォスお前! なんて無茶を!!」

 

宝石が再生することの不気味さ、異質さよりも、フォスの我が身を顧みぬ技にシンシャは衝撃を受けていた。

 

「無茶くらいするよ。とにかくこれで……振り出しか」

 

 だがフォスは荒く息を吐きながら、毒液のドーム越しに空を睨んだ。

 あの小型月人は何とかした。だがドームの外ではいまだに爆発が続いている。

 これで金剛先生が来てくれるまで持ち込たることができるだろうか?

 

「……ゴースト?」

 

 思考していたフォスは、脳裏に声が聞こえた。ガルーダの聞いているゴーストの声が彼にも届いたことは、シンシャにも察せられた。

 

「な……! そんな馬鹿な!!」

「おい、どうしたんだ!!」

 

 ドームを補強すべく毒液を放出するシンシャだが、フォスの様子に声を上げる。

 信じられないとばかりに目を見開いたフォスは、それに応えることなく顔を伏せ、肩を震わせた。

 

「そんな、そんな……それじゃあ、何のために……!!」

「フォス、フォス! しっかりしろ! ゴーストはいったい何を言ったんだ!!」

「あの鏡や月人が載せてる宝石の欠片は……命の匂いがしないって。生きてない、あいつらが作った偽物なんだって……!!」

「…………!」

 

 呆然と呟くように言うフォスだが、その内容にシンシャはそこまで驚きを感じていなかった。

 自分の目で確認したわけではないが、ゴジラの熱線を防いでいる鏡は相当な大きさだろう。少なくとも、月人の雲を隠せるくらいはあるはずだ。

 いくら長く戦いが続いているとはいえ、希少なダイヤモンド属の宝石をそんな物を作れるほど用意できるとは思えない。

 何等かの方法で作った偽物、あるいはなりそこないのような非生物宝石が材料なら納得がいく。

 

「なんだよそれ、なんなんだよそれ!!」

 

 だが地面に拳を叩き付け、フォスは慟哭する。彼はゴーストの言うことをまったく疑っていない。

 頑丈な拳にひびが入るほどの力で何度も地面を打ち、そして天に向かって吼える。

 

「クロォ!!」

 

 

 

 

 クロ……ゴジラは自らの熱線が弾かれたことを驚きと共に受け入れた。

 いかに搭載されている宝石を傷つけないように威力を抑えていたとは言え、このように反射されるとはまったく思っていなかった。

 油断していた己を戒め、さてどうするべきかと思考する。

 

(クロォ!!)

 

 そこに、同族からの思念が飛んできた。

 深い嘆きと、激しい怒りに満ちている。そしてその内容は、ふざけた物だった。

 

――ああ、なるほど。奴らめ、自分をたばかっていたか。フォスと仲間たちを騙していたか!!

 

 希望を踏み躙られたフォスの絶望を慮り、クロもまた怒りを燃やす。

 あの雲にフォスの仲間が乗っていないのならば、もはや遠慮は不要だ……。

 

 クロはゴジラの名を冠する怪獣としては異例と言っていい優しく穏やかな個体だ。だがやはり彼はゴジラであり、一度その闘争心に火が点けば、それを抑えることをしないのだ。

 

 これまでとは比べ物にならないほどに背びれが発光し、牙の間から光が漏れる。

 まずは一発目。反射された。だがこの時点で、大鏡の一部が融解を始めていた。

 

 続けて二発目。反射されるが構いはしない。大鏡が黒く焦げ、月人たちがようやく慌て始めていたが、もう遅い。

 

 そして三発目……大鏡は粉々に砕け散り、その後ろの月人を熱線が雲諸共飲み込む。

 

 そもそも、クロの父である先代ゴジラは天敵とも言うべきファイヤーミラーを熱線の連続発射という力技で破損させてみせた。

 ならば、その不完全な再現……劣化コピーに過ぎない大鏡が、本気の熱線に耐えられる道理などなかったのだ。

 声なき悲鳴を上げる間すらなく、月人たちは消し飛んだ……たった一人を除いて。

 

 

 

 

「シンシャ、終わったよ」

 

 雲が跡形もなく消し飛んだのをクロの視点を介して見たフォスは、ホッと一息ついた。

 一方のシンシャはと言えば、顔を伏せていたがすぐにフォスに向かって吼えた。

 

「フォス、お前はなんてことを……! 体をあんなに砕いて……!!」

「大丈夫だよ。少なくとも、君のことはまだ覚えてる」

「そう言う問題じゃない!!」

 

 毒液の揺れと共に掴みかからんばかりのシンシャだが、フォスの意識はもっと違う所に飛んでいた。

 

「そうだよ、そう言う問題じゃない。あいつらが……月人が何をしたか! 偽物? 偽物だって……!! みんながどんな気持ちで……!!」

 

 連れ去られた宝石たちの欠片を取り戻せば、いつかは元に戻せる。そんな微かな希望さえ踏み躙られた。

 

「…………」

 

 だがシンシャは薄荷色の体の内側で怒りがグツグツと煮えたぎっているのが見えるようで寒気がした。

 今のフォスは、まるでいつか見た夢のように、体を欠損した末にゴジラになってしまったかのようで……。

 

「……え?」

 

 何気なしに空を見上げた時、光が見えた。何かが太陽光を反射して輝いているのだ。

 最初シンシャはそれをガルーダかと思った。だが違う。

 

「フォ……!!」

「ッ!!」

 

 警告するよりも、フォスに抱きかかられる方が早かった。

 そのまま飛び退いたフォスが一瞬前までいた場所に、何かが重い音と共に降り立った。

 

 人型で白銀に輝いているが、宝石の煌めきではない。金属の光沢だ。

 強面月人の物とは違う鎧を着込んでいるような姿で、顔は歯を剥き出しにして口角を限界まで吊り上げた笑っているとも怒っているとも付かぬ表情で固定されている。

 体を少し動かす度に奇妙な音がして、右手には槍を持ち、左手には五色の糸で大鏡の欠片を盾のように括り付けていた。

 

「鎧の……月人?」

「なんにせよ! ここで霧散させる!!」

 

 シンシャはフォスの腕を振り解くと、毒液を大量に噴射する。

 今まで数知れぬ月人を倒してきた毒液だ。だが月人は無防備にそれを浴び、あまつさえ無造作に振り払った。

 それはシンシャにとって信じ難い光景だった。

 

「毒液が、効かない!?」

「シンシャ、下がって!!」

 

 咆哮にも似た音を上げると、月人は槍を手に突っ込んできた。フォスもまた、剣を抜いてそれを迎え撃つ。

 槍と剣が衝突し、火花が散る。相手は怪力を持つフォスと互角、いや僅かに勝っていたが武器はそうもいかず、槍は容易く両断できた。

 

 そのまま相手を叩き斬ろうとするが、剣の刃は硬質な音を立てて相手の鎧に弾かれた。

 

「硬い……グッ!」

 

 気付けば、左腕に括り付けた鏡の欠片がフォスの腹に突き刺さっていた。

 

「ッ……!」

 

 ダイヤモンド属の破片は、かつてダイヤが折れた自分の腕の断面を武器にしたように、それだけで鋭利な凶器になる。

 さっきまでの硬度三半の体なら容易く砕かれていたはずだが、幸いと言うべきか今のフォスは全身が腕と同様の皮膚に覆われていた。穴は開いたが、体が割れるには至らない。

 

「ぐ、おおおおお!!」

 

 気合を入れて相手を蹴り飛ばそうとすると、すでに相手は飛び退いていた。

 月人は少しだけ驚いたような仕草をしたが、すぐに斬りかかろうとし、フォスも咆哮を上げてそれを迎え撃つ。

 何度となく武器を打ち合い、斬り結ぶ。

 腕力と体の硬さだけではない。技の切れ、そして気迫が今までの月人とはまるで違うと、フォスは感じていていた。

 

 だけど。

 

「月人……!!」

 

 だけど、それがどうした。

 兄弟とまで呼ぶ相棒を奪われたアレキの悔しさと無念に満ちた顔。

 何人もの相棒を失ってきたイエローの寂しさと諦観の混ざった顔。

 ラピスラズリのことを語る時のゴーストの悲しそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。

 

「僕はお前らを絶対に許さない!」

 

 目から液体が流れ出る。古代生物の欠陥だと金剛先生が語ったそれは、しかし慟哭と共に溢れ出る。

 

 砕かれて倒れたダイヤの姿。

 それ庇って戦うボルツの姿。

 そして今また傷ついたシンシャの姿が、消えずに記憶に残っている。

 

「絶対に絶対に、許すもんか!!」

 

 怒りのままに何度も何度も剣を振るって相手の体勢を崩し、最後に頭から真っ二つにしてやるべくフォスは大上段に剣を振りかぶった。

 

 だが、その瞬間月人は何も持っていないはずの右手で、何かをこちらに放ってきた。

 それは輝く小さな宝石の欠片……に見せかけた偽物だ。

 

「!!」

 

 避ける間もなく偽宝石はフォスの顔のすぐ傍で爆発した。

 飛び散った破片が前よりも頑丈になったはずの顔の表皮を容赦なく切り裂き、衝撃が内部にヒビを入れる。

 

「フォス!!」

 

 意識が朦朧としシンシャの声が遠くに聞こえる。

 ぼやけた視界の端で、彼が毒液を噴出するのが見えた。

 振りかぶった月人の腕に、毒液が蛇のようにうねって纏わりつく。

 

「効かなくても、動きを止めるぐらいなら……!」

「……シンシャ、逃げるんだ!!」

「馬鹿言うな!!」

 

 シンシャは毒液で人形を作って軽く操ることができる。それと同じ要領で腕を掲げて精密な操作をしているようだ。

 

「待て!! お前らの狙いは僕だろう!」

 

 それでも止まり切らずにいる月人に向かって、フォスは叫んだ。彼は月人がシンシャの方をまるで見ていないことに気付いていなかった。

 頭を振って、意識をはっきりさせようとするが体がふらつく。

 

「だったら、シンシャを……みんなを巻き込むな!! 僕だけなら、いくらでも、何度でも相手になってやる!!」

 

 一瞬、ほんの一瞬、月人の動きが止まった。

 

「フォース!!」

 

 声が聞こえた。

 空を銀色の光が舞い、ガルーダの甲高い声が聞こえる。

 ゴーストを抱きかかえた金剛先生がこちらに向かってくるのが遠目に見えた。

 月人は、フォスの方に改めて振り向いた月人の、仮面が上下に分れ内部が露わになる。

 そこにあったのは、仮面と同様に妄念に顔を歪めた雑の顔だった。いつもの月人の穏やかで何を考えているのか分からない笑みはそこにはなく、右目から顎にかけて大きな傷があった。

 その傷には見覚えがある。双晶アメシストが襲われた時、冬にアンタークがさらわれかけた時、こいつはいた。あるいは、クロが初めて現れた時からすでに。

 

「お前は……!!」

 

 やっと気付いたか、とばかりに月人は睨んできた。いつかのように。

 そしてゆっくりと一字一句はっきりとこちらに分かるように唇を動かす。

 

――サ ッ キ ノ 言 葉、忘 レ ル ナ ヨ?

 

 口の形は、確かにそう言っているように見えた。

 言い終わると、そのまま手の中からいくつかの宝石の欠片をばら撒いた。

 欠片は残らず爆発し、辺り一面が煙に包まれた。

 

 それが晴れた時、傷ありの月人の姿はなく傷ついた宝石たちと、毒液によって汚染された大地だけが残されていた……。

 

  *  *  *

 

 分子構造パズルゲームの駒が船……月人の雲との合流のために乗るはずだった小型の雲をボードのように乗りこなし、鎧の月人は最大船速で月へと飛んでいた。すでに光学迷彩を展開しているが、ゴジラを侮ってはいけない。一刻も早く帰還せねば。

 正直なところ、もっと戦っていたかったが時間切れだ。いかにこの鎧とて、金剛の攻撃の前には容易く破壊されてしまうだろう。王子から賜ったこの『機動戦闘服ジャガーJ』を失うワケにはいかない。

 だからこそ、大鏡が焦げ始めたにも関わらずゴジラを恐れて脱出を拒否し、さらに撤退することすら躊躇う仲間たちを置いて、鎧を装着して自分だけで脱出したのだ。

 

 この戦闘服は本来なら、分子構造パズルゲームの爆撃によってフォスを破壊した後、駒が動けなくなった場合にシンシャの毒液を受け付けないこの鎧を着て欠片を回収する、言わばバックアップのために用意した物だ。

 

 それにしても、さすがは隕石衝突前、人間の最盛期の遺物と言うべきか。毒液……水銀を完全に防御できたばかりか、フォスフォフィライトと互角に戦うことができた。

 元々は宇宙服を兼ねているこれの最大の特徴は、制御システムとしてDNAコンピューターを搭載していることだ。

 都市の奥で半ば打ち捨てられていたも同然のこれを目敏く見つけ、修復したバルバタ様に感謝だ。

 

 あの場でフォスフォフィライトと戦ったのは……まあ私情だが、結果的に作戦目標は果たせたのだから、良いだろう。

 DNAコンピューターがゴースト・クオーツに『生命の気配』として察知されたことなど露知らず、目敏く拾っておいた薄荷色の欠片……フォスがパズルの駒を振り払うために自分を炸裂させた際に飛び散った破片を握り締め、傷あり月人は顔を歪める。

 これを得た以上、月人上層部がフォスフォフィライトを狙う可能性は低くなるだろう……。

 

(だったら、シンシャを……みんなを巻き込むな!! 僕だけなら、いくらでも、何度でも相手になってやる!!)

 

 ああ、そうだとも。

 まだまだこれからだ。フォスフォフィライトの闘志は折れてはいない。自分の傷の疼きはまだ消えていない。

 

 次の機会があれば……確実に、叩き潰す!

 

 月で待ち受ける物を知らず、傷ありの月人は執念を燃やしていた……。

 




誰得とは分かってるんですけどねえ。
それでも『月人のために祈ってくれる人工救世主』ではなく、『自分なりに足掻く愚かな宝石』に全身全霊で向かっていく奴、という原作にはいない奴を出したくなるんです。
……個人的にエクメアらは、多分そういうことしないと思いますし。


今回のキャラ紹介

フォスフォフィライト(第三形態)
身長 :約1.8m
体重 :約350㎏
異名 :小さな怪獣、若き(ゴジラの)同胞
必殺技:体内放射

ついに全身が腕と同質の表皮に覆われた。
体幹が強化された形なため戦闘力がさらに上がっているが、あくまで表面のみで内側は硬度三半のままなため、爆発や打撃などにより内部に衝撃が伝わる攻撃は相変わらず苦手。
アレキと金剛先生にインスパイアを受け、体内でエネルギーを爆発させることで全身を礫のように炸裂させるフォス式体内放射を身に着けた。

都合により基本技(熱線)より先に応用技、しかも自爆技に近い物を憶えてしまったフォスの運命やいかに……。



ジャガーJ
身長    :1.8m
体重    :150㎏
正式名称  :38式機動戦闘服ジャガー日本式
外装    :スペースチタニウム
制御システム:DNAコンピューター
武装    :なし

月人の新兵器、というか発掘兵器。
宇宙服を兼ねた戦闘用のパワードスーツで、隕石衝突前の遺物。月で保管(と言う名の放棄)されていた物をバルバタが修復した。
固定の武装はなく、シンシャの毒液に対する防御のためだけに投入されたが、元々が戦闘用なだけに強化体フォスと真っ向勝負できるポテンシャルを持つ。
だが現在の月人の価値観からすると武骨で遊びがなくてお洒落じゃないこれは不評。

元ネタは怪獣黙示録に登場したパワードスーツ、さらにその元ネタはみんな大好きジェットジャガー……だが?
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