孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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番外編:ゴジラVSメガロ

 空は青く澄み渡り、暖かな日差しが草原に注ぐ。

 

「フォース! いるんでしょう!」

 

 青々と茂った草を揺らす風に混じって、誰かを呼ぶ声がする。

 岬の先から海を眺めていたフォスフォフィライトは、瞑っていた目を開けたが、振り返ることはなかった。

 その姿は、薄荷色の髪が揺れるあどけない少年とも少女とも付かぬ中性的な物だ。

 

「ああ、フォス。やはりこちらでしたか」

「アクアティリス」

 

 アクアティリスと呼ばれた相手は、濃い目の赤い鱗に覆われた人型の姿を持ち、尾びれのある長い尾を揺らしている。

 

「状況は?」

「報告によると敵は西の谷を進軍中。じきに会敵するかと」

「そうか。……まだ少し時間があるな」

 

 フォスはその場を動かずに風を受けている。

 アクアティリスはその隣に並ぶと共に海を眺めた。

 

「……いつ来ても、ここは美しいですね」

「ああ。僕の故郷だ。どれだけ経っても、この光景は忘れない」

 

 相手の横顔を見て、フォスは笑みを浮かべる。

 

「そうしていると、弟さん……君のお父さんを思い出すよ」

「そうですか?」

 

 アクアティリスのそこばかりは白い顔に朱が差した。

 

「皆からは母上に似ていると言われたものですが」

「お父さんは家族を愛し守る、立派な戦士だった。君もまた、そうだ」

「光栄です……」

 

 照れくさげにはにかむアドミラビリスの顔は、目の前の宝石以上に幼げに見えた。

 そんな彼に自然と笑みを浮かべたフォスだったが、不意に顔を引き締めた。甲高い鳴き声と共に、銀色の翼を輝かせたガルーダが降り立つ。

 フォスを挟んでアクアティリスと反対側に降りた翼竜は、すでにフォスよりも大きく成長していた。

 

「ガルーダ……そうか、来たか」

 

 分身の顎を撫でるフォスの視線の先、青い空には何時の間にか黒雲がポツポツと浮かんでいる。

 

「思っていたよりも早いですね。敵も血気に逸っているのでしょう」

「あーあ、まったく困ったもんだよ」

 

 ヤレヤレと息を吐き、愛刀を肩に担いだフォスの顔に、気負いはない。

 

「ここのところ博物誌編纂が進まなくてさ。シンシャにも、もう何日も会えてないし」

「民を脅かす者を討つのも、王の務めかと」

 

 アクアティリスは困ったように微笑むと、フォスは軽く首を回した。

 

「しゃーない。さっさと終わらせますか」

「はい」

 

 その瞬間、世界が()()()

 紺碧の海原も、薄緑の平原も、雲の流れる空すらも、まるで鉱石が砕け散るようにして崩れていく。

 この場は、現実の世界ではない。ゴジラの遺伝子を持った者たちの共有する一種の精神世界なのだ……。

 

 

 

 

 ゆっくりと目を開けた時、空は黒い雲に覆われ、海は激しく波打ち、草一本生えない不毛の大地が広がる。

 

 フォスはもはや、幼さの残る宝石の姿をしていなかった。

 深い緑色の岩のような肌に、長く逞しい尾。強靭な四肢の先は、四本の爪を備えている。

 口を開けばギラギラと光る牙が並び、背中には剣を連ねたような三列の背ビレがあった。

 そして何より、その体躯は山のように大きく、力に満ち溢れていた。

 

 その姿は……ゴジラその物だった。

 

 隣には赤い鱗に覆われた竜……アクアティリスが、四本のヒレを四肢に変化させてしっかりと立っていた。

 後ろには龍にも似た長い体を持つ者、亀に似た姿の者、長い手足の間に被膜が張った爬虫類のような者などアドミラビリスの戦士たちが並んでいる。

 チラリと見上げれば、ガルーダが自身によく似た一族を引き連れ、空を舞っていた。その背には宝石たちが跨り、色とりどりに輝いている。

 

「フォース! また頭の中でお話しかよー! 敵さんが呼んでるぞー!」

 

 その中の一人、モルガナイトの声にフォス=ゴジラは低い唸り声で応じた。

 ギラリと光る眼が睨む先、地平線の彼方に虫型の怪獣たちが大挙して押し寄せていた。

 蜘蛛、蟷螂(カマキリ)、さらには蜻蛉(トンボ)……隕石衝突による環境の激変によって一度は肉食の虫が全滅し、弱肉強食の因果から解放された虫たちだが、長い時間と幾度もの世代交代を経て闘争心を取り戻していた。

 本能のままに大地を覆いつくさんとする群れの頂点に君臨するのは、カブト虫に似た怪獣だ。

 この怪獣が雑多な虫型怪獣たちを力づくで傘下に収め、巨大な群れにまでしてフォスたちの領域にまで侵入してきた。全ては、フォス=ゴジラを下し自らこそが星の王になるために。

 『メガロ』と呼ばれるそいつは、本来六本あった脚のうち二本が退化しており、二足歩行で何重にも返しのある槍の穂先、あるいは巻貝のような形状になっていている両腕を掲げる。

 

 フォスもまたそれに応じるが如く咆哮を上げた。

 王の声に大地が、海が、空が震えた。

 続いてアクアティリスとアドミラビリスたち、ガルーダと一族の咆哮が大気を揺らす。宝石たちも、各々の武器を掲げ鬨の声を上げた。

 それを合図にして、両軍はお互いに向かって突進した。

 

「一番槍はもらうぜ!!」

「無茶しちゃダメだよ、モルガ!」

 

 モルガが槍を振るって蜻蛉のような小型怪獣メガニューラの翼を貫き、ゴーシェナイトや他の宝石たちもそれに続いた。

 アクアティリスは同胞たちの先頭に立ち、両腕の鎌を振るう蟷螂怪獣カマキラスの大型種に噛みつく。大顎はアッサリと甲殻を噛み砕き、その命を絶ち切った。

 

「ひゅー、さっすが!」

「まだ来るよ!!」

 

 数を頼みとばかりに無数の蜘蛛怪獣クモンガが大挙して押し寄せるが、フォス=ゴジラの背ビレが発光し、青い熱線が大地諸共それを飲み込んだ。大地が抉れて土砂が舞い上がり、立ち昇る爆炎が天すら焦がすかのように黒雲を明々と照らす。

 その煙を突っ切って、大きな影が猛スピードで現れた。背中の翅を高速で羽ばたかせているメガロだ。

 メガロは飛び回りながら、一本角から発射する光線でフォス=ゴジラを攻撃してきた。本来ならば鋼鉄をも融解させる威力を持つ光線は、しかし怪獣王の強固な皮膚の表面を焼け焦がすにも至らない……というより、そもそも光線が体に届いていない。

 フォス=ゴジラの表面から散布されたプリズム状の粒子がシールドの役目を果たし、光線を霧散させてしまうのだ。

 今度はこちらの番だとばかりに、フォス=ゴジラは熱線を吐いて敵を撃ち落そうとするが、それでもメガロは空中を飛び回りこれを躱す……ことが出来なかった。

 先ほどの粒子によって熱線が曲がり、正確にメガロに命中したからだ。

 

「やったぜ!」

「油断するな、グズ!」

 

 宝石たちの言葉の通り、爆発と共に地面に叩き落とされたメガロはすぐに立ち上がった。その闘志は衰えてはいない。

 その両腕が勢いよく回転を始める。いかなる進化を遂げたのか、メガロは遠い遠い昔にんげんが言ったところのドリルを生態として備えていた。

 メガロは咆哮と共に口から球体を発射する。なんだこんな物と直進しようとするフォス=ゴジラだが、その球体が突如爆発炎上した。

 炎は粘液状になって広がり、粒子を吹き飛ばしていく。

 

 これぞ、可燃性の粘液弾を発射するメガロの必殺技であった。

 

 だがこれは繋ぎに過ぎない。本命を打ち込むべく、メガロは翅を広げてゴジラに突進する。

 その両腕は今や竜巻のように回転し、鋭い先端がゴジラの体に食い込む。

 

「ああ!」

「フォス!!」

 

 絶叫を上げるフォス=ゴジラだが、そこまでだった。

 僅かに突き刺さった腕の先端をゴジラが掴むと、その握力で無理矢理回転が止められた。

 ギョッとしているメガロに対し、フォス=ゴジラは怒りに満ちた視線を向けた。

 

――どうした、それで終わりか?

 

 メガロは必死になって角からの殺獣光線と口からのナパームを相手に浴びせかける。

 だがドリルを掴む力は弱まらず、ゴジラの姿に揺らぎはない。

 

――星の支配に興味などない。……だが、仲間を襲おうというのならば容赦はしない。なにより、この『王』の二つ名は、友から受け継いだこの称号だけは、お前如きチンピラに易々とくれてやるワケにはいかない……!

 

 恐怖に硬直した顔面に向けて、ゴジラの熱線がゼロ距離から襲い掛かった。

 叫ぶ間すらなく、メガロの顔面のみならず体その物が消し飛ぶ。後に残ったのは、両腕のドリルと地面に転がる角だけだった。

 敵も味方もシンと静まり返る中、ドリルを放り投げフォス=ゴジラは勝利の雄叫びを上げた。

 

 それに呼応して、アクアティリスやガルーダ、宝石たちも歓声を上げる。

 メガロ配下の怪獣たちは戦意を喪失し文字通り蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。

 追いはしない。メガロという強大な個体に率いられた彼等も、それを失えば群れとして機能せず個々に自然な状態に戻っていくだろう。

 

「やれやれ、やっと終わったな」

「今回は長引いたねえ」

 

 宝石たちは笑い合うが、その中にあって黒い髪のボルツは厳しい顔を崩していなかった。

 

「いや、どうやらまだ挑戦者がいるようだ」

「へ?」

 

 空を見上げると、青い光が瞬き雲の切れ間から影が降りてきた。

 ゆっくりと下降してきたそれは、空中で静止しフォス=ゴジラと仲間たちを赤い単眼で見下ろした。

 鎌のようになった両手をこすり合わせると、金属的な音が響く。嘴のような口元は、こちらを嘲笑うように歪んでいた。

 

「キカイ化されている……この星の者ではないな」

「またかよ!? これで何度目だ!!」

「エクシフ、ビルサルド、キラアク……みんな、そんなにこの星が欲しいんだね」

 

 痩せて枯れたように見えたこの星も、異星の者たちにすれば襲う理由があるらしい。宝石たちの声を聞きながら、フォス=ゴジラの怒りはいよいよ頂点に達そうとしていた。

 戦おうと咆哮するアクアティリスを視線で制し、自らが相手をすることを決めた。

 

――虚空からの使者よ、外星の走狗よ。そんなにこの星が魅力的か。滅びの淵より甦ったこの星が。

――ああならば、相手をしてやろう! とっとと終わらせてやるから、かかって来い!!

 

 天を震わせるフォスの咆哮に応えるように、宇宙から来た怪獣、その名もガイガンは腹にあるヒレのような物……回転ノコギリを動かし、向かってきった。

 フォスもまた背ビレを光らせ、熱線でもってそれを迎え撃つのだった。

 

  *  *  *

 

 ……遥かな未来。

 にんげんが消え去り、新たな世界が創生された未来。

 この星を守るのは、友から『王』の称号を受け継いだ元宝石だ。

 彼は今も、星の内外から迫りくる敵と戦い続けている……。

 




更新の期間が開いてしまったことと、ゴジラVSガイガンレクスを見たことと、やっぱり怪獣プロレスを書きたかったので、こういう話を書きました。
元々は構想していた最終回の一部です。

さてゴジラVSガイガンレクスの感想は……この場で語りつくすことはできませんし、皆まで言うのも野暮と言う物。


キャラ紹介

フォスフォフィライト(第?形態)
身長:100m
体重:5万5千t
異名:怪獣王、破壊神

遥かな未来、ついに名実ともに『ゴジラ』に至り友から怪獣王の称号を継いだフォスフォフィライト。
絶大な戦闘力を持ち、プリズム状の粒子を全身から放出、これにより敵の光線を防御したり熱線を湾曲や拡散させるといった戦法を得意とする。また思念波により精神世界を構築し、ここでG細胞を持つ者たちと交信している。
宝石生物としての特性やこれまでの経験もあり、フィジカルと火力で全てを薙ぎ払う戦闘スタイルの先代や先々代に比べると技巧派(フィジカルと火力が足りないとは言っていない)

当然、ここに至るまでには数々の出来事があり、多くの苦難を乗り越えてきたのだが、それはまた別の話。



メガロ
身長:110m
体重:4万4千t
異名:昆虫怪獣

突然変異的に現れた昆虫怪獣。
同じく虫型の怪獣たちを引き連れ、ゴジラ打倒=星の支配を目論んだ。
全身を硬い甲殻で覆い、角から放つ殺獣光線、口から吐くナパーム、そして両腕の万能ドリルなど豊富な武器を持つが、フォス=ゴジラの敵ではなかった。



ガイガン
身長:120m
体重:6万t
異名:未来恐獣

宇宙から侵略の尖兵として何者かによって送り込まれたサイボーグ化された怪獣。
両腕の鎌に加え、数々の武装を持つ。

見た目はFW版。
多分、この後普通に倒された。
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