孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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辰砂は誰がために怒りを抱く

 本来なら冬に入る季節。

 だが、この年は雪が降るのが遅く、今期三度目になる冬眠延期を迎え、宝石たちも眠気を堪えながら働いていた。

 

 赤い髪のモルガナイト、灰色髪のゴーシェナイトのコンビも、欠伸を噛み殺しながらも見回りをしていた。

 

「お……!」

 

 幸いにして月人は現れないものの、代わりに二人が見つけたのは岬の先に立つフォスだった。

 

「また空を見てんのか、あいつ」

「最近いつもああだね」

 

 呆れたようにモルガが言うと、ゴーシェも頷いた。

 ここのところと言うもの、フォスは一人でいることが多くなり、他の者と会話することが減った。

 

「ま、あいつには頭の中の友達がいるから、寂しくないんだろうけどさ」

 

 モルガは軽くそう言うが、表情は曇っていた。

 あのまま、どこかにフォスが消えてしまいそうな気がするのだ。

 だが、相方であるゴーシェがクスクスと苦笑していることに気付き、ムッとする。

 

「なんだよ」

「いや、だって……少し前までのモルガなら、きっとそんな顔しなかったから」

「……まあな」

 

 正直な話、モルガはフォスに対し、疎みもしないが、いてもいなくても同じ。いなくなればもちろん悲しいが、きっとすぐに切り替えていくだろう……口に出さずとも心のどこかでそれくらいに思っていた。

 だがあの……ゴジラの声を聞いてから、自分の知る誰かがいなくなるのが、たまらなく恐ろしくなった。

 

「それにあいつ、最近険しい顔してばっかりだ。……なんか嫌なんだ、ああいうの」

 

 上手く言語化できないでいるモルガだが、つまり彼は意外と能天気でお馬鹿なフォスのことが嫌いではなかったらしい……。

 

 宝石たちの変化は徐々にだが目に見える形になりつつあった。

 製紙担当のペリドットと工芸意匠の担当のスフェン。工芸の兄さん方、とも呼ばれる年長者の二人は、かつて月人にさらわれた相棒たちのことをよく思い出すようになったという。

 徐々にトパーズのブルーゾイサイトの顔や声を忘れていく自分たちは、薄情なのではと悩んでいたのに、と苦笑していた。

 武器製造担当のオブシディアンは、試行錯誤を繰り返し、悩みながらも着実に武器の性能を強化していた。

 剣が通じない月人の出現を受けて、その執念はより増していた。

 

 だが一方で、変化は歓迎すべきものとばかりは限らない……。

 

 虚の岬一帯は、前の戦いでシンシャの毒液で汚染されていた。

 銀色の液体が広がる中で、シンシャは一人暗い表情で佇んでいた。

 結局、自分はこうして周囲を汚すことしかできないのか。フォスともあれ以来、会話できていないし……。

 

「シンシャ」

 

 一瞬、その声がフォスのものかと思ったが、振り向くとそこにいたのは、白い二重構造の宝石だった。

 

「なんだ、ゴーストか」

「フォスかと思った? 残念」

「……何の用だ?」

 

 ムスッとした顔で問うと、ゴーストは困ったように空を見上げる。

 青い空に銀色の影が舞い、甲高い鳴き声が聞こえた。

 

「ガルーダ……!」

「あの子、もう退院だって。僕はその付き添い」

「そうか……悪いな」

 

 先の戦いで傷つき、ルチルに直してもらっていた……と言っても、宝石以外の生き物の治し方など分からないので、傷口を固定し自己回復力に任せての経過観察だが……ガルーダはシンシャの腕に停まり、嬉しそうに頬ずりする。

 

「よしよし……」

「誰かさんがお見舞いにこないから、寂しがって大変だったんだよ」

「……すまない」

 

 自分の悩みにかまけてガルーダに構ってやれなかった薄情さを反省するシンシャだったが、ふと腕にかかる重さが前より増している気がした。そう言えば、ガルーダが以前より一回り大きくなったような気もする。

 

「ねえ、少し話してもいいかな?」

「…………ああ、構わない。俺もお前に聞きたいことがある」

 

 ガルーダを地面に降ろしたシンシャは、猜疑心の混じった声で答えた。あの戦いの後、この宝石が語ったことは、彼にしてみれば信じられないようなことだった。

 

「なに?」

「月人がよこした宝石が偽物だっていう件だ」

「…………」

 

 困ったように微笑むゴーストを、シンシャは鋭い目で睨む。周囲の毒液が、刺々しく揺れていた。

 

「どうして、どうやって、それが分かった? フォスや金剛先生は深く追求しなかったが……このままにはできない」

 

 フォス、そして金剛先生は自身らも秘密を抱えた身だからか、ゴーストの秘密に踏み込んできたりはしなかった。

 だがシンシャは違う。金剛先生が秘密を抱えたことを察し、その上で保留としている彼だが、それでもこの件に黙っているワケにはいかなかった。

 

『あ~あ。だから言ったってのに』

 

 その時、無数の蛾が集まってきて宝石の姿を取る。

 朧気な輪郭なのにシンシャ以上のへの字口なのが分かった。

 

「お前は……確か」

『カンゴーム、だ』

 

 ゴーストの中にいる『もう一人』改めカンゴームは、ようやく金剛先生から授かった名前を口にする。心なしか、嬉しそうだ。

 細かいことは気にしない宝石のたちの性質故に、彼はアッサリと周囲に受け入れられたようだ。

 心の奥で羨ましいと思うのを、シンシャは止めることができなかった。

 

『にしても随分と気にするじゃあないか。金剛先生の秘密に踏み込むのは怖い癖に、俺たちのことはおかまいなしか』

「それとこれとは話が違う」

 

 カンゴームの言う通り、以前のシンシャならこうして問い詰めるような真似はしなかったはずだ。

 その変化をもたらしたのは、ゴジラか、ガルーダか、やはりフォスか……。

 

「……そうだね。()()()もそれを話したいと思ってたんだ。僕と、カンゴームと、それから彼等も」

 

 金と紫の燐光を纏い、二色の発光妖精たちが集まってくる。

 

「彼等?」

「見せた方が早いかな? カンゴーム、お願い」

『はいはい、わかりましたよ』

 

 発光妖精が、シンシャの身体に停まる。

 

『ジッとしてろよ』

「何を……!?」

 

 その瞬間、映像が流れ込んできた……。

 二匹の大きな蛾が羽ばたくイメージ、そして……。

 

「う……う、げえええ!」

 

 シンシャは耐えきれずに、毒液を口から吐いた。

 ゴーストたちの言うところの『彼等』の正体は彼の理解を超えていた。だがそれ以上に忌み嫌う毒液が噴き出すのを堪えきれないほどに、見えた物は受け入れがたかった。

 

「い、まの……は……?」

「今のが、僕たちの秘密」

『信じられんだろうが、事実だ』

「お、前らぁ……!」

 

 ガルーダが心配そうに擦り寄ってくるのにも構わず、シンシャは目の前の宝石に掴みかかった。毒液が掛かりそうになるのすら、気に留めない。

 

「何なんだよ、アレは!! あんな……あんな……!」

 

 シンシャの目から、毒液が涙のように零れ落ちた。何故だか先のイメージが嘘ではないと理解できたからだ。

 痛ましげに自分を見るゴーストを、シンシャは睨みつけた。

 

「……なんで俺なんだ。先生やフォスには、何故教えない」

『フォスや他の連中だと壊れちまう。先生は……』

 

 言い淀むカンゴームを見て、シンシャにはだいたいのことが察せられた。

 

「……ああ、そうかよ。月人が()()するのは、先生に理由があるんだな」

 

 彼を含め多くの宝石は、先生が何か隠していることに気付いていた。それに加えてカンゴームの様子を見れば、だいたいの予想はついた。

 そして悲し気に目を伏せているゴーストが自分にそれを打ち明けたワケも。

 

「俺なら……嫌われ者の俺なら、知っても大丈夫ってワケだ」

 

 他の宝石と関わりの薄い自分なら、秘密を漏らす危険は少ないし、ショックも小さくて済む、という配慮だろう。

 それに対し、自分がどんな感情を抱いているか、シンシャは測りかねた。

 

「違う。嫌われ者だから、なんかじゃない。」

 

 だがゴーストは首を横に振った。

 

「あなたは知るべきなの。……フォスのために」

「フォスの?」

「これから、新しい世界がやってくる。ゴジラが目覚めた以上、それは避けらない」

 

 相手の言っていることが分からず、シンシャが首を傾げると、カンゴームは腕を組んで息を吐いた。

 

『ゴジラが現れてからと言うもの、あらゆる命が活性化している……ああ、あれの持ってる放射線だか何だかの話じゃないぞ。あいつ、それは押さえてるみたいだし』

「ほうしゃ……」

『とにかく、石を投げ込んだ水面に波紋が広がるように、あいつの存在が変化を引き起こしている。死をもたらすような存在に対し対抗する術を編み出し、あるいは迎合して難を逃れようとする。それが生命ってもんなんだとさ。そこに意思が介在しているか、あるいは偶然の積み重ねかは知らないがな』

 

 三人が話す横では、千年に一度しか孵化しないはずのハナカマキリが、本来の獲物ではない蝶を喰らっていた。

 

『絶え間なく変化していく世界。そこで作られるだろう新しい秩序の中心……生態系の頂点、星の支配者、云わば『王』とも言うべき位置にいるのは、誰だと思う?』

 

 『王』とは、まるでアドミラビリスのような言い回しだ。

 

「……クロだろう」

「ゴジラもいずれは死ぬわ。それは遠くはないこと。……でも、その後は?」

 

 ゴジラは飢えている。今はよくても、いずれは死ぬ。宝石と違い、それは完全な消滅だ。

 その後、世界がゴジラ出現より前の状態に戻るとは、とても思えない。

 

「フォスがそうなると? あの……頭三半が?」

『ああー、うん。理解できないのは分かる。でもそうなるんだ』

「もちろん、本人の意思次第だけど、きっとそうなる。フォスは……ゴジラだから」

 

 二人の物言いに、シンシャはただでさえ険しい表情をさらに硬くする。

 いつか見た夢。フォスが体を失い、いつしかゴジラに成り果てる夢。それが頭をよぎった。

 

「違う。あいつは俺たちと同じ宝石だ」

『言い切るね。……そう、あいつは宝石だ。だが同時にゴジラでもある。少なくとも沖にいるデッカイほうのゴジラはそう思ってる……こいつらもな』

 

 カンゴームは、視線で宙を舞う発光妖精たちを指した。

 ゴジラとある意味では同類の、違う意味ではより異常なそれらを、シンシャは睨んだ。

 『宝石であり、同時にゴジラ』それは宝石とゴジラの境界にいると言う意味ではない。もはやフォスとゴジラは深く混ざり合って、分かつことなどできないのだと、彼等は言いたいのだ。

 

「その道行きは、きっと大変な物になる。多くの苦痛、多くの敵が待ち構えている」

 

 ゴーストは静かに語る。

 その言葉を聞いて何と無しに思い出されたのは、夢の中で見た三筋の稲妻と、赤い海のイメージ、それにあの顔に傷がある月人のことだった。

 

「その時に、そしてその先で、誰かが彼の傍にいなきゃいけない。きっと独りで行くには辛すぎる道だから」

「……勝手なことを!!」

 

 ついに溜まりかねて、シンシャは叫んだ。

 ガルーダがビクリと翼を震わせる。

 

「俺やあいつの運命を、なんでお前たちが決めるんだ!! あいつがどうなるか決めるのは、あいつ自身だろうが!!」

 

 毒液を垂れ流す自分の運命を呪ってきた。夜から出たいと望みつつも、どうすればいいのか分からなかったし、おそらく考えることを放棄していた。

 思えばシンシャの石生が自分の思い通りになったことなど、一度もなかった。ましてそれがフォスにも降りかかるとなれば、黙っていることなどできなかった。

 

「月人も、先生も、お前たちも……そしてゴジラも! どいつもこいつも、あいつ(フォス)のことを何だと思ってるんだ!!」

 

 それはシンシャが抱えていた、鬱屈とした感情の爆発だった。

 理不尽な運命を強要する、あらゆる物に対する怒りだった。

 

 ……その時、揺れる毒液球や地面にこぼれた毒液が、一瞬淡く光った。薄い黄緑色の光だが、すぐに消えてしまった。

 

 その剣幕に一瞬、ゴーストはビクリとしカンゴームの姿を取った発光妖精が散りかける。だが次の瞬間には、ニッコリと微笑んだ。どこか寂しそうな笑みだった。

 

「うん、そうね。……そう言えるあなただからこそ、きっと彼には必要なの。フォスがどんな道を選んだとしても」

「……ああいいさ。あいつの傍にいてやる。あいつをゴジラになんかさせないために」

 

 シンシャの毒液を流す目が、鋭くゴーストに向けられた。

 自分のためにできることについては考えることを半ば放棄していた彼が、フォスのためにできることを考える、そんな決意をしていた。

 二人はしばらくの間、そうして黙ってお互いを見ていたが、やれやれと肩をすくめるカンゴームが不意に表情を硬くしたのと、ガルーダが甲高く鳴くのは同時だった。

 

「カンゴーム?」

「ガルーダ?」

『……まずいことになった』

 

  *  *  *

 

 フォスはただ一人、空を眺めて佇んでいた。表情は暗く、目つきは荒んでいる。

 

 否、彼は待っているのだ。

 青い空に現れ、広がっていく黒い染み。

 

「来たな……!」

 

 月人出現の前触れである黒点だ。

 それこそがフォスが待ち望んでいたものだった。

 

 だが黒点から現れた物はいつもと違った。あの音楽もなければ、無数の雑もいなかった。

 いたのは、ただ一体のみ。

 それは、白銀に輝く鎧のように見えた。前回の戦いで見た奴だ。

 だが以前と姿が違い、両腕両脚が太く、どこか強化後のフォスに似たシルエットをしている。

 特に口元が前に突き出ており、獣を模しているように見えた。なにより右目から顎にかけて涙の跡のような赤いラインが走っている。

 

「やっぱりお前か」

 

 そいつの仮面が上下に開くと、そこには仮面のラインと同じ位置に大きな傷がある雑の顔があった。口がゆっくりと、こちらに見せつけるようにして動く。

 

――来 イ。

 

「いいよ。……相手になってやる!!」

 

 両腕両脚を強化し、牙を剥いたフォスは、狂暴な雄叫びと共に月人に飛び掛かる。

 その咆哮は、友であるクロことゴジラのそれに、近しい物だった。

 




特典は、特典はさあ……! 君らの幸福を否定はせんけどさあ。予告の時点でしてた吐き気が、いよいよ本腰に。
いいか俺はハッピーエンド(当社比)しか書けんのだ!!

なお余談ですが、早い段階で何とかクロを排除し原作に近いルートに修正すると、フォスが原作以上に容赦がなく狡猾で執念に満ちた復讐者となりエクメアすら出し抜き全てを滅ぼす『シンギュラポイントEND』

ガルーダやアクアティリスがいる状態で原作ルートに入ると、初代様、ガルーダ、アクアティリスらG細胞持ちが結託してフォスを奪還し、地球外に飛び出す『君らは好きにした、我々も好きにするEND』

万が一フォスが月人化した場合、初代ゴジラが完全体となって顕現する『果て無き怨念END』

となります。

以下キャラ紹介、他。

モルガナイト
硬度:七半
靭性:不明
仕事:見回り
愛称:モルガ

やんちゃな薄桃色の宝石。
相棒のゴーシェナイトと共に月人への警戒を担当しているが、無茶しがち。
フォスのことをからかうことも多いが、なんだかんだ手のかかる弟分くらいには思っている。


ゴーシェナイト
硬度:七半
靭性:不明
仕事:見回り
愛称:ゴーシェ

控えめな灰色の宝石。モルガの相棒。
血気盛んな相棒のブレーキ役だが、無茶に巻き込まれて共々金剛先生に怒られることも多い、不憫な子。


ゴースト
基本的にモスラ&バトラの思惑に沿って動いてはいる。
だけどフォスのことが心配なのも本当。


カンゴーム
やっと名前が貰えた。
モスラとバトラの思惑に沿いつつ、成り行きに任せている。


モスラとバトラ

ゴジラ、そしてフォスに星を再生させる希望を見出している模様。
ただし、あくまで本人らの意思優先。


クロ
そろそろ月人への怒りが爆発しそう。
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