孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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破壊神はその力と意を示す

「フォスの奴、また先走って……! ガルーダ、案内してくれ! ゴーストたちは先生に!」

 

 ガルーダとカンゴームの様子から、フォスに危機が迫っていることを察知したシンシャは、いてもたってもいられずに走り出そうとする。

 

『待て……まずいな、もう洋上にでちまってる』

「な!?」

 

 だが、蛾の集合体のカンゴームは器用に首を横に振った。

 

『ご丁寧に、ゴジラたちがいる方とは反対側だ。これはとても間に合わないぞ』

「そんな……なんとかならないか?」

「僕たちの力じゃ『見る』のが精いっぱいで……」

 

 さすがのゴーストも困惑しているようだった。

 シンシャは奥歯を噛み締めた。

 さっきフォスのために何かしたいと決意したばかりだと言うのに、もうこれか。いやまだ諦めるな、何か手が……。

 

「そうだ、ガルーダ! アドミラビリスを呼ぶことはでき……ガルーダ?」

 

 同じ遺伝子を持つ者同士で話せるらしいガルーダに一縷の望みを託そうとするが、当のガルーダは酷く怯えたようすで体を縮こまらせていた。

 

「あ、あ、あ……!」

『ああ、ちくしょう! マジか!!』

 

 それは小翼竜ばかりではなく、ゴーストたちも何事かを察知して身を震わせていた。

 

「お、おい、どうした!?」

「動き出した……! すごく、すごく怒ってる!」

 

 ゴーストの震え声に、シンシャは何がとは問わない。

 彼自身、何回か感じた感覚が不意に襲ってきたからだ。

 あのフォスが海に行った日に、そして爆発する小型月人と戦った日に感じたものと、同じ震えが。

 

「……ッ!」

「姉上?」

 

 同じ頃、海の底、住処にしている洞穴で、アクレアツスは愛する息子を抱いた姉兼妻の様子を怪訝そうに見る。

 

「アクレアツスよ、フォスに危機が迫っておるようだ」

「クロ殿からの思念ですか?」

「うむ。だが今回は……こんな、あまりにも……」

 

 言葉を失っているのは、ウェントリコススばかりではない。息子のアクアティリスまでもが、危機を感じたように尾びれをしおれさせ、母に抱き着いている。

 息子が、何故かゴジラやフォスフォフィライトと妙な繋がりを持ってしまっていることは、アクレアツスとて察していた。

 その息子がこうして怖がっているということは、ただ事ではないようだ。

 

「フォスは宝石たちの国を挟んでちょうど真反対の海域にいるようだ。アクレアツスよ、すぐに向かってくれ」

「しかし姉上とアクアは……」

「急げ!」

 

 最愛の家族を置いてゆくことを渋るアクレアツスに、ウェントリコススは息子を抱きしめながら険しい顔で叫んだ。

 

「場合によっては()()()()()()やもしれん!!」

 

 そしてそのフォスは、ウェントリコススの言う通り危機に陥っていた。

 

「があああああ!!」

 

 目の前に現れた、月人の親玉の攻撃らしき不可視の力で全身を押し潰され、フォスは悲鳴を上げた。体中にヒビが入り、今にも砕けそうだ。だが砕けてやる者かと堪える。

 この、王子だか何だかの思い通りになるのは、絶対に嫌だった。

 

「耐えるな……」

 

 さらに力をかけてくる王子の顔には、僅かに焦りが見える。時間をかけすぎてクロがやってくるのを恐れているのだろう。

 

「悪いが、それもここまでだ……ああ、これでは何だか私が悪者のようだな」

「ぐ、が、あああああ!! そ、れは、どう、かな!!」

 

 だがフォスは自らに添えられた王子の腕を掴むと、自身の腕の亀裂からエネルギーを放出した。

 

「ッ!!」

 

 一瞬、念力が弱まった隙に、フォスは剣を振るう。

 傷あり月人が反応するが、それよりも刃が届くほうが早い。

 

「な!」

 

 だが、王子はなんと指二本で刃を掴んで剣を止める。腕に力を入れても、ふんばって体重をかけてもビクともしない。

 そしてそのまま、指に力を籠めると剣が中ほどから折れた。

 

「…………!」

『フォス、その剣はお前にやる』

『あの時は助けてくれて、ありがとう』

『だから、次の冬に話してくれることを……期待する。それまで月に攫われてくれるなよ』

 

 フォスの脳裏に、銀色の髪の宝石の声が甦った。

 

「よくも……アンタークの剣を!!」

 

 怒りのままに両の爪を伸ばすが、またしても念力によって吹き飛ばされる。

 

「ぐうおおおおおお!!」

 

 雄叫びを上げ、立ち上がる。さらなる不可視の力が襲い掛り体中がひび割れていくが、それでも一歩ずつ前に進んでいく。

 もはや言葉を交わすことなどせず、王子は両手を掲げてフォスにかける力を上げ、さらに視線で立ち尽くす傷ありの月人に指示を出した……『やれ』と。

 少しだけ逡巡した傷あり月人だったが、すぐにフィンガーミサイルをフォスに向ける。

 

「お、前は、他と、は違うかと、思った……!」

『……王子のためだ』

 

 フィンガーミサイルが発射されようとした時……咆哮が聞こえた。

 天を、海を、星を震わせ、世界が壊れる音にも似た、あの咆哮が。

 

「クロ……!」

 

 昼寝、もとい瞑想をしていた金剛先生はカッと目を見開き、宝石たちはいつにも増してインクルージョンが怯えているのを感じていた。

 クラゲや虫や魚、草花すら恐怖に震え、発光妖精たちがせわしなく飛び回り、流氷が悲鳴染みた音を立てて割れる。

 そして地上に降り立った月人たちも、特にそれを始めて直接聞くことになったエクメアは表情を強張らせた。

 

(これがゴジラの声。なんと、恐ろしくも悲しい……!)

 

(だが、奴がいるのはここから遠い。熱線も丘を挟んでは撃てないはず。こちらに来る前に事を終わらせる!)

 

 そのエクメアの考えは正しい。

 問題は、ゴジラが狙っているのが彼らではないことだった。

 クロ……ゴジラは、ここのところ奇妙な思念を感じ取っていた。

 どこからか、痛みと混乱に満ちた声が聞こえる。それはフォスも無意識に感じているようで、彼の苦悩を深めているようだった。

 どこからか、など決まっている。

 

 月だ。

 

 あの残り滓どもが、フォスのみならず新たな同胞を苦しめているのだ。

 そして今、奴らはまたしてもフォスを傷つけている。

 

――ああ、そうだな。

 

 ついに、クロは決意した。

 長い事エネルギーを得ていない自分は、もう長くはないだろう。

 ならば自分がフォスのためにせめてできることは……。

 

――終わらせよう……!

 

 海面から姿を現したクロ……ゴジラは、足踏みするようにして強く踏ん張った。それだけで浅い海が大きく波打ち、海底に足が沈む。

 さらに大きく振り上げた尻尾を、勢いよく振り下ろし、まるで楔のように海底に打ち付けた。

 その状態のままで背中を曲げて頭を下げる。

 背ビレがそれだけで宝石の国からも見えるほどに強く発光し、同時にゴジラの口腔からもこれまでにないほどのエネルギーが光となって漏れ出す。

 

 そして光の柱が、空に向かって昇っていった……。

 

 それは単なる威嚇……などではない。

 熱線は雲を引き裂いて大気圏を易々と突破し、宇宙空間でも減衰することなく一直線に伸びていく。その先にある灰色の衛星……月へと。月にある、月人の都へと!

 

 ……都では、その日も月人のほとんどは娯楽に興じていた。

 ボードを乗りこなし、料理やファッションを楽しみ、遊園地で歓声を上げていた。

 だが彼らはその日、空から青い光が都に降り注ごうとするのを見た。

 それが都を守る不可視の障壁……本来は隕石や宇宙線を防ぐための物……によって弾かれるのを見た。

 その瞬間だけは、誰も彼もまるで花火を見るかのように、その光景を楽しんだ……一拍置いて、都全体が揺れるまでは。

 

「なんだ!? 何が起きた!!」

「バルバタ様! 都が攻撃を受けました!!」

 

 フォスの欠片やセルヴァムの研究に勤しんでいたバルバタは、突然の強烈な揺れと、部下からの報告に目を剥いた。

 

「攻撃!? そんな馬鹿なことが……!」

 

 この都は、光学的な物も含め、あらゆる方法で外界から隠されている。それ以前に、いったい誰が月に攻撃をするというのだ。

 

「攻撃は……攻撃は、地上からです!!」

 

 部下のその叫びを聞いて、バルバタが攻撃してきたのが何者か悟ったのと、都が二度目の揺れに襲われたのは、ほぼ同時だった。

 

「ゴジラが地上から……月を狙撃している!? そんな、そんなことが……化物め!!」

 

 バルバタの考える通り、都の隠蔽はゴジラの感覚を持ってしても見破れない物だ。だが月人の中でも高い知能を誇る彼ですら都に生まれてきたフォスの眷属たちが、マーカーの役割を果たしていることに、即座に思い至ることはできなかった。

 

 今や月人たちは大混乱に陥っていた。周りを押し退け逃げ惑い、転んだ者が他の者に押し潰され、助けを求める声は悲鳴と怒号にかき消される。

 月人の都は外敵による攻撃も、自然災害も想定していない。そもそも本来月人は死なないのだから、避難経路の確保も、こういう時どうすればいいのかという規定もない。

 だが、その攻撃がどれだけ恐ろしい物かは、彼等自身の魂が知っていた。

 彼等の指導者であるエクメアが不在で、命令を下す者がいなかったのも、混乱に拍車をかけていた。

 そして三度目の熱線が都を揺らした時、ついに障壁の一部が破られて、何筋かの光が都に降り注いだ……。

 

「…………」

 

 三度熱線が撃ち上がるのは、エクメアからも見えていた。

 彼をして、その光景は唖然とする物だった。そしてそれはフォスですら同じだった。

 思念を通して、クロが月人の都を攻撃しているのが見えた。

 

「く、クロ……?」

『み、都が、我らの都が攻撃されている……! 王子、すぐに戻りましょう!!』

 

 それは傷ありの月人も察知していた。

 だがエクメアは、フォスにかける力を緩めない。むしろ、怪訝そうな顔で傷あり月人を見る。

 

『王子、詳しい理屈は分かりませんが、私にはフォスフォフィライトの思考が分かります! そしてフォスフォフィライトはゴジラの思考が読めるのです!!』

 

 それが何故か一瞬にして王子は理解したらしく、険しい顔になった。そして何事か指示を出す。

 

『わ、分かりました……』

 

 返事をした直後、月人の鎧の目から光が消え、両腕をだらんと垂らした。フォスの知識にはないが、DNAコンピューターを鎧の機能ごと停止させ、思念が読めないようにしたのだ。

 そして王子はフォスが動けない程度にまで力を弱め、会話するための笛のような器具を薄荷色の宝石に押し当てる。

 

「フォスフォフィライト、すぐに攻撃を止めさせてくれ」

「…………」

「月には君の仲間もいる。返した宝石は合成した物だが、本物も()()()()。それは嘘じゃない、本当だ」

「…………」

「君の友達のアドミラビリスの一族もだ。このままだと巻き込まれるぞ」

 

 静かな声だが、どこか焦りが感じられた。

 妙に引っ掛かる物を感じたものの、実際、このままでは仲間たちまで巻き込んで……いやすでに巻き込んでいるかもしれない。

 

「クロ、クロ……攻撃を止めて。仲間たちや王様の家族が……」

 

 だが、その言葉を遮るようにして、またしても青い光が月に向かって伸びた。

 

「……!」

「クロ! クロ、止めて! 止めてったら!!」

 

 フォスの叫びへの答えは、止むことのない熱線だった。

 

『フォス、聞こえるか!!』

 

 その時、シンシャの声が聞こえた。ガルーダに話しかけているのが、彼の思念を通して聞こえるのだ。

 

『聞いているなら、すぐにクロを止めろ! 月にいる宝石たちまで巻き込むぞ!!』

 

 一瞬、シンシャがなぜクロが月に攻撃していることを知っているのか疑問がわいたが、それどころではないとすぐに掻き消えた。

 

「もうやって……!」

『フォス! 返事をせい!!』

 

 次に聞こえたのは、ウェントリコススの声だった。

 

『クロ殿を止めてくれ!! 月にはまだ我が一族、我が民が……お願い、止めて……!!』

 

 ほとんど泣きそうな声での懇願だった。

 

「クロ、クロ! 止めてよ! お願いだから!! どうして言う事を聞いてくれないんだ!!」

 

 涙を流しながらの願いを、しかしゴジラは聞き入れず、光の柱が立ち昇る。

 王子の顔には、ついに目に見えて困惑と焦燥が浮かんでいた。

 

「クロの……クロの、馬鹿ぁあああああ!! ああああああ!!」

『王子!!』

 

 そこで、再び傷ありの月人が鎧を再起動させて叫んだ。

 

『すぐに退きましょう! あの攻撃は我々への()()です!! こちらがフォスフォフィライトを攻撃する限り、ゴジラは攻撃を止めません!! 砕いてしまった時にはそれこそ……!』

 

 その言葉に目を見開いたのは、王子だけではなくフォスもだった。

 自分のため? 自分を守るために、他の皆を巻き込もうと言うのか? ……そんなの、望んでいない!

 愕然として強化を解いたフォスと、立ち昇る熱線を、王子は何度も交互に見た。

 

『王子!!』

 

 そしてついに、王子はフォスにかける力を解いた。

 同時に青い光が途切れ、もう空に伸びることはなかった。

 フォスはと言えば、もはや月人と戦う余力も、気力もなかった。ただ、親友の裏切りに涙を流し慟哭するばかりだった。

 王子は傷あり共々身を翻し、いつの間にか接近していた雲に乗って空に昇っていった。

 

 後には、流氷の上で泣き叫ぶフォスフォフィライトだけが残された。

 アクレアツスが駆け付けたのは、そのすぐ後のことだった。

 

 

 

 フォスの悲しみを感じながらも、これでいいとクロは思考した。

 これで、しばらくは月人もフォスフォフィライトに手を出さないだろう。宝石たちやアドミラビリスからは憎まれるだろうが……それでもいい。

 

 自分が滅んだ後に、フォスが安寧と暮らせること。それだけを願い、考えた結果こそが、恐ろしい破壊者に徹することだった。

 このままでは自分亡き後、フォスは他の宝石から迫害され、排斥されるだろう。

 だがこれできっと、ゴジラの一族ではなく、裏切りの被害者として宝石の一員に戻れるはずだ……。

 

 今回の攻撃でだいぶ力を使ってしまった。己の細胞から力が尽きかけているのを感じながら、クロは深海へと沈んでいった……。

 

 だが彼の運命は、このまま安らかに眠ることでは終わらない。あるいは独りよがりな献身に対する罰であるかのように、彼の『敵』は蠢動を始めていた……。

 

  *  *  *

 

 月人の都の被害は、甚大だった。

 降り注いだ熱線によっていくつかの建物が倒壊し、炎を上げている。

 もはや誰もボードに乗らず、ファッションや食事を楽しむ余裕などなく、遊園地には苦痛と悲しみの声ばかりが満ちている。

 運悪く熱線に晒された者は再生と崩壊を繰り返し激痛に苛まれ、そうでない者もどうすればいいのか分からず、そして()は自分がそうなるかもしれないという恐怖に震えていた。

 

 そしてここもまた、熱線によって破壊された施設の一つ。

 崩れかけ、あちこちで火が燃えているそこの廊下を、一人の青年が足取りも軽く歩いていた。

 途中、顔の半分が焼け崩れて呻いている月人がいたが、女性と見紛う美貌の青年はそれを見て手を差し伸べることなくクスリと微笑んだだけだった。

 やがて青年……エクメアの侍従、メトフィエスが崩れかけた扉を潜って訪れたのは、アドミラビリスのための水を生産する部屋だった。

 

 中は酷い有様で、炎に包まれ高熱で満たされている。

 MO(ミクロ・オキシゲン)を生産する微生物が入れられていた水槽が熱と衝撃で割れて、こぼれた水が沸騰していた。

 それを眺めて、メトフィエスは笑みを浮かべる。

 

――友よ、ついに待ち望んでいた好機がやってきたぞ。

 

 炎と熱の中で、影が蠢いていた。

 

 かつての人間の言う所の、悪魔のような影が。

 




宝石の国の原作がああいう展開になり、ゴジラVSガイガンレクスが公開された今、この作品の意味はもうないのかもしれない。
それでもまあ、何ていうか、グダったけど、ここからを書きたくて書いてきたんで、お付き合いいただければ幸いです。

今回のまとめ

フォス
色々、精神的に死にかけてる。


傷ありの月人
色々、精神的に死にかけてる。


エクメア
色々、精神的に死にかけてる。
月に戻るともっと死にかける。


復讐の悪魔
ついに好機を得た。
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