孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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燐葉石と破壊神は助け合う

「クローーー!!」

 

 多くの仲間の助けを得て、ついに親友クロのもとへと辿り着いたフォス。

 だが、クロはすでに彼の敵によって満身創痍となっていた。皮膚は焼け爛れ、血がとめどなく流れている。

 

――何故、来た……?

 

 その思念が頭の中に聞こえてくる。

 

――すぐに帰れ……帰るんだ!!

 

 彼は戸惑い、強い思念をぶつけてこちらを追い返そうとしていた。

 

「そういうとこだよ、クロ!! こっちの話も聞かずに勝手に遠ざけて! 全部、自分でしょい込んで!」

「……なるほど、何処かの誰かにそっくりだな」

 

 自身の後ろに跨るシンシャの、呆れたような声が聞こえた。その点については、返す言葉もない。

 

「言いたいことも、聞きたいことも、山ほどあるんだ! だからまだ死なせない!!」

「おい、どうする気だ!?」

「とにかく、もう少し近づかないと! ガルーダ、お願い!」

 

 背に乗せたフォスの指示に、ガルーダは一つ鳴いて答えとした。

 あの赤い怪物は、恐ろしい力を持っているのが分かる。

 なによりも、その悪意と憎悪をフォスは感じ取っていた。

 

 フォスは理解していないが、デストロイアはセルヴァムを食い散らかしたことで、その遺伝情報を取り込んでいる。そのために、朧気ながらフォスはデストロイアの思念を感じ取れた。

 霞みよりなお薄くしか感じ取れずとも、その常軌を逸した復讐心は分かった……そしてそれは、デストロイアも同じだった。

 突如として、胸に充填していたエネルギーを霧散させ、フォスたちの方に顔を向けた。

 そこにあったのは、遠目でも一目で分かるほどに狂気に満ちた笑みだった。

 

「なに!?」

「不味い……()()()()()()()()!!」

 

 デストロイアはクロの身体を放り投げると、顔の周りに稲妻状の光を発生させ、こちらに向けて口から光線を放ってきた。

 

「うわあああ!!」

「ガルーダ、よけてよけてー!!」

 

 悲鳴を上げる二人に言われるまでもなく、ガルーダは大きく動いて光線を躱す。光線に飲み込まれれば、それこそ一たまりもない。

 デストロイアは咆哮を上げ、連続して光線を発射してくる。

 

――苦しめ、苦しめ、苦しめ!!

 

 羽虫のように飛び回る銀翼竜を見て、デストロイアはニヤニヤと獣らしからぬ笑みを浮かべていた。

 

――足りない! まだ足りない! もっともっと苦しむがいい!!

 

 デストロイアは、復讐心に囚われていた。

 生物の本能を逸脱し、数億年にも及ぶ年月で醸造された憎悪は、もはや単にゴジラを殺すだけでは満足できない域に達しっていた。そして今、宿敵を最も苦しめる方法を発見したのだ。

 それは奴の同族を奴の目の前で殺すことだ。

 

 だが億年もの間、復讐のことばかり考えていたために、デストロイアは肝心なことを忘れてしまっていたようだ。

 自分がかつて敗れた時、どういう状況だったかということを。

 

 突然、青い光が走り、デストロイアは悲鳴を上げた。

 見ればゴジラ……クロが、口から煙を上げながらも怒りに満ちた目でこちらを見ている。

 そして自分の肩に突き刺さった触手を握り潰さんばかりの力で掴んで、無理矢理引き抜いた。

 その身内を憤怒が駆け巡り、なけなしの力を細胞から絞り出す。

 

 『他所』のゴジラは知らない。

 ある種の理の体現者として動く者もいるだろう。只々本能のままに破壊と殺戮を繰り返す者もいるだろう。

 だが()()ゴジラは、同族や仲間の危機にこそ、最大の力を発揮するのだ。

 

――死にぞこないが!!

 

 デストロイアは怒りに満ちた咆哮を上げると、ゴジラを組み伏せようと飛び掛かる。取っ組み合う二体の巨獣は、血みどろの戦いを再開した。

 

 

 

「何をやっているんだ、いったい……!」

 

 モニターに映ったデストロイアに向かって、エクメアは低く唸った。

 さっさとゴジラを殺せばよかったものを、何を遊んでいるのか。あと一歩のところで全てを終わらせられるはずだったと言うのに。

 

「所詮は微生物の集まりか……!」

 

 フォスフォフィライトを助けるために多くの宝石が駆け付けたことも、アドミラビリスが向こうに与したことも、想定の内。包囲網を突破されたことすら、許容範囲だった。

 エクメアが恐れるのは、不確定要素の塊みたいなあの宝石が、ゴジラと合流することだった。それを避けるために……もちろんあわよくば割ってしまいたいとは思ってたが……軍を配置したのだ。

 突破されたとはいえ、時間を稼いでくれたのだから、セミたちは十分に仕事を果たしてくれたと言えた……はずだった。

 

 だが実際はどうだ? 宝石は空を飛び、この場まで辿り着いたではないか。このままではここまでの苦労が水の泡になりかねない。

 

「こうなったら……致し方無い。光学迷彩を解除」

「は!?」

「フォスフォフィライトを撃ち落すんだ。この船の武装でもそれくらいはできる」

「し、しかしそれではこちらもデストロイアの攻撃を受ける可能性が……」

「今更、あの宝石に何ができるとも……」

 

 煮え切らない態度の部下たちを睥睨し、エクメアは苛立ちを隠せなくなってきた。

 比喩でなく額から二本の角が伸びて髪が逆立ち、めくれ上がった唇から牙が覗く。

 

「奴が無策で突っ込んできたとでも思っているのか? 軍団を突破し、空を飛んでまできて何もできないと? 馬鹿な! 奴には何か、何かこの状況をひっくり返す手があるに違いない……! なんとしてでも、それを阻止するんだ!」

「は、はい……」

 

 王子に言葉に納得し、というよりは王子の怒りを恐れて部下たちは指示に従った。

 

 

 

 

 何とかデストロイアの光線から逃げたガルーダの背に、必死でしがみつくフォスとシンシャだったが、突然空に黒い染みが広がっているのが見えて目を剥く。それも二重であるうえに、とんでもなく巨大だ。

 クロやデストロイアと同等か、下手をすればそれより大きい。

 

「な……!?」

 

 現れたのは、月人たちが乗る雲ではなかった。

 例えるならば、それは深皿をひっくり返したような奇妙な物体だった。だとしても、宝石たちの学校よりも大きい皿だ。あれでは怪獣が丸ごと乗ってしまう。

 金属的な質感で銀色に輝き、ツルリとした表面には突起も窪みもなく、窓らしき物も見当たらない。

 

 ……遠い昔のにんげんの言葉にするならば、それは『空飛ぶ円盤』となる。

 

 これこそが、月人が建造した新型の船だった。

 円盤は下部から何本のもの紐を垂らし、自身と同等の大きさを持った何かを吊り下げていた。

 こちらはもっと細長い楕円型で、金属的な鈍色だが下半分が赤で塗装されている。

 上にニョッキリと背の低い塔のような物が飛びでており、一際太い紐が円盤の下部とそれを繋いでいた。そして塔を挟むように四角い小屋のような物が前後に二つずつあり、小屋の一面からは三本の煙突のような物が真横に飛び出している。

 おそらく後ろの方の端には四枚の翼があり、なにより目を引くのは、前方先端にある鋭く尖った巻貝のような奇妙な部位だった。

 

 その全体像をにんげんが見たならば『ドリルのついた潜水艦と宇宙ロケットの合いの子』とでも言うだろうか。

 

「なんだこれは……!?」

 

 そのスケールと奇妙さに、シンシャは面食らう。

 なんだかは分からないが、とにかくこれは月人由来の物だろう。

 生憎と、彼等にそれをじっくりと観察している暇はなかった。上の円盤の表面から、先端に花のような物が付いた棒いくつか飛び出したかと思うと、そこから稲妻状の光線が発射された。

 

「危ない!」

 

 フォスはそれが、以前に傷ありの月人が口から吐いた物と似ていることに気が付いた。きっと、あれの大型版とでもいうべき武器なのだろう。

 ガルーダは飛び回ってこれを避けるが、徐々に狙いが正確になっているのが分かる。このままでは撃ち落される!

 

 だがその時、どこからか無数に金色に光り輝く蛾……発光妖精が飛来した。すると不思議なことに光線が空中で明後日の方向に曲がり、あるいは散ってしまう。

 

「これは……ゴーストか?」

「残念、俺だ。ゴーストなら相変わらず傷ありの相手をしてる」

 

 ガルーダの脇に、発光妖精が集まってしかめっ面の宝石の姿を作る。

 

「カンゴーム! 君が助けてくれたのか!」

「どうやってここに? 確かあまりゴーストから離れられないんじゃなかったか?」

「ああ、まあ色々と無茶をな」

 

 どこかバツが悪げなカンゴームにフォスは首を傾げるが、シンシャはなんとなしに以前見せられた巨大な蛾のイメージが頭に浮かんだ。

 あの二匹が、カンゴームに力を貸しているに違いない。

 

「だがこれが正真正銘、なけなしだ」

「カンゴーム……ありがとう」

「礼なら後にしろ。どうせ、用事のついでだ……」

 

 それだけ言うと、カンゴームの像は蛾の群れになって散っていった。

 

「ついで?」

「今はそのことはいい。それより、どうする!」

 

 光線を防いでくれているとはいえ、こんな物を自分たちだけでどうにかできるとは思えない。金剛先生がいてくれれば話は別だが……。

 焦燥するシンシャに対し、フォスはむしろ口角を上げた。

 

「いや、こいつはむしろ()()()()()()

 

 ……が、次の瞬間には後ろを振り向き、少し迷いながらも言った。

 

「あーとさ、シンシャ。ちょっと無茶なこと頼んでいい?」

「この状況が、最上級の無茶だろうが」

「えーと?」

「……早く言え、ってことだよ!」

 

 

 

 

 思い通りにいかない状況に、エクメアは目を鋭くしていた。

 

「あの鱗粉……おそらくは電磁波を含んでいる。チャフのような役割を果たし、メーサーの軌道を逸らしているのだろう」

「そのようだな」

 

 感心したような声のバルバタだが、エクメアはそれどころではない。

 なぜこうも上手くいかない? なぜこうも予想が外れるのだ?

 否、そんなことはいつものことだ。無に還れず、金剛に祈らせることができず……それが自分という存在だ。

 だが、こればかりは失敗するワケにはいかない。なんとかしなければ、と思考を回しながら、画面を見れば、相変わらず銀色のセルヴァムが宝石を乗せて宙を舞っている……。

 

「! セルヴァムを拡大してくれ!」

 

 同じ映像を見ていたバルバタが目を見開いた。

 拡大された先では、やはり二つの影がセルヴァムの背に乗って……否!

 乗っているのは一人、赤い髪のシンシャだ。もう一つの影は銀色に輝いている。

 

「ど、毒液を人型にして、こちらの目を欺いたのか!」

 

 バルバタが舌を巻く。

 この乱戦と蛾の鱗粉のせいで映像が不鮮明になっていたから、気付かなかった。

 

「いやそれより、フォスフォフィライトは、フォスフォフィライトはどこへ行った!?」

「お待ちを……いました! ふ、フォスフォフィライトは……!」

 

 エクメアの叫びに、オペレーターの一人が応えた。信じられないという顔で。

 

()()()()()!!」

 

 

 

 

「うまくいった」

 

 シンシャとガルーダに陽動を頼み、発光妖精に紛れて、円盤が吊るした物体の上にフォスは降り立っていた。

 物体の上部は平らになっており、しっかりと立つことができた。足裏から伝わってくる感触はやはり硬く、この物体が金属でできていることを物語っていた。

 

「ちょうど、足場が欲しかったんだ」

 

 ガルーダの上や流氷だとどうしても不安定になる。上の円盤と違って立ちやすいし、これからすることのために、この船……船?はまさに渡りに船だ。

 船の先端……ドリルの根本近くに立つ。この場所なら、上の円盤の影にならず、日光を十分に浴びることができた。

 二体の怪獣の、熾烈な戦いが見えた。クロは猛然と攻撃しているが、それは敵も同じこと。それどころか、徐々に押されはじめている。

 怒りによって力を振り絞っても、それでもなおエネルギーが足りないのだ。

 

「クロ……!」

 

 フォスはしっかりと踏ん張り、前傾姿勢になって身内に力を籠める。

 怒りより力は生ずると、フォスの内に潜む者は言った。それは事実だ。だが……。

 

「今度こそ、君を助ける……!」

 

 『他所』のゴジラは知らない。

 ある種の理の体現者として動く者もいるだろう。只々本能のままに破壊と殺戮を繰り返す者もいるだろう。

 だが()()ゴジラは、同族や仲間の危機にこそ、最大の力を発揮するのだ。

 

 インクルージョンが、その内にあるG細胞が活性化し、バキバキと音を立てて、薄荷色の宝石の身体を作り変えていく。

 全身を覆う外皮はより分厚く硬くなり、四肢は長さと太さを増す。増えた重量分のバランスを取るために、尻から長い尾が伸びていく。

 そして、背中から尻尾にかけて脊椎に似た器官が生成され、その一部である剣を連ねたような薄荷色の背ビレが三列、飛び出した。

 

 まさしく、その姿は人型ゴジラとでも言うべきものだった。

 

(ごめん、レッド。また服を破いて……)

 

 激痛に苛まれながらも、フォスは心の内で服飾担当の宝石に詫びた。

 

 その身体の内側を強い力が駆け巡っていく。普段なら割れ目などを通じ外に溢れ出そうとするそれを、脊椎状器官に集束させていく。 

 

 集まったエネルギーは尻尾の先から背中、そして首筋へと順々に背ビレを強く発光させながら登っていき、喉へと辿り着いた。

 

 ほとんど裂けるようにして開かれた口の中には牙が何本も伸び、それが電磁的な力場を発生させて登ってきたエネルギーに指向性を与える。

 

 そして……フォスフォフィライト、あるいはゴジラの口から青白く光る熱線として轟音と共に発射された。

 

 狙う先は、もちろん赤い悪魔……ではない!

 熱線は真っすぐに友たる怪獣王のもとへと伸びていく。そしてゴジラ族の象徴とも言うべき背ビレに命中した。

 

 クロの巨体にすれば、針よりも細い熱線は、何の痛痒ももたらさない。もたらしたのは活力だ。

 フォスが浴びた太陽光からゴジラ族に適したエネルギーを生成し、それを熱線として撃つことでクロに生命力を与えたのだ。

 死にかけていた細胞に、四肢に、臓腑に、力が満ち満ちる。

 だが物理的なこと以上に、フォスが自らを救ってくれたという事実が、彼に力を与えていた。

 どうやら、あの同族はもはやこちらに庇護されるばかりではないようだ……思う所はある。だが今は、その成長を喜ぼう。

 

 一瞬、クロはフォスを見た。

 困った同族だ。言う事を聞かないし、おまけに無茶をする……どこかの誰かに、そっくりだ。

 フォスは、それを見て笑顔を浮かべた。

 

「言ったでしょ? 聞きたいこと、話したいことが山ほどあるから死なせないって。でもまずは……」

 

 クロはニヤリと笑い返してから、デストロイアを睨んだ。

 そう、まずはこいつを倒さねばならない。全てはその後だ。

 

「やっちゃえ、クロ!」

 

――応よ!!

 

 怪獣王と悪魔が咆哮を上げる。

 ここに二大怪獣、最後の戦いが始まった……。

 




最初に撃つ熱線は、クロを助けるために、というのははじめから決めていました。

以下、キャラ紹介、他。

フォスフォフィライト(第四形態)
身長 :約2m
体重 :約500㎏
異名 :小さなゴジラ、宝石怪獣
必殺技:放射熱線、体内放射、他

ついに熱線が撃てるようになった。
体格も良くなり背ビレや尻尾まで生えて、見た目はほとんど人型ゴジラといった風情。
三列の背ビレは体内のエネルギーを集束させるための脊椎状器官の一部であり、ここに集めたエネルギーを口部の牙が発生させる力場で指向性を与える、プロセスで熱線を発射する。
当然ながら今まで以上の戦闘力を有するが、最大の特徴は熱線を使って同族にエネルギーを与えられること。

見た目のイメージはゴジラ対エヴァンゲリオンのG細胞入りエヴァンゲリオン初号機。原作フォスの第五形態もイメージに入っている。



月人母艦
全長(直径):108m
全高    :33m
重量    :不明
装甲    :耐熱特殊合金、合成ダイヤモンドミラーコーティング
動力    :半気体型重力炉
武装    :汎用メーサー砲×12
       磁力シールド
       光学迷彩幕

ゴジラ抹殺のために月人が用意した巨大な宇宙船。見た目は所謂『空飛ぶ円盤』そのもの。
原理としてはいつもの雲の特大サイズを装甲で覆ったような物。
自身と同等の大きさの物体を牽下できるパワーがある。
とにかく熱線を防ぐことに重点を置かれて設計されており、貴重な特殊合金の装甲に合成ダイヤモンドコーティングを施し、さらに磁力シールドなるバリアが覆っている。
反面、武装はメーサー砲が12基のみと、その大きさの割にあまりに貧弱。それでも宝石相手ならオーバースペックのはずだったが……。
また今回は発掘兵器を吊り下げている都合上、真下には攻撃できないという弱点も抱えている。

こういうどうでもいい兵器の諸元を考えるのは、とても楽しい。



月人の発掘兵器
敢えてまだ名を語らず。諸元もいずれ。
元々は地球に迫る流星を破壊する目的で建造された物で(フルスペックを発揮できれば)ゴジラすら撃破しうる超兵器。
色々理由があって、エクメアはこれに並々らぬ信頼を抱いている。
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