孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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悪魔は復讐を終える

 ゴジラが咆える。

 怒りと仲間の力を得て、天も割れよとばかりに咆える。

 

 デストロイアが咆える。

 憎しみと復讐心を糧に、地よ裂けよとばかりに咆える。

 

 自らの肉体を崩壊させるオキシジェンデストロイヤー・レイを真正面から受けながらも、ゴジラは崩壊よりも早い自己再生で耐えてみせた。そして撃ち返された熱線は青ではなく真っ赤に輝いていた。

 

 赤色熱線。ゴジラの奥の手の一つとも言うべき、より強力な熱線だ。

 

 その破壊力は本来なら熱を力の源とするはずのデストロイアにすらダメージを与えるほどだ。

 赤い甲殻に裂け目が走り、体液が飛び散る。だがしかし、デストロイアの闘志は尽きない。

 二体はただひたすらに、相手を殺すために戦う。

 

 その壮絶なぶつかり合いを、フォスは固唾を飲んで見守っていた。

 あれに比べれば、月人との戦いなどまるでお遊戯だ。

 闘う両者の思念を感じ取れるからこそ、物理的な衝突以上にとてつもない意思に圧倒される。

 

 かつて金剛先生に聞いたことがある。かつて存在した『にんげん』は、クロの父やそれに並ぶ力を持つ者たちを『怪獣』と呼んだ。

 人智を及ばぬ力と、山のような巨体を持つ彼等を恐れて……だがきっと、それだけではない。

 怪獣を怪獣たらしめているのは、単に巨大であることや戦闘力以上に、その強大な意思にこそ理由があるのだと、フォスは思った。

 だからこそ……。

 

「ッ!」

 

 だからこそ、空からあの集束された日光が柱のように降って来た時、妙に腹が立った。

 獣同士の戦いには誇りという概念も、卑怯という言葉もない。生き残った方が勝ちだ。

 事実、デストロイアの中にあるのは再生を喜ぶ声だけだ。だが何と言うかあまりにも……。

 

「無粋、野暮、余計なお世話」

 

 自身もまたクロを手助けした身、本来なら言えた義理ではないのだろう。だが月人の太陽光は、酷く利己的で、ただ利用してやろうという魂胆が感じられた。

 それは他者に利用されることを嫌う、ゴジラ族としての本能に近い感覚だった。

 ギラリと上を睨めば、船体が大きく揺れる。フォスのことを振り落とそうと、円盤が動いて船を振り子のように揺らしているのだ。

 もちろん、そんなことで今更慌てはしない。

 姿勢を低くし腕を床に付けて踏ん張り、もう一度熱線を放つ。そっちが無粋にくるなら、お返しだ。

 熱線によって力を得たクロは、集束太陽光によって回復したデストロアに向かっていく。

 どちらの力も元をたどれば太陽光に由来するのは、何かの皮肉だろうか。

 

「フォース! 大丈夫かー!」

 

 そこにガルーダに乗ったシンシャが飛んできた。

 さらに姿を変えゴジラになりゆくフォスに、一瞬顔を強張らせる。だがその目に薄荷色の輝きを見て、我知らず表情を柔らかくした。そこに未だ変わらぬ面影を見たから。

 

「ああ、なんとか……!」

 

 フォスが応えたがその時、ゾワリと首筋に嫌な物を感じ、剣を抜きつつ上を見上げた。

 円盤の一部に穴が開き、そこからザラザラと七色に輝く宝石の欠片が降ってきた。

 それが見た目通りだなどとは、フォスもシンシャも思わない。

 案の定、欠片が爆発する。宝石の雨は、そのまま爆弾の雨だった。その爆風に紛れて、無数の小さな影がフォスに纏わりつく。

 丸、三角、四角……いつぞやの小型月人だ。

 

「そう言えば、お前らいなかったな!」

 

 フォスを阻もうとした月人の大軍の中に姿が見えないと思えば、こんなところで出てくるとは。

 だが今更フォスの外皮を彼等の力で傷つけることなどできない。それは月人も……少なくとも、あの円盤の中にいるだろう月人、ひょっとしたら王子とやらも、分かっているはず。

 只々、数に任せて群がってフォスの邪魔をしようというだろう。

 そうしてフォスの動きを止めている間に、上からフォス丸々三人分はあろうかいう巨大な宝石が落ちてきた。

 おそらく、爆発の威力も宝石三人を木端微塵にできるだろう。

 

「ッ!」

 

 だが爆弾は、フォスの体に届く前に銀色の軌跡に弾かれ、明後日の方向に飛んで行った。シンシャが振るう毒液の鞭だ。

 

「今だ、フォス!」

「うん! ……はああああ!」

 

 体に気合を入れて、全身からエネルギーを放出し、いつぞやのように小型宝石を吹き飛ばす。

 だがそれは思っていた以上の威力を発揮した。未知の技術で造られた船体は大きく揺れたものの傷つかなかったが、船を吊るしている紐はその限りではなかった。

 何本かの紐が焼き切れ、そのせいで船体が上の円盤もろとも前のめりに傾く。

 

「おおっと!?」

 

 さすがに傾斜が急になり過ぎて立っていられず、慌ててガルーダの背に飛び乗った。

 振り向けばシンシャは目を丸くしたあと、何かを振り払うように首をブルブルと振った。

 

「ああ、ごめん。尻尾とか背ビレとか邪魔だろうけど、ちょっと我慢してて!」

「……ああ」

 

 実際にはシンシャは目の前に広がる大きな背中に胸の内がむずがゆくなるような、何とも言い難い気分になっていたのだが、そんなことフォスが知るはずもなかった。

 ……この時、宝石爆弾を投下するため円盤に開いた穴に、一匹の発光妖精が入り込み、反対に円盤が吊り下げた船には、数体の小型月人が潜り込んでいたことに、フォスは気付かなかった。

 

 見れば、円盤が上昇していく。逃げるという雰囲気ではない。実際、それは傾いた発掘兵器でデストロアを狙うため、位置を調整しているだけだった。

 その時、またしても光の柱が降ってきた。

 お互いにボロボロになりながらも戦い続けるゴジラとデストロイアを飲み込み、デストロアにのみ力を与え、傷を癒す。

 クロもフォスの援護で力を得られるとはいえ、これでは千日手だ。

 

「だったら……! シンシャ、ガルーダ、もう一回だけ、無茶をお願い!」

()()()()じゃすまなそうだが……どうするつもりだ?」

 

 フォスはゴジラとデストロイアの方を睨んだ。

 

「月人に、僕ら宝石が何を食べてるか教えてやるさ」

 

 

 

 

 デストロイアは何度目になるかわからぬ再生を果たすや、空に飛び上がった。

 翼を広げて飛び回りながらオキシジェンデストロイヤー・レイを敵に浴びせかける。もちろん、それで今のゴジラが倒れるはずもない。

 お返しに放たれた巨大な熱線がデストロイアの胴体に直撃し、その身体を上下に真っ二つにする。

 だが当然、それで終わりではなかった。

 

 上下に分れた怪物の身体は、それぞれが飛翔体と集合体に似た姿に変身し、ゴジラに襲い掛かった。何体もの中間体に分裂する技の応用だろう。

 飛翔体を撃ち落そうとすれば集合体が組み付き、集合体を引き剥がそうとすれば飛翔体の光線が降りかかる。

 元が群体なだけあって、二体の連携は完璧だ。

 

 ゴジラは埒が明かないとばかりに全身からエネルギーを放射する。ついさっきまでは諸刃の剣だった体内放射も、利潤にエネルギーを得た今では存分に振るうことができた。

 衝撃波を伴う熱波によって、二体のデストロイアは吹き飛ばされる……よりも早く、ゴジラから離れて海に潜った。そうすることで、衝撃と熱から逃れたのだ。

 

 油断なく辺りを見回すゴジラの後ろから、完全体の姿に戻ったデストロイアが海面を割って飛び出してきた。

 そのままヴァリアブルスライサーで、相手の首を叩き斬ろうと言うのだ。

 

 振り向くも間に合わず、首に万物を両断する刃によって破壊神の首が落ち……ない!

 

 なんとゴジラはデストロイアの角を噛んで受け止めていた。さしずめ真剣白刃取りならぬ白歯取りとでも言おうか。

 本来ならそんなことをすれば、角を伝って噴射されるオキシジェンデストロイヤーによって歯もろとも頭部が破壊されるはずだ。

 だが、今のゴジラは歯の周りにエネルギーを纏うことで、必殺の毒から身を守っていた。フォスが熱線発射のために口内に力場を作ったことを真似たのだ。

 そのまま角を噛み砕き、続いて熱線を吐いてデストロイアの顔面の半分を吹き飛ばす。

 

 激痛に悲鳴を上げて後退しながら、デストロイアは恐怖した。

 かつて自分が破れた時の記憶がよみがえる。これは、あの時の再演だ。

 本能が、すぐにでもこの場から逃げなければと叫んでいる。

 

――否!!

 

 逃げてどうなる?

 微生物に戻ってまで生き延び、億年の時を待ち抜いたのは、この時のためだ。この時のためだけだ!

 なにより、本能とも違う直感めいたものが囁いている。

 

 ……きっとこれが最後の好機だと。『次』など存在しないのだと。

 

 恐怖を凌駕し、これまでにない、億年の妄執すら超えた闘志を高ぶらせ、デストロイアは咆える。それに応えるように、ゴジラもまた咆える。

 両者の間には憎悪しかない。しかし、ある種の通じ合う部分はあった。遥か昔の生き物の生き残りたちは、共通の意思を持っていた。

 

――今この時、この場で、絶対に……。

 

――こいつを殺す!!

 

 デストロイアは胸の甲殻を開き、その身に宿る全ての力を結集させた。最大最強の攻撃、ウルティメイト・デストロイヤーだ。

 対するゴジラも両脚で踏ん張り、尻尾を海底に打ち付けて体を固定し、背ビレを赤く発光させる。敵の攻撃が、下手に躱そうとすればフォスたちも巻き込まれかねない威力だと察したからだ。

 

 両者の緊張とエネルギーが高まっていき、そして……同時に弾けた

 

 横向きの柱のような赤と紫のエネルギーの奔流が空気を切り裂きながら飛び、二体の巨獣の真ん中で衝突した。

 余りにも強力な力はお互いに相殺し合い、ゴジラとデストロイアの山のような体を反動で後退りさせる。

 デストロイアの翼や尾の先端が、余りにもエネルギーを使い過ぎためたかボロボロと崩れていき、同時にゴジラの背ビレの一部が融解を始めていた。

 だが両者は互いにさらに攻撃にエネルギー注ぎ込む。そして、赤い熱線が紫の光線を押し始めた。

 このままゴジラの方が競り勝とうとした時、空から太陽光の柱が降ってきた。

 

 それが月人による援護だなどと、デストロイアは知らない。彼にとって月人は、目の前に現れた虫か何か……あるいはそれ以下に過ぎない。

 だがその月人の援護によって力を得たデストロイアは、それをさらに攻撃に回した。自己再生など、後回しだ。

 デストロイヤー・レイは熱線を押し返し、ジリジリとゴジラに迫っていく。

 

――勝った……!

 

 そう確信した瞬間、視界に薄荷色の光が過った。それは空を飛ぶ小怪獣の背に乗った、あのゴジラの同族だった。

 

「シンシャ、頼む!」

「ああ、もう! お前の頼みを聞くんじゃかった!!」

 

 妙な気配のする赤い生き物が、銀色の鞭のような物で思い切り薄荷色を放り投げた。

 一条の流星となった薄荷色の向かう先は、自分の直上……光の柱の中だ。

 

――まずい!

 

 その思惑を察し撃ち落そうと思うも、少しでも力を抜こうものなら、敵の熱線に飲み込まれてしまう。

 もちろん、月人たちも太陽光の照射を止めようと試みたが、無理な連続使用の結果、システムに異常をきたして止められなかった。

 そうこうしているうちに光の柱に飛び込んだフォスは両手両足を広げて太陽光を体中で浴びる。熱量でインクルージョンすら焼けてしまいそうなものだが、この小さなゴジラはその全てをエネルギーに転換していた。

 

「おおおおおお!!」

 

 そして、さっきよりもずっと強力なエネルギーの奔流を口から撃ち出した。反動で逆方向に飛んでいく薄荷色のその狙う先は、もちろんゴジラである。

 エネルギーを受け取ったゴジラはその身体に変化させた。体のあちこちが、眩いばかりの白に発光を始めたのだ。

 同時に熱線も赤から白へと色を変えていき、その威力も増していく。

 

――馬鹿な!

 

 ジリジリと迫る白い熱線がデストロイアの光線を押し返す。

 全ての力を振り絞り、生命力までも光線のエネルギーに転化して、それでもゴジラの光線の方が上だった。

 

――馬鹿なあああああ!!

 

 悲鳴を上げることすらできず、赤い悪魔は白い光に飲み込まれた。

 凄まじい熱量と破壊力に、体が崩壊し、細胞の一片までもが燃え尽きていく。

 終わるのか? 微生物に堕ちてまで生き延び、億年もの月日を待った復讐が、ここで終わるのか?

 

――まだだ! まだまだまだ!! ここで終わってなるものか!!

 

 凄まじい執念で、デストロイアはその攻撃に耐えた。耐えようとした。

 その身を支えるのは、只々怨念のみだった。

 だが……。

 

『忘れない』

 

 声が聞こえた。

 

『なんでそんなにクロを恨むのかは知らない。僕にこんなこと言う資格がないってことも分かってる。でもそんなにボロボロになるまで戦って……お前は、本当に凄いよ』

 

 視界の端に、銀色の小翼竜に回収された薄荷色のゴジラが見えた。

 セルヴァムを喰ったことで得た遺伝子情報を通じて、話しかけているのだ。

 

『僕はお前を忘れない。お前の戦いも、執念も、僕が憶えている。きっと、僕が終わるその時まで』

 

 伝わってくる感情は、同情ではなく感嘆。憐憫ではなく敬意。だがそれは、デストロイアにとって愚弄にも等しい言葉だった。

 記憶されていたところで何だというのか。それがいったい、何の意味があるというのか。まして体が欠ければ容易く記憶を失う石の分際で! 否、意味などない。あの薄荷色の自己満足に過ぎない。

 だけど。

 

――ああ、それならば……。

 

 だけど……。

 

――それも悪くはない。

 

 それは消えゆく命にとって、ほんの微かな、しかし確かな慰みにはなったのだった。

 

 一瞬の静寂の後、世界が終わるかと思えるほどの音と共に爆発が起こった。

 あたかも海上に太陽がもう一つ現れたかと錯覚するような炎の中で、デストロイアが体液の一滴、細胞の一片すら残さずに燃え尽きていく。

 空も、海も、星すら揺らぐ爆発をガルーダの背からシンシャが見ていた。

 円盤の中でエクメアとバルバタが愕然とそれを眺め、氷上で戦っていた三族が動きを止めてそちらに目を向けた。

 学校に残った金剛先生らからも、自分たちの住処にほど近い海面から顔を見せたウェントリコススと愛息子アクアティリスからも、それは見えた。

 発光妖精を通じモスラとバトラが、人智及ばぬ方法でメトフィエスが、長い旅の終わりを見守っていた。

 虫や魚も、クラゲも、あらゆる命がその最後を感じ取っていた。

 

 そして、億年の因縁に決着をつけ全身から煙を上げるゴジラと、その薄荷色の小さな同族フォスフォフィライトが、宿敵の死を見届けた。

 

 それは大怪獣の結末に相応しい、壮大な最後だった……。

 




アフタヌーンの発売に間に合いました。
デストロイアはこの場で生き延びるという展開を構想してたんですが、やはりここで退場が綺麗かなあと。
激闘の末の退場もまた、怪獣の花道ですから。

以下キャラ紹介、のような何か。


バーニングゴジラ
全高 :100m
全長 :220m
体重 :6万t
通称 :クロ
必殺技:白色熱線

ゴジラことクロがフォスフォフィライトからエネルギーを受け取ったことで発現したクロの最強形態
体の各所が眩い白に輝き、熱線もまた赤を通り越して白くなり、デストロイアすら塵一つ残さず消し飛ばすほどの力を持つ。
だが父がそうであったように、この力はクロ自身に凄まじい負担をかける……。

元ネタは言うまでなく、ゴジラVSガイガンレクスに登場した形態。
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