「磁気フィールドの出力、40%にまで低下! じきに消失します!」
「轟天級との接続ケーブル、5番から10番まで焼き切れました!」
「ゴジラの熱線は、想定よりも遥かに強力です!」
「馬鹿な……」
警報が鳴り響く母艦の中で、エクメアは呆然と呟いた。
デストロイアを滅ぼしたゴジラは、そのついでとばかりに熱線を撃ってきた。あれほどの死闘を演じたというのに元気たっぷり、とても死の淵まで追い込まれていたとは思えない。
しかもあの艦……轟天級迎撃戦艦『征天』やジョウハリ・システムまでも逆利用されるとは。
なぜ、自分はあの時、直接この艦でフォスフォフィライトを撃ち落せなどと言い出したのだ?
その上、無茶な連続使用でジョウハリ・システムに不具合がでることぐらい、予測できてしかるべきだったろうに!
「馬鹿な……!」
「磁気フィールド消失! 艦の表面温度が急速に上昇しています!」
「ケーブル、12から20番まで切断! 冷凍メーサー砲、使用できません!」
「エクメア、このままだとこの艦は沈められるぞ! 征天を切り離して、撤退するんだ!!」
「こんな無様な敗北をしたうえ……あの艦を、あの艦を捨てろと言うのか……!!」
バルバタの進言は受け入れ難いものだった。
もはやデッドウェイトでしかない征天を捨てるのは、理にかなっている。
だがエクメアにとってあの艦……かつて地球連邦機関が建造した轟天級迎撃戦艦の4番艦にして同級最後の生き残りは、単にテクノロジーの源というだけでは済まない。もっと大切な……。
「ダイアモンドコーティングが融解を始めています! もう持ちません!!」
「王子、御指示を!」
「エクメア!!」
『王子!!』
「……やむを得ん。征天を切り離し、急速上昇! この場から全速で離脱する!! セミたちにも撤退指示を!!」
いくらかの逡巡の後、エクメアは指示を絞り出した。
待ってましたとばかりに部下たちはコンソールを操作する。
画面に映る、飛沫と波を立てて海に落ちた迎撃戦艦を見る王子の目は血涙を流さんばかりに怒りに燃えていた。
「こうまでして、こうまでして、倒せないのか……! ゴジラという怪物は!!」
誰もが死にきれずに苦しむこの星で、殺せば死ぬはずの命が生き足掻くとは、どういう皮肉だ。神の下した罰だとでも言うのか。
否、この宇宙に神などいない。人間の罪を裁き、終焉をもたらす神など存在しない。それとも……。
「お前がそうだとでも言うのか、ゴジラ……!!」
唸るその背に、一匹の発光妖精が止まった……。
* * *
ガルーダに跨ったフォスたちが丘に戻ると、海際の崖の上でみんなが出迎えてくれた。
アンタークチサイトら、戦いに参加していた宝石たち。金剛先生と、彼と共に残った者たち。全ての宝石が、そこに集まっていた。
「フォス、無事だったか!」
「アンターク……うん、なんとか」
着地したガルーダに、いの一番に銀白の髪を揺らして駆け寄ってきたのは、アンタークだ。その後に他の宝石たちも続く。
「あんたも無茶ばかりするけど、今回は飛び切りね」
「イエローなんかずっと心配してましたよ!」
「確かに手のかかる末っ子だよ本当に」
ワイワイとフォスを取り囲む宝石たちの輪から離れ、シンシャはどこか嬉しそうに薄く微笑んでいた。その後ろにゴーストが不意に現れる。
「シーンシャ」
「……ゴーストか」
「もう、フォスと違って反応がつまらないなあ」
つれないシンシャに、ゴーストは苦笑した。
「シンシャもご苦労様。大変だったみたいね」
「……まあな。あの馬鹿、本当に無茶をする」
「ねー、シンシャも話聞かせてよー!」
「お、おい!」
そこでダイヤモンドがやってきて、その手を引いていった。ご丁寧に手袋をはめて、毒液対策もばっちりだ。
「いいからいいから! 二人きりで空を飛ぶなんて、すごいロマンチック!!」
「生憎とそんな甘いことは……いや、まあ、うん」
歯切れ悪く頬を染めるシンシャに甘酸っぱいナンカを感じ、ダイヤさんは何に遠慮することなく光り輝いた。
クスクスと微笑むゴーストの横に何匹かの発光妖精が集まり、朧気な人型を作る。
「……うまくいった?」
「なんとかな。そっちは?」
「……フラれた」
「はあ?」
自身の片割れであるカンゴームの声に、ゴーストはワザとらしく溜息を吐いた。
「月でやりたいことがあるんだって。まったくもう、本当に好奇心最優先で僕の気持ちなんか気にも留めないんだから……」
「
そうは言いつつも、ゴーストはどこか安堵しているようだった。だがすぐに纏う空気を真剣なものにした。
「……これで布石は打てた。あとはこれから。……むしろ、ここからが本番」
「仕事は果たした。俺はここからは好きにやらせてもらうぞ!」
「いいんじゃない?
宝石たちの輪から離れ他の者には理解できぬ会話をする二人の頭上を、金と黒の発光妖精が舞っていた。
「どうやら、終わったようだな」
そこへおっとりがたなでやってきたのは、法衣をたなびかせた金剛先生だ。
後ろには残った宝石たちが続いている。
「先生」
「無事で何よりだ……いや、私にはもはや、こんなことを言う資格はないな」
「資格だなんて、僕が我儘を通しただけですし」
金剛先生の顔は柔らかく、フォスもまた安堵していた。
すると先生の後ろにいた宝石たちも、フォスらを取り囲む。
「あ゛あ゛ー! また服を破ってるぅ!!」
「ねーねー、僕の作った剣はどうだった? 自信作なんだけど」
「なにはともあれ、無事で何よりだ」
「ジェードったら、真面目だね」
とりあえず、こちらも無事なようでなによりだ。
「そうだ! はいはい、みんなー注もーく!」
フォスは輪から抜け出し、崖際に立って両腕を広げた。
何事かと注目が集まると、フォスの後ろの海を割って、巨大な黒い影が現れた。
学校よりも大きく、まるで水平線の向こうから迫る積乱雲が、急に目の前に現れたかのようだ。
さすがにギョッと固まる宝石たちに対し、フォスは会心の笑みを浮かべた。
「紹介するよ、僕の友達のクロ!!」
「ち、ちょっとあんた……!」
最初に声を発した青緑髪のアレキサンドライトだったが、フォスと目が合って口をつぐんだ。
それきり全員がしばらく黙りこくっていたが、さすがと言うか金剛先生が進み出て頭を垂れた。
「お久しぶりです、クロ殿。私にはもはや、こうして頭を下げる資格すらないのでしょうが……それでも、フォスを見捨てる形になったこと、どうか謝らせていただきたい。その上で、責を問うのはどうぞ私だけにしてはもらえないでしょうか?」
頭を下げ、許しを請う。こんな金剛先生の姿は誰も見た事がなかった。
すると、ゴジラは鼻を一つ鳴らした。
「フォス、クロ殿はなんと?」
「フォスが許すなら、自分はとやかく言わない、とのことです」
「ふむ。してフォス、お前はなんとする?」
「さっきも言いましたけど、僕が我儘を通した形なんで、むしろ許してほしいのはこっちの方です」
「そうか……ありがとう」
フォスの答えを聞いて、クロはまた一つ鼻を鳴らした。呆れているとも、納得しているとも付かない様子だった。
すると固唾を飲んで見ていた一同の中から、ユークレースがゆったりと前に出る。
「そう、あなたがクロ……初めまして。それと、ありがとう。フォスをずっと守ってくれてたんだよね」
手が震えている。声にも恐怖が滲んでいる。それでも、ユークはクロを受け入れた。
怪獣の王は、そんな宝石に対し、僅かに微笑んだように見えた。
それを皮切りに、他の宝石たちも少し安堵したらしく、再びフォスを囲んで騒ぎ出した。
「なるほど……確かに戦うのは無理そうだ」
「あれを何とかできると思い上がるのは、無謀を通り越して無能だな……もちろん、先生以外は」
「少しだけ、少しだけサンプルを。せめて表皮だけでも……!」
「諦めろ、ルチル。いや本当にやめてくれ」
アンタークとボルツは、この怪獣に挑もうというのをフォスが無謀と評したことに、深く納得していたし、ルチルはちょっとだけ皮膚やら何やら貰えないかと考えて、ジェードに諫められていた。
ベニトや何人かの宝石が金剛先生の背に隠れたままなのも、御愛嬌だ。
「なーなーフォスー! ガルーダに俺も載せてくれよー!」
「ええー? モルガ、ガルーダのことシワクチャで可愛くないって言ってたじゃん」
「悪かったって! だからさー!」
「分かったよ。ガルーダが許してくれたらね」
「やりー!」
モルガはむしろ、ガルーダの方に興味があるようだ。そんな相棒をゴーシェは例によって困ったように見ていた。
アレキは慈しみと寂しさの籠った目でクロを見上げていたが、ふと近くにいたシンシャに問う。
「……フォスの奴、
「……ああ、全部な。納得してるかは、別だが」
「そう、そうなのね……」
シンシャの答えにアレキは目を伏せた。
さっきフォスと目が合った時に見えたのだ。酷く悲しそうな、しかしそれを何とか飲み込もうとしているような色が。それが意味するところは……。
「……よし! フォス、あんたの友達、素敵ね!」
アレキは首を大きく振ると、笑顔を作ってフォスたちのところまで歩いていった。
「いやー、本当に立派だわ! 強く、賢く、優しい! これまさに王の風格!」
「あ、アレキ?」
「これほど立派な王様は、この星の歴史上、いえきっと宇宙史にだってそうはいないわ!! なんたってきっと親兄弟が素晴らしかったに違いないわね!!
「アレキちゃん!?」
「なんでこんな、月人相手並のテンション?」
ゴジラを無茶苦茶に褒めちぎるアレキサンドライトに、ジェード以下宝石たちはちょっと引いてしまう。
だがクロは、感極まった様子で自らを見上げる青緑の宝石を、親愛の籠った目で見下ろしていた。あるいは、アレキの奥に見える誰かを。
「あなたに会えてよかった。あなたが生きていてくれて、本当に、本当によかった……!!」
自分もだ、とでも言うようにゴジラは一つ鳴いた。
今までの天地を揺るがすような猛々しい咆哮ではなく、どこか優しい響きがあった。
やがてクロは、ゆっくりと身を翻した。
「そうそう、僕、ちょっとクロと出かけてくるよ。何日か戻らないかも」
「はあ?」
なんてことないようなフォスの言葉に、モルガを始め宝石たちは目を丸くした。
今さっき、死闘から帰り着いたばかりではないか。聞きたいことが山ほどあるというのに。
ジェードらが止めようと手を伸ばすが、助け船を出したのはアレキだった。
「いいじゃない。フォス一人いなくても、なんとでもなるわ」
「……アレキ、ありがとう」
さっきとは打って変わっての静かな声に、フォスは短く礼を言った。
金剛先生が視線を向けると、シンシャは静かに頷いただけだった。それだけで、先生は察することができた。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる! 詳しい話はシンシャから聞いといて!」
「おい、フォス……!!」
言うや、誰が止めるよりも先にフォスは海に飛び込んだ。
「フォス!!」
慌てて崖下を見れば、海面に飛び出た背ビレが遠ざかっていく。そのすぐ傍に薄荷色の輝きが見えた。
「あーあ、行っちゃった……」
「なんかあいつ、我儘言うことに味締めてないか?」
「調子乗ってるトコはありそうですね。これは帰ってきたらお説教しないと」
ゴーシェが呆気に取られ、モルガやルチルが呆れていたが、アレキはずっとずっと、遠ざかっていく背ビレを眺めていた。
「あんたは行かなくてよかったの?」
いつの間にか横に立っていたシンシャに問えば、赤い宝石は薄く微笑んだ。笑おうと努力していることがわかる顔だった。
「……ああ、あいつらだけにしてやりたい」
「行くな行くなと騒いでた癖に、やけに素直じゃない」
「まあ、な」
寂しげに鳴くガルーダの頭を撫で、シンシャは毒液を揺らした。
ゴーストは祈るように手を胸の前で組み、金剛先生はただ険しい顔で深く目を瞑った。イエローやユークも、何か感じ取ったようだった。
「フォスの奴、あのままいなくなったりしないわよね?」
「……終わったら、迎えに行ってやるさ。何処へ行ったとしても、どれだけ時間がかかるとしても、必ず」
アレキの不安に答えたシンシャの目じりに、毒液が少しだけ滲んでいる。
それは古代生物の欠陥だと、金剛先生は言う。
だけど今のアレキは、何故だか『涙』なる物を流せるフォスやシンシャが羨ましくて仕方がなかったのだった……。
続きは近日中に。
珍しく、本当に近日中に更新できそうです。
以下、キャラ(?)紹介。
迎撃戦艦『征天』
正式名称:轟天級迎撃戦艦4番艦『征天』
所属 :地球防衛軍
全長 :150m
全高 :38m
重量 :1万t
動力 :零式重力炉
装甲 :超耐熱合金NT1SS、合成ブラックダイヤモンドコーティング
武装 :艦首クラッシャードリル(冷凍メーサー砲、ドリルスパイラルメーサー砲)
三連装プラズマメーサー砲×4
ホーミングレーザー砲×18
三連装対空メーサーバルカン×26
上部甲板プロトンミサイル発射管×12
リボルバー式スパイラルグレネードミサイル発射管×2
回転式カッター×3
フォトン・リアクティブ・フィールド(バリアー)
備考 :ナノメタル式自己修復システム搭載(現在不活性化状態)
現在、全兵装使用不能。飛行不能。
月人のテクノロジーの源とも言うべき、旧世界の遺物。
その正体は、流星破壊のために当時の地球統合機関『地球連邦機関』のもと建造された轟天級迎撃戦艦、その最後の生き残り。
いわゆる海底軍艦版やFW版初代轟天号に近い姿ながら、海中、空中、地中のみならず宇宙を航行可能。建造当時、半ば封印されていた対G兵器由来の技術が惜しみなくつぎ込まれた万能の戦艦。
潜水艦の如きシンプルな姿ながら、その内部には上記の通り多数の武装を搭載しており、見た目以上の超火力を誇る。
さらにナノメタルによる自己修復機能を備え、そのおかげで億年の月日が流れても原型を保っていられた。
作者の趣味の塊。
『実は轟天号じゃない』というのをここで明かすべきかちょっと迷ったけど、あんまり引っ張るのもということで。
地味に(この二次創作における)世界観の核心に迫る、ヤベー艦。