孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

36 / 40
『怪獣』の時代がやってくる

 誰かが言った。

 彼らは、生まれてくるのが遅すぎた、と。

 

 また別の誰かが言った。

 彼らは、生まれてくるのが早すぎた、と。

 彼らの時代がまたやってきても、おかしくはないのだと。

 

  *  *  *

 

「火山の噴火から、およそ一か月。例の土地の拡大も、ようやく落ち着いたようです」

「そのようだ」

 

 ジェードからの報告に金剛先生は深く頷いた。

 ゴジラの死と共に生まれた島は、みるみるうちに大きくなり、今や宝石たちの丘からも見えるほどだ。

 未だ煙を吐く火山を中心として連なる山々と、極めて広い平地。生き物のいない不毛の地……なのも今だけの話。数年もすれば虫や草木が繁殖していくだろう。

 不思議な事に、あの島が浮上したことによる宝石の国の気候への影響は、まったくと言っていいほど見られなかった。

 あの島の上空は晴れ渡っているのに、こちらは空がようやく雲に覆われたために、冬眠に入った者も多い。

 

「とはいえ、みな不安に思っている反面、あの場所に興味もあるようです」

 

 この場にいるのは、金剛先生とジェードにユークレース、それにルチルといった、いわば宝石の国の首脳陣だ。

 

「……大地」

「ダイチ、ですか?」

「大きな土地、と言う意味だ。……フォスの様子は? 今日も大地か?」

「……はい」

 

 フォスフォフィライトは、帰ってきてからというもの、あの島で過ごすことが多くなった。

 理由は分かっている。ゴジラ亡き今、月人が優先的に狙ってくるとすれば自分だと、そう考えて皆から距離を置いているのだろう。

 

「フォスと言えば、話は変わりますが……」

 

 なにやら考え込んでいた様子のルチルが、不意に発言した。

 

「ずっと考えていたんです。フォスは今まで何度となく欠損したのに、記憶の欠落がまるで見られない。不自然だと思いませんか?」

 

 宝石は欠ければ、その部分に宿っていたインクルージョンの分の記憶を失う。

 これは宝石にとって常識だ。だがフォスはアドミラビリスの一件で両脚、冬の戦いで両腕を失い、さらに全身放射の度に表面を吹き飛ばしている。

 それだけのインクルージョンを失えば、記憶も虫食いになって然るべきだ。

 

「それは……そうだが」

「そこで仮説を立ててみました。フォスとゴジラことクロは、ずっと遠く離れていても思念で会話していたそうですね。アドミラビリスの王や、ガルーダとも」

「ああ。にんげんはその力を、テレパシーと呼んでいた」

 

 金剛先生が応えると、ルチルは顎に手を当てる。

 

「フォスとクロ、さらにウェントリコススとガルーダ、彼等がテレパシーで結ばれているのは、同じ細胞を持っているから」

 

 薄荷色の宝石とゴジラは言うに及ばず、ウェントリコススはフォスを飲み込んだ時にインクルージョンを身内に取り込み、ガルーダはフォスの欠片から生まれた。

 

「ならば、フォスの欠片同士でも同じことが言えるのではないでしょうか? まして完全な同細胞同士、交信はほぼノータイムかつ無意識に行われていると思われます」

「ええっと?」

 

 ジェードは首を傾げているが、ユークはすぐにその意味を察したようだった。

 

「身体が欠けても、欠片同士で無意識に交信を取り合い、実質的に欠けていないのと同じ状態で活動できる、ということ?」

「な!? それではつまり……!」

「はい。この仮説が正しいなら、フォスは理屈の上では決して記憶を失わない、ということになります」

 

 それは……宝石として見るなら、革命的と言っていいことだ。

 だが、同時に辛いこと、悲しいことを忘れることもできない、ということだ。

 

「それが良いことなのかは、私にもわかりかねますが……」

「良いことかは分からないが」

 

 そう語ったのは柱に寄りかかっていたイエローだった。

 

あいつ(フォス)は決めたんだ。忘れないってな。なら俺はその決断を尊重したい」

「…………」

 

 金剛先生は、少しだけ眩しそうにそんなイエローを見ていた。

 

  *  *  *

 

 その日の夜分遅く。

 金剛先生が訪れたのは、件の大地だった。

 地面はすでに乾いており、荒涼とした風に時折土埃が舞っている。

 春ともなれば柔らかい風が青草を揺らす宝石の丘とは、まるで違う。ただ、星空だけは同じだった。

 

「…………」

 

 いくらか歩くと、どこからか風に乗って鼻歌が聞こえてきた。

 歌詞はなく、音程もどこかズレているが、不思議と心地よい響きだ。

 そう言えば宝石は音楽にあまり興味を寄せないな、と金剛先生は何と無しに思った。

 月人との戦いが常態化していて、生活に必要ない音楽というジャンルはまるで発展の余地がない。その上、自分は機械のサガか、その方面にはまるで向いていないのだ。

 歌のする方へと歩いていくと、大きな岩の上に薄荷色の輝きが見えた。

 フォスがそこに腰掛け、鼻歌を歌いながら持ち込んだ発光クラゲ入り桶の灯を頼りに紙に何か書いていた。

 岩のふもとでは、ガルーダが横になって眠っている。

 

「フォス」

「! 先生!」

 

 声をかけると、フォスはすぐさま立ち上がり、こちらに降りてきた。

 ガルーダがムニャムニャと目を開けるが、相手が先生だと分かるとまた寝息を立て始めた。

 

「どうしたんです、こんな時間にこんな所まで?」

「お前を探しにきた。そちらこそ、こんな所でなにをしているのだ?」

「やだなあ、決まってるじゃないですか」

 

 自分の持つバインダーを見せ、フォスは力強く笑ってみせた。

 紙に描かれた絵は、以前よりも随分と上達している。

 

「………博物誌、か?」

「はい! ここのところ、サボっちゃってましたから。ほら、見てください」

 

 描かれているのは、貝や海藻についてだ。

 よくよく見れば、岩の傍には貝殻や、珊瑚、海藻などが集められている。おそらく、大地が浮上した時に取り残された物だろう。

 

「このために、ここに?」

「はい。海の底の物を記録できるチャンスなんて、滅多にありませんし!」

 

 ニコニコと笑うフォスに、金剛先生は面食らう。

 てっきり、また自分を追い詰めているかと思ったのに。

 それに自分で言いつけた仕事ではあるが、あの頃と状況がまるで変わった。今のフォスなら、博物誌よりももっとやれることがあるのでは……。

 

「その、今更ではないか?」

「決めたんです。博物誌を完成させるって」

 

 だがフォスの目は、力強く輝いていた。

 

「それも国のことだけじゃなくて、クロのこと、クロからもらった記憶のこと、王様たちや、あの赤い怪獣のこと。全部を纏めるんです!」

「それはまた……志が高い」

 

 それはきっと、宝石の長い命を持ってしても終わりの見えないような、大仕事になるだろう。

 

「大変だろうってのは分かってるんですけどね。でもやりたいんです。クロやにんげんのことを、他の皆にも知ってもらうために。僕自身が、彼等のことをいつまでも忘れないために」

 

 結局、一周して元の仕事に戻ってきちゃいましたね、と苦笑しながらも迷いなく言い切るフォスに対し、正直なところ金剛先生は葛藤していた。

 自分は人間の業を、この清浄な世界に持ち込みたくないと、忘れてしまえばいいと考えていた。

 宝石に人間を模した姿と生活様式を与えておきながら、だ。

 

「それに……先生がくれた、仕事ですから」

 

 静かに、だがハッキリと言い切ったフォスに、今後こそ金剛先生は言葉を失った。

 

 ……ふと、思う。自分は、人が作った機械である金剛大慈悲晶地蔵菩薩は、人間に好かれる物質を常に散布している。

 それを止めることは自身にも敵わず、故に人間の末裔である宝石たちは、自分を守ろうとする。

 だがフォスのインクルージョンはゴジラ由来の物。人間に影響を受けていたとしても、微々たるもののはず。

 にもかかわらず、フォスはこうして自分を慕ってくれる……それは何故なのか。

 

「フォス、お前は……」

 

 その時、不意にガルーダが鎌首をもたげて甲高く鳴いた。

 フォスの表情も、見る間に鋭さを帯びていく。

 

「……呼んでる」

「フォス?」

「呼んでるんです。僕のことを! ……ガルーダ!」

 

 翼を広げたガルーダの背に跨ったフォスが、呆気にとられる金剛先生を見下ろした。

 

「すいません先生! ちょっと行ってきます!」

「待ちなさい……この際だ、私も行こう。お前とガルーダだけでは、心配だ」

 

  *  *  *

 

 空を飛ぶ、という行為は中々に刺激的だった。

 眼下には黒い大地、頭上には星空、そして頬を撫でる夜風。なるほど悪くない。

 だがフォスは、もちろんこの飛行を楽しんでいる様子はなかった。

 

「どこだ、どこにいるんだ……?」

「フォス、本当に聞こえたのか?」

「はい、微かにですけど……死にかけて、助けを求める声が、確かに!」

 

 フォスの声に同調するように、ガルーダも嘶いた。

 昼間に聞いたルチルの話が頭の中に蘇る。

 ゴジラとその細胞を持つ者同士は、テレパシーによって会話できる。ならばフォスを呼ぶ声というのも、ゴジラの末裔なのか。

 

「だめだ、どんどん弱っていく……!」

「落ち着くのだフォス」

「……前にも聞こえたんです」

 

 焦った様子のフォスを諫めようとするが、フォスは硬く拳を握り締めた。

 あの時、赤い怪物が現れた時、フォスは怪物に蹂躙される同族の声を聞いたのだという。その断末魔の恐怖と苦痛、そして絶望が。

 増して今はクロを失って時間が経っていない。フォスが焦ってしまうのも、やむなきことだった。

 

「だから……!!」

「だからこそ、いったん頭を冷やしなさい。勢いが必要な時もあるが、今回はそうではない。冷静さを失えば助けられる者も、助けられなくなるぞ」

「……ッ! はい」

 

 フォスは大きく息を吐き、目を瞑る。

 何をすべきか、何ができるか、考えているのだろう。

 

「先生、少し耳を塞いでいてください」

「何をするつもりだ?」

「少し、うるさくします」

 

 そして目を開けたフォスは大きく息を吸う。……そう言えば、宝石に呼吸器官はない。口内を震わせて声を発する彼等だが、フォスにまだその原則は当てはまるのだろうか?

 そんなことを考えていると、フォスの身体がメキメキと音を立てて大きくなっていく。黒みががった岩のような外皮に覆われ、四肢が太く長くなる。

 尻尾と背ビレが飛び出し、口元が裂けるように開く。その姿は、彼の亡き友を思わせた。

 

「フォ……」

 

 声をかけるよりも先に、フォスが大きく咆哮した。

 

 海が震えた。

 空が震えた。

 星が震えた。

 

 その声は正しく怪獣王ゴジラの、あの咆哮に他ならなかった。

 

「今のは……!」

「なに、なんなの!?」

「ゴジラの声だ!」

 

 学校にいた宝石たちは飛び起き、窓の外を見回した。

 彼等の中のインクルージョンが、そこに宿るにんげんの記憶が、その声を忘れるはずなどないのだ。

 

「姉上!」

「うむ、聞こえておった。……なに、心配はいらぬ。お前も分かっておろう」

 

 寝床にしている海底……例の島の浮上に巻き込まれることはなかった……でアドミラビリスの王と王弟は、その声を聞いた。

 母の腕に抱かれたアクアティリスは、キラキラとした目で水面を見上げていた。

 

「そんな……そんな……!」

「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な!!」

「…………」

 

 地上の様子をつぶさに観察していた月人たちは、突如響いた自分たちの天敵とも言える相手の声に、恐慌状態に陥っていた。

 ただ一人、顔に傷のある月人だけが再戦の予感に武者震いをしていた。

 

「……結局、こうなるんだね」

「予定調和と言えば、予定調和なんだろうな」

「だとしてもこれはフォスの意思よ。それだけは確か」

「かもな」

 

 二色の発光妖精を連れだったゴーストとカンゴームは、どこか寂し気に月を見上げていた。

 

「フォス……」

 

 月の光の下、毒液を揺らすシンシャは穏やかに微笑んでいた。

 

 声が天地に広がり、大気に融けていく……その間、フォスは意識を集中させるように目をつぶっていた。

 

「……応えた! ガルーダ!」

 

 そして目を見開くや、分身でもある銀翼竜に指示を飛ばす。

 一つ嘶いたガルーダは、その指示の通りに飛んだ。

 やがて見えてきたのは、奇妙な物体だった。

 

 ドリルなる機構を備えた、月人が持ち込んだ太古の船だ。

 

「轟天……! いや四番艦の征天か!!」

 

 金剛先生は、思わず声に出した。

 フォスたちからの報告を聞いた時、まさかとは思ったが間違いない。星を守るために造られた艦……まだ生き残りがいたとは。金剛先生と、あの艦の一番艦との間には、とある因縁があった。

 だが前に座るフォスが注目しているのは、艦橋の麓に蹲っている影だった。

 

「あそこだ!」

 

 最初それが見えた時、金剛先生は遠い昔に滅んだ亀やアルマジロという動物を思い出した。

 蹲っていても足が四本あるのが分かり、そして背中には甲羅がある。

 だが甲羅から尻尾にかけて無数の棘があり、手足の先には鋭い爪、鼻先には鋭い一本の角、そして後頭部にも何本もの前に向かって曲がった角がフリルのように並んでいる。まさしく棘の塊といった風情だ。

 フォスはガルーダから飛び降り、甲板に倒れ伏す棘の塊の傍に近寄った。そうすると、棘の動物はフォスの三倍はあることがわかった。

 

「フォス、その……彼の様子はどうだ?」

 

 金剛先生が甲板に着陸した銀翼竜から降りたとき、フォスはその動物の顔を撫でていた。

 動物の足には傷があり、体液が流れ出ている。目を深く閉じ、呼吸は不自然に荒い。

 

「あまり良くありません。弱っているみたいで……赤い怪獣にやられたのか……」

 

 それで合点がいった。この動物は、さっき話していたデストロイアに命を奪われたというフォスの同族……ガルーダの同類の生き残りに違いない。

 同類の顔にガルーダが顔を摺り寄せ、心配げに鳴く。

 

「それなら!」

 

 フォスが身体に力を入れると、背ビレが大きく発光する。

 

「今度こそ……今度こそ! 助ける!!」

 

 強い決意と共に、フォスの口から熱線が飛び出した。

 青白い光は棘だらけの眷属の身体に命中するも、その身体を破壊することなく柔らかく包み込んだ。

 すると眷属の傷が塞がり、呼吸が穏やかになっていく。

 

「……これで大丈夫」

 

 口から煙を吐いたフォスは、自身の眷属の横に座り込んだ。

 眷属はゆっくりと目を開けると、薄荷色の同族の顔をジッと見つめた。

 

「ごめん、仲間を助けることができなくて……せめて君が無事でよかった」

 

 穏やかに微笑んだフォスの顔を、棘だらけの眷属が舐めた。

 それだけで、眷属もまたフォスに出合えて喜んでいるのだと分かった。ガルーダもまた、新たな同族を歓迎するように一声鳴いた。

 一方で金剛先生は、その棘の眷属の目の色に、奇妙な既視感を憶えていた。その太陽の光のような金に近い濃い黄色は……。

 

「ヘリオドール、なのか?」

「……いえ、違います。記憶のほんの一部を受け継いでいるけれど、彼はヘリオじゃありません」

 

 フォスの言葉は、どこか当然のことを語っているかのようだった。

 自身の欠片と、シンシャの毒液、なりそこないの宝石から生まれたガルーダが、そのいずれでもないように、例えこの眷属の誕生にヘリオドールが関わっていたとしても、今ここにいる命は彼とは別個の存在だと、フォスは自然に悟っていた。

 

「…………」

「ただ同じ部分もあります。……彼は、先生のこと好きみたい」

 

 言葉を失う金剛先生に、棘の眷属は顔を摺り寄せる。

 どうしたものかと悩んでいた金剛先生だが、やがて観念したように頭を撫でた。

 

「そうだ、君の名前を決めないと。なにがいいかな?」

「ヘリオ、では……いや、彼には彼の名前をつけないとな」

 

 フォスが微笑み、金剛先生は苦笑交じりに首を横に振る。

 首を傾げた眷属は、アンギャーと低い声で鳴いた。

 

「おお、低さはあれどよく通る声。……そうだ、この子の名前、アンギャーと鳴くからアンギラスでどうでしょう?」

「………いや、それは」

 

 あんまりなネーミングに自分の宝石名をそのままつけるネーミングセンスはいったん棚に上げて止めようとするが、当の棘の眷属は嬉しそうにアンギャーと鳴いた。

 

「気に入ったみたいですね」

「いいのか、本当に?」

 

 呆気にとられる金剛先生だが、本人が良いというのなら何か言うのも野暮だろう。

 

「アンギラス……ありがとう、生きていてくれて」

 

 屈んで目線を合わせて語るフォスに、眷属改めアンギラスは頬を摺り寄せた。

 

「…………」

 

 その姿を見て、金剛先生は不意に笑みが込み上げてきた。

 なぜフォスが自分を慕ってくれるのか……聞くまでもなかったと、思わず苦笑してしまう。

 難しく考える必要はない。今までずっと、フォスは自分のこと大好きだからと、父親のように思っているからと、そう言ってくれていたではないか。

 罪深き我が身なれど、だったらせめて、父親らしく振る舞うとしよう。

 

「フォス、よくやった。偉かったぞ」

「先生?」

「だが博物誌の完成は、こう上手くはいかないだろう。計り知れない苦難の道となるはずだ。……それでも、自分の意思でそれに挑むと言うのなら、もう何も言うまい。この大事を見事成し遂げてみせよ」

「……! はい!」

 

 本来、機械としての金剛大慈悲晶地蔵菩薩は自身に与えられた機能ではない『宝石の指導者』として振る舞うことに、多大な負担がある。

 だがしかし、今はその負担が、少しだけ心地よかった。

 

  *  *  *

 

――今の声を聞いた?

――聞いた聞いた!

 

 雪の下で、草木が囁いた。

 

――王様が現れた! 王様が現れたぞ!

――王様はどんな方? 翅はどんな色かしら?

 

 カマキリを始めとする眠る虫たちが、土の中で騒ぎだした。

 

――僕知ってるよ! 王様はね、黒い神様に愛された、薄荷色の綺麗で優しい方なんだ!

――それにその傍には、これまた綺麗な赤い花が咲いているんだよ!

 

 そうはしゃぐのは、クラゲのうちの一匹……宝石のダイヤモンドと仲が良く、フォスがよく連れている個体だった。

 

――素敵だな、素敵だな。薄荷色の王様の世が来たぞ!

――万歳、万歳! 薄荷色の王様、万歳!

 

 氷の下で、魚たちが歌い舞う。

 

――いつか、僕たちはこの鋏を王様のために振るうぞ!

――僕たちも、いつか王様と一緒に戦うぞ!

 

 海の底で、蟹や海老が鋏を掲げ、イカが触手を揺らす。

 

――否! 黒い神の亡き今、次なる王は、我らぞ!

――いずれは陸に上がり、薄荷色の若造を討ってくれる!

 

 顔に髑髏を被ったような外骨格を持った、後ろ足がない爬虫類は、波打ち際で野心に燃えた。

 

――そうとも。王になるんだ。

――今は無理でも、いつかもっと大きく強くなって……王に挑むんだ!

 

 角のある一匹の甲虫は、新たな大地で世代を跨いだ闘志を抱いた。

 

――ああ、なんだか騒がしくなってきたね。

――……でもこの喧噪は、にぎやかで嫌じゃないな。

 

 そして大地の底で、まだ一万と百年ばかり出番の早い岩石生命体は、静かにいつか来る出会いを待っていた。

 

 海に、空に、陸に。

 この星に息づく生命は、その在り方を少しずつ変えようとしていた。

 いつか、王のもとに馳せ参ずるために。

 いつか、王に戦いを挑むために。

 いつか、王と語らい合うために。

 

 ……遠い昔、誰かが言った。

 彼らは、生まれてくるのが早すぎた、と。

 いつか彼らの時代が来てもおかしくはないのだと……。

 

 そして今、その言葉は真実になろうとしている。

 彼らの……『怪獣』の時代が、始まろうとしていた。

 




原作最新話、ネタバレ感想。
作中での人間の言われっぷりよ……皮肉もその人間への嫌悪というか失意というかは、原作ゴジラに通ずる……ような気がします。
さあて……金剛兄機、どうしよう。

次回は、月人側の話になる予定。


以下、キャラ紹介

アンギラス
体長:6m
体高:2.5m
体重:500㎏
異名:暴竜(予定)

月人によってフォスの欠片から生み出されたセルヴァム、その最後の一匹。
四足歩行の亀かアルマジロのような姿をしており、背中にはビッシリと棘の生えた甲羅、四肢には爪、鼻先には角、後頭部にも角と、全身棘だらけの姿が特徴。目は太陽光を思わせる濃い黄色。
見た目によらず、性格は温厚で大人しい。
かつて月にさらわれた宝石、ヘリオドールの欠片を媒体として生まれてきたが、彼が復活したワケではなく、あくまで記憶のごく一部を継いでいるだけで別個の存在。

セルヴァム共通の特徴である背ビレは、甲羅の棘に紛れて目立たない。
色んな意味で、やっと出せた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。