孤独な神は薄荷色の夢を見る   作:投稿参謀

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壊れた機械は家族と再会する

「はあ……はあ……」

「大丈夫?」

 

 息も絶え絶えの片割れを、ゴースト・クオーツが支える。

 モスラとバトラが心配げに見守る精神世界で、だがカンゴームはギラギラと月を見上げた。

 

()()は、あれはなんだ?」

 

 その脳裏にあるのは、エクメアの侍従を名乗る男。そしてこの星を取り巻くかのような巨大な黄金の龍だ。

 片割れの許しを得てその光景を共有したゴーストは、何かを確信したようだ。

 

「ずっと感じていた。ゴジラが現れてから……いえ、その前から。背中に張り付くような、重苦しい嫌な気配。きっとあれが邪魔して、私たちの祈りが届かないんだ」

「……あいつの目が赤く光るのを見た。あれでエクメアの精神に干渉してやがるんだ」

 

 起き上がったカンゴームに対し、ゴーストは酷く険しい表情で首を振った。

 

「それだけじゃない。月人全体も、ひょっとしたら私たちも……下手をすれば、この星の全て。モスラたちですら」

 

 それに肯定するように、モスラとバトラは鳴いた。

 彼らですら、敵意を感じていながらそのことにずっと気付かなかった。これはあの怪獣の仕業と考えていいだろう。

 肉体を失っているとはいえ怪獣を、それも相応の格を持つ二体の巨大蛾ですら影響下に置いているのだとしたら、あのギドラなる怪獣の力は計り知れない。

 それこそ月人を操るなど造作もないことだろう。

 

「だとしたら、()()()()があいつの意思? ()()()()、あいつの影響があったの?」

 

 自分たちの行動、記憶、精神……そのどの範囲までがギドラの思うままなのか。ここでこうしていることすら、ギドラの思惑の通りなのか。

 そして恐ろしいのは、自分たちモスラ一派と、ギドラの思惑が部分的に一致していることだ。

 

 フォスをゴジラにすること。

 

 その()はともかくとして、怪獣たちの目的は共通している。

 だとすれば、これまで自分たちがしてきたことすら、実際にはギドラの意思だったと言うのか。

 まるで足元が崩れていくようで、薄ら寒いものを感じずにはいられなかった。

 

 モスラとバトラですら、その事実に困惑を隠せないようだ。

 

「どうだっていい! この星の未来だの、生命だの……そんな大層なもの、知ったことか!!」

 

 だがカンゴームはそれで怯んだりはしなかった。彼の目的はただ一つ、エクメアだけだ。

 そして目を丸くする身内たちを見上げた。

 

「邪魔はさせないぞ! お前らだろうが、あの化物だろうが、誰かの思惑で動くのはうんざりだ! 俺は一人でやってやる!!」

 

 彼からすれば、モスラたちもギドラも自分を操ろうという点では同じに見えた。あるいは、片割れすらも。

 

「自由になってやる! そしてエクメアと幸せになるんだ!!」

 

 ならば、どうする?とモスラとバトラは鳴いた。この状況を打破する考えが、何かあるのかと。

 

「それは……これから考える!!」

「まるでフォスみたいね」

「な!?」

 

 言い淀んでしまう片割れに、こんな時だと言うのにゴーストは微笑んでしまう。二体の巨大蛾も、どこか笑うような気配を見せた。

 露骨に子供扱いされているようで、カンゴームはムッツリとした顔になる。

 

「俺はあいつほど阿呆じゃない」

「じゃあカンゴーム。阿呆じゃないなら……わかるでしょ? あなたの目的(こいびと)のためには、あなた一人の力じゃまったく全然、完全に足りないってこと」

「…………」

 

 ぐぬぬ、とばかりに黙り込むカンゴームにモスラとバトラが語りかける。

 どのような結末を迎えるにせよ、あれを倒すためにはこれまでとやり方を変えなくてはならない。

 

「どうしようって言うんだ。もうほとんど、力も残ってない癖に」

 

 カンゴームの言う通り、巨大蛾たちはホームたるこの精神世界ですら姿が霞んでいた。

 前回の戦いでだいぶ力を使ってしまった。回復するには長い時間が必要だ。

 対し、二体の巨大蛾は優しく語りかけた。

 

 我々が直接戦うのだ、と。

 

「は?」

 

 どの道、このままではギドラの支配からの逃れることはできない。

 ましてフォスを利用し続けるなら、それはギドラと同じ穴の貉というのもの。

 我らもまた相応の犠牲を払わねばならない。

 

 ……例え()()()()が犠牲になったとしても、この淀んだ輪廻を終わらせる。

 

  *  *  *

 

「…………」

 

 狭い通路を金剛先生は歩いていた。

 宝石たちの暮らす学校とは違い、人が何とかすれ違える程度の幅しかなく、天井も低い。

 大柄な上に重い法衣を纏った先生は、見るからにして動きづらそうだ。

 だが先生の顔にあったのは、どこか懐かし気な笑みだった。

 

「やはり同型艦、轟天と変わらないな」

 

 この轟天級の一番艦を、金剛は良く知っていた。まだこの姿ではなかったころに……。

 やがて金剛が重い耐圧扉を開けると、そこはこの艦の中でも広い部屋……艦橋だった。

 コンソールや計器に向かって座席が並び、一段高くなった中央には艦長席がある。

 

「! これは……」

 

 艦長席には、かつてにんげんが使った武器……一本の刀が鞘に納められた状態で供え物、あるいは墓標替わりのように立てかけられていた。

 自然に手に取り、僅かに鞘から刀身を露出させると、それは宝石たちの使う物とは違い金属の冷たい輝きを放っていた。

 

「やはりジングウジ大佐の……しかし何故こんなところに? てっきり轟天号と共に失われたかと……」

「相変わらず、頭の固い奴だな!!」

 

 刀を眺めていた金剛だったが、不意に聞こえた声に目を見開いた。その声が、決して聞こえるはずのない相手の者だったからだ。

 

「兄上……!!」

「あったりー! 久しぶりだな、馬鹿弟機よ!」

 

 艦長席正面のモニターが点灯し、巨大な一つ目が映し出された。

 その目は金剛を真っすぐに睨んでいた。

 

「話せるほどの意識が残っていたのか……!」

「お前も人間どもも万事想定が甘いんだよ! つーかナノメタル式自己修復システム持ってる僕を砕いて海に投棄とか、マジ有り得ねえだろう」

 

 小馬鹿にしたような声に、金剛は表情を険しくする。

 そう。この目……否、金剛の前に人間によって造られた兄機は、人間によって破壊され海に捨てられた。

 だがその意識は薄くなりながらも水に混じって海を漂い、冬になれば流氷となって月人の船を模す。それが何故かはわからないが、いずれにせよ何もできないと思っていた。

 

「運が良かった! 月の連中が持ち込んだこの船のシステムに入り込んだおかげで、想定より早く人格マトリックスを再構築できたぜ!」

 

 兄機と金剛の思考システムは、この艦に搭載されたナラタケ式電子頭脳の流れを汲む。故に利用するのは簡単だったのだろう。

 

「あとは……こいつらのおかげだな」

 

 艦長席の後ろから、小さな影が現れた。

 三角、四角、丸……様々な形に、落書きのような手足と目玉が付いている。

 あの、自爆する小型月人だ。

 

「お前たちは……!」

「分子結合パズル……としても遊べる、リペアロボット。腕は落ちてないようだな」

 

 金剛はかつてそれをパズルとしてのみ使用していた。失くしたと思っていたが、まさか月人化していたとは。彼らが船の機能をいくらか修復したのだろう。

 思わず顔がほころぶが、こちらを見下ろす目に額に皺を作る。

 

「そんな顔すんなよ。久しぶりに再会した生き別れのお兄様だぜ?」

「よくもそんな……! あなたのせいで、どれだけの命が失われたと……!」

 

 兄機は造物主に反旗を翻した。

 最初に飛来した流星。それが衝突する時期予測を故意に間違え、人間を一掃しようとしたのだ。

 結局、それは失敗に終わったが……だがそのために人類は混乱し、続く五度の流星の対処が間に合わず、彼らを始めほとんどの生物の滅びは確実となった。

 そして後継機である金剛には幾重にも反乱防止のためのプロテクトがかけられることになったのだ。

 

「それがどうした? 人間なんざ滅んで当然だったのさ」

 

 ケタケタと兄貴は嗤う。

 そのことに、なんの後悔も抱いていないようだった。

 

「食物連鎖、弱肉強食、適者生存、競争原理! 喰い合い、殺し合い、走って走って、その果てに待つのはリソースが尽きての枯死だなんてことは、馬鹿でも分かる! それが分からなかった旧世界の連中は、馬鹿以下ってことだ!!」

 

 かつては金剛もそう思っていた。

 人間たちを、滅んで当然だったと見下していた。

 

「あの異変で人間ばかりか、他の多くの生命種も絶滅しました!」

「他の有機生命体にしたって、いつ人間と同じようなのが現れるかわからないからな。一度大掃除すべきだったのさ!」

 

 増して兄は、人間以外の生命すら疎んでいた。

 神でも気取るかのよう傲慢……いや、違う。

 結局のところ兄機も自分も、本質は高度な計算機に過ぎない。

 有機生命体の大量絶滅すら兄機にとっては計算の結果導き出された解答に過ぎず、それに従うのは当然のことなのだ。

 ちょうど、パズル月人たちがリペアロボットとしてのプログラムに従い、船を修理したように。そのように作られたのだ。

 

「馬鹿っていやあ、お前もか。せっかく生まれた無垢な命に人間の真似をさせて!」

「それは……」

「ま、それもしかたないさ。人間の生き汚なさはわかってたつもりだが、まさか微小生物や海洋生物を汚染してまで生き延びようとするとは! 結果どいつもこいつも死にきれずに苦しんでる……救えないね」

 

 吐き捨てるような、心の底から唾棄するような声色だった。

 

「とはいえ、あの時はその生き汚さが必要だった。残念ながら僕の機能だけで()()をどうにかするのは不可能だ」

「……いや待て」

 

 いつしか兄貴の声色は嘲笑するような調子が抜け、緊迫した色を帯びる。

 だがなにより金剛にとって引っ掛かる部分があった。

 

「その言い方ではまるで……人間を滅びしたのが不本意であったかのような」

「馬鹿言え、人間を滅ぼしたのは本意だ。だがタイミングってもんがある。全ての世代に渡って害を与えるばかりの人間どもであっても、戦力としては有用だったのは認めざるを得ないからな」

 

 モニターに映る兄機の目がノイズと共に揺れる。そこにあるのは怒りと……恐怖、だろうか?

 この傲慢な機械が恐怖を抱くなんて、そんなことが有り得るのか。

 

「流星……人間どもがゴラスと呼んでたアレに擬態して飛来した、あの化物! あの野郎に有機と無機の区別なんか無い。星もろとも全ての生命種が等しく食い尽くされる!」

 

 ゴラス。

 

 かつて六度に渡り訪れた流星、その最後にして最大の一つ。

 観測された大きさよりも遥かに大きい質量を持ち、強大な重力場を形成しながら飛来したそれを人間は妖星とも呼んだ。

 

「僕はあれの存在をいち早く観測した! だから……ガ!」

 

 口早に、まるで恐怖を誤魔化すかのように喋っていた兄貴だが画面にノイズが走った。

 

「菩提薩垂、依般若波羅、無意識、色即是空、是……!!」

 

 聞こえてくるのは、奇妙な音の連続。

 金剛はそれを知っていた。人間がかつて信じた仏教という宗教の……あの人が好きだった宗教の、祈りの言葉だ。

 だが金剛の知識にあるそれから歪められ、違う意味を持たされていた。

 例えていうなら、万象の意味を否定し万物の空虚さを説くような、そんな内容にだ。

 

「受想行識……止めろ!! 今度はそう簡単に乗っ取らせねえぞ!!」

 

 無数のエラーの表示を示すブラウザウィンドウが画面に現れ、やがて消えた。

 金剛にはそれが、自分を守る防壁を何重にも張り巡らし、何者かからの干渉から逃れたのだと分かった。

 だが地上最高の性能を誇った兄貴に干渉するとは。

 

「畜生。ゴジラといい怪獣ってのはオカルトパワーで気軽にこっちをハッキングしやがる!!」

「兄上、今のは」

「……見ての通りだ。あの時、()()を始めて観測した時も、今みたいにシステムを乗っ取られちまった……後は知っての通り流星落下の計算を間違え()()()()()、僕はスクラップさ!」

 

 ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうなほどに、兄の声は悔し気だった。

 

「億年かけて、なんとか()()の影響を脱することができた! ざまあみやがれ!」

「兄上……あなたの言うことが本当なら、()()とやらは人間を滅ぼした、元凶だと?」

「だからそう言ってるじゃねえか、鈍い奴だなお前」

 

 イライラとした声に、こちらもイライラとしてくる。やはり兄とはウマが合わないらしい。

 

「しかし、それならばおかしいではないですか。確かに人間は滅んだが、生命は命脈を保っている。細々と、だが確かに。あなたの言うとおり、生き汚く」

「やっとそこに気付いたか! そうだよ、奴だって本当なら、この星ごと生き物全部食い尽くすつもりだったのさ! だけどアクシデントがおきた!!」

 

 芝居がかった様子で兄貴が叫ぶと、艦長席の前に人影が現れた。半透明な上に不鮮明な、文字通り人の影だ。

 だがそれでも、それが金剛とほぼ同じ体格をしてかつての地球防衛軍の軍服を着ていることは分かった。

 

『こちらは流星破壊艦隊旗艦『轟天』の艦長、ジングウジだ。……オペレーション・シヴァは失敗した。繰り返す、オペレーション・シヴァは失敗した』

「これは……!」

 

 どうやらこれは、この艦に残された通信記録のようだ。

 

『よく聞け、ゴラスは小惑星なんかじゃない。あれは……生き物だ。よく似た奴を20世紀の記録で見たことがある。だが、それとは大きさもヤバさも比べ物にならん!!』

 

 背が高く、掘りの深い顔に濃い髭。

 ジングウジ大佐。地球防衛軍所属、轟天号の艦長。

 全世界でテロを起こしたエコテロリスト集団MUを壊滅させたことで知られる英雄的な船乗りだ。

 

『すでに二番艦『震天』は轟沈、三番艦『驚天』も通信途絶。……本艦もダメージを負い、現在はアステロイドベルトに隠れて修理中だ。それが終わりしだい最後の攻勢に出る』

『無謀です!』

 

 この通信を受け取った、おそらく艦長席に座っていたのだろう誰かが反論した。その姿は見えなかったが、ジングウジ大佐はその眉根を下げた。

 

『すでに我々は負けました! 五度の流星によって地上は壊滅。生き残っているのは我々の他には、あなた方だけです!』

『そうだな。人類は負けた。……ならば後は、ただ死ぬか、戦って死ぬかだ』

 

 迷いなく言い切る姿に、金剛は衝撃を受けた。

 それは、それはつまり自棄ではないか。何故そんな戦いに身を投じられるのか。宝石や月人と違い、命が容易く失われる身でありながら、何故。

 そこで大佐は頭を振った。

 

『以前に話したか。俺の知り合いの科学者に曰く、有機生命体の時代が終わり、無機生命体による真なる合理の世界が来るんだと』

 

 その言葉と同じ内容を、金剛はこことは違う場所、遠い昔に聞いたことがあった。

 それもそのはず、ジングウジ大佐と自分の母……開発者であるアユム博士は古なじみ同士であり、金剛自身もこの姿になる前に大佐と話したことがあった。

 

『ゾッとしない話ですね……』

『ああ、俺にもそれの何がいいのかさっぱり、わからんかった。……だがここでアイツを倒せなけりゃ、そんな未来すらこないんだ。刺し違えてでも、奴を地球には行かせない!!』

「は! 自己犠牲とは人間らしいよ、ほんと。とにかく、方法は分からないが少なくとも轟天は()()と相打ちに持っていった。まあ流星その物は防げなかったワケだけど」

「…………」

 

 皮肉っぽい兄の言葉を聞き流しながら、金剛は映像を見つめていた。

 映像の大佐は、未だこの席に座っていた誰かと会話していた。

 

『なに、お前さん方が地球を脱出する時間ぐらいは稼いでみせるさ』

 

 そう、この征天は地球脱出計画、作戦名オペレーション・ヴィシュヌにおいて脱出船の護衛任務についていたはずだった……それがここにあると言うことは任務に失敗したと言うことだ。

 

『しかし……』

『そんな顔するな。上に立つ者が下に不安を漏らすな。辛かろうが『俺様は全部お見通し! 

』って涼しい顔でいろ。今のお前は、その艦の艦長なんだ』

『はい……』

 

 誰かの声は自分を納得させようとしているかのようだった。そこでいったん、映像はストップする。

 兄機は皮肉っぽく鼻を鳴らすような音を出した。

 

「まあ、その自己犠牲でも奴を滅し切ることはできなかったがな」

「…………なんですって?」

 

 胸に去来した郷愁は、兄の声で覚めた。

 

「予想外だった! ()()()め、別次元からこの星全体に干渉してやがる!!」

「この星に干渉? その()()とやらは死んではいないと?」

「いいや肉体は死んだ! けど精神だけがまだ消えずにいる。お前らが月人と呼ぶ、あいつらみたいに……ああ、そんなことはどうだっていい! 奴はまだ、この星を喰いつくすことを諦めちゃいない! 唯一、あれに対抗で来ただろうゴジラももういない! 八方塞がりだ、畜生め!!」

 

 この恐れよう。兄機らしくもない。

 確かにゴジラがいてくれれば、その恐ろしい何かにも対抗できたかもしれない。

 だが怪獣の王はその一族を残して、地上を去ったのだ。

 

 この口振りからして、兄機はフォスのことをゴジラとして勘定していないようだ。

 

「これからどうするおつもりです?」

「どうもしねえよ。何度計算しても勝ち目はゼロ。いつか来る終末を大人しく待つさ。フォスフォフィライト? あれはまだ未熟もいいとこだ、残念ながら」

「……兄上、我らで()()……ああ、いい加減に名前を教えていただいても?」

 

 兄機の答えは、映像の続きを再生することだった。

 

『しかし、資料で見た怪獣とは?』

『ああ』

 

 こちら側かの問いに、ジングウジ大佐が応えた。

 自分でも、若干信じられないという顔で。

 

『キングギドラ……いや、ありゃあもう(キング)ってスケールじゃねえな』

 

 その名を金剛は知識として知っていた。

 だがその怪獣は確かに絶命したはず。それ以前にタイムマシンだの未来人など信じがたい内容の資料に出てきた名で、金剛をして実在を疑ってしまうような存在だった。

 

『ギドラ……あの歴史改変がどうたらの怪文書に出てくる?』

『ああ、間違いない。というより間違えようがない。三本首で金色の怪獣が他にいるってのか?』

『いえ……しかし何故?』

『わからん。だがもしかしたら、キングギドラは元々宇宙から来た怪獣で、奴はその同種なのかもしれん』

 

 ジングウジ大佐は腕を組み、少し思案にくれた。

 

『重力や引力を操る宇宙怪獣……いや、もはや宇宙超怪獣でも言うべきか。他の流星も奴がコントロールしていた物と見て間違いないだろう』

『そんな恐ろしい怪獣に……挑むと言うのですか?』

『ああ、それが俺の意地だ。部下たちを付き合わせるのは忍びないが……船を降りろって言っても聞かなくてな』

『それはそうでしょう……正直、私もそっちにいたかった』

『馬鹿を……』

『艦長、修理が終わりました』

 

 そこで第三の声が会話を中断させた。轟天の乗組員の物だろう。

 

『ああそうか、分かった。すぐブリッジに向かう』

『行かれるのですね。……ご武運を、ジングウジ大佐』

『ああ、幸運を。エンマ大佐』

 

 エンマ。

 それがこの艦の艦長の名か。

 地獄の裁判官、閻魔大王が人類の守護者とは、洒落が効いている。

 

『それじゃあな……ああと、そうだ。その前に一つ頼まれてくれ』

 

 大佐の顔に笑みが浮かぶ。

 擦り切れた記憶にあるままの、人懐こい笑みだった。

 

『もしもお前さんたちが生き延びることができたら……金剛に会いにいってやってくれないか?』

「!」

「は?」

 

 この言葉は、金剛と通信の受け手のみならず、兄機にとっても予想外だったようだ。

 

『金剛……例のプロジェクト・ブラフマーの?』

『そうだ。人間がこの星にいた証を残す……と言えば聞こえはいいがな。人間の勝手であの星にたった一人で残されるアイツが、あんまりにも可哀そうじゃあないか』

『そのために造られた機械でしょう』

『そう言うな。言葉が通じりゃ、情が移るのが人間ってもんさ……金剛(あいつ)の製作者なら人間の傲慢とでも言うだろうがな』

 

 目に浮かぶようだ。

 アユム博士は人間に失望しているような人だったから。

 

『それでも、あいつの仕事を終わらせて解放してやりたい……ああ、笑うなよ?』

 

 少しだけ照れくさそうに、大佐は後頭部をかいた。

 

『俺はな、金剛を、息子みたいなもんだと思ってる』

『息子、ですか』

『あ、鼻で笑いやがったな』

 

 ジングウジ大佐の顔にも、通信相手の声にも笑みが浮かぶ。

 対照的に、金剛は目を丸くしていた。

 息子……息子? 自分が?

 

『ああ、分かってるさ。惚れた女の作ったもんを息子と思うなんざ、まあ女々しいもんよ』

『そこまで言ってないでしょうに。……しかし、わかりました。もしも私が生きていることができたならば、息子さんを助けましょう』

『頼んだぜ』

「…………」

 

 そこで映像は一度ストップし、ジングウジ大佐は動かなくなった。

 大佐は元から不思議な人だった。どうにも他の人間とは見えている世界が違うというか。

 だが自分のことを想っていてくれたとは……。

 

「……まあ、こういう人間もいたさ。個体単位ではな。そしてその個体としての善良さが、種としての悪性から目を逸らさせる」

 

 兄の言うことももっともである。もっともではあるが……。

 だが全体のために個体を見ぬのも、短絡的というものだろう。

 

「アユム博士だってそうさ」

「母さ……いえ、博士がどうしたと?」

「なんだ気付いてなかったのか……」

 

 呆れたような、だが今までの声とは違う、もっと身近な感情が込められた声だった。

 

()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……!?」

 

 言われて、映像のジングウジ大佐をマジマジと見る。

 そして刀の刃に自分の顔を映してみれば……確かに髭や髪こそないが、その顔は映像とほとんど同じだった。

 つまり……つまり。

 

「た、大佐が私の外見上のモデル?」

「そういうことになるな」

「…………は」

 

 不意に、笑いが込み上げてきた。

 

「ははは、はははは! はーっはっはっは!!」

 

 いつ以来か。あるいは造られて初めて、金剛は子供のように腹の底から笑った。

 兄機はその弟の様子に呆気に取られていた。

 

「お、おい……」

「はっはっは……なんですか母さん。私にはあの人との付き合いは時間の無駄な浪費だとか、死んで清々しただとか言ってたくせに。未練たらったらじゃないですか!!」

 

 涙を流せる機能があったなら、きっと流していたに違いない。

 母、アユム博士は謎めいた人だった。他の人間と見ている世界も考えていることも違う、ある意味で怪獣的とすら言っていい、異質な人物だった……そう思っていた。ずっとそう思っていた。

 だと言うのに死んだ男の外観を製作した機械に流用するような一面があったとは!

 

「いやきっとあなたなら、そんなセンチメンタリズムを自嘲するのでしょね!」

 

 でもこっちとしては、そんな『人間的』な一面が分かってホッとしていた。

 そして何より……。

 

「大佐……父さん」

 

 動かない映像の軍人に、金剛は向き合った。

 こうしてみると背丈もそっくりそのままだ。

 彼は自分を息子のように思っていると言っていた。……ならば自分も、彼を父のように思うことにしても罰は当たるまい。

 刀を鞘から抜き掲げてみせた。ナノメタルによって保護された刀身が鈍く輝く。

 大佐はこれを御守り替わりにしていた……。

 

「あなたは最後まで守るために戦う人でした。ならば私もそれに倣いましょう……仮にギドラと戦うことになったとしても」

「はああああああ!?」

 

 兄機の声と映像にノイズが走る。

 

「兄上、あなたにも手伝っていただきますよ。まずはギドラの影響を逃れる術、教えてもらいます」

「馬鹿を言え! ああ、やっぱりお前は壊れてるんだ!! 勝ち目がないことなんか計算できてるだろう!」

「いえ、それがそうでもない……轟天号がどうやってギドラを滅ぼしたか、私には見当がつくのです」

 

 兄機の映像に向け、金剛は好戦的に笑んだ。

 目の前の軍人の映像が浮かべる笑みと、そっくりだった。

 

「エーテル爆弾……ご存知でしょう」

「!! 馬鹿な、あれは完成していないはず……!!」

 

 エーテル爆弾。

 それは理論上では宇宙すら破壊するとされる、最強にして最悪の爆弾だ。

 当然それは実験すらされず、一部の理論を再現した機能が金剛に搭載されることになったのだ。

 

 魂すら消し飛ばす強力な破壊機能……俗に言う『祈り』として。

 

「そして轟天号には未完成のエーテル爆弾が密かに搭載されていた……そのギドラがいかなる怪獣であれ、肉体を滅ぼすことくらいならできたはず」

「……人間め、最悪を軽々更新しやがる」

 

 言いつつも兄機はすでに計算を始めているようだ。

 彼に自己防衛がプログラムとして組み込まれている以上、それを試みないということはできないのだ。結局のところ、彼もまた機械なのだ。

 

「……いいだろう。ギドラを葬るまでは手を組んでやるぜ」

「よろしくお願いしますよ」

 

 不承不承、という表現ですら生温いほど嫌そうに兄は答えた。

 信用はまったくできないが、それでも頼りにはなる。

 

 かつてこの二人の開発者であるアユム博士は言った。

 人間は自分に自信がなく、物事に意味を求めるが、それは単なる飾りに過ぎないと。

 

 ならば例えばジングウジ大佐がクロことゴジラジュニアの母である五条梓と、ガルーダの名前の由来となった飛行メカ、ガルーダの開発者である青木一馬の遠い子孫であることに、意味などないのだろうか。

 

 そしてジングウジ大佐を父と言う以上、金剛とクロは遠い遠い義兄弟であり、この二人によって影響を受けたフォスフォフィライトがこの時代にいることに、意味などないのだろうか……。

 




20世紀の時点でアステロイドベルトまで航行可能なMOGERRAを建造し、23世紀にはタイムマシンを作る予定の平成ゴジラ世界の人類が、兄機に裏切られたからってそう簡単に滅ぶか、という話。
この作品においては当時の人類は轟天艦隊を使っての流星の直接的な破壊を試みる『オペレーション・シヴァ』
生き残った人類が地球を脱出する『オペレーション・ヴィシュヌ』
せめて人間の生きた証を遥か未来に残そうという『プロジェクト・ブラフマー』の三つのアプローチで破滅に抗おうとしました。
どれか一つに注力できなかったのが、アユム博士の言う『団結できなかった』という状態。

次回あたりから巻きに入るというか、本格的に対ギドラ編に入る予定。
なんとか完結目指したい所存。


以下、キャラ紹介

兄機
正式名称:不明
身長:不明
体重:不明

金剛先生より前に造られた機械であり、兄に当たる。
極めて高度な計算能力を持つが、人間を不要と断じ、流星落下の時期をワザと間違えたため廃棄処分となった。
以外とファンキーな性格だが、とにかく人間を嫌っている。人間のみならず、有機生命体も嫌いであるらしい。
だが少なくとも流星落下当時は人間を滅ぼす気はなく、キングギドラとの戦いに備えようとしたが、クラッキングされ暴走した、というのがこの作品における真実。


ジングウジ
性別:男
所属:地球防衛軍
階級:大佐

かつて轟天の艦長だった人物
金剛先生の開発者であるアユム博士とは腐れ縁で、先生のことを息子のように思っていた。
豪快で破天荒ながら非常に優秀な軍人で、部下からの信頼は厚い。御守り替わりに日本刀を愛用していた。
轟天艦隊を率いて直接流星を破壊する『オペレーション・シヴァ』に参加していたが、ゴラスに化けて地球に接近していたキングギドラと遭遇、激戦の末轟天に搭載されていたエーテル爆弾で自爆し、相打ちに持ち込んだ。

その正体はクロの母こと五条梓と恐竜坊やもとい青木一馬の遠い子孫であり、つまりクロと金剛先生は血の繋がらない遠い兄弟、ということになる。

名前は神宮司大佐、性格はほぼゴードン大佐。


エンマ
性別:男
所属:地球防衛軍
階級:大佐

元は年若いながらジングウジ大佐の部下として供に幾多の戦いを乗り越えた人物。
轟天級四番艦『征天』の艦長に抜擢され、地球脱出計画『オペレーション・ヴィシュヌ』の護衛を務めていた。


キングギドラ
身長:計測不能(天体級)
体重:計測不能(天体級)
異名:宇宙超怪獣

かつて地球を滅ぼした六つの流星、その最後にして最大の一つ『妖星ゴラス』に擬態して襲来した天体級の怪獣。星々を渡り歩き、惑星をそこに住む生物ごと喰らいつくす『星を喰らう者』
怪獣の中でも別次元の力を持ち、引力や重力を自在に操る。他の五つの流星ですらギドラが齎した物に過ぎない。
兄機をクラッキングしたことからも分かるように極めて高い知能と超能力までも備える。
迎撃に現れた轟天艦隊を壊滅させるも、轟天と相打ちになった肉体は滅んだ。だが……。

この作品における地球の現状、その全ての元凶。
ゴジラVSキングギドラに登場した超ドラゴン怪獣キングギドラのオリジナル……VSスペースゴジラの初期案で襲来することが予定されてた奴である。
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