からくさ   作:エタリオウ

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 新作なので初投稿です。


Scarlet Mist
アルマゲドン


 眼前に広がるは、血のような紅色をした洋館。

 紅に紅を塗りたくったかのような、目が痛くなる外見をしていて、悪魔でも住んでいるんじゃないかと疑うほどに禍々しい空気を放っている。

 

 そんなおぞましい雰囲気に猛烈に入りたくなくなるが、これも人間のため、行かねばなるまい。

 俺は覚悟を決めて、これまた深紅の門を潜ろうとする。

 

「今日もお勤めご苦労、引き続き励みたまえ」

「あっ、はい、ありがとうございます……って、誰ですか貴方は!」

 

 惜しいっ……。何食わぬ顔で行けばワンチャン通れるのでは作戦は、すんでのところで淡く破れ去った。

 だが俺は諦めない。堂々とした表情で、引き留めてきた門番に顔を向ける。

 

 館が紅ならそこに仕える者まで紅色なのか。門番の髪型は、腰まで伸びた紅のストレート。

 しかし身にまとう衣装は紅色ではなく、意外や緑色だった。華人服か、あるいはチャイナドレスだろうか。定かではないが、とりあえずスリットの合間からすらりと伸びる脚が眼福でした。

 

「貴方……博麗の巫女では、ありませんね」

 

 門番はこちらを見定めて言う。バレてしまったか……。

 

 華やかな門番さんの衣装に対して、俺はみすぼらしい黒の着流し。いや、別に柄がないってわけじゃないんだ。ほら、この今朝こぼした醤油のシミとか、ね? 良いアクセントになってるでしょ?

 

「紅魔館に何用ですか?」

 

 警戒した様子で、門番が尋ねてくる。それに俺は空を勢いよく指さして答えた。

 

「こんな霧あったら人間たちが困っちまうだろーが!」

 

 俺の指先に広がるのは、一面の紅色。先ほどまでの無窮の青空は、今やこの館から出てきた霧に覆われてしまったのだ。

 しかもかの霧は妖力を孕んでいて、人間が吸い込むと体調に支障をきたしてしまうらしい。魔力豊かな魔法の森にいると体調を崩すのと一緒だな。

 

「んん、ごもっとも! あれ? でも貴方、妖怪ですよね? 妖力もってますし」

「まあ、一応? それなりに持ってますけど?」

「なんかうざったい反応ですね……。で、その妖怪が人間のために来たんですか?」

 

 門番は不思議そうにして首を傾げる。そりゃ、普通の妖怪は人間の肩を持たないだろーな。

 

「まっ、俺は人間に味方する珍しい妖怪ってわけよ」

 

 それには語るに涙の理由があるのだが、長くなるから今は置いておこう。いや、涙はちょっとハードル高いかも。

 

「とにかく、どんな理由があろうと、お嬢様のためにここを通すわけにはいきません」

「……どうしても?」

「どうしてもです!」

 

 どうしてもダメらしい。だが食い下がる!

 

「ホントの本当にダメ?」

「ほんとにダメです!」

「こんなに頼み込んでもか!」

「いくら頭を下げられても、ダメなものはダメです! てか体すごい柔らかいですね……」

 

 これでもかと、180度くらい頭を下げて頼んだがダメらしい。こうなったら虎の巻、伝説の360度頭下げを見せるしかないか……。

 

「貴方もしつこいですね……。大体そんな太刀を担いできてるあたり、やり合う気満々でしょうに」

「バレてしまったなら仕方なし」

 

 門番は俺が背に担いでいる大太刀に目を注ぐ。

 それはいくら大太刀と言えども、尋常ではない大きさだった。

 

 その五尺三寸もの大太刀は、俺の身の丈にまで迫る。人間では振るうことも適わないであろう、馬鹿みたいに巨大な剣。

 なんでもかんでも大きけりゃ良いってもんじゃないんだぞ、胸と同じで。

 

 柄についている赤色の紐と茨模様の鍔は、お洒落で気に入っている。

 

「どうしても通りたいのなら、この紅美鈴(ほんめいりん)が相手です!」

 

 言って、門番――美鈴が、手を前に突き出した。見たことのない構えだ。

 腰を低く落として、手は拳の形を作り前に構える。なにかの拳法であろうか。いやはや、人間の技術であるはずの拳法を会得しているとは珍しい。ぜひ経緯を聞きたいところだ。

 

 しかし、相手が初見の技術を使うからといって、臆することはない。それどころか、俺はまったく関係ないことを頭で考えていた。

 ――洋館が紅色だからって、名前まで紅か? 普通。

 

「ああ、どうしても通りたい」

 

 長刀に手をかける。瞬間、空気が張り詰めるのを肌で感じた。

 

 美鈴の戦闘スタイルは、おそらく得物を使わない徒手空拳。手のひらに剣ダコもなかったし、そうなのだろう。

 対し、こちらの武器は相当に長い大太刀。先手を取られ接近されるより、こちらから動いたほうがリーチの差を活かせるか。

 

 ――思い立ったならすぐに行動に移せ。

 

 俺は地面をえぐる勢いで蹴りつけて、素早く美鈴に肉薄する。

 砂埃が舞い上がり、俺の姿が掻き消える。周囲の景色が光の線となり、あっという間に横に流れた。一歩足音がしたころにはすでに三歩踏み込んでいた。

 

「ソイヤッ!」

「珍しい掛け声ですね……っ!」

 

 美鈴との間合いを一瞬のうちに詰めた俺は、勢いそのまま鞘ごしの刺突を胴めがけて放つ。

 この長刀は、なんというか、とても禍々しい。うかつに抜刀すると何が起こるかわかったものではないので、納刀したままだ。

 

 そんな一突きを、美鈴は跳び上がることでひらりと躱す。

 その姿は蝶のように華麗で、しなやか。彼女は俺の体が柔らかいと褒めたが、絶対あっちのほうが柔らけーだろ。

 

「しかし、着地するのを待ってやる俺ではない!」

 

 俺は大太刀を地面に突き刺し、その柄尻に足をかけた。

 刀を打った人物が見れば激怒する罰当たりな光景であるが、これは不吉な妖刀。ゆえに是非もなし。

 そのまま俺は柄尻を踏み台にして、美鈴の元まで跳び上がる。

 

「ちょっと! スタッとカッコよく着地するまで待ってくださいよー!」

「ズドンッ、と撃ち落としてやるよ!」

 

 俺はあらかじめ掴んでいた紐を引っ張る。

 それは、太刀の柄についている赤色の紐。地面に突き刺さっていた長刀は紐に引っ張り上げられ、俺の手の中に帰ってきた。

 

「バルムンクッ!」

 

 なんかカッコいいカタカナを掛け声に、美鈴に太刀を振りかぶる。

 空中に逃げ場はなく、避けられない。

 

 防ごうとして交差させた美鈴の腕に、たしかな手ごたえを感じた。あくまで鞘ごしの一撃、鈍器で叩いたかのような鈍い感触だった。

 美鈴はそのまま地面に叩きつけられ、衝撃でまた砂埃が舞う。

 

 砂塵が収まったとき、意外にも美鈴は余裕の表情を浮かべていた。両腕は砕いたと思ったのだが、なかなか頑丈だ。

 

「いたたたた……。今のは効きましたよ」

「おう、じゃあ館に入らせてもらうぜ」

 

 手をひらひらと振りながら、門まで歩を進める。いい闘いだった、と健闘を称えるのも忘れない。

 

「いやいやいや、ちょっと待ってください。なに勝手に終わらせようとしてんですか」

 

 隙をついて紅魔館と呼ばれていた館に入ろうとすると、美鈴が回り込んで止めてくる。なんだなんだ、まだダメなのか!

 

「いや、もう終わりだと思うぞ?」

「何を言って――」

 

 言い終わるより先に、異変は起きた。

 ギュルルルルルルルウゥ、と渦巻くような、物々しい轟音が辺りに鳴り響いたからだ。

 ……美鈴の腹から。

 

「こ、これはっ!」

 

 たちまち、美鈴は腹を抱えて膝をつく。

 それほどに辛いということだろう。顔は青ざめ、額には脂汗が浮かんでおり、その壮絶さを物語っている。

 なんというか、ご愁傷様です……。

 

「言ってなかったが、俺の名前は禍津神砕過(まがつかみさいか)。種族は(わざわい)ってやつだ」

「わざ、わい……?」

 

 美鈴は襲い来る腹痛の中、細々とした声を漏らす。俺の能力のせいでこんなになっていると考えると、罪悪感が胸を締め付ける。

 

「禍はその名の通り、いるだけで災いを呼ぶ疫病神のような妖怪さ。だけど、さすがに自然災害が起こりまくったら困るだろ?」

 

 もはや美鈴に声を出す気力はなく、小さく頷くだけだ。本当に大丈夫かこれ。

 

「だから勝手に生まれるこの災いを物に溜め込むことにしたんだが……」

 

 変わり果てた美鈴を見ていられず、思わず目をそらしてしまう。

 

「こんな鞘ごしに叩いただけで、相手に災いが降りかかる危険物になっちまったんだ」

 

 師匠からもらった時は、まだ普通の日本刀だったと思うんだけどなあ、と独り言ちる。いつの間にかすくすくと成長して、気づけばこんなにデカくなっていたのだ。

 おかげで触れたものに災いが降りかかり、ある意味斬れないモノはない刀になってしまった。

 

「うん、だから、すまんな。早いとこ異変解決したいからって、そんな刀で叩いて……。トイレ、行った方がいいぞ?」

「う、ぅぅ……」

 

 美鈴が小さく呻きながら、壁を支えにしておもむろに立ち上がる。プルプルと小刻みに震えるその姿に、凄くいたたまれない気持ちになった。

 

「……おっ、お腹の中が、アルマゲドン」

 

 そんな意味不明な辞世の句を遺して、美鈴は音を置き去りにトイレへと向かった。すげぇ、残像が見えるや。

 

 一人残された俺は軽く息を吐き、気持ちを切り替える。

 

「よしっ、行くか!」

 

 ……美鈴には、あとで謝ろうと心に決めて。




 ドウォナクローズマイアーイズ

 紅霧異変が終わるまで毎日投稿します。
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