からくさ   作:エタリオウ

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 まだ二話目なので初投稿です。


ロジータ

 美鈴を病院送りならぬトイレ送りにしてから半刻ほど。俺は相も変わらない光景に辟易しながら、果ての見えない廊下を歩いていた。

 

 案の定というべきか、外観も門番も紅なら中身まで。

 見渡すものすべてが血のような紅色をしたこの館なら、少しくらい本物の血が混じっていたって気づかないだろう。

 ……紅魔館ってすげーよな。最後まで紅たっぷりなんだぜ?

 

 ここまでの道中、霧を出している実行犯の魔女と一戦交えたりしたが、あまり気分の良い話でもないので深くは語らない。健気な使い魔もろとも美鈴と同じ末路を辿ったとだけ言っておこう。

 ……立ちふさがってきた妖精メイドたちも軽く大太刀でいなしたのだが、今更ながら紅魔館のトイレがパンクしていないか心配になってきた。

 うん、後が怖いし、少し自重しとこう。

 

「しっかし蒸し暑いなここは」

 

 ボヤき、着流しの襟元をばたつかせて、どうにか風を取り込めないかと試みる。ただでさえ真夏のジメジメとした暑さを、この館の風通しの悪さが拍車をかけていた。なぜ窓がこんなにも少ないんだっ!

 

「うん?」

 

 そのとき、ふいに頬に空気の流れを感じた。丁度、欲し求めていた風というワード。一瞬髪を揺らしたそれに期待を膨らませて、その場所に目を遣る。

 

 一見、それまでの廊下の壁とひと繋がりの、何の変哲のない深紅の壁であった。だがやはり、ここから僅かに風が吹いている。

 

 俺は壁にそっと手を伸ばし――弾かれた。

 結界だ。ひどく強固な、何かを閉じ込めようとする結界がここにはある。

 

 突如、脳裏にとある景色が浮かび上がった。

 シャンデリアが吊るされた豪勢な部屋で、ポツンと独り孤独に本を読んでいる少女。部屋が広いせいだろうか、やけにその少女が小さく感じる。

 

「フゥー……」

 

 自分を落ち着けるために軽く息を吐く。

 災いを呼ぶ妖だからか、偶にこういうことがあるのだ。人の過去や未来の災い――要するに不幸なことが頭に浮かんでくるというもの。

 

 正直、嫌な予感しかしない。

 

「まっ、行くしかないか」

 

 この妖怪の性格は恩人の影響を受けてお人好し。

 独りぼっちの少女の姿を見て、放っておけるわけがなかった。別にロリコンってわけじゃない。

 

 太刀を背から外し、その金色の(こじり)を深紅の壁へ――結界に向ける。

 

「開けゴマっ!」

 

 トン、と軽く結界を叩く。様子をうかがうような弱々しいもの。

 しかし、それだけで結界は大きく揺らぎ、やがて罅を成し、もろく崩れ落ちた。

 

 結界が破られるなど、術者にとって災いでしかない。ならば、俺に壊せぬ道理はない(キリッ

 

「まさか本当に開くとは……」

 

 できるとは思っていたが、ぶっつけ本番に不安と緊張はつきもの。俺は破れゆく結界を「うわぁ、ホントに頑固な油汚れより呆気ない……」と感慨深げに眺めていた。

 油汚れが落ちるのは災いではなく逆に喜ばしいことなので、ヤツには俺の能力が効かない。ままならぬものよ……。

 

 とはいえ、結界は剥がれ落ちた。

 深紅の壁は陽炎の中にあるかのように短く揺れ――闇が姿を現す。

 

 わだかまるような深い闇に目を凝らすと、どうやら地下に降りていく階段が続いているようだ。怪しげな館の隠された地下室――ゴシップ好きの知り合いじゃないが、まったく、最高の厄ネタだ。

 

「実に面白い」

 

 デーレレー、デーレレレー、デーレーレレーレーレン♪

 

 


 

 

 階段を降りた先は暗い廊下で、ところどころにランプが薄ぼんやりとした光を灯している。

 石造りの壁が続く廊下をしばらく進むと、ほどなくしてぼんやりと扉が浮かび上がった。深紅の、いかにもぶ厚そうな扉である。

 

「この先か」

 

 ごくりと唾を飲み込む。体が身震いしてしまうのは、地下特有の涼しさのせいだろうか。

 

 俺は扉の奥にいるだろう少女について、何も知らない。自ら進んで閉じこもったのか、それとも閉じ込められているのか、それすらも。

 だからこそ、ここで足踏みしたって詮無きことだ。直接目で見て確かめるしかあるめぇ。

 覚悟を決めて扉に手をかけ――バッと素早く離した。

 

「へへっ、なかなかやるじゃねーか……」

 

 俺は独り、扉を称賛する。

 詮無きこと――たしかに、知りもしないものに怯えるなど、意味のないことだろう。だがしかし、言わせてほしい。

 妖怪だろうと、怖いものは怖い。

 

 心臓はバクバクと今までになくハイテンポなリズムを刻んでいて、更年期かと思わず疑ってしまう。地下に降り暑さは和らいだが、今度は冷や汗が止まらなくなった。まったく、つくづく汗腺に優しくない。

 

「仕方ない、アレをやるか」

 

 正直やりたくないが、戦慄く体をそのままにしておけない。

 俺はスウゥーーっと深く息を吸い込んで、

 

「俺はロリコン俺はロリコン俺はロリコン俺はロリコン俺はロジータ俺はロリコン俺はロリコン俺はロリコン俺はロリコン俺はロリコン俺はロジータ俺はロリコン」

 

 それは、自己暗示と呼ばれるもの。

 自分でそうだと思い込むことによって、それが既定の事実であるかのような意識が生じさせる。ところどころロジータとか競走馬が混じっていた気もするが、まあ気のせいだろう。

 

 要するに自分がロリコンであると思い込むことによって、この恐怖による胸のドキドキを、童女に対する好意のドッキドキに変えようという試み。

 

 暗示は概ね上手くいったのか、恐怖心はだんだんと納まり、体の震えが引いていく。逆に早く彼女に会いたいというあぶねー思考が湧いてきた。

 よーし、さっそく金髪ロリに会いに――、

 

 ちょうどドアノブに手を伸ばしたその時、重厚な扉が、目の前で木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 何の前触れもなく、突如として。

 

「――ッ!」

 

 降りかかってくる扉だったモノの木片。

 

 びっくりして硬直していた体を無理やり動かす。破片と破片のわずかな隙間を、針に糸を通すかのような精密さで縫って紙一重で躱した。

 

 木片は顔面の真横をすれすれで通り過ぎ、あとほんの少しでも遅れていたらと思うとゾッとする。

 

 下手人はすぐに分かった。

 こちらを真っすぐに射貫く、真っ赤な双眸。その薄く輝く金色の髪は、暗いこの空間でぼんやりと浮かび上がる。金髪ロリが頬を赤く染め上げて、こちらに手を掲げていた。

 

 な、なんかめちゃくちゃ怒ってらっしゃる……。

 

「さっきから人の部屋の前でうるさいんだけど!」

 

 少女は恥ずかしそうに言い放つ。ワーオ、聞かれてやがるよ変質者一歩手前のあの呪文を。

 

 ロリっ子が恥じ赫く姿を見ても、罪悪感に苛まれるばかり。一体、暗示とはなんだったのか。やはり俺は童女趣味ではなかった。

 

 とりあえず、キッとこちらを睨む少女に土下座して謝ろう。

 

「ヒヒィ~~ンっ!(すんませんでした!)」

 

 いや競走馬の暗示はかかってのかーい!




 なぜロジータを主人公が知っているのか。
 たぶん、競馬新聞でも幻想入りしたんだよ……。
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