からくさ   作:エタリオウ

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 まだだ! まだエタらんよ……!
 社会人にも段々慣れてきたので、無理せず初投稿していきます。


ボルダリング

「久しぶり……って言われても、どちら様ですか」

 

 途切れ途切れに言葉を紡ぐ。俺の脳は情報過多により混乱を極めていた。

 

 まず奇抜な登場の仕方だが、いきなり眼前に切れ間ができて、グロテスクな空間が姿を現した。一面に目玉がびっしりと張り付いていて、ボルダリングの壁かと思ったくらいだ。

 危ない危ない、もう少しで目玉に足を掛けるところだったぜ。

 

 そして次に第一声の『久しぶり』という言葉。

 記憶力に自信があるわけではないとは言え、まさかこんな特徴的なお姉さんを忘れるとは思えないし、完全な初対面のはずだった。

 

「……ああ、ごめんなさいね。ずっと前から貴方のことを知っていたってだけなのよ。私の一方通行だってこと、すっかり忘れちゃってたわ」

「はあ、そうなんですか」

 

 また情報が増えて、思わず生返事をしてしまう。

 

 一方的に俺を知っていた。それも、ずっと前からだと言う。よしよし、まずは落ち着くんだ俺。俺のことを知っていたらしいが、初対面。つまり、これは――逆ナンというやつなのでは?

 

 いつか魔理沙ちゃんにもしたような気持ち悪い考えが頭を過ぎったが、すぐにそれが見当違いだったことを知る。

 

 仮称お姉さんの紫色の瞳に、どこか寂しさの色が見えた。とても軟派とか、邪な考えを持った輩がする目じゃない。むしろ邪な考えをしていたのは俺だよ。恥ずかしい。

 

「まずは自己紹介いたしますわ。私は八雲紫、妖怪の賢者とも呼ばれているわ」

「妖怪の、賢者……」

 

 師匠からその名を聞いたことがある。確か……幻想郷を創り、管理している者だったはず。

 

 あれ? ってことは見た目によらずこのお姉さんって凄い長生きなのか? 歳が軽く四桁超えてそうなアルティメットおばあさんってことなのか?

 

「ちなみに歳は今年で十八よ」

「えっ。ああ、冗談か。面白い面白い」

「冗談じゃないわよ?」

 

 恐ろしく真剣な顔つき。どうやら冗談を言っているつもりはないらしい。

 

「いやいや、そんな俺より年下なわけ……」

「十八歳よ」

「……ちなみに来年は?」

「十八歳ね」

 

 おーけー、自分を十八歳と思い込んでいるやべーやつってことは分かったぜ。アンタが十八なら俺なんか新生児だよ。

 まあ、幻想郷を創った本人だもんな。頭のネジが数本は飛んでいると思っていた。

 

「年齢の話は置いといて、そんなピチピチの十八歳妖怪の賢者がなんで俺のことを知ってたんでい!」

「それを説明しに来たのよ」

 

 コホンと紫さんは軽く咳払いをして、逸れてしまった話の軌道を修正する。なるほど、今日いきなり馳せ参じた理由はそれだったか。

 

「簡単に言うと、貴方って危険じゃない? 博麗大結界を破りかねない強力な能力を具有していて、さらにそれを操れていない」

 

 その通り過ぎて、ぐうの音もでない。

 

「おまけに心は善ときた。いっそ邪悪だった方が退治するのに躊躇がいらなかったのに」

「いや、なんか……ごめんなさい」

「そういうわけで、前から貴方を知っていたというより目をつけていたのよ。妖怪の賢者としてね」

「ご迷惑をおかけしました」

 

 素直に頭を下げた。奥義360°頭下げをしてもよかったのだが、何故か傍からは頭を下げてないように見えるそうなので、不承不承ただの最敬礼をした。

 

「いえ、こちらこそ試すような真似をしてごめんなさいね?」

「えっと、なんか試されましたっけ?」

 

 本気で思い当たる節がなく俺が首を傾げると、あら? と紫も首を傾げてしまった。首を傾げ合うなんて珍しい構図になった。

 

「まだ気づいていなかったのね。先の異変は貴方がきちんと能力を操れているか、それを計るためのものだったのよ」

「あ……ああ! あの時の悪魔の囁きだ!」

 

 そうだ、何故忘れていたんだ。

 

 西行妖の烈しい蝶の波に攻めあぐねている時、聞こえた声。幽々子を救う理由を問いたあの声は、確かに紫さんのものだった。

 その時はもう一人の弱気な自分の声だと思ったが、そんなわけないもんな。女性の声だったもんな。

 

「そう、試していたの。貴方の能力、そして命をかけて幽々子を助けようとする善性を」

「そうか……そうだったんだな。んで、俺はお眼鏡に適ったかな」

 

 春雪異変の真実を耳にして、変に納得している自分がいた。

 

 前々から疑問に思っていたんだ。

 幽々子が西行妖の封印に興味を持って開花させようとしたのは分かる。分からなかったのはその手段だ。春を一箇所に集めるなんて、簡単なことじゃない。

 それが後ろに妖怪の賢者がいたとあれば、腑に落ちる。

 

「ええ」

 

 深々と紫さん……いや、十八歳と自称するのだから俺より年下、紫と呼ぼう。深々と紫は頷く。

 

「私は貴方を認めるわ、禍津神砕過。歓迎いたしましょう、幻想郷に仇なさない限り」

「今までは歓迎されてなかったんだな」

「うふふ」

「笑って誤魔化すなよ」

 

 扇子で口元を隠して優雅に笑うことでお茶を濁そうとしている紫に、思わず苦笑する。でも、妖怪の賢者に認められたってのは、なんだかんだ嬉しいかな。

 

「……本当に、よく頑張ったわね」

 

 それは蚊の鳴くような小さな声だった。

 

 まただ。また、その目をする。

 まるで母親のように、此方を懐かしむような柔らかい瞳。それを見ていると、何故だか俺まで泣きたくなってくる。俺とお前は……初対面じゃないのか。

 

「それじゃあ、私はそろそろお暇するわ。また何時か会いましょう」

「……ああ、またな」

 

 紫がすうっと指で宙をなぞると、やはり切れ間ができてあのグロテスクな空間が広がる。その中に紫は入り込んで、一度だけ此方を振り返った。

 

 微笑んでいた。今回は扇子に遮られていない。花びらのようにもろく、儚げな笑み。

 パタンと隙間が閉じた。

 

 


 

 

 春紅葉が色めく深山幽谷。その一角にぽつねんと八雲紫の屋敷は存在していた。周りの風景から完全に浮いてしまっている。

 

「お帰りなさいませ、紫様。いかがでしたか?」

「……彼は既に能力を扱えている。記憶の封印は解いてきたわ。後はキッカケさえあれば、すぐにでも記憶を取り戻すはずよ」

 

 出迎えに来たのは紫の式神、八雲藍。

 九尾の妖怪であり、その九つのフサフサな尻尾はめっちゃくちゃ触り心地が良さそうである。思いっきり顔を埋めたい。

 

「そうですか。それにしても、よろしかったのですか? 向こうにはきっと初対面だと思われていますよ?」

 

 藍が心配そうに紫の顔を覗き込む。

 それに紫はフッと軽い笑みを浮かべた。寂しげな笑みだ。それでいて、仕方ないと納得しているようにも見える。

 

「藍、あまり無粋なことはしちゃいけないのよ?」

「無粋……ですか?」

 

 紫はゆっくりと頷く。

 

「あの子が記憶を取り戻して最初に話をするのは私ではない……。霊夢で、あるべきなのよ」




 そういえば、拙作と暇を司りし神さんの『リコリス・ラジアータ』のコラボが始まったようです。かなりぶっ飛んでいて予想不可なストーリーがとっても面白い作品です。ぜひ覗きに行ってみてください。

《link: https://syosetu.org/novel/235630/》リコリス・ラジアータ《/link》
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