肩に名月を担いで、ちらりと霊夢の方に視線を流す。
弾幕が飛び交う、相変わらずの戦況。早めにこっちを切り上げて、手助けをした方がいいかもしれない。
「剣がなくなったって、これがあるわ!」
この闘いにおいて、俺は一つだけ、見落としていたことがある。あまりにフランが派手に剣をブンブン振るうから、すっかり頭から抜けていたのだ。
それは――、
「『スターボウブレイク』」
フランも、弾幕を放つということ。しかも、ただの弾幕ではない。
それはまさにスターボウ。
息を呑む美しさだった。内側は紫色、外側が赤色の、連続したグラデーションが鮮やかな虹色を空に描く。
虹色の雨――いや、沛雨が降り注ぐ。
四人のフランが力を合わせて、弾幕を総射撃している。逃げ場など、どこにもありはしない。あまりの殺意の高さに、思わずやれやれとため息をついてしまう。
――だが、ちょうどいい。
「魅せるぞ、名月」
『えっ、まさかアレですか?』
俺が持つ技は、たった二つだけ。
一つは先ほど隕石に放った、災いを解放する『砲禍』。要するに剣からビームを放つ。やっぱビームくらい出さないと、
もう一つは災いを纏う、『災纏』。ありとあらゆる不幸をこの身に集める、いわば避雷針となる代わりに、災いパワーで微妙に強くなってる
「”災纏”」
言って、思いきり名月をつま先に突き立てる。チクリと針に刺されたような痛みが走り、白かった足袋に血が滲んでいく。
『あ、ああ主様っ、御身を傷つけてしまい、誠に申し訳ございません! 今すぐ切腹いたしますからっ!』
「そんなに気に負うなって。これは『災纏』に必要なことだし、お前のおかげで俺は災いを纏えるんだ。逆に、ありがとな、名月」
『え、えへへ、そうですか? じゃあ、もっと深く刺しますね……』
「それは止めろォ!」
名月に宿っていた災いが、傷口を通して流れ込んでくる。
それは、かつて自分だったもの。ゆっくりとそれが返ってくるのに、懐かしい感覚を覚えて――ん? 微妙に違くない? なんか災いが濃くなっているような気がして、いや、そもそも災いに濃さなんてあるのか?
考えるのが億劫になってきたので、気のせいということにしよう。
「なに、これ? 弾幕が流れていく?」
レミリアの、霊夢の、フランの弾幕が、すべてが俺の身体に引き寄せられ、一面が弾幕でごった返す。磁石にでもなった気分だ。
大玉や小玉、クナイまで混ざって弾幕の檻を造り上げ、俺を囲う。
ああ、こりゃ死んだな、俺……。
だが、これで視界は晴れたはずだぜ?
片目を瞑って、霊夢に秋波を送る。それを受けた霊夢もまた、フッと顔をほころばせてウィンクを返す。
大量のお札を指の間に挟んだ霊夢の反撃が始まる。
「さっさと喰らえ!」
「フンッ、ちょっと驚きはしたけど、あの程度の隠し芸がどうしたと言うの。あんなの、反撃の機会にもならないわよ?」
しかし、レミリアは自分の弾幕が不自然に動いたとて気にも留めず、霊夢が放った大量のお札を華麗に躱す。躱して、躱して――まだ気づかない。
俺は口元を三日月のように、ニヤリと吊り上げた。
「さて、俺も最後の仕事をしますか」
じきに、俺はあの弾幕の空に飲み込まれる。その前に、最後にやらねばならないことがあった。
「行くぜ、”砲禍”」
唱えると、どこからともなく黒い風が吹き起こり、轟々と渦のように名月を取り巻く。解く災いは一割もいらない、一分で充分だろう。
名月を大上段に構える。
本当に、鳥肌が立つほど禍々しい刀。炭のようなその黒の刀身を、優しくそっと撫でる。
この異変でも世話になった、と小さく囁いた。
「エクス、カリバァァアアアーーッ!!」
叫び、振り下ろす。
同時、漆黒の咆哮が筒状に放たれて、弾幕らを押しのけ通り過ぎる。光を反転したかのような真っ黒な一筋の閃光は、嵐のようにサッと、瞬く間に過ぎ去った。
しかし、確実に爪痕を残す。
ほんの一瞬、すぐにまた弾幕が埋め尽くすのだろうが、空洞ができあがった。それこそが、俺の狙いだった。
懐から、
投擲されたお札は、レミリアの真下に落ちた。ちょうど俺がお札だったなら、スカートの中を覗けそうな位置。
そこにはすでに、大量のお札が落ちて地面に張り付いていた。霊夢がレミリアに向けて放ったものだろう。
それが五芒星を描いて、綺麗に敷かれているのだ。いや、正確には一つ足りない。
――最後の一画は、俺が投げた札が埋めた。
「あのお札、なんか嫌な予感……。破壊しとく?」
「させないぜ」
お札のことを訝し気に目で追い、破壊衝動に襲われているフランの前に立ち塞がる。
そして、その小さな身体を強く抱きしめた。
「フラン、一緒に死んでくれ」
「ひゃあっ!?」
腕の中で、ビクンとその体が大げさに跳ねた。その顔は今までになく真っ赤になっていて、声にならない叫びを上げている。
流石にいきなり、女の子を抱きしめるのはデリカシーがなかったか? でもこうでもしなきゃ、逃げられるだろうしなあ。
天を仰げば、夥しい密度で出来た弾幕の帳が近づいてきている。『砲禍』でぶち抜いた穴はすでに塞がって、この場はもはや段々と狭くなる鳥かごだ。ジーザス。
よしフラン、一緒に心中しよう。
「どうやら、フランたちの方は終わったみたいね」
「あら。こっちもよ?」
「何を――、」
言い終えるより先に、異変が起きる。
光の壁が、レミリアを取り囲んだのである。アクリル板のような半透明の壁が、突然目の前に現れたのだ。
レミリアは目を見開き、驚愕に顔を染めている。
「これ、は?」
「あんたはもう、私の結界の中にいるわ」
霊夢はお祓い棒を突き付けながら、やっとハマってくれたと嘆息する。
バッと勢いよくレミリアが顔を下に向ける。
そこには、青白く輝く五芒星があった。
「あんなもの、いつの間に……」
「運命を見たにしても、いやに避けるのが簡単じゃなかった? 私のお札」
ひらひらと、霊夢は草書体の文字が連なるお札をレミリアに見せる。
「あんたの能力は、主観的にものを見ている。確かに少し先を見えるようだけど、門番がやられたのを知らなかったり、おかしいと思ったのよ。
だから、あんたを狙っているように見せかけて、こっそり結界を張れば気づかれない」
「いや、でもおかしいわ。それじゃあ、なんで発動の瞬間が見えなかったのよ」
霊夢の種明かしに、レミリアは異議を唱える。
そう、いくらレミリアにバレずに五芒星を造り上げたところで、発動の瞬間を見られれば気づかれてしまう。
「最後の一画、仕上げはアイツに任せた」
霊夢がこちらに目を向けている、と思う! もう空が弾幕一色で何が何だかわからない。
「あんたはアイツの運命を視ることができない、そうでしょう?」
思い起こすのは隕石を斬り落とした、あの時。
禍という種族は、運命に乗らない。だからこそ結界が、五芒星が完成したことをレミリアは気づくことができなかった。
「これで終わりよ、『二重大結界』っ!」
結界の中に、弾幕が満ち満ちる。レミリアは運命を覗いて――あっけらかんと笑った。
「まったく、してやられたわ。これじゃあ、避けられないわね――」
呆気なく白旗を上げたレミリアは弾幕にのまれ――いや、霊夢以外の全員が弾幕にのみ込まれ、辺りが白い光に包まれる。
こうして、紅霧異変は終わりを告げたのである。
主人公の技一覧
・砲禍
約束された勝利の剣
・災纏
もぅまぢ無理……リスカしょ
書き溜めがなくなったので、これからは不定期更新となります。就活が忙しすぎるので遅くなるかも。