変身絶唱シンフォギア—悪意のAIと共に転生— 作:鏡花水月アッくん
時は巻き戻り、ツヴァイウィングのライブ当日。
鋭利な物が風を切る音と連鎖して鳴り響く爆発音。
それらは俗に言う戦闘音と呼ばれるものであった。
本来なら、人々の活気で溢れる市場であったが、その市場に鳴り響くのは決して平和な日本で発されてはならない斬撃音、銃撃音、爆発音である。
そして、その音の発生源となる存在は、世間から仮面ライダーと認知されている者である仮面ライダーアークゼロと特異災害であるノイズであった。
ツヴァイウィングのライブは、同時に特異災害対策機動部二課が秘密裏に計画していた完全聖遺物、《ネフシュタンの鎧》の起動実験を兼ねていた。そんな重要な日に、ノイズが
だが、今のこの状況がいつもと明らかに違った。
通常であればノイズは近くにいる人間を炭化させるべく襲うか、または敵わないと知りながらも命令されているかのようにアークゼロへと向かっていくの2択となる。人かアークゼロかの違いはあれど、鉄砲玉のように一直線に向かうのが今までのノイズであった。
しかし、この市場に現れた形態が異なるノイズが優に40体。
人型、鳥型、ナメクジ型、そしてビルサイズの巨大な牛型などといった複数のタイプのノイズが、アークゼロの周囲に存在している。また、ノイズ達はまるでアークゼロから距離を取るように、建物や仲間のノイズといった其々の障害物の後ろに隠れるようにして彼を取り囲んでいく。
市民にとってノイズは脅威ではあるが、アークゼロの前では無力またはショッカー戦闘員並みのザコとアークと悠星は考えていた。考えていたのだが、この状況は明らかに何かしらの監視者がいるためいつもよりも警戒レベルを上げなければならない。その為悠星は精神的に疲れるが、周囲の警戒をアークに任せているため、多少の疲労で済んでいる。
そんな状況下で、ノイズ達はアークゼロを前にしても、攻めてくるどころか、先程よりも僅かに距離を取ってくる。アークゼロは使い勝手が良く頼りになる能力の1つである
また、念には念として、目の前のノイズ達の行動予測をアークに万単位で予測してもらったが、奴らは距離を取るようにしか動かないようだ。
「(何が目的だ?コイツら)」
『(恐らく、ノイズは我々を此処に足止めする囮だと考えられる)』
アークと秘匿で通話をしつつ、ノイズを殲滅していく。
「(何がどうなっているんだ)」
『(冷静さを欠くな。バイタルが乱れれば、シンクロ率が下がる)』
人型ノイズはまるで猿のように身軽に躱そうとしつつもアークゼロの攻撃を避け切ることができず消滅するが、他のノイズは姿を変えて後退していく。そう、後退するだけ。ただ、それだけなのだ
アークドライバーから己の武器の1つであり、最も使い慣れているアタッシュアローを生成させながら、近くにいたノイズを殴って吹き飛ばす。そして、アタッシュアローでノイズ達を殲滅するべく、
『アローライズ!』
一度アタッシュモードに戻し、再度アローモードに展開することで発動する弓必殺技であるカバンシュートを繰り出す。
『チャージライズ!フルチャージ!』
「『滅亡せよ』」
『カバンシュート!』
放たれた強烈な弓矢は残ったノイズ達の1体に直撃すると、周りにいた他のノイズを巻き込んで爆散した。既にアークによって算出された予測において最適かつ最小限の爆発に留める為の攻撃であったため、それほどの被害は周りには出ていない。
今回もまた、無事に解決できたことにホットしていると、
『4時の方向70km先、複数のノイズ発生を検知した』
「クソ!急いで行くぞ!」
連続でのノイズ発生によって、より一層緊張感を高めらされてしまう。そして、アークゼロは近くに落ちているバイクをアークドライバーに接続させて、リアルタイムでの改造を実行。すると、落ちていたバイクは一瞬でアークゼロ専用の漆黒のライダーバイクへとトランスフォームした。
「よし!ナビゲーションを頼むぞ、アーク!」
『私に命令するな』
『カバンスラッシュ!』
くそ!何がどうなっているんだ!?
コレで1026体目を撃破したばかりだぞ!
「はぁ…はぁ……これ…で……最後だな」
『流石に大阪府から長野県、長野県から青森県、そして、青森県からここ…沖縄への長距離移動は肉体への疲労が甚大だ』
「かれこれ…もう5時間半は戦っているからな」
『最長変身記録が達成されたな』
アークのジョーク?を流しつつ、かなりの長距離を最速かつ最短で移動し続けていたため、とうとう疲労がピークに達したのかアークゼロは膝をついてしまう。行く先々で捨てられていたバイクをアークドライバーで魔改造しての音速走行、更に悪意のオーラでの音速飛行も行ったことにより、精神・肉体的に限界がきていた。それもそのはず、前世の記憶を持っているものの、悠星は本来13歳の普通の中学1年生であり、いくらトレーニングをしているとはいえ、生身の人間である事に変わりは無いのだ。
悠星はアークゼロのまま膝をつきながら休息をとっていると、
『悠星、ツヴァイウィングのライブ会場にも既にノイズが出現しているようだぞ』
最悪の知らせを耳にする。
「なにっ!?」
『監視カメラをハッキングしてみた所、既にツヴァイウィングの天羽奏、風鳴翼が迎撃に当たっているが、かなりの数だ』
「くそっ!ちょっと待て、アーク!!立花は、立花響と小日向未来は無事なのか!?」
『落ち着け。小日向未来はどうやらライブ会場にはいないようだ。立花響は無事とは言い難いが、辛うじて死んではいない』
衛星やネットワーク、監視カメラなどを瞬時にハッキングしたアークはいち早く2人の現状を悠星に伝える。アークから2人の状況を聞いた悠星は、ツヴァイウィングのライブ会場へ急ぐべく、もう一度悪意のオーラを身に纏った。
「わかった。なら、もう一度音速飛行で行くぞ!」
『私が拒否しても無駄なようだな……だが、覚悟しろ悠星。今の状態のアークゼロでは、到着には時間を有するぞ』
「だったら意地でも早く着いてやる!!」
疲労など頭が消し去った悠星の脳裏には、先日見せくれた響の笑顔やツヴァイウィングの2人が歌う時の笑顔がよぎる。
彼女達の様な人に笑顔を綻ばせてくれる存在を消し去っていけない。
心の奥底にある人間への悪意から目を逸らし続けている自分にとって、彼女達の様な存在は形容しがたい程に眩しく、そして尊い命なのだから。
同時刻。
ツヴァイウィングのライブ会場は混乱の地獄と化していた。
ライブ会場に突如として多発的に出現した優に100体を超える特異災害『ノイズ』。
この地獄の引き金は会場の一部の爆発からであった。
このツヴァイウィングのライブの裏側では、ライブ会場の別室に設けられた実験室にて特異災害対策機動部二課による、完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』の起動実験が行われていた。実験目的である『ネフシュタンの鎧』の起動には成功したものの、直後に『ネフシュタンの鎧』から膨れ上がるエネルギーが臨界点を超え、暴走してしまった。
これにより実験室は倒壊する事となった。
この暴走による余波は当然会場にも伝わり、ライブ会場での突然の爆発という形で現れてしまった。このあまりにも突然すぎる事態に、会場全体が騒然として誰一人として動けずにいた。
それはステージにいた天羽奏と風鳴翼も例外ではなく、人々に届けていた歌を中断し、爆心地へ視線を釘付けにされる。
会場の人々は混乱し、不穏な空気が漂い始めたその瞬間、
その異変に最初に気づいたのは、ツヴァイウィングの二人。
慣れたくもない背筋が凍りつく様な寒気を、
風に流されてきた煤と共に2人は捉える。
「これは、まさかっ!?」
「ノイズが、来る──!」
奏と翼の口から零れた言葉通りに、爆心地の近くに突如としてノイズが現れた。近くにいた人々は炭素の塊に変えられ、粉塵となってその場で崩れ落ちる。
爆煙が風に流れ視界が晴れると、観客たちは目の前で炭素の塊へと変えられた人だったモノを目にして、理解せざるを得なかった。
そう……奴らが…ノイズが目の前で人を殺したのだ。
「おおおりゃぁぁ!」
「はあぁぁぁぁ!!」
身の丈ほどある槍を持った戦姫の突きがノイズの胸部に直撃。
鋭利な刀を持った戦姫から放たれた斬撃はノイズを両断。
数十メートルの巨体を持つ大型ノイズはその突きに耐えきれず、身体を貫かれる。仮面ライダーほどでは無いが、2人の戦姫から繰り出される攻撃は、ノイズ対して有効な攻撃を与えることができている。
しかし、五体、十体と何体も倒そうが、その後ろからはその倍以上の数のノイズが押し寄せてくる。まさにそれはノイズの波と言える。
ツヴァイウィングのボーカルを務めるアイドルにして、シンフォギアシステム第一号『アメノハバキリ』の装者である風鳴翼は焦りによって、時間が経つごとに刀の斬撃のキレが低下していく。
しかし、ソレはもう1人の戦姫よりはまだマシであった。
ツヴァイウィングのボーカルを務めるアイドルにして、シンフォギアシステム第三号『ガングニール』の装者である天羽奏の動きは、いつもよりもキレが無く、肉体にかかる負担が目に見える程に現れていたのだ。
今回の公演は、司令である風鳴弦十郎からネフシュタンの鎧の起動実験を兼ねた大事なものだと聞かされていた。その全てが上手くいっている筈だった。
戦闘もなく、ただ人々が笑顔になる歌を全力で歌うだけ。
本当にそれだけだったのだ。
心の底から相棒である翼と共に歌うことで、ライブの盛り上がりは絶好調であり、耳にはめた通信機からは成功を報せる声も流れてきていた。
完全聖遺物である『ネフシュタンの鎧』を正常に起動させ、解析することが出来れば、櫻井了子が提唱する櫻井理論をさらに発展させ、 より効率的なノイズへの対抗策を打ち出す事が可能になる。そうすれば、ノイズによる被害を今以上に減らす事が出来る筈だった。
しかし、そんな理想を裏切る様に現在は残酷で理不尽だ。
その結果が、司令達との通信途絶と謎の爆発。
加えて、後天的な適合者である奏は、このライブの為にガングニールと適合する為の薬、《LiNKER》を断っていた。歌のコンディションを優先したこの選択によって、奏は己のギアであるガングニールの出力が上がらず、苦戦を強いられ、満足に戦うことが出来ずにいる。
圧倒的なノイズの数によって翼とは距離を離され、連携もままならず、限界が近づきつつあった。
「くそっ、時限式はここまでかよ!」
時間が流れるごとに、ギアの出力と体力は徐々に落ちていく。
弱音を吐こうとも、右も左も前後もノイズだらけなのは変わらない。奏が今いる場所はノイズの発生源近くであり、無数のノイズが蠢く群れのど真ん中である。夥しいノイズの大群を、仮面ライダーの様に数瞬で殲滅する程の力は、彼女たちにはない。
だが、ノイズは一定時間を経過すれば炭素化して自壊する運命にある。
そして、ノイズのいるところに必ず現れる仮面ライダーに後のことを任せれば、なんとかなるのかもしれない。
そんな考えが2人の脳裏をよぎるが、その僅かな時間によって、どれほどの犠牲者が出るのかは計り知れない。
だからこそ、彼女達は立ち止まれない。
いつ来るかもしれない相手を待つよりも、目の前の命を救うことだけが、彼女達にとって優先すべきことなのだ。
だが、そんな彼女達の決意を嘲笑うかの様に現実は、理不尽で残酷だ。
彼女達の目の前には地獄ともいうべき光景が広がっていく。
あれほどに活気あふれていたライブ会場の至る所から悲鳴が、絶叫が、聞こえる。ノイズに襲われ、為す術無く殺されていく人々の断末魔が、悪意となって戦姫達の心を侵食していく。
「きゃぁぁぁ!」
そして、背後から瓦礫の崩れる音と共に生存者の声が聞こえてきた。
「あっうっ! 痛たたた……」
「おい、大丈夫か!?」
「あ、危ないッ!」
天羽奏の背後から、ノイズの攻撃が迫り来る。
少女の声に反応した奏はギリギリの所で、ノイズからの攻撃を捌き、ガングニールを振るう。
崩壊寸前の会場で、立花響の目の前ではオレンジと白を基調とした装甲を纏い、身の丈を超える槍を持った天羽奏が自身を守るように戦っている。不安と恐怖のあまり腰が抜けて動けない響を背に奏は歯を食いしばって戦うが、ガングニールの出力は既に最低にまで落ちている。もはや、目の前に群がるノイズを殲滅するだけの余力は残っていない。しかし、後ろにいる響だけでも守り抜く為に奏は意地で槍を振るい続ける。
そして、あるノイズの一撃をガングニールで受けると同時に、何かがひび割れ壊れる音が響く。ソレは徐々に増え続け、やがてその槍は負荷に耐えきれずとうとう崩壊。砕け散った破片は、あろう事か響の胸に突き刺さってしまった。小さな破片とは言えど、何物をも貫き通す無双の一振りであるガングニール。年若い少女である響に致命傷を負わせるには、充分すぎる殺傷力を持っていた。
「んなろおおおおおおおぉ!」
憤怒と暴力に任せた奏が振るった拳が、響を炭化させるべく伸ばされたノイズの触手を消し飛ばす。まさに、修羅のごとく振われる奏の徒手空拳は、迫り来るノイズを圧倒し、その拳に打ちのめされたノイズは炭素の塊へと成り果て散った。
「おい、死ぬな!生きるのを諦めるなッ!!」
「………あ…あぁ………」
彼女の必死の呼び掛けによって、響は閉ざそうとしていた目を再び開ける。
未だ命の炎を燃やそうとしている響の姿に天羽奏は安堵し、そして、決意した。
人々を守る為に、自分の命を使おうと。
その後の足取りは不思議と軽い。
さっきまで、あれほどなまでに溜まっていた疲労と負荷が嘘の様に。
そして、離れた場所で刀を振るい続ける翼は天羽奏が何をしようとしているのかを察知して、最悪の未来を想像する。
急いで奏の元へと向かおうとするも、ノイズの大群による壁で中々前に進むことが出来ずにその場で足踏みする他無く、虚しく彼女の名を叫ぶしかない。
「奏————ッ!!!」
奏のコンディションは決して良いとは言えず、そんな状態でアレを使ってしまえば、彼女の命は恐らく……消える。
「こんなに沢山の観客がいるんだ。だからこそ、あたしも出し惜しみなしでいかなくちゃな……」
恐怖はある。
もちろん不安もある。
それでも。
後悔はない。
未来に、明日に命をつなげられるなら。
惜しくはない。
「Gatrandis babel ziggurat edenal……」
「歌ってはダメ!その歌はぁッ!!」
崩壊された会場全体に、彼女の最期の歌声が響き渡る。
ソレは穏やかさとは真逆に、彼女の身体から通常よりも遥かに膨大なフォニックゲインが溢れ、激しく、さらに荒々しくその身を傷つけながらまるで台風の如く荒れ狂っていく。
コレこそが『絶唱』システム。
シンフォギアに備えられた決戦兵装。
特定の詩編を唱えることで、シンフォギアの力であるフォニックゲインを限界を越えて高め、一気に放出するという装者が持つ最大最強の攻撃手段。
だが、強すぎるチカラには代償が存在する。
高めたエネルギーによって歌い手の身体に深刻な負荷が与えられ、使い時を見誤れば最悪命を落としかねない諸刃の剣でもあるのだ。
その結果、奏から溢れる出た絶唱の光は全てのノイズを消滅させ、炭素となって風共に消えた。だがそれは同時に、彼女の命も消えることを意味していた。
「かなでぇぇぇぇぇ!!!!」
翼が駆け寄る中で、奏は血を吹き出しながらボロボロな顔で微笑む。彼女の身体はやがて彼女が憎むノイズと同様に灰となり、空へ散って行った。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
哀しみと絶望によって、1人残されてしまった翼は涙を流す中で、ある存在を目にする。
「……ぁ…き、きさ…まは………仮面、ライダーっ!」
そう彼女の目の前に現れたのは、漆黒の戦士。
仮面ライダーアークゼロであった。
余談ですが、悠星が変身するアークゼロのスペックも全盛期に比べて少し落ちています。理由は、アークに掛けられた謎のプロテクトが原因です。そのせいで、アークゼロの数億通りの予測が、現在では数万単位です。後、まだ悠星は肉体は中学生なため、身体的に精神的にも長時間戦えません。
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