ポケモンと私   作:祐。

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最後の壁

「アタシ、ヒイロというの。で、この子はアタシの相棒のラルトス。それで、注文したんだからお話を聞いてもいいよね? アタシ、『ジュエル』ってどうぐを探してるの。マスターさん、ジュエルのことで何か知ってることある?」

 

 センギョクタウンの喫茶店。おひとり様でも利用できるカウンター席に座るアタシは、前日にも入手していたとある情報をお店のマスターに訊ね掛けていた。

 

 お昼を過ぎた時間帯。太陽が傾き始めたその頃、アタシはラルトスと共に休憩をとっていた。昨日、宿を探している途中に小耳に挟んだ、とある『どうぐ』のことをアタシは追っていたのだ。

 

 それは、“ジュエル”という名前の代物だった。見た目は宝石そのもので、主にアクセサリーといった華やかな装飾品の一部として使われる。

 しかし、使用用途はこれだけではなかった。なんと、その宝石はポケモンバトルにも利用されるというのだ。それも、ただポケモンに着けてあげるアクセサリーとしてのものではなく、れっきとした戦闘中にある特殊な効果が発動するというオマケつき。

 

 アタシは、その名前自体は聞いたことがあった。しかし、ジョウダシティでその正体を探し求めるも、敢え無く断念。まるで見つからなかったのだ。

 だが、本当にただ通りすがりの会話として聞いてしまった今回のことを受けて、アタシは思わず会話する彼らの話に混ざってしまった。そこから得た情報として、ジュエルというどうぐはどうやら、未だ謎に満ちていてその効果とかは詳しく解明されていない模様。

 

 だったら尚更、手に入れるしかない!! アタシがこの手に収めて、自らその謎を解明してみせる!!

 ……と意気込んで、今朝からジュエルに関する聞き込みを行っていた。というのが前回以降のあらすじ。

 

 コップを拭いているマスターは、アタシの問い掛けに少しだけ答えてくれた。

 マスター自身も詳しくないから、あまり教えられないとのことだった。ただ、マスターが言うにはジュエルという宝石はやはり価値が高いため、それがどこで採れるのかといった情報は公に明かされていないらしい。で、高価なために凡人が入手できるものではなく、その希少価値からかコレクターには常に目をつけられている、とのこと。

 

 あぁ、アタシのようなどうぐコレクターって、他にもいるんだな。と、そんなことを思いながらお礼を言って、カウンター越しから出てきたお昼ご飯のランチセットをもぐもぐ頂いていく。

 カウンターの上には、ラルトスが乗っかっていた。マスターとしては、アタシの話よりもラルトスのことが気になっていたらしく、よくこんな珍しいポケモンを捕まえられたねと興味津々にラルトスを眺めていたものだ。で、良い物を見せてくれたお礼として、ラルトスの分のご飯を無料で提供してもらえた。ラッキー!

 

 とはいえ、どうぐコレクターとしてさっそく興味深い情報を手に入れてから、その成果がまるでふるわない。アタシらしくない行動力でセンギョクタウンの人々に訊ね回ってみたものだけど、そのほとんどがジュエルという代物の名前を聞いたことあるだけで詳しいことを知る者が全くいなかった。

 

 だからこそ、アタシは余計に熱が入るのだ。ジュエルとは一体、なんなのか。ポケモンバトルでは、どんな使用用途で用いられるのか。そして、その高価などうぐはどういった場所で採ることができて、どういった条件でジュエルというどうぐが生まれてくるのか。その過程は? どんな環境で? 見た目は? 気になることが多すぎて、アタシはもどかしい気持ちで、呑み込む食べ物が喉に詰まってしまう。

 

 ……こういうのは、敢えて苦労する道で色々と発見していきたい。そんな謎のこだわりが、アタシの身体に負担をかけていく。

 しかし、ラルトスには無理を強いることができない。なにかあったら、最終手段として図書館を利用するまで――

 

「となり、いいかな?」

 

 ふと、横から掛けられたその言葉。男性のそれにアタシは「どうぞー」と答えて広げていた足を退けると、男性は「ありがとう」と言ってアタシの隣に腰を下ろした。

 マスターには、「いつもの」と言って注文を終えるその人。チラッとだけ見てみると、男性は背が高く、純白のショートヘアーに黒いハット、更にはサングラスと口周りのヒゲという、絵に描いたような紳士の外見。着用している服は、ゆったりとしたガラ入りの白い上着と、黒色のカーゴパンツというもの。全体的に緩い感じはしたものの、その緩さとは似つかわしくないカリスマのオーラを放っていて、違和感を抱いてしまう。

 

 そのシルエットでも、男性の抜群なスタイルを何となく感じ取れてしまうのだ。靴もよく磨かれた黒色の高級そうなもので、なんか、全体的にこう、吊り合っていないというか、どちらかで無理をしている感じ。

 

 ……変なの。声も外見とは裏腹に落ち着きのある透き通ったものだし、普段はだらしないとさえ感じられるそんな見た目をカッコいいと思えてしまうものだから、アタシは何だか落ち着かなくなって、ジュエルのことを考えられなくなってしまった。

 

 と、男性もこちらをチラりと見るなり、そう声をかけてきたのだ。

 

「キミ、ラルトスを持っているんだね」

 

 ヒゲを生やした、透き通る声の男性がラルトスを眺める。アタシが向くと、そのサングラス越しに目が合った。

 

「この子、アタシの相棒なの。食べることが大好きなんだ」

 

「へえ、変わってるね」

 

「……変わってるでしょ」

 

 変わってる。その言葉を耳にすると、アタシはモヤモヤしてしまう。そのせいで周りから冷たい目で見られてきたし、周囲に馴染めずずっと孤独を感じることにもなった、忌々しい個性。それはラルトスにとっても同じだから、アタシはそれを言われてちょっと微妙な気持ちになってしまった。

 

 と、男性はすぐにそれを口にしてくる。

 

「……ラルトスは普段から、いっぱい食べるのかな?」

 

「この子はホントにたくさん食べるよ。初めて出会ったのがジョウダシティの暗い小道で、あんなところにずっといたもんだからきっと、食べ物には恵まれてなかったんだと思う」

 

「へえ、ラルトスからキミに懐いてくれたかんじだね」

 

「確かにこの子から来てくれたけど、なんで分かるの?」

 

「ん、ラルトスの雰囲気で、一目で分かるよ」

 

 男性はカウンターに肘を乗せて、手を頬に当てながらラルトスとアタシを眺めてくる。

 

「ラルトスは、とても良いトレーナーと巡り会えたね」

 

「はぁ、どうも……」

 

「ん、やっぱそうだ。あの時の」

 

 と、何か思い出したようにそう言う男性。

 

「昨日、キミ達のことも見えたよ。俺、一度見た人とポケモンの顔って、ずっと覚えてるタイプだから」

 

「え?」

 

「あまり公にできないから、こっそりね」

 

 そう言うなり、男性はサングラスを手で少しだけずらしてきたのだ。

 チラりと見えた目元。それだけで、アタシは理解してしまった。快活でありながらも、魅惑的なその目つき。メディア慣れしているのか、他に悟られない絶妙な角度とタイミングから明かしたその素顔――

 

 ――シナノチャンピオン、タイチ様。

 

「うそっ」

 

「しー。この付けヒゲは最近取り入れたばかりの変装アイテムなんだ。すぐにバレちゃったら、また違う変装を考えないといけなくなっちゃう」

 

「うん。黙ってる」

 

 指で口元にバッテン印をつくって、ジェスチャーでタイチ様に伝える。それにタイチ様は満足そうにして、サングラスを元に戻してから再びその話へと戻った。

 

「キミのラルトスが気になって、つい話し掛けちゃったんだ。急にごめんね。変なおじさんに話し掛けられて、怖かったよね」

 

「いやいやいやいや、そんなことは……ちょっとあったけど」

 

「素直だね」

 

 フフッと笑むタイチ様。そのタイミングで注文した「いつもの」がマスターから渡され、タイチ様はそれを受け取って礼を言う。

 って、アタシと同じランチセット。彼の手元に若干と意識が向いているこの間にも、タイチ様はタイチ様で話を続けていく。

 

「昨日、キミ達を見てからやけに気になってね。あの時に見たラルトス……なんだか、いつもと違う雰囲気だったなって。別に悪い意味じゃなくてね、むしろ、良い意味で気になってたんだ」

 

「良い意味?」

 

「他の子たちと違っていたからこそ、俺はその子を魅力に感じたんだ」

 

 ……魅力、ねえ。

 ラルトスを見る。ラルトスはタイチ様に目もくれずモグモグとご飯を食べている。

 

「あの時、キミと、キミのラルトスがとても輝いているように見えた。他とは何かが違うその雰囲気が、俺の直感に訴え掛けてきたんだ。もし巡り会えたら、彼女らと一度でも話をしてみたい。そんなことを思いながらいつも来るお店に入ってみたら偶然、キミ達がいたんだ。驚いたよ」

 

「でも、アタシらはタイチさま――タイチさんのようなスーパースターとはとても吊り合わない存在だと思うから、何も得られないと思う」

 

「もうすでに、得るものは得られているよ」

 

 そう言いながら、タイチ様は超絶イケボでその決めゼリフを放ってきた。

 

「キミ達との出会い、をね」

 

 ぁぁ、甘美な声音から放たれる、ダイレクトな甘い言葉。それを聞いて一瞬だけトキメキを覚えたアタシだったが、その絵面がサングラスと付けヒゲというビジュアルだったものだから、むしろシュールすぎて雰囲気が台無しである。

 

 と、先のセリフは本当に天然なものだったのだろう。そのセリフを軽く流すようにランチを一口食べるタイチ様は、言葉を続けていく。

 

「俺にも相棒がいてさ。ルカリオってポケモンなんだけど。俺の場合はね、ルカリオと初めて出会った場所が、ゴミ捨て場だったんだ」

 

「ゴミ捨て場?」

 

「食事中にごめんね。でも、なんだかこれだけはキミ達に話しておいた方がいい気がして」

 

 こちらに向き直ってくるタイチ様。

 

「俺自身、あまり環境に恵まれないダメ人間だったからさ。そこでゴミを漁っていたルカリオ……当時は、進化前のリオルだったかな。リオルを見つけて、仲良くなった。で、そこで一緒にゴミを漁って面白そうなものを探したりして、友好を結んでいったんだ」

 

「タイチさんが、そんなことしてたんだ。なんか、想像できない」

 

「でしょ。この話をしても、周りは全く信じてくれないんだ。――初めてだよ。この話をまともに聞いてくれたのは」

 

「え?」

 

 気付けば、既に完食間近のタイチ様。意外と食べるのが早い。そんなことを思っている間にも、タイチ様は言葉を続けていく。

 

「俺って、本当に何をしてもダメだったんだ。でも、リオルとの出会いで、それが変化した。俺は家出するようにリオルと旅に出てさ、そこでたくさんの出会いと別れを繰り返していった。次第にリオルはルカリオに進化して、ルカリオ以外の仲間達も加わって進化して、楽しい一時を過ごしていって。気付いたらね、このシナノ地方のチャンピオンになっていた」

 

 ご馳走様。そう言ってタイチ様はマスターに食器を渡して代金を支払うと、その財布から余分にお金を取り出して、アタシに手渡してきたのだ。

 

「とにかく今は、この冒険をラルトスと一緒に楽しんでほしい。次第に、キミ達に同調する仲間達も増えていって、それは自然と永遠の友になる。なにも、無理して輪を広げようとしなくていい。大切なのは、尊重し合える心持ち。増やしていくんじゃなくて、増えていくんだ。――必ず、なんて言葉で約束はできないけれど。でも、キミ達はきっと、幸せを感じられるようになる。俺には、そんな予感がするんだよね」

 

 手渡されたお金を持つアタシの手を、タイチ様は両手で優しく包み込んでポンポンとしてくる。

 アタシは返そうとするものの、タイチ様は「そのお金は、俺が未来に投資しただけだから気にしないで」と言って、そのまま喫茶店の出口へと歩き出していった。

 

 ……必ず、なんて言葉で約束はされていない。アタシのこの先なんて、スーパースターでチャンピオンである彼にも分からないことなのだから。

 

 だからこそ、アタシは彼の言葉を素直に受け入れることができたのだ――

 

「アタシ、頑張るから!」

 

 アタシは思わず立ち上がり、背を向けた彼にそれを言う。

 

「どれだけやれるかは分からない! けど……! アタシとラルトスの気持ちはきっと、こんなところで止まってはいられないと思う!! ――絶対に、前に進んでいくから!! あなたのようにはなれないかもだけど、アタシらはアタシらで、あなた達のような答えを見つける!!」

 

 振り向いて、アタシの言葉を真正面から受け止める彼。その立ち姿は、変装をしていながらも、チャンピオンとしてのオーラを解き放つ威厳のあるもの――

 

「ねえ!! だからさ!! ……もし、アタシらが答えを見つけることができたらさ。その時――あなたと一回、ポケモンバトルしてみたい!! それが答え合わせのように思えるし! それに……あなたとポケモンバトルをすれば、そこから更に何か分かるかもしれないから!!」

 

 サングラスをずらし、その瞳を見せていく彼。

 出口の日差しが、彼の後光となって光っている。――いずれ辿り着く、アタシ達なりの答えの先に待ち受ける、最後の壁として……。

 

「名前、聞かせてくれないかい?」

 

「ヒイロ! アタシの名前は、ヒイロ! ジョウダシティのポケモン博士の、一人娘!!」

 

「あぁ、ジョウダポケモン研究所の――。ヒイロちゃん。うん、オッケー。その名前とその顔、覚えたから」

 

 店の出口の扉をゆっくりと開ける彼。外の眩い輝きに包まれるそこへと一歩足を踏み出した彼は、黒いハットで目元を隠しながらも、肩越しに振り向いてその一言を残していったのだ。

 

「待ってるよ。キミ達が、俺達の下に来る、その時を――」

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