ポケモンと私   作:祐。

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集いし戦士達

 そりゃあ確かに、アタシはチシカさんのことを、どこかクルミ君と似通う部分があるなぁなんて思ったよ。

 豪華なディナーをビュッフェスタイルで楽しむことができる、それなりなお値段の宿屋の食堂。提供開始となる時刻を過ぎればいつでも出入り可能なお食事処にて、アタシは気配を殺しながらも抱えたラルトスと一緒に取ってきたラザニアを食べていく。

 

 まぁ、元々が六人という大所帯での旅だったし、それも絶賛ジムチャレンジ中であるクルミ君を始めとした面々もいたものだから。そういうことで、ユノさんと二人で過ごしてきたような落ち着いた空間は期待することができなかったし、多少もの騒がしさもむしろご愛敬と言えたかもしれない。

 

 ……だが、そこに新たなるメンツが加わることは、まるで予想もしていなかった。

 テーブルを挟んだ向こう側で、ワイワイわちゃわちゃとはしゃぎながら会話を弾ませる二人の人物。同い年であるというアタシにもある共通点で、かつ行動的なところというか、活発的な元気の漲る様にもどこか二人の姿を重ね合わせることも何回かあった。

 

 しかし、いざこうして二人がご対面となってしまうと、その溢れんばかりの活力が、相乗効果によってさらに燃え上がるとは……。

 

「えぇーーーーすげぇえええ!!!! じゃあじゃあ!! チシカは前のジムチャレンジでバッジを八個集めた、シナノリーグ経験者ってことかよーーーー!!!!」

 

「ふっふっふ、まぁね~!! まーー、ウチの手に掛かれば? ジムチャレンジくらい? どうってことは無かったかなぁ~~!! ……ま、ジムチャレンジの期間が終わるっていう三日前くらいに、滑り込みで八個手に入れられたってくらいのすっごく際どいところではあったけどね……」

 

「それでそれで!! チシカもシナノリーグ出たんだろ!!? オレ、昨年のシナノリーグも最初からずっと観てたけどさ!! チシカっぽいヤツの姿は見なかったぞ!!」

 

「ぐはっ! そ、それはっ。い、痛い! とても痛いトコ突いてくんじゃんクルミ君……! あーーそうだよ!! ウチはプールで落ちたよ!! どうせ所詮はトーナメントに勝ち上がれなかった敗北者ですよーーだっ!!! あぁもう思い出したら悔しくなってきた!! ジュース!! パイルのみジュース一気飲みしてやるッ!!」

 

「おぉーーーーチシカ豪快だな!! シナノリーグに出たトレーナーってやっぱ飲みっぷりも違うなぁあ!!! よーーーっし!! オレもチシカみたいにジムバッジ八個集めるために、今はひたすら飲みまくって食いまくるぞーーーー!!!」

 

「おいクルミっ!!! おいチシカとかいうやつ!!! お前さんらうるせぇんだよッ!!! よそ様の食事の迷惑になるだろうがッッ!!!」

 

 クルミ君とチシカさんが大盛り上がりで会話しているところに、ビュッフェから帰ってきたグレン君が怒号と共に二人の静止へと入っていく。

 そのままクルミ君の首を腕で締め上げたグレン君。そんな実力行使な手段に対してチシカさんは、「うはーー!! グレン君ってば腕っぷしが立つーー!! ちょっと待ってちょっと待って今の絵面すごくイイ!! じゃれ合う男の子二人組ってこの絵は、ウチ含めて一部の人達にすっごく需要があるんだーーっ!! はいちーずちーず!!」というセリフと共にスマートフォンを向けていって、シャッターをパシャリッ。

 

 それに対して更なる怒りを見せていくグレン君と、首を絞められながらもその腕を冗談めかして叩くクルミ君はものすごく楽しそうにしていたものだ。

 ……そして、クルミ君をお熱にする新手の女子が現れたことで、もはや心の平穏を忘れ去ったカナタさん。彼の隣に座りながらも対象となる彼女を光の無い丸い瞳でじっと見つめ、殺意を隠すことを忘却した、その瞳と目が合っただけで祟られそうなオーラを醸し出してチシカさんを敵対視していくその光景。

 

 いや、カオスすぎ。そもそもとしてアタシがチシカさんをここに連れてきたことが発端というか、もっと言えばチシカさんが今夜泊まる宿屋を決めていなかったものだから、じゃあ一緒の所で泊まる? なんて提案をしたのがアタシだったことは確かだけど……。

 

 と、こんな様を繰り広げるアタシらの空間は、他の宿泊客らと比べてもだいぶ浮いていたことは言うまでもない。そして、あまりにもカオスすぎる眼前のそれを見せられて一番困惑していたのは、絶対にこういったノリとは無縁であるレイジさん。

 

 アタシの隣にユノさんが座っており、それでもって、彼女のその隣に腰を落ち着けたレイジさんが頭を抱えながらそれを口にしていく。

 

「……ユノ、あんたもしかして、こんな旅をずっと続けてきたとでも言うんじゃねえだろうな」

 

「ッフフフ。さすがにこんな賑やかな旅は久しぶり……んー、いいえ。もしかしたら私も、こんなに騒がしくも楽しい旅は初めてかもしれないわね」

 

「こんなのが十年と続きゃあ、そりゃ気が狂ってもおかしくねぇと思ったもんだが。――それとも、あれか? おれが“此処”に適応していねぇだけなのか?」

 

「レイジくんもいずれ、この旅が如何に恵まれたものであるのかを理解できる時が来るわよ」

 

「それまでに、おれもユノも互いに目的を達成できていりゃあいいんだがな。……酒を飲まねぇとやってらんねぇな。取りに行ってくる」

 

 気だるそうに言いながら立ち上がり、ポケットに手を突っ込みながら酒を扱うコーナーへと足を運んでいくレイジさん。

 その間にもアタシの目の前では、まるでアルコールでも入ってるんじゃないかってくらいにワイワイやっていくクルミ君とチシカさんが、ものすごく楽しそうにはしゃぎまくっていたものだ。

 

 ……なんか、色々とすごい光景。

 意味もなく面白くなってきてしまったアタシ。次第に上ってきた無意識の笑いが堪え切れないといった調子で「プフッ」と出てしまうと、抱きしめたラルトスをもっとぎゅっとしていきながら、アタシはこの今を流れる一秒単位の瞬間を心の奥底から楽しみ始めていく。

 

 ――ポケモンと人間の、両方の仲間達に恵まれた充実とした生活。中には死ぬかもしれない危険な旅路も数回に渡って巡ってきたものだけれども、そうして滅入ってしまった不安な気持ちを払拭する、この周囲に展開された活気づいた個々の輝き達。

 

 特に、アタシはここに集った四名の人物達から、ある予感を抱き続けていた。

 ユノさん。クルミ君。レイジさん。チシカさん。この四人とは、これからも運命を共にしていく気がする。この予感は何の根拠も無い、直感によるアタシの気のせいであろうとは思ってしまいながらも、しかし一方で、これからにも出くわすのかもしれない様々な試練の中でも、アタシはきっと、この四人と足を並べて共にそれへと立ち向かっていくのだろうと、確信に近い予感をひしひしと感じてしまえて仕方が無かった。

 

 戦士達が、この時にもようやくと集った気がした。だからこそなのかどうか、アタシは心強くも思い、今までに体験したことのない充実感も与えてくれるこの四人に対して、絶大な信頼感を寄せてしまっている。

 

 ……まぁ、こう思っているのはアタシだけなんだろうな。途端にちょっと寂しくなってきた気持ちで呆然としていく中で、隣に座るユノさんから声を掛けられる。

 

「ヒイロちゃん。大丈夫? 先に休む?」

 

「ん、平気。まだまだイケる。……ねぇユノさん。アタシね、今、すっごく楽しい気分なの」

 

「そう、それは良かった。――ッフフ。あら、何でかしら。ヒイロちゃんの親というわけでもないのに何故だか、ヒイロちゃんがこの世界を満喫してくれている姿を見たら、私すごく嬉しく思えてきたわ」

 

「ま、アタシからしたら、ユノさんは第二のママみたいなところあるからね! 本当のママはアタシが小さい頃に死んじゃったけど、でもアタシね、ユノさんからめちゃめちゃ母性を感じてるから、今も本当のお母さんみたいな感覚で話してたりしてるかも! ――話してると言えば、アタシね、ユノさんのことをパパ達にもたくさん話してるんだよ! でね、もしジム巡りで地元のジョウダシティに到着したら、ユノさんにはぜひアタシの実家に寄っていってほしいんだよね!! ユノさんのことを話していたら、パパも、パパのところで働く研究員の皆さんも、ユノさんと会ってみたい~って、ユノさんと話できる機会をすごく楽しみにして待ってくれてるからさ」

 

「そう? ……そこまで言われてしまったら、ヒイロちゃんの親御さんの所に顔を出さないといけないわね」

 

 フフッと笑むユノさんと向かい合って、アタシもまた自然な笑みを見せることができた。

 と、ユノさんと話している間にも目の前では酒を持ってきたレイジさんに絡んでいくクルミ君とチシカさんの姿。

 

「なーなーレイジーーー!!! レイジもすげぇ強いけどさ、やっぱチシカみたいにジムチャレンジしたからってことなんだよなーーー!!!」

 

「おれがジムチャレンジだと? そりゃ無いね。ほら、子供は子供同士で戯れてな。酒を手にしたおれに、ツタのように絡むとロクな目に遭わねぇぞ」

 

「――レイジのお兄さんの目つき、どっかで見たことあるなぁって思ってたら、ウチが大好きな漫画の登場人物にすっごく似てる気がしてきた!! というか、もはや原作から飛び出してきたのかってくらいに、レイジのお兄さんとチョー似てるかも!! ねね! ちょっとそれと見比べる用にレイジのお兄さんの写真撮って、その顔をウチのポケッターに載せてもいいかな!!?」

 

「チシカチシカーーー!!! その漫画ってのはなんだ!!? もしかして、それを読むとチシカみたいに強くなるのか!!?」

 

「お!!! 鋭い質問だねクルミ君!! そうだよ! 人間っていうのはね、好きなものを持つと途端に強くなる生き物なのだよっ!! まーー、それよりも!! この本見て二人共! 表紙のこのおっきい執事のキャラクターとレイジのお兄さん、すっごく似てない!!?」

 

「あんたのことは、格好だけおませな子供だとばかり思い込んでいたもんだが……。なに? 『ガオガエン系執事と、オオタチ系お坊ちゃま』? それ、大人が手に取るような本じゃねえか。未成年のあんたが持ち歩いていていいもんじゃねえだろ。……っつーかそれ、BLか!? 待て待て待て待て! そいつとおれを同じような目で見るな!! おれはそんな趣向なんて無い――」

 

「ホントだーーーーレイジとそっくりじゃん!!! おもしれーーーー!!!」

 

 渋い顔を見せるレイジさんを他所にして、公共の場でBLの本を誇らしげに見せていくチシカさんと、その表紙とレイジさんを見比べてゲラゲラと笑っていくクルミ君。

 なお、風紀委員のグレン君は、クルミ君とチシカさんのコンビについていけなかった敗北感で静かにアタシの隣へと移ってきていた。それを見てアタシが「お疲れ様」というと、グレン君は「まぁ、レイジさんが絡んでくれりゃあ二人は何だかんだで落ち着く。俺の出番はねェだろ、多分……」と疲れ切った調子で言いながら、ようやくといった具合に食事に手を付け始めていった。

 

 で、ちょっと珍しく思ったのが、そんな疲弊したグレン君に、カナタさんが飲み物を持ってきたその光景。ナナのみジュースが入ったグラスを無言で渡してきたカナタさんに「お、すまねェな」とグレン君が言うものだが、それに対しても無言を貫くカナタさんが、不機嫌そうにしながらも席に座って落ち着いていく。

 

 何だかんだで、この場の空気は悪くなかった。それでいて、均衡が保たれている感じからか、アタシも特にこれといった不安を抱えることもなくこの時間を過ごすことができて、とても楽しい一時を堪能することができたと思えている。

 

 ……ユノさん。クルミ君。レイジさん。チシカさん。宿屋の個室に戻ってパートナー達と眠りにつくベッドの中、アタシはこの四人の存在が未だに、頭の中に残り続けてしまってしょうがなかった。

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