とても幸運だった。まさか、センギョクタウンでジュエルについて聞き込みを行っていたら、それを採掘しているという関係者にたまたま話し掛けてしまうだなんて。
嬉しい誤算だった。彼らが鉱石を掘り起こす採掘チームの一員だったとは思わず、アタシのような女子がジュエルというどうぐに興味を持っていることを喜んだ彼らは、アタシを特別にジュエルを保管する博物館に連れていってあげると言ってくれたのだ。
パパからは、知らない人についていってはいけないよとしつこく言われてきた。アタシも最初は警戒したものだったが、彼らの名刺と、周囲からの信頼度からついていくことに決めて、彼らが乗るトラックに乗車。
朝早くからセンギョクタウンを出発したアタシは、トラックの荷台に乗せてもらった自転車と一緒にガタゴトと揺られながら空を見上げていた。
深い青色の空。眺めているだけで無限なるそれと一体化しそうになる感覚を覚えながら、抱きしめたラルトスをギューっとさらに抱きしめて目的地の到着を待ち続ける。
道中、休憩をとるということでサービスエリアの駐車場で停まった。
運転をする筋肉質の男性と、助手席に座っていた若い男性。どちらもヘルメットとタンクトップという見るからに鉱山でツルハシを持っていそうな外見をしていて、熟練な雰囲気を醸し出している。そんな二人に付き添う十五歳のアタシという異様な光景の中で、三人で昼食をとっていた。
このサービスエリアは、駐車場がとても広かった。その広さに見合った車やバイク、移動販売車やポケモン運搬車といった様々な乗り物が停められている。特に気になったのは、それらに紛れるように停められていた、ギャロップという馬のポケモンが佇んでいたこと。この子に乗ってきたのかな。そんなことを思いながら眺めていると、筋肉質な男性から言葉を投げ掛けられる。
「それにしても嬢ちゃん、よくジュエルのことを知っていたね。やっぱりあれか! こう、首からかける、ネックレス? だかのアクセサリーに興味を持っていたりするんかね?」
「ううん。アタシは、ポケモンのどうぐとして扱うジュエルに興味があるの」
「ほう!! どうぐとして使う方かい!!」
「うん! アタシ、どうぐコレクターを名乗れるくらいに色んなどうぐをコレクションしていたんだから!! 自分の部屋にいっぱいあるよ。りゅうのウロコとか、メタルコートとか。そういうのを眺めて楽しんでいてさ――あ、そうそう。これ見て!」
そう言って、バッグからめざめいしを取り出して二人に見せていった。
これが特にお気に入りで、旅のお守りにしているの。そんなことを言うと、二人は感嘆といった具合に声を漏らしながら何度も何度も頷いていく。
「嬢ちゃんのような子が、どうぐに興味を持つなんてね! おじさん驚きだ! どうぐなんて、ポケモンバトル以外で使うなんて言ったら普通、おじさんくらいの中年男が高い値を出してまで買い揃えるような、云わば骨とう品のようなものだからね!! こんな若い嬢ちゃんがどうぐに興味を持ってくれているだなんて、穴掘りおじさんとして嬉しいこと極まりないね!!」
若い女の子という立場を利用して、アタシは二人をおだてることでひたすら目的のジュエルへと迫っていった。我ながら、悪女である。
そんなこんなでトラックに揺られること半日。陽が沈みかけてきたその頃になって、運転するおじさんから声を掛けられた。
「嬢ちゃん見えてきたぞ!! 目の前に見えるあれが、ジュエルを展示している博物館がある、『ナガノシティ』だ!!」
その名前を聞いて、アタシはラルトスを抱えながら立ち上がってトラックから身を乗り出した。
すぐにも目についたのは、堂々としたビルの大群。向こう側の景色が見える程度には間隔の空いている立ち並んだビルと、それらの背景とも言える巨大な山脈。
『ナガノシティ』。このシナノ地方において、最も有名な地域だ。他の地方の人々でもこの名前を知っているとされていて、その知名度のほとんどは、あの背景の山脈にあるとされている。
ナガノシティに栄える街並みは、なにも平坦な大地だけではない。その山脈の中にも、木々の緑と建物の様々な色合いからなる、第二の街並みが繰り広げられている。
むしろ、その山脈の中の街並みこそが、ナガノシティの本体とも言えるかもしれない。平坦に立ち並ぶビルとは相反して、山脈には細かい小さな建物がたくさん存在していた。ここからでもいくつか見えるくらいに多くの神社が存在しており、樹海の中では人やポケモンらしき小さな点々が動き回っている。その樹海には大きな湖が広がっているが、なんとその湖は反射した光景を鏡の如く丸々と水面に映しているのだ。
ナガノシティには、古くから大規模の戦が行われてきたという。人間が、ポケモンを戦争の兵器として用いていたという話もあり、その山脈には戦場跡地として今も残された公園なんかも存在している。
その戦場跡地のすぐ傍には、小さなお城も建っていた。当時のものをそのまま維持しているということで、その古くから伝わる戦争の歴史を学ぶ考古学者といった人達が、一度はこのナガノシティに訪れるとも言われている。無論、ナガノシティはこれらを観光名所として取り扱っており、人口密度で言ってもシナノ地方で一番だろう。
アタシは、一度だけこのナガノシティに訪れたことがある。パパのポケモン博士の仕事の一環でついていったことがあり、アタシはナガノシティの景色に感動した記憶がある。
ここは、シナノ地方に住む若者にとって憧れの地とも言える。地方一に栄えていて、お店の数も豊富。ポケモンに関する施設も充実していて、観光名所も盛りだくさん。
尤も、皆がその中で一番興奮するだろう名所としては、このシナノ地方における最強のポケモントレーナーを決める場所、シナノリーグスタジアム。この山脈の、山頂に存在するのだ。
『待ってるよ。キミ達が、俺達の下に来る、その時を』
……脳裏によぎる、タイチさんの言葉。あれから数日は経過しただろうか。彼から言われたその言葉を、シナノリーグスタジアムの姿と重ね合わせていく。
――別に、アタシはただ、どうぐコレクターとしてこの冒険の旅に出たわけだし。自分の中でひたすらに繰り返してきたこの言葉。しかし、彼が語った彼自身の過去の話が、とても他人事とは思えなかったものだから。……ううん。彼と自分を、どうしても重ねてしまうことがここ数日に何度もあった。
……最強の、ポケモントレーナー。シナノチャンピオン。
ポケモンバトル、か――
次第と近付くビルの群れ。見上げても見上げきれないくらいに天へと伸びる巨大な建物に囲まれたことで、アタシはようやくとナガノシティに到着したという実感が湧いてくる。
今日は日が暮れるから、明日、ジュエルが展示されている博物館に案内してあげる。そんなことをおじさんから言ってもらい、今日泊まる宿まで用意してくれた。気前が良くて、巡り会いがかなり良かった。
宿屋の個室。ラルトスがポケモン用のジャーキーを無心でかじっている姿を眺めながら、アタシは考えていた。
……トレーナーズスクールで習ったことがある。それは、年に一度、このシナノ地方ではポケモンリーグという最大級の行事が開催されるというもの。
そこでは、最強のポケモントレーナーを決めるトーナメントが開かれるのだ。このトーナメントに出場するということは、この地方で生きるほぼ全ての人間の憧れであり、ポケモントレーナーにとっての、夢、でもある。
このトーナメントに出場したという経歴もついてくるため、それだけでも就職なんかにだいぶ有利になるくらいだ。それくらい、このポケモンリーグという催しは世間的にすごく重要視されているものであり、それを目指すポケモントレーナーの熱意によって、このシナノ地方は発展してきたまである。
……学んだ内容によれば、このトーナメントで最後まで勝ち抜いた勝者だけが、チャンピオンへの挑戦権を得られる。あのタイチさんはチャンピオンとして挑戦者を待ち受けており、彼は全ポケモントレーナーにおける、最後の壁なのだ。
――正直、アタシなんかがそんな偉大な功績を残せるわけがない。学校や教習所での成績から見るにアタシはダメ人間の中のダメ人間なのだから……。
「……でも、挑戦するだけなら、できる……よね」
ラルトスが、こちらに向いてきた。それからトコトコと寄ってきて、アタシをじーっと眺めている。
……この子と一緒なら、何でも乗り越えられる気がする。チャンピオンへの挑戦権を目指すなんて目標はあまりにも難しすぎるけれど、トーナメントへの挑戦という目標なら、この子と一緒に頑張れそうな気がする。そこで頑張れれば経歴もつくし、お仕事にも困らないかもしれないし。
アタシは、ラルトスの頭を撫でた。
……どうぐコレクター以外での目的ができてしまった。まさかよりにもよって、未だ怖いとも思えてしまうポケモンに最も近しいであろう、ポケモントレーナーとしての目的ができてしまうだなんて。
生きていると、何があるか分からない。そんなことを思い知りながらも、静かなるやる気を滾らせたアタシはラルトスと眠りについた。