ポケモンと私   作:祐。

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準備不足

「ラルトス、落ち込まないで。確かにテレポートしか覚えていないのは意外だったけれど、なにもそれでアタシはラルトスを見捨てたりしないから!」

 

 ラルトスは、ひどく落ち込んでいた。覚えている技がテレポート以外に無かった自分の実力を、この時になって初めて知ったらしい。

 

 ナガノシティの山脈街。緑の自然に、雄大な山という草花の香りが漂うこの空間。戦場跡地である公園に昼間から滞在するアタシとラルトスは、陽が落ち始めたこの時まで、ジムチャレンジへの挑戦のために色々な確認を行っていた。

 一番の目的は、ラルトスがどこまで戦えるかの確認だった。この目で確かめないと分からないこともあるため、アタシは試しにラルトスを野生ポケモンと戦わせてみた。相手はヤドンというポケモンで、すごくマイペースなまぬけポケモン。別にヤドンを貶しているわけではない。図鑑には本当に、まぬけポケモンって書いてあったんだから。

 

 それで、ヤドンを相手取ったアタシとラルトスだったが、一般的にラルトスが覚えるとされる技を端から指示していったところ、ラルトスが繰り出せた技は、テレポートの一つのみ。

 その効果は、自分や対象を瞬間移動させるというもの。それだけでも大した効果であることは事実なのだが、ポケモン勝負においては、それが攻撃になるハズもなく……。

 

 ベンチに座るアタシの上で、ポケモン用のジャーキーをかじっているラルトス。テレポートだけでも相当の力を使うのだろう。いつも以上にたくさん食べるラルトスを眺めながら、アタシは必死に思考を巡らせていた。

 まず、攻撃できる技を覚えていない時点で、戦うことはできない。テレポートという効果も何かしらの役に立つハズなのだが、これでどうやって攻撃するのかまでは、まるで思い浮かばない。

 

 ジムチャレンジは前提として、前向きに頑張るトレーナーとポケモンの姿を、ポケモンバトルという容態でシナノ地方全域にお送りする祭典だ。たくさんと存在するポケモントレーナーの努力と絆を全国に放映することで、この地域により活力の源となる気持ちを提供する。それがジムチャレンジの本来の在り方であり、このシナノ地方がジムチャレンジを開催する本来の目的だからだ。

 

 ……ポケモンに技を覚えさせるのって、どうやるんだろ。トレーナーズスクールでは主に、ポケモンが成長するその過程で自然に覚えるといったことや、覚えさせたい技を扱う他のポケモンやその映像を学ばせたいポケモンに見せて、その視覚や聴覚で得た感覚から自然と引き出せるようになるまで訓練する、といった方法があると習った。

 それ以外では、ちゃんとポケモンに技を覚えさせるための施設があり、その専門トレーナーに預けて習わせるとか、技マシンというディスク上の機械を用いてポケモンの記憶に刷り込み、あたかもその技を自分は使えると暗示にかけることで覚えさせるという手があるとのこと。

 

 どちらにしても、お金はかかる。逆に言えば、ポケモンに技を覚えさせるということは、それに専門のトレーナーなどが存在し、それを職業として稼ぎを行っているといった、少なからずの時間と労力をかけなければならない事であることも理解できる。

 

 ジムチャレンジに挑むのであれば、そのような手段でラルトスを訓練させなければならない。ジムチャレンジをしないにしても、強大な力を持つポケモンが野生として生息するこの世界においては、それらからの自衛手段として用心棒のポケモンを連れていないと危険でもあるし。ジムチャレンジ関係無しに、アタシはそろそろラルトスを戦えるように鍛えてあげないといけないのである。

 

 で、そんなアタシを焦燥に駆り立てる要素が、明後日にも控えていた。それこそが、明後日、このナガノシティのシナノリーグスタジアムで、ジムチャレンジの開会式を行うという行事が予定されていた。

 明後日にも、ジムチャレンジが始まってしまうのだ。今までそんなことに興味も持っていなかったから、まるで知らなかった。事前の準備もしていなかったものだから、今も周囲でポケモンバトルを繰り広げる多くのトレーナー達とは出遅れた形となっている。

 

 なんでいつも、こんなんばかりなんだろ。むしゃくしゃするアタシの膝の上では、ラルトスがジャーキーをむしゃむしゃしている。この子はジムチャレンジのこと分かっているのかな。そんなことを考えてしまうが、このスケジュール管理がなっていないのも全てトレーナーであるアタシのせい。ラルトスを責めてしまわないように気持ちを何とか落ち着かせながらも、アタシはラルトスの鍛え方を必死になって考えていた。

 

 最悪、パパに相談すればいい。パパにはジムチャレンジに出たいってことを既に話してあるんだ。それで、明後日にも開催されるよってことを聞いて、アタシは盛大に驚いたのだから。

 

 ラルトスの頭を撫でる。ラルトスはそれに心地よさそうにしながらジャーキーをもぐもぐ食していくのだ。

 そうこうしている内に、あっという間に明後日のジムチャレンジ開会式当日となってしまった。前日にもアタシは助けてーとパパに電話で泣きついていたのだが、それを受けてパパは、あるアドバイスをアタシにしてくれていた。

 

 それは――「まあ、なるようになるさ」。ということだった。

 アタシは、その言葉に全てを委ねることにした。なんかもう、ここまで来てしまったのだから仕方ない。そんなことを思いながら。

 

 ナガノシティの山頂。シナノリーグスタジアムに集った、数えきれないほどの観客と出場者が、それぞれスタジアムの観客席と待機室へと行進していく。シナノ地方全域に放映されているこの祭典の中、出場者としての大勢の中にまぎれるアタシとラルトスの姿もそこにあった。

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