ポケモンと私   作:祐。

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用心棒

 夜が明け始めた日の出の時刻。山地の高原という、空気の美味しいサッパリした大自然の中、アタシは無数と立っている木々の間に、すっぽり嵌るように縮こまっていた。

 

 この夜、恐怖でずっと身体を震わせながら、ラルトスをずっと抱きしめて過ごしていた。ようやくと迎えた日の出の光に希望が芽生え、立ち上がって高原の高台からその様子を眺めていく。

 

 ……すごく、綺麗だ。悠長なことを言っていられる場合ではないが、雄大な景色に感動するだけならば許されるだろう。これも冒険という名目で旅立ったからこそ立ち会える、この世界の神秘を感じる瞬間だ。

 その光は、アタシをより希望へと導いた。日差しは目に突き刺さるほどの眩しいものであり、その明かりが、この山地周辺を照らしていく。視界の中には流れる川とほんの小さな滝があり、アタシは疲れ切った身体を癒したいという思いの下、ラルトスにテレポートを指示した。

 

 ラルトスのテレポートは、アタシの命を二度も救ってくれた。一度目は、あの土砂の中から救ってくれた時。二度目は、ゴーストに襲われたところを抜け出す時。この技は攻撃に使えないから弱い、とかではないのだ。ポケモンが繰り出す技にはそれぞれ必ず意味があり、有用な場面が存在する。アタシは、ラルトスは強くて頼りになるポケモンだと信じた。

 

 ラルトスのテレポートによって、次にも気が付いた意識は川の音を感じ取る。飛んでいきたいところピッタリの場所では無かったものの、その距離は十分縮まった。その音の元へと向かい、アタシは小さな滝で水浴びをすることにした。

 

 大自然の中を歩いていると、本当にこの世界にはアタシとラルトスの二人しか存在しないと思えてしまう。この思い込みは行動にも表れて、アタシは人目を気にせず服を脱ぎ捨て全裸となり、ラルトスと一緒に滝でじゃぶじゃぶ身体を洗い合った。朝日の日差しがまた気持ちよく、吹く風も心地良い。これがとても遭難した者の体験とは思えないほどの充実感で、自然を心行くまで満喫した。

 

 水浴びを終えた頃には、お腹が減ったために食べ物を探すことにした。土砂でキャップとブーツの片方を無くしたそのボロボロファッションで歩き進める森の中。あの高原でも試してみたものの、スマートフォンの電波は繋がらない。それにうんざりしながらも辿り着いたその場所は、たくさんのリンゴがぶら下がる天国のような果物畑。

 

 もちろん、自然のもの……のハズ。ウッキウキで大喜びのアタシとラルトスは、それらをたくさん収穫していっぱい食べた! 甘かったり、酸っぱかったり、いろんな味がして楽しい!

 たらふく食べたあとは、数個をバッグに入れて食料を確保する。その安心感から少しは心に余裕が出てきたアタシは、自転車の回収か、ハクバビレッジの発見のどちらかを達成するために、ズカズカとひたすら山地の中を歩き進めていった。

 

 時刻は昼を過ぎただろうか。その間にもたくさんのポケモンの横を通り過ぎていったが、途中、スピアーの巣と思われる場所に踏み入ったのか、アタシはそこでまたしても怖い目を見ることになる。

 ラルトスに指示したテレポート。唯一覚えている頼れる技にアタシは意識が飛ばされると、そうして着地したこの場所は、またしても清々しいほどの山地の高原に舞い戻る。昨日とはまた違う場所だろうが、どこを歩いても、どれだけ移動しても、どこへテレポートしてもどこを見渡しても、光景はそんなに変わらない。

 

 ……やっぱり、途方無いな。絶望に近い気持ちでアタシが落ち込んでいると、ラルトスはちょい、ちょいと服を引っ張ってくる。アタシが反応すると、ラルトスはバッグへと手を伸ばして、もぐもぐのジェスチャーを送ってきたのだ。

 

「何か食べろって? ……そうだね。不安な気持ちの時こそ、お腹いっぱいにして幸福感を補充しないとね。ありがと、ラルトス」

 

 アタシは、収穫してきたリンゴをラルトスと一緒に食べることにした。これは午後のおやつ。ご飯ではない程度にもりもり食べて、ラルトスもそれを美味しそうにもぐもぐ食していくのだ。

 アタシは、自分の残ったリンゴをラルトスへと分け与えた。すると、鋭い角がもぞっと動くなり、それは大きな口を開けてリンゴをパク……り――?

 

「うぉッ!?!?」

 

 アタシは驚きで男勝りの声を出した。アタシとラルトスの間に存在する“それ”は、アタシが手放したリンゴをもしゃもしゃ食べて満足げに笑みを浮かべている。

 灰色である“それ”は、とげとげの鎧を身につけたような見た目をする、四足のポケモンだった。向けられた赤い目は期待の眼差しを向けており、その目はまるで、ラルトスのよう。

 

 ……このポケモン、トレーナーズスクールで習った。確か、『サイホーン』というポケモンだ。ひたすら直進で突進を続ける脳筋思考の持ち主であり、脳みそが小さくて忘れっぽいという。

 その突進の力は、建物も容易に吹き飛ばす。アタシは突進されないか不安になってすぐさま距離を取るのだが、一方でラルトスはアタシのバッグを漁り、そこからリンゴを取り出してサイホーンに分け与えていくのだ。

 

 サイホーンは、とても嬉しそうにそれをもしゃもしゃ食べていた。……あれ、なんだ。意外と可愛いぞ。そんなことを思いながらもアタシは休憩を止めて、日が暮れる前にこの山地から抜け出そうとその歩を進めていく。

 

 ブーツを失った片方の足には、先ほどのリンゴの木で採った葉っぱと、救急用のテーピングを巻いた仮の靴で地面を歩く。いつものようにラルトスを抱き抱えていつでもテレポートを使えるようにしておき、バッグに詰め込んだ食料のリンゴを完備している上に、後ろからついてくる用心棒のサイホーンが――

 

「――って、まだついてきてたの?」

 

 アタシは思わずツッコミを入れてしまった。後ろへ振り返りサイホーンにそう言うのだが、サイホーンも後ろを向いて、後方確認。

 

 いや、お前じゃい!!

 

「……人数が増えちゃうと、リンゴの消費も増えちゃうよ。ほら、群れにお帰り」

 

 と言ってアタシはサイホーンにどこか行くよう促すのだが、サイホーンはそんなことお構いなしにアタシの後をついてくる。

 脳みそが小さいって、まさか人間の言葉を理解する知能も兼ね備えていないってこと……? アタシは疑問になりながらも結局サイホーンと共に歩くこととなってしまい、周囲は段々と暗くなり、陽が暮れて再び静寂の暗闇に包まれる。

 

 高原の岩陰で、ゴーストから隠れるように過ごすこの時間。アタシはバッグからリンゴを取り出してかじっていき、ラルトスとサイホーンもリンゴをもぐもぐ食べて満腹となってから、三人は眠りについてその日を終えた。

 

 

 

 事が動き出したのは、翌日のことだった。この三日間に渡る遭難の中で、アタシはその日にもより一層と濃厚な時間を過ごすこととなる――

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