ポケモンと私   作:祐。

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案内人

 アタシはひどく驚いていた。この三日間では様々な出来事が降りかかり、それらから必死に逃れようと無力のままもがくことしかできずにいたものだから。

 

 深夜の高原。ちょうど日を跨いだだろうその時刻に寝ていると、ラルトスが角でアタシの額を攻撃してきたのだ。これを食らってアタシは飛び起きると、次の瞬間にも背もたれにしていた背後の岩が大きな音を立てて崩壊。

 何が起こったの!? 慌ててアタシは離れると、そこではゴーストが距離を離して様子を見てくる警戒の模様と、その岩を砕いたのだろうサイホーンが対峙している。

 

 ラルトスを抱えたアタシは、困惑して佇んでいた。その間にも、目の前ではバトルが繰り広げられたのだ。ゴーストが暗黒の球体をつくりだし、シャドーボールをサイホーンへと繰り出していく。サイホーンはその性質上、真っ直ぐにしか進めない。前から飛んでくるシャドーボールを見ると、サイホーンは避けるどころかそれに突っ込んでいったのだ。

 

 駆け出して飛び掛かるサイホーン。次にもその身体は回転し始め、その回転力が頭のツノに集束すると、全身をまとう勢いが土のドリルとなってシャドーボールを貫いたのだ。

 ドリルライナー。じめんタイプの技だ。繰り出したサイホーンの技はゴーストへと一直線に進むのだが、その技エネルギーは、ゴーストというポケモンの“特性”がそれを察知し、身体が自然に浮き出してサイホーンのそれを難なく回避する。

 

 当たるわけがなかったのだ。ゴーストの特性は、ふゆう。ふゆうは、じめんタイプの技を無効にする強力な特性。アタシもこれをトレーナーズスクールで思い知らされた。模擬戦でアタシが使ったディグダのじならしが、ドガースというポケモンが持つ特性のふゆうによって、無効化されていた。この身で体験したからこそ、あのゴーストの挙動でそれを一瞬で理解することができた。

 

 ゴーストはそのまま不敵な笑みを浮かべながら、口から目に見える呪文を唱え始めていた。ゴーストが繰り出したのは、のろい、だ。自身の体力を削る代わりに、その対象の体力を減らし続ける特殊な状態異常にさせる技。

 サイホーンはそれに対しても避ける動作は見せない。真っ向からのろいを受けながらも、そのツノでゴーストに照準を合わせ、ツノの先にいわタイプの技エネルギーを溜め込んで岩石のようなものへと変換。物体となったそれはサイホーンから発出され、のろいを繰り出すゴーストに直撃させたのだ。

 

 あれは、ロックブラストと呼ばれる技だった。それが次々と連続で放たれ、ゴーストはそれらを何度も何度も食らって空中でよろけ出す。

 同時に、抱えているラルトスがアタシの服を引っ張ってきた。手をちょい、ちょいと伸ばして、サイホーンを指していく。……近付けって? こちらの疑問の感情を感じ取ったラルトスはコクコク頷いていて、アタシは急ぎでサイホーンへと接近した。

 

 アタシが触れても、サイホーンはゴーストを捉え続けていた。そんなアタシはアタシで、ラルトスにどうしろと問い掛けようとしたのだが、その瞬間にもラルトスはテレポートを発動し、アタシが触れるそれらは一瞬で高原から姿を消した。

 

 

 

 次に意識が覚醒すると、渓谷の中間地点に位置する崖で突っ立っていた。

 足場が急な坂で驚くが、冷静を保てと自分に言い聞かせていく。大丈夫、大丈夫。アタシにはラルトスとサイホーンがいるから。抱いているラルトスと、足元でもぞもぞと動き出したサイホーン。サイホーンは横に続く足場をのそのそ歩いていくのだが、その表情はとても苦しそうだ。

 

 それにアタシもついていくのだが、渓谷の崖を渡り、緑が広がる森林地帯に着くと、サイホーンはその場に倒れ込んでしまった。

 ――ゴーストの技、のろいの効果でひんしになってしまったのだ。ポケモンにおけるひんしとは、体力が無くなったことで力が出ない状態を示す言葉であり、しばらくの間は立ち上がることもままならない無気力となった時に呼ばれる一種の状態異常。時間経過で回復するため、死ぬ心配はしなくてもいいのだが……。

 

「サイホーン! 今すぐ治してあげるから待ってて!」

 

 そう言ってアタシはバッグから松明を取り出して、それの先端を空気に擦り付けるように数回振って発火させて灯りを点ける。

 よく見える状態にしてから、バッグからいろんな薬を引っ張り出してきた。キズぐすり、いいキズぐすり、なんでもなおし、ディフェンダー、ピーピーエイド。どれを使ってもサイホーンのひんしを治すことができない。ポケモンのひんしを治すには、げんきのかけらという物を使わなければならないからだ。

 

 アタシは、サイホーンを安全そうな場所へ移動させようとした。しかし、サイホーンはすごく重い。持ち上がる様子も無く、アタシはどうすることもできないまま不安を抱えて、この晩を過ごした。

 

 夜が明けると、サイホーンは動き出していた。ひんしから回復したらしい。

 アタシは眠らず、ずっとサイホーンを見張っていた。この間にもゴーストに襲われたりしないかとか、夜行性の何かしらのポケモンに、サイホーンが襲われたりしないかとか。色々考えながら。

 

 動き出したサイホーンは、表情ひとつ変えずにいつも通りといった様子。アタシは感謝を込めてキズぐすりを使い、お礼のリンゴも与えることでサイホーンを労わっていく。

 陽の光が射し込む、三日目の山地。連絡が取れないことから、パパも心配しているかもしれない。早くここから抜け出そう。若干と焦る気持ちでアタシは歩き出し、再び山の中を巡る冒険を再開した。

 

 抱えたラルトスと、相変わらず後ろからついてくるサイホーン。後ろを向いてサイホーンを確認すると、サイホーンもまた後ろを向いてアタシの視線の先を辿っていく。

 だから、あなたのことなんだよなー……。内心でそう思いつつも、アタシは見晴らしの良い平原に出てその先に目を凝らした。

 

「……建物? 建物が見える!!!!」

 

 三軒程度の小屋っぽいものが、平原の先にある高台の上に見えていた。まだまだ距離はあるものの、助かった、そんな安堵の言葉が脳内を埋め尽くしてアタシは泣き出しそうになってしまう。

 ……それと共にして、サイホーンがアタシを追い越してどこかへ行こうとしていた。どうしたんだろう。そんなことを思ってアタシはしばらく眺めているのだが、サイホーンは振り向いて、こちらを確認してくる。

 

「…………??」

 

 謎に思っていると、ラルトスが手でちょい、ちょいとサイホーンを指してアタシに何かを訴え掛けていた。

 ……サイホーンに、何かあるの? こちらの感情に、ラルトスは頷いていく。 サイホーンは、どうしたいの? こちらのそれに、ラルトスはアタシの服を、サイホーンの方へと引っ張っていく。

 

「……サイホーンのところに行けって?」

 

 コクコク。ラルトスの動作で確信したアタシは、サイホーンへと歩き出す。すると、サイホーンもまた歩き出したのだ。

 つれて行きたいところがあるんだ。小屋を横目にアタシはサイホーンの後を追い、この平原をしばらく歩み進めていった。

 

 

 

 森林地帯を抜けると、そこには大草原が広がっていた。ところどころ池が見受けられるそこは一部分が湿地帯とも言えるもので、多くの野生ポケモンが群れを成して生息している。

 さらに特筆すべき点は、この光景の奥には天へと上るにつれて白くなる山脈と、周囲に密集する森林地帯。そして、まるでそれらに護られるかのように大草原の平坦に存在する、たくさんの建物の数々。

 

 立てられた柵や門と、看板。この大草原に似つかわしくない、大きなドーム状の建物。

 ……間違いない――!!

 

「――助かった。良かった……。着いたよ……『ハクバビレッジ』ッ!!!!」

 

 ナガノシティから始まったこの道のりは、命懸けの冒険となってアタシの歴史に刻まれた。

 辿り着いた目的地に感極まって、アタシは泣きながらラルトスをぎゅうううううっと抱きしめていた。それに角をピカピカと光らせるラルトスは、満更でもなさそうだ。

 

 そして、アタシは命の恩人にお礼を言おうと振り向いた。

 ……しかし、既に離れたその背にアタシは歓喜を忘れ去る。――到着したというその感情以上に、“それ”が自分から離れていく姿にひどく喪失感を覚えたからだった。

 

 何事も無かったかのように去っていくサイホーン。終始その存在感はよく分からないものだった。だが、今この場になってアタシは、ようやくと理解することができた。

 アタシは、あのサイホーンのことをれっきとした仲間として接していた。その事実をひしひしと噛み締めながらアタシは、サイホーンが完全に森へ溶け込むその瞬間まで、その場に留まってとげとげの背を見送り続けていた――

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