大自然に護られた地域、『ハクバビレッジ』。その道のりは、山地を主とする急斜面と獰猛な野生ポケモンが待ち受ける、試練という言葉に相応しきものであった。
だが、この三日間の話を現地の者にしたところ、大変驚かれてしまった。どうやらアタシが通ってきたその道はハクバビレッジと繋がっておらず、この村の隣に位置する修練の山、『コタニの山』へと向かう劣悪な山道を通ってきてしまったみたいなのだ。
サイホーンにこの村へと導かれてから、アタシはハクバビレッジに保護された。服はボロボロ、疲れ切った顔。ジムチャレンジに挑戦する少女が遭難したという話はすぐに広まってしまい、これはメディアの耳にも入ったのか記事に取り上げられてしまうほど。名前は伏せてもらったので、パパの面目は潰さずに済んだだろうが……。
村に着いてからというもの、ジムチャレンジの役員が在中する役所で面倒を見てもらうことになった。温かい食べ物をラルトスと一緒にいただき、コタニの山でどんな風に過ごしたのかを一通り話してから、部屋をお借りしてゆっくりと身体を休めることができた。
そして、この話を聞いた役員たちは、特性ものひろいのポケモンを引き連れてコタニの山へと赴いたようだ。そこでアタシが失った自転車とキャップ、片方のブーツを回収したらしく、アタシは無くしたそれらを受け取って無事に元通りとなる。
どうやら、コタニの山には強力なゴーストタイプのポケモンが住み着いていることで有名らしく、特に夜間の時刻に赴くことは大変危険とされていたようだ。そこで出くわしたポケモンのゴーストを始めとして、カゲボウズやヨノワルといった、感情を読み取ることで獲物に近付くゴーストタイプのポケモンが活発的になると言われている。アタシは幸運に恵まれていたらしく、アタシが居ただろうその高原はどうやら、ヨノワールと呼ばれるこの世と冥界を行き来する超危険ポケモンが生息していると言うのだ。それと出くわしていたら、ラルトスのテレポートを以てしてもアタシは間違いなく死んでいたとのこと。
アタシは昔から、何かとそういう最も最悪とされる運命から守られている。パパだってそうだ。命を落とすような場面に何度も出くわしていながらも、ケロッとした顔で生還している。アタシもその血筋を受け継いでいるのか、最悪にまで至らない不運で済んでいるものだから本当にただただ運命にありがたく思うばかりだ。
そんなことで、役所から出てきたアタシ。服装もバッチリで、脇には整備された自転車がドーン! そのカゴにラルトスを入れて自転車を押していくアタシは、ジムチャレンジ開始から数日経ってようやく一つ目の地域に踏み入れた。
今もたくさんのポケモントレーナーで賑わうハクバビレッジ。この村の背景として馴染んでいる山脈は、雪と思われる白色で染まった雄大な存在感を放っている。この山脈の周囲では密集した木々による森林地帯が展開されており、そんな自然の山脈と森林に護られるよう大草原の中に存在しているのが、このハクバビレッジ。
ここでは、シナノの大空を支配する男がチャレンジャーを待ち受けている。今もスタジアムから聞こえてくる大歓声と、このハクバビレッジにスタジアムを構えるジムリーダー、レミトリの名を連呼する応援の声音。既にバッジを数個集めた者との戦いを行っているらしく、レミトリさんは多くの挑戦者のいろんな背を見送ってきたことだろう。
アタシも、レミトリさんと戦うために苦労してここまできたのだ。目指すはバッジをもぎ取ること。つまり、ジムリーダーとの戦いで勝利を収めること!
こんなアタシでもレミトリさんに勝てるのか、最初は疑問に思っていた。だが、ジム戦のルールを読み進めていくと、実は勝てる可能性も十分にあり得ることが分かったのだ。その内容としては、ジムリーダーはまず、その挑戦者の経歴や実力を下調べするというのだ。挑戦者が待っているため、下調べに与えられた時間はわずか三分から五分程度。そこから得られた情報からジムリーダーは、自分の手持ちを選出してチャレンジャーの力量を測る、というのが一連の流れらしい。
どうやらジムリーダーは、そのチャレンジャーの実力に見合ったポケモンを繰り出さなければならないというルールがあった。それはポケモントレーナーをどれくらい続けてきたのかといった経歴から、その挑戦者の趣味や特技からポケモンとどれくらい触れ合ってきたのかを推察。一番の指標は取得したバッジの数らしく、それによってもどうやら、選出するポケモンの数が増えたり減ったりするらしい。選出するポケモンの数に関しては、チャレンジャーもジムリーダーと同じ手持ちの数に合わせないといけないとのこと。
要は、ジムリーダーに自分のエントリーシートを見られる、ということだ。それを聞いただけでも、アタシは気持ち的にダメそうに思えてくる。
今も熱狂を極めるジム戦だが、ジムリーダーに挑むにはまず、予約をしないといけないルールがあった。出発が出遅れた上に遭難までしていたアタシがエントリーの申し込みをしたところ、既に今日と明日と、明後日の枠は埋まってしまっていた。
結局、エントリーは取り止め。もし早めにできていたとしても、アタシはエントリーをしなかっただろう。だって手持ちは、テレポートしか覚えていないラルトスのみだったから。
……ゆっくりしていられない。ジムチャレンジ自体は何ヵ月も続くけっこう長めの行事であるのだが、期間はきちんと設けられている。ポケモントレーナーになったばかりという立場でもあるため、うかうかしているとあっという間に期間を過ぎてしまうだろう。
――最優先事項は、ラルトスに攻撃できる技を覚えさせること。技を習得させる手段は色々あるけれど、特に有効なのはやっぱり、ポケモンバトルを介することで発生する強い刺激によるもの。もしそれがダメだったなら、別の方法を試していけばいい。
新米ポケモントレーナーなりに自分の中の目標をしっかりと定め、やるべき事をハッキリさせたアタシ。その旨をラルトスにも伝えてから、アタシはとにかく今できることを端から試していくことにした。
「ラルトス! コタニの山に行くよ! まずは経験豊富な山のガイドさんに付き添ってもらって、野性のポケモンと戦うところから始めていこ!」