「あの、すみませーん! そう、あなた! あなたのライチュウ、とても良い10まんボルトをお持ちですねー! やっぱり、ひこうタイプのジムだから今も鍛えているんですよね! ――アタシ? アタシはヒイロ。あー、ポケモン研究所の……助手。そう、ジョウダシティのポケモン研究所で、博士の助手をしていてね! それで、ポケモンの技を研究したいなーと思って、ちょっとあなたのライチュウが気になったの! もし良かったらでいいのだけど、その10まんボルトを、この石に当ててくれない? 技エネルギーっていう力が今必要で、この石はライチュウの10まんボルトを吸ってくれるの。協力してくれる? ありがと!!」
晴天が大草原と山地を覆う、ハクバビレッジ。この村で用意された、自由に出入りできるポケモンバトルのコートに訪れたアタシ。そこで活きの良いポケモンを探していたアタシは、一人のトレーナーに話し掛けてそのような会話をしていた。
技エネルギー。それに可能性を感じたアタシは昨日、コタニの山から下りてくるなりポケモン博士のパパにこのことを話してみたのだ。するとパパは、技エネルギーに関しては専門外だからなーと言いつつも、アタシの研究者気質をとても喜んだパパはこんな情報をくれたのだ。
それは、技エネルギーをよく吸収する素材が市販で売られている、というものだった。元々は、ポケモンが繰り出す技を対策するための、防壁のような扱い方をするソレ。主な使い道と言えば、トレーナーズスクールで行われるポケモンバトルの実技の際に、事故の防止でトレーナーが着用する防護服の素材であったり、それこそジムのスタジアムでは、観客席に透明のような色のソレを張ることによって、スタジアムから流れてきたポケモンの技を防いだりと、日常的に使われている馴染みのある代物。
他にもポケモン除けとして扱われたり、高級な建築物なんかでは壁にその素材が使用されているなど、その使用用途は多岐にわたる。
多くの人間がポケモンと共存しており、いろんな人々がポケモンに困らされたりしているため、誰でも手に入るようにとそこらのお店で取り扱われていたりするのだが……。それを聞いたアタシは早速とお店へ赴き、これから本来とは異なる扱われ方をされる、犠牲者もとい技エネルギーを吸収する石は、アタシに握りしめられながら購入されていく。
そして、その石でいろんなことを試していたのが昨日のこと。現在でもその石をアタシは使いまわしており、とうとう、少々と荒っぽい使い方を試してみようとして今に至る。
トレーナーは、ポケモン研究所の役に立てるとウキウキしながら、ライチュウの力を貸してくれた。ごめんねトレーナーさん。これは半分ウソなんだ。いや、ポケモン博士の一人娘なのだから、実質助手と言っても間違いではないよね? 手伝いもしたことあるし、騙してはいないよね?
自分の中で自分を正当化させながら、アタシは石が10まんボルトの力を吸収する光景を眺めていた。とても強い電気の力でビリビリと流し込まれるそれは、しばらくして帯電し始める。アタシはトレーナーさんにお礼を言って石を掴むと、バチンッと電気が手のひらを駆け巡る感覚で思わず手を引っ込めてしまう。しかしそれでも強引に掴んで持ち上げていくと、アタシは「ありがとー!」と言って抱えたラルトスと共にその場を走り去っていった。ライチュウのトレーナーさんは、アタシのことをとても不思議そうな目で見ていた。
ジムチャレンジを運営する役所に来たアタシは、公共の施設でその石をいじっていた。皆が飲食物を持ち込んで談笑している中、アタシは一人、帯電する石をひたすら触ったり眺めたり、キズぐすりをかけてみたり、めざめいしをくっつけてみては観察したりしていた。もちろん周囲からは浮いており、なんだか変な視線を向けられているような感覚もある。
尤も、周りから浮いてしまうことなんていつものことだった。だから周りに馴染めなかったもんだが、これがアタシの性質なのだ。学校でも、それ以外のところでも、いつもこんなんだった。だが、今回はラルトスという同志がついている。アタシが石をいじくりまわしているところを、ラルトスはポケモン用のスナック菓子を食べながら眺めていた。
観察は更にエスカレートして、そこらから取ってきた木の枝を、石につけてぐりぐりと擦ったりしていた。今も帯びている電気をラルトスに触ってもらったり、この技エネルギーって摘まめるのかなと指でちょいちょいしてみたり。とにかく思い付いたことは片っ端から試してみた。
それらの行為に意味は無いし、正直なにも考えていない。得られた結果から推察も行わないし、ただ目の前の石で一人あそびをしているだけ。
だが、これこそがアタシの上手くいく黄金パターンでもあった。あれだけ色々と考えてしまうアタシの性質だが、こうやって無心のまま行動を起こしていった物事ほど、うまくいく。そしてこの行為は直にも、ほんのちょっとした成果となって現れた。
「……あ」
ハクバビレッジの宿の個室。深夜という時間帯に、テーブルの明かりを灯してひとり石をいじっていたアタシ。その石は触りすぎて段々と色が変わってきていたのだが、ふと試してみた“あること”で、アタシは発見してしまったのだ。
あれだけ何も起きなかったのに、あることを行ったことで、それによって付いてしまった黒い点に電気が集まり始める。目に見える変化はこれが初めてだったため、アタシは食い入るようにそれを眺めていた。
同時に、アタシはこの黒い点を付けた代物に注目する。今も手に持っているソレは、一本のボルトネジだった。何の変哲もない市販の物であり、この石を買うついでとして買ってきただけの、決して特別なものではない小物。
強いて言えば、このボルトネジはシルフカンパニー製だったということか。モンスターボールの開発かなんかで使われる素材が使用されているだなんだと書いてあったが、よく覚えていない。とにかく、そのボルトネジで加えた摩擦に、この石は反応を示したことだけは分かった。
――アタシは、黒い点に集まる電気に手を伸ばした。とても興味深かったから、自分の身を顧みないような行為であることを自覚していながらも、ついその手を伸ばしてみてしまった。
震える指先。それはおそるおそると近付け、今もパチッ、パチッと指先で弾けている電気のそれを、つん、つん。
……これ、触れる。まるで物質であるかのように感じられたそれを受けて、アタシは湧き上がる好奇心のままに電気を一つまみ。
バッチィンっ!!!! 瞬間、指に走った鋭い電流で手を引っ込める。共にして照明は落ち、停電を起こしてアタシの部屋は真っ暗となった。
思わず「ぎゃっ!!」と響かせたこの悲鳴。テーブルから離れ、頭を抱えるようにしてアタシは唖然としていたのだが、今もこの手には帯電が残っており、押さえた部分の髪の毛がピリピリと引っ張られてくっついている。
……周囲からは、物音が聞こえない。停電はこの部屋だけか。シーンと寝静まった空間にアタシは落ち着きを取り戻し、次にも足元でもぞもぞ動くラルトスを抱き抱えて、「起こしてごめんね」と謝りながらアタシもこの日は寝ることにした。
大した発見はできなかった。しかし、一日中行ってきたこの意味の無いような行為と、今日経験した成果は必ず大きな発見となってアタシの下に訪れる。
何かが分かろうとしていた。それは理屈ではなく、感覚で。考えてしまうクセがついているのに、何かを深く考えることは苦手なのだ。だからこそ、直感を大事に思っている。
翌日、アタシは気分転換にコタニの山へ訪れていた。そこでも昨日の続きとして、技エネルギーを蓄えた石をいろんなものに擦りつけたり投げつけてみたりしていたのだが、この日に関して言えば、アタシは石の興味をも超える、新たなる発見と出くわすこととなったのだ。