ポケモンと私   作:祐。

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ジムチャレンジ ハクバビレッジ

 取り付けられた数台からなるカメラの中継は、ジムチャレンジが開始される前のスタジアムの姿を映し始めていく。その頃から実況と解説の席で待機する二人の人物がトークで場を繋ぎ、初戦の開始を匂わせるチャレンジャーとジムリーダーの登場によって、彼らは本格的にその本業へと徹するのだ。

 

 この日も例に漏れず、初戦から実況と解説をしていく二人の男性。ラフな格好ながらも共にメガネをかけている彼らは、マイクを気にせず談笑を交えて試合の様子を伝えていく。

 そのチャレンジャーの試合が終わると、ジムリーダーの勝利と、チャレンジャーの健闘を称える言葉と拍手で双方を見送るのだ。そこから二人は感想を述べていき、次の試合までその場を繋いでいく。

 

 中継であるため、この間も生放送としてシナノ地方全域に放送されていた。視聴率こそはこの日のハクバビレッジにめぼしい試合が予定されていなかったため、まあまあなものだった。それでも二人は休憩を取り合いながらも、一日中ずっとこの席からジムチャレンジの光景を実況と解説でお送りしていくのだ。

 

 実況者が展開する雑談なんかも、スタジアムには筒抜けとなっている。その会話が次の試合までの暇つぶしにもなったりするものなのだが、この日に関して言えば、暇つぶしも必要無いほどまでに観戦客は少なかったものだ。

 この席で腰を落ち着かせる観戦客は、相当な変わり者と言えただろう。そのほとんどが応援というよりも、よほど暇を持て余した者か、応援できる推しのルーキーを探しに来た人達か。どちらにせよ空席だらけのスタジアムに居残る人々は、ある意味で似たような性質の持ち主だったことは確かだろう。

 

「えー、実況席の方から定期アナウンスをさせていただきます。午前の部は次の試合で最後となります。次の試合が終わり次第に一時間の休憩を挟みますため、席を外す際にはお荷物をお忘れにならないようお願いいたします。えー、定期アナウンスの方は以上となります。それにしてもですね、今日は初戦からたくさんの期待のルーキーによる熱い試合の数々をお送りしましたが、サカシロさん、どの試合もこれからの成長に期待できるものが垣間見えましたね」

 

「そうですねー。今日は特に新人ポケモントレーナーによる活躍が目立っておりますが、皆さんタイプ相性をしっかりと把握しておりますし、その場に相応しいわざをポケモンに命じていけるその判断力が、これからのジムチャレンジをより盛り上げてくれるだろうなと思いましたねー。特に、あれが良かったです。レミトリさんが二体目に繰り出したプテラに対して、思わぬ善戦を見せてくれたワンリキー。持ち前のこらえるとみきりで粘り強い戦いを見せてくれたあの試合は、ずっと力が入りっぱなしでしたねー」

 

「あの試合は中々なものでした。会場の方々も思わず立ち上がってしまうくらいで、我々も力が入りすぎて半分実況できませんでしたからね」

 

「ですねー。うおー!! とか、うわああああ!! とかが多くなってしまいましたねー。ハハハ」

 

 マイク越しに緩い会話がスタジアムに響くその中、入場口から伸びてきた一つの人影に実況席はすぐさま気持ちを切り替えていく。

 

「おっと、はい! ではそろそろ午前の部、最後の試合となるわけですが、どうやら今回のチャレンジャー、あの、例の、」

 

「おっとー、もしや……単騎?」

 

「ですね。いえ、一昨日にもそういうチャレンジャーはおりましたし、そのチャレンジャーも中々に良い試合を見せてくれました。しかしさすがはハクバビレッジのジムリーダー、シナノ地方の大空を支配する男レミトリ。その翼は我々を天から見守る守護の加護とも言えるでしょうが、同時に兼ね揃えた鋭利な鉤爪は数多の挑戦者をことごとく討ち取って参りました。大空で勇猛果敢な挑戦者を待ち受けるその男は、いくらチャレンジャーの手持ちポケモンが一匹だけであろうとも決して容赦はいたしません。その加減知らずの采配によってポケモントレーナーを引退したトレーナーも数知れず。果たして今回の単騎チャレンジャーは、大空を羽ばたくシナノの翼に勝利を収めることができるのでしょうか! さあ、午前の部、最後の試合。我々一同で見守っていきましょう!!!!」

 

「よろしくお願いしますー!!」

 

 

 

 少ない歓声を浴びながら歩き進めるスタジアムの中。一歩一歩踏みしめる足取りはとても重くて、圧し掛かる重圧なプレッシャーによって今にもアタシは倒れてしまいそうだ。

 目の前にした、反対側の入場口。上にはハクバビレッジのジムを象徴する、鳥の翼のシンボルが飾られている。その入り口からも歩いてくる一つの人影が、アタシに向かって……いや、スタジアムの中央に向かってその足を進めていた。

 

 中央で立ち止まるアタシ。足元には白い線でモンスターボールのマークが描かれており、ここで一旦足を止めるのがジムチャレンジにおけるルールの一つ。アタシがそこで佇んでいる間にも、目の前から迫る重圧なプレッシャーが、一歩ずつ確実に近付いてくるのだ。

 

 凛々しい顔で、この上ない威圧感をまとう人物。わずかに響き渡る歓声と、実況席から聞こえてくる音声も次第とアタシの意識から遠ざかり、気付けば半径数メートル以内の物音しか聞こえない境地へと至っていた。

 

 同じくマークで足を止める彼。それを見上げる形でアタシは向き合うと、彼は凛々しいその顔で、笑んでみせた。

 

「昨夜は、ありがとうございました。あのお店で交わした会話が、今でもこの脳裏で反響しております。それほどまでに、ヒイロさんとの交流を楽しめた証拠でございます。ジムチャレンジは数ヵ月と続く行事でございますから、日に日に募る疲労によって精神的にも参ってしまうものですが。ヒイロさんとの交流で、久方ぶりにリフレッシュができました。――その上、シナノの伝統を継ぐ者として、ジムリーダーとして、長きに渡る戦いの果てに緩んでしまった意識をしっかりと正すことができたのですから」

 

 右手を胸の前に添えるレミトリさん。凛々しく佇むその姿は、まるで羽を休めるために降り立った鳥の神様のようだ。

 そして、意識を集中させることで力んだ表情。その気持ちは既に、ヒイロという人物を見る目ではなく、チャレンジャーを迎え撃つべく宿した闘争の目へと変貌を遂げていた。

 

 アタシらの傍には、審判が旗を持って歩いてくる。双方を確認した審判は厳つい顔で握手を促し、アタシはレミトリさんと握手を交わしていく。

 そして、それぞれが立つ位置へと移動することを促された。アタシはレミトリさんと同じタイミングで背を向けて、チャレンジャーが立つポジションまで移動を終えると、再び振り返って、バッグに手を入れた。

 

 ――緊張が迸る。ピリピリとした空気は身体の芯にも染み渡り、それが痛いとも感じられて手が震えてくる。

 

「ルールは二体選出のシングルバトル! ただし事情がある場合、一匹のみの選出も可能とする! キズぐすりといったどうぐの使用は不可。使用が認められた場合、使用者を失格と見なす! ポケモンにどうぐを持たせることも不可とする。こちらも発覚した場合には失格と見なすが、事情がある場合のみ持ち込み可能とする! なお、ポケモンの交代は各選手につき一度のみ可能とする! ——では、両者、モンスターボールを!!」

 

 審判の合図が聞こえてくると同時に、アタシはバッグからモンスターボールを取り出した。レミトリさんも袖から取り出したそれを手に持ち、アタシをじっと捉えていた。

 

「構え!!」

 

 審判が手に持つ旗を前へ出す。それを受けてアタシらはモンスターボールをいつでも投げられる状態にしておくのだ。

 ……ボールを持つ手が震えている。あまりの緊張で、今にも落としてしまいそうだ――

 

「両者、ポケモンを!!」

 

 審判のそれを合図として、アタシとレミトリさんは、スタジアムの中央へとモンスターボールを投げた。

 

「お願い!! サイホーン!!」

 

「見定めましょう!! 行きなさい、ペラップ!!」

 

 スタジアムに降り立つ、二つの影。一匹は、着地すると共にその重量で砂埃を巻き上げた、表情ひとつ変えないその顔に荒々しく猛る闘志を宿したサイホーン。もう一匹は、頭部が音符の形をしている、彩色が豊かな鳥ポケモン。

 

 アタシは、そのポケモンを初めて見た。名前はペラップというらしい。大きさこそはサイホーンよりも遥かに小さい鳥ポケモンなのだが、レミトリさんが選出したのだ。きっと、このサイホーンに打ち勝つほどのポテンシャルを秘めていることは確実……。

 

 睨み合うサイホーンとペラップ。互いに闘いの意思を宿しながら向かい合うその空間がしばし続くと、双方の準備が整ったことを確認したのか、審判はその手に持つ旗を思い切り振り上げた。

 

「これより、ハクバビレッジのジムバトルを開始する!! 互いに能力を発揮し合い、正々堂々のバトルを行うように!! ——では、ジムバトル……始めェ!!!!」

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