ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・レミトリ その1

「これより、ハクバビレッジのジムバトルを開始する!! 互いに能力を発揮し合い、正々堂々のバトルを行うように!! ——では、ジムバトル……始めェ!!!!」

 

 それは、バトル開始を合図する闘争の幕開け。審判が旗を振り上げるのとほぼ同時に、レミトリさんは凛々しい佇まいでペラップへ指示を送り出した。

 

「ペラップ! ばくおんぱ!!」

 

 指示と同時に、アタシの視界は音圧による空間の歪みと向き合うこととなった。バトル開始と同時に放たれた広範囲の一撃は、チャレンジャー側の視界を妨害するのに一役買っていく。

 距離が遠いため、それを食らうことはなかった。しかし先手を取られたことで初動が遅れたアタシは、サイホーンに接近を指示するその間にも、レミトリさんは独壇場をつくり出すための戦略を次々と繰り出していく。

 

「みがわり!! エアカッター!!」

 

 ばくおんぱの名残を通り抜けたサイホーンの目の前から、突如としてペラップが現れる。それが攻撃を繰り出してきたためサイホーンがすてみタックルで迎え撃つのだが、ペラップはそれに直撃すると同時に、二重の姿を映し出していく。

 

 な、なにが起こっているの!? 二匹になったそれにアタシが驚いているその間にも、まるで脱皮したかのように一匹のペラップから抜けて出てきた、もう一匹のペラップ。攻撃を食らったペラップは中身の無い抜け殻となって吹き飛んでいき、その間にももう一匹のペラップが、エアカッターによる空気の刃をサイホーンへと飛ばしてくるのだ。

 

「サイホーン! ロックブラスト!!」

 

 サイホーンに命じたそのわざは、サイホーンの体内に巡るいわタイプの技エネルギーで生成された岩を発射するもの。それを複数回にわたって行うので、連続攻撃となる。

 ロックブラストで、飛んできたエアカッターを相殺していく。タイプ相性では勝っているこちらの攻撃はエアカッターを貫通するのだが、ペラップは既にその場を離れており、再びばくおんぱでこちらの視界を遮ってくるのだ。

 

 これには実況解説ともに身を乗り出す。

 

「初っ端からペラップでばくおんぱ戦術ですか!! レミトリさんどうやら今回はかなり気合いが入っている様子ですね!! チャレンジャーが単騎であることを分かっていてこの猛攻、レミトリさんの闘志にはバリバリ火がついているとでも言うのか!? 今ここに立っているレミトリさんは、今日見てきた中でも特にフルスロットル全開と言うべきでしょう!! 単騎のチャレンジャーに対して、短期決戦といったところかーーー!?」

 

「いやー、白熱とした開幕でそのギャグは寒いですよー」

 

 冷静な解説のツッコミも、その猛攻を前にしたアタシには聞いている余裕がまるでない。

 ロックブラストを命じて、ばくおんぱの先にいるペラップを狙っていく。だが、ペラップはその小さな身体で機敏に飛翔すると、すぐさまサイホーンへと接近して次なる攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

「エアカッター! すぐさま、はがねのつばさで側面を狙ってください!」

 

 繰り出されたエアカッター。ロックブラストを撃ち終えたサイホーンへと襲い掛かるその空気の刃は、こうかがいまひとつだ。しかし、本命はその先から突っ込んでくる技にある。

 レミトリさんは、サイホーンの弱点をよく理解していた。そもそもとしてサイホーンというポケモンは、基本的に直進しかできない身体のつくりになっている。その都合上、左右への回避が困難であるため、サイホーンを扱う上で最も重要となることは、如何に直進しかできない制約の中でうまく立ち回れるか、にあるのだ。

 

 アタシは、この戦法を訓練中にもされたことがある。コタニの山で、野生ポケモンがこの戦術をとってサイホーンをダウンまで追い込んできたのだ。

 野生が自然の知恵で身に付けてもいるこちらの戦術。アタシは絶対にこれだけは対策しないとダメだと思い、サイホーンのできる範囲で精一杯に練ってきた。

 

 その結果が、これだ――!!

 

「ドリルライナー!!」

 

 命じたそのわざで、サイホーンは回転力を身に纏い始めた。

 えぇ、分かってる。ドリルライナーはじめんタイプのわざ。ひこうタイプのペラップに対してこうかがないことくらい、アタシは把握の上。

 

 だからこそ、使っていくのだ。アタシはラルトスのテレポートで学んだ。どんなわざにも、必ずそれを役立てる場面があるということを。相性が悪くて持て余してしまったそのわざであろうとも、戦闘面以外で期待が持てればそれで結構!!

 

 サイホーンは弾丸の如く回転を始めると、その場から垂直に飛び上がって上空へと移動する。地面に足を着けていたその場所から真上へ移動したそれを受けて、ペラップははがねのつばさを地面に叩き付けて上を見遣った。

 

「そのまま、すてみタックル!!」

 

 ドリルライナーの回転をまとったまま繰り出すその一撃。ノーマルタイプの中でも最強の威力を誇る強力なわざを、反動無しでぶつけることができるサイホーンのいしあたま。

 勢いはそのままに、サイホーンとは思えぬ高速のタックルでペラップへと接近した。レミトリさんも意外そうな顔を見せながらも、冷静に見極めてペラップへとわざを指示する。

 

「身代わり!! そこからエアカッターを撃ち、わざの反動で距離を取ってください!」

 

 確かにすてみタックルが直撃した感触。だが、強力な一撃をかましたそのペラップには、中身が無かった。

 抜け殻を盾にしたペラップはエアカッターを放ち、それをサイホーンに当てていく。攻撃を食らうも怯まないサイホーンが捉えたそのポケモンは、距離を置きながら次なる作戦へと取り掛かっていくのだ。

 

「りんしょうを周囲に設置してください。それからエアカッターで迎え撃ち、近付いてきたところをばくおんぱです! はがねのつばさは、相性こそは有利で抜群を期待できますが、サイホーンに接近戦を挑むのは得策ではありませんからね。ですが、最優先に狙っていくわざでもあります。タイプ相性で、長期戦はこちらが不利です。戦況を見極めながら、泥臭くも勝利を収めましょう。そのチャレンジャーが、このハクバビレッジジムのバッジを持つべきかどうかを見極めるための試練です。これは、私たちも試されていることを意識してください」

 

 ペラップが放つりんしょうというわざは、その音符の形をした頭部に相応しい、音符上の技エネルギーを漂わせる攻撃だ。フワフワと滞在し、それに触れるとノーマルタイプの技エネルギーが襲い掛かる。あれをスタジアムのあちこちに設置してくると、ペラップはエアカッターでサイホーンへの攻撃を始めてくるのだ。

 

 距離を置かれてしまうと、サイホーンの機動力的にかなりキツい。ロックブラストを当てようにも距離が遠く、射程距離範囲外なのだ。

 そして、レミトリさんはサイホーンが近付いてくるのを待っている。受け身の姿勢なのだ。……なら、やってやろうじゃないの!

 

「ドリルライナー!! その回転力で着実に距離を詰めて!」

 

 指示したわざでサイホーンは跳躍する。すると、あの四足の身体は纏ったエネルギーでまたもや高速の移動を可能とし、それは直進ながらも跳んで走ってを繰り返すジグザグ走行でペラップへと接近していくのだ。

 

 りんしょうのトラップも、ドリルライナーの機動によって難なく避けていく。思った以上のゴリ押し戦法に、レミトリさんは若干と悩む様子を見せながらも確実に的確な判断を下してくるのだ。

 

「想定よりも速い。エアカッターだけではあの猛進を抑え切れない。ならば、ペラップ! 六つ目のわざも解禁しましょう! 出し惜しみをしていたら、この勝負は敗北します! どろかけ!!」

 

 どろかけ!? 隠していたわざが案外ショボかったもので、アタシは内心でとても驚いていた。しかし、レミトリさんが覚えさせているわざでもあるため、決して油断はできない。

 

 繰り出すエアカッターを一旦止めたペラップは、じめんタイプの技エネルギーをスタジアムの地面に流していくことで泥を生成。それを翼につけて宙に巻き上げると、再びエアカッターを繰り出すことで泥を纏った空気の刃をサイホーンへと浴びせてきたのだ。

 

 質量が加わった空気の刃は、慣性がついて山なりを描く軌道となった。しかもサイホーンの着地地点に泥を仕掛けることで、こちらの足を奪う作戦でもあったのだ。

 

「ロックブラスト!! 飛んでくるそれを打ち消しながら、堪えて!」

 

 命じた岩の攻撃で、泥付きのエアカッターを相殺していく。しかしタイプ相性でじめんを持つあちらがロックブラストに有利であるためか、完全に打ち消しきれない。サイホーンの判断でドリルライナーが繰り出されると、その回転力は縦だけではなく、横へも移動できる側面への機動力で猛攻を凌ぎ切っていく。

 

 レミトリさんはレミトリさんで、このドリルライナーの使い方に苦戦していたようだ。この戦法を見てからというものの終始難しい顔をしていて、今も対策を練るために思考を巡らせていたようだ。大丈夫、アタシらが有利を取れていることに代わりは無い。

 

 そして、ペラップの泥が尽きた。これを待っていた。またしてもどろかけで弾を補充するんだろうけれど、アタシはこの装填の隙を狙っていたのだ。

 

「今!! ドリルライナーで近付いて!!」

 

 命令の瞬間にもサイホーンが走り出し、その回転力によって発射された大砲の如くペラップへと突っ込んでいった。

 どろかけを命じる余裕が無い。ドリルライナーという相性無効のノーマーク技に手こずるレミトリさんは、凛々しくも力強い指示でペラップへとわざを言い渡した。

 

「仕方がありません! りんしょうを設置して進路を妨害! そのままばくおんぱを放ち、はがねのつばさで迎撃を!!」

 

 音符を口から出し、サイホーンの進路上に設置。そのままペラップはばくおんぱを撃つ準備へと取り掛かる。

 

 サイホーンのドリルライナーは、りんしょうによってわずかに速度を落としてしまった。この落ちた速度がペラップの命運を分けたと言っても過言ではないだろう。

 迫るサイホーンが目前まで来たところで、ばくおんぱが放たれた。こうかはいまひとつだが、視界を遮る防壁としては十分。そこから繰り出されたはがねのつばさが、ばくおんぱの波から現れてサイホーンへと襲い掛かる――

 

「メタルバースト!!」

 

 命じられたそのわざを耳にするなり、レミトリさんとペラップは瞬間的に躊躇いを見せていったのだ。

 ペラップの攻撃が、直前で止まる。命じてもいないペラップの独断を目にすると、アタシは考えるよりも先に、そのわざをサイホーンへと命じていた。

 

「すてみタックル!!」

 

 突き上げるような挙動で、その命じた一瞬でノーマルタイプ最強の威力をペラップへとぶちかましたサイホーン。ばくおんぱの波が残るこの空間で、ペラップが高く撥ね飛ばされた。

 追撃でドリルライナーを命令し、あのサイホーンが空中まで追ってくるのだ。この追撃を食らえばひとたまりもない。レミトリさんはすぐにも緊急回避のあのわざを指示するのだが、アタシはアタシで、それを最も嫌っていた戦法であったため、これを予測して更に命じていく。

 

「ペラップ! 身代わり――」

 

「ロックブラスト!!」

 

 目と鼻の先まで迫っていたサイホーンの岩が、抜け殻を吹き飛ばしてその先の離脱した本体へと照準を合わせる。連続技の強みが最大限に活かされたこの場面は、逃げの一手である相手を完全に仕留め切る決め手となったことは、言わずもがな。

 

 距離を取ろうとしたペラップが、次のロックブラストを食らって落下する。そこへサイホーンは追加でロックブラストを当てていき、さらにはドリルライナーの回転力で接近するなり、零距離ですてみタックルをかましていく。

 

 スタジアムに落下した双方。立ち込めた砂煙からは、表情ひとつ変えないサイホーンと、倒れてピクリとも動かないペラップの姿が現れた。

 

 ――まずは一本!! 審判が「ペラップのひんしを確認!! ペラップ、戦闘不能!!」の言葉を言い渡した。

 

 それを受けて、レミトリさんは若干くやしそうな顔でアタシを見てくる。

 

「お見事です。これは接待やひいきでもなく、力量と采配によって、力でねじ伏せられた結果でございます。ドリルライナーの使い方に、今回は私が一杯食わされました。完敗です」

 

「なにも、これはサイホーンだけの結果じゃないの! これは、応援しているラルトスがアタシに気付かせてくれた立ち回りなんだから!」

 

「チャンピオンが期待を寄せるだけはありますね。だからなのでしょうか……」

 

 段々と抑えるような声になってきたレミトリさん。取り出したモンスターボールでペラップを戻し、健闘を称える一言を添えていく。それから、袖から取り出した次のモンスターボールを手に取るなり、レミトリさんはそのセリフを口にしてきたのだ。

 

「先入観というのは、実に恐ろしいものです。伝統をなによりも第一としてきた私ですが、所詮、私も人間。沸々と煮え滾ってくる感情を抑えられるほどの仏の心も持ち合わせておりませんので、こうして一杯食わされた事実にひどく昂っております。……シナノ地方の歴史を重んじ、シナノ地方の発展を願う祭典であることは百の承知ではありますが、どうしても、今は私情を挟まずにはいられないようです。――私、大の負けず嫌いなんですよ」

 

 昂る感情は、興奮か、怒りか。どちらの判断もつかない彼の声音にアタシが圧倒されていると、彼は取り出したそのモンスターボールを、凛々しくも力強いスイングで投げつけた。

 

「チャンピオンと同調する者としてお見受けいたします。故に、私はその道を遮断する門番となりましょう!! 遠慮は要りません、参りましょう!! エアームド!!」

 

 繰り出された、二体目かつ最後のポケモン。モンスターボールから姿を現したそのポケモンは、鎧のような金属の身体を持ち、赤い羽根とその鋭い頭部が特徴的だ。

 エアームド。ひこうタイプは持ち合わせているとして、見るからにはがねタイプであるそれ。サイホーンの弱点の一つがはがねタイプである上に、本来なら相性が良いひこうタイプと、相性が悪いはがねタイプの複合タイプとなれば、その相性はプラマイゼロ。こちらは有利を取れるわざを持っていないため、ひこうタイプに強いサイホーンであるにも関わらず、相性で言えば完全にこちらが不利の状況となっていた。

 

 ……レミトリさん、少しだけ本気を出してきたな。ゴクリと唾を飲むアタシは、さらに高まってきた緊張と興奮の二重奏に心臓を打ち鳴らしながら、サイホーンを信じて最終局面へと臨んでいった。

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