ポケモンと私   作:祐。

28 / 104
VSジムリーダー・レミトリ その2

 まずは一本。一体目のペラップを撃破したことにより、アタシはリーチをかけた最後の局面へと突入する。

 とはいえ、アタシの手持ちは一体のみ。元々からレミトリさんにリーチが掛かっていたことから、泣いても笑ってもこの戦いが最後の戦闘となるのだ。

 

 試合の流れから、アタシは引き続きサイホーンを続投。一方レミトリさんも、最後の一体となるポケモン、エアームドを繰り出してきた。

 エアームドは、見るからにはがねタイプだ。アタシがタイプ相性をしっかりと覚えているのであれば、サイホーンはエアームドに対してガン不利であるという結論ばかりに辿り着く。

 

 この対面から察するに、レミトリさんも少しだけ本気を出してきたということか。そんなことを悟ったアタシは、不利を背負ったこの場面において一層と心臓の鼓動を速めていく。

 内心ではとにかく不安だったからだ。『このアタシが本当に、あのレミトリさんに勝つことができるのだろうか。』未だ見えない未来に不安ばかりを抱いてしまいながらも、それでもアタシはできることをひたすら尽くしていくの心意気で、サイホーンの背を見遣っていった。

 

 気持ちは既に次を向いていたこの意識。しかしスタジアムでは未だに、先ほどのペラップとの戦いによる熱が残っていたらしく、そのことについて実況と解説がなにやら会話を交わしていた。

 

「いやいやいやいや、一戦目からとても白熱としたデッドヒートが繰り広げられたものですが! しかし、これがまだ一体目だぞと我々に思い知らせるかのように、レミトリさんは次のポケモン、エアームドを出してきましたね!! 開幕からペラップによる猛攻が熱い展開でございましたが、そこからサイホーンのまさかの機動力が活きて、それが勝敗を分けるとは思いもしませんでした!! 今回の試合は、面白いよりも驚きが目立ちますね。サカシロさんはどうでしょうか」

 

「えぇ、わたしとしても大体そんなかんじです。ペラップというポケモンが、レミトリさんが得意とするポケモンであることは、このハクバビレッジでの試合を見てきた我々も既に分かっていることなんです。ですから、ペラップを采配するその安定感には、一種の安心感さえもありましたからね。それを打ち破るだけではなく、サイホーンという所謂鈍足ポケモンという認識に新たな可能性を見せてくれた今回の試合は、間違いなく今後、サイホーン系統のポケモンの再評価に繋がるかと思います」

 

「サカシロさんありがとうございます。インターバルもそろそろ終えることでしょう。既に睨み合う双方がバチバチと火花を散らしておりますが、審判が手に持つ運命の合図も、今にも……振り上げられました!! 第二試合の開始であり、単騎のチャレンジャーによる最後の戦いの幕が今、上がりましたー!!」

 

 振り上げられた審判の旗。「バトル……始めェ!!!!」の合図と同時に動き出したのは、やはり手慣れたレミトリさん。エアームドという未だ未知数のポケモンと対峙したアタシに対しても、その采配はとても容赦の無いものであった。

 

「エアームド! がんせきふうじ!!」

 

 命じられたその言葉と共に、エアームドはいわタイプの技エネルギーで複数の岩石を生成し、それをサイホーンへと投げつけてくる。

 こうかはいまひとつ! アタシは一気に攻め立てるべくすてみタックルを指示するのだが、サイホーンが走り出したその目の前に、がんせきふうじの岩石が落ちてきたのだ。

 

 行動を読まれていた!? 少々と安直すぎたかと思うアタシであったが、どうやらその考えも間違っていたもよう。降りかかる岩石はサイホーンを囲うように落ちてくると、続けてエアームドは飛翔して上空から攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

「すなじごく!!」

 

 エアームドの両翼から漂い始めたじめんタイプの技エネルギー。それが渦巻きエアームドを包むと、この砂煙はエアームドの意思によってサイホーンへと襲い掛かってくる。

 これを避けるべくアタシはドリルライナーを指示するのだが、サイホーンがこの回転力で側面へ移動しようとしたところ、真横にあった岩石に当たってうまく動けずにもたもたしてしまっていた。アタシはこの瞬間にもがんせきふうじというわざの意味を思い知り、深く絶望することになる。

 

 ――岩が邪魔で、サイホーンが自由に動けずにいたのだ。そこでサイホーンへと襲い掛かるすなじごくがその足元を包み込み、まるで砂漠の蟻地獄に嵌ったかのように足が砂に沈んでしまう。

 さらに機動力を削がれてしまった。身動きが完全に取れなくなったサイホーンが、上空から一直線を描いて飛行する鋼鉄の彗星を捉えていく。

 

「エアームド! エアスラッシュで存分にいたぶりなさい!」

 

 赤い羽根から繰り出された、エアカッターをより鋭くした一閃の空気の刃。空間に存在する空気を尖らせた見た目のそれがエアームドの翼によってつくり出されると、それは瞬間的にサイホーンへと到達してダメージを与えていく。

 この一撃は、見た目通りの鋭さをもっていたのだろう。この攻撃によって、こうかがいまひとつでありながらも表情を変えたサイホーン。食らうことで行動が一時的に止まってしまい、それはさらなる深みへと嵌る地獄の始まりでもあった。

 

 それを何度も浴びせられていく内に、サイホーンの足元はどんどんとすなじごくの深みに嵌っていく。負の循環に陥ってしまったこの状況で、レミトリさんはさらなる追い打ちを行うためにそれを指示し始めたのだ。

 

「怯んだら、がんせきふうじでさらに周囲を固めてください! 油断は禁物です。あのサイホーンはこれまでの常識が通用しないという認識で、慎重かつ丁寧に攻めていきます! すなじごくの効果も切らさぬよう徹底的に撒いていきます! あの機動力さえ削いでしまえばこちらのものですから」

 

 凛々しい顔で冷静にそれを言うレミトリさん。エアームドもこれに従って、がんせきふうじでサイホーンの周りを更に岩石で囲ってくる。

 このままではジリ貧だ……! 最後まで反撃もできないまま終わる展開を恐れたアタシは、サイホーンに接近ではない攻撃を命じて負のスパイラルからの脱却を試みる。

 

「ロックブラストでエアームドの動きを止めて!!」

 

 サイホーンからも繰り出されるロックブラスト。エアームドから放たれるがんせきふうじを狙ったそれは、タイプ一致というサイホーンと同タイプによるわざの威力が増加する効果によって、着実にそれらを破壊してこれ以上の悪化を防ぐことに成功した。

 しかし、これに手間取ってエアームドからの攻撃を完全に防ぎ切れずにいた。放たれたエアスラッシュは再びサイホーンに直撃。こうかはいまひとつながらも追加効果がてきめんで、サイホーンはこの鋭い空気の一撃で怯んでしまうのだ。

 

「すなじごく!! ここから一気に決めましょう!」

 

 エアームドはすなじごくをまといながら、サイホーンへと接近を始めたのだ。何をしてくるのか、その目的が全く分からない。でも、あちらから接近してくれるのなら、この好機を逃すわけにはいかないんだから……!!

 

「サイホーン! 足元のすなじごくにドリルライナー!!」

 

 こちらの命令を受けて、サイホーンは回転力を足元に集中させた。

 じめんタイプの技エネルギーによって、自然と回転の力がサイホーンの周囲に巡り出す。この力に、同じタイプのそれも反応を示したのだろう。すなじごくはサイホーンの周囲を巡るように浮かび上がり始め、次第と足元からはそれが取り除かれていったのだ。

 

 この様子に、レミトリさんはすぐさまエアームドに命じていく。

 

「変更です!! すぐさまサイホーンにエアスラッシュを当て、はがねのつばさで追撃してください!!」

 

「さっきからちまちま攻撃してばかり! これじゃアタシのサイホーンの見せ場が無いじゃんか!! そんなのヤだ!! サイホーン!! 周りの岩石にすてみタックル!!」

 

 すなじごくを纏っていたエアームドは、ドリルライナーの回転力によって吸い寄せられたその砂に若干と引っ張られていた。このわずかな隙にサイホーンが動き出し、邪魔な岩石を撥ね飛ばすようにすてみタックルをかましていく。

 その撥ね飛ばされた岩石が、エアームドへと向かって飛んでいった。相手の攻撃を逆に利用する戦法は割とポピュラーなものであり、これも既に見慣れた光景なのだろうレミトリさんは冷静に見極め、エアームドに次の行動を指示していくのだ。

 

「飛んでくる岩石は、はがねのつばさで対処してください!! それと、がんせきふうじとすなじごくによる足止めはもう通じないでしょう。ですから、そろそろ“あれ”を展開していきます。エアームド、おいかぜ!!」

 

 指示されたその瞬間にも、アタシは肌でこの戦況が変化する流れを感じ取った。

 

 ブワッ!! っと地面から空へ向かって吹き出した強力な風。突然の出来事にアタシはスカートを押さえながら上空を見遣ると、そこには、翼を広げて悠々とした様で風に乗るエアームドの姿がそこにあった。

 

 太陽の日差しを背にした、逆光で映えるその鋼鉄。背後の明かりと黒いシルエットで空に羽を広げたその姿は、正に大空を支配する男の名にふさわしい悠然とした滞空でこちらを見下ろしていた。

 

 おいかぜに乗ったエアームドは、飛ぶことにエネルギーを割かなくなったことで身軽な様子を見せていた。その上空から地上のサイホーンを捉えていくと、エアームドは赤い羽根と黄色の眼光を向けながら、この空を支配する様を見せ付けてくる。

 

 これからにも実力と経験の差を思い知らせてやろう。それを言わんばかりにエアームドは余裕綽々な具合に羽を閉じると、その状態でおいかぜに乗りながら上空を移動し始めたのだ。

 

 エアームドが移動するその先に応じて、スタジアムに吹く風が方向を変えていく。これは確実に自然から生まれた力でないことを悟ったアタシはその瞬間にも、このスタジアムさえも支配したレミトリさんの優位に気付かされ、これからにも発揮されるひこうタイプのジムリーダーの本領に、翻弄されることとなるのだ――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。