ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・レミトリ その3

 エアームドが繰り出したおいかぜによって、戦況は一気にレミトリさんが掌握した。

 そのわざの効果は、ただ単に使用者へと風が吹くだけ。効果としては本当にただそれだけであるというのに、おいかぜによってエアームドが悠然と飛行を始めてからというものの、アタシは一気に勝負をつけられてしまうんじゃないかと予感した。

 

 察知した危機は間違いではなかったらしく、エアームドのそれを見た実況と解説の席が途端に騒がしくなる。

 

「来ましたね!! エアームドのおいかぜ! まず第一の関門とも言えるがんせきふうじとすなじごくの連係でしたが、サイホーンはそれを力業で突破したことで次なる策に講じたということでしょう! そして、これこそがレミトリさんの本領発揮とも言えるでしょう。こうしておいかぜに乗るエアームドは遊覧飛行といった具合に上空を飛んでいるが、それは直にも訪れる猛撃の前触れ。吹く風の音は清々しく涼しげなものでありますが、この透き通るような光景は嵐の前の静けさとも言えるでしょう! さて、単騎のチャレンジャーはサイホーンを駆使してここまで来たが、果たしてレミトリさんの遊撃部隊である鋼鉄の翼に抗うことができるのか!! 午前の部、最後の試合。張り詰めたスタジアムで睨み合う双方の戦いは、これにて決着となるかと思われます。我々も実況の席で、静かに見守ります。直に訪れる、猛撃の嵐へと立ち向かうチャレンジャーの雄姿を、この目で見届けましょう……」

 

 今もスタジアムを遊覧するエアームドの姿。たたんだ羽で面積を狭めたその姿勢で、エアームドは何とも器用に滞空していたものだ。

 アタシは、これからエアームドがどんな戦法で攻めてくるのかがまるで予測できなかった。その遊覧は、今までの攻撃と攻撃のぶつかり合いとは全く異なる場面をつくり出したからである。今ここでサイホーンにロックブラストを命じることもできるのだが……その思いとは裏腹に、今ここで攻撃を仕掛けた瞬間にも、それを図っていたかのように返り討ちにされてしまうかもしれないとも思いこんでいたものだから――

 

 しばしと様子をうかがうアタシとサイホーン。集中するその意識は互いに上空のそれへと向けていたものだが、サイホーンは先ほどにも受けたダメージによって、地味に疲労が蓄積されているようだった。

 エアスラッシュは、そんな大したダメージにはならなかったのだろう。問題は、すなじごくである。すなじごくはじめんタイプのわざであるため、いわタイプを持つサイホーンはこうかがばつぐんという実は相性が悪かった攻撃。これを受けた上に、すなじごくというわざが持つ性質によって徐々に体力を奪われたサイホーンは、しばらくと続いたこの張り詰めた空気で、より気力を消耗していく……。

 

 ぐらっ……。サイホーンの身体が揺らいだ。

 

 と、その瞬間だった。

 

「エアスラッシュ!!」

 

 一秒にも満たない隙を見出し、レミトリさんが指示したその言葉。アタシがそれを耳にした時にはすでに、エアームドはたたんでいた羽を広げて、二つの鋭い空気の刃をサイホーンへと繰り出していた。

 ほぼ同時にして流れが変化したおいかぜ。エアームドを浮かせるように吹いていたそれは地上に向かって吹く風となり、エアスラッシュの直後に羽をたたんだエアームドはその風に乗ってサイホーンへと急接近を始めたのだ。

 

 鋼鉄の槍が、意思をもって降りかかるその状況。先に放たれた二つのエアスラッシュはサイホーンのわずかな隙で突き刺さり、それを食らって怯むサイホーンの下へと瞬く間に接近を果たしたエアームド。

 

「はがねのつばさ!!」

 

 目に見える斬撃が走ると共に、サイホーンは鳴き声を上げながら吹き飛んだ。ほんの一瞬の出来事にアタシが理解できていないその間にも、エアームドは地上から吹いてきたおいかぜに乗って再び上空へと戻っていく。

 

 あのサイホーンが、攻撃を食らって初めて声を出した。その斬撃は今までに経験したことのない高速の一閃となったのだろう。視認できる銀の一筋がサイホーンに大ダメージを与えると、その行動がスイッチとなっていたのか、次にもエアームドはおいかぜに乗りながら怒涛の攻撃を仕掛け始めたのだ。

 

「がんせきふうじと、すなじごく!! おいかぜで着弾点を操作し、確実にサイホーンを仕留め切れるフィールドを整えていきましょう!」

 

 繰り出されるがんせきふうじ。まるで戦闘機の如きエアームドから出現したそれは、おいかぜの影響によって今までの倍近くの速さでサイホーンへと降りかかってくるのだ。

 ドリルライナーを指示することで、回転力に任せた横への移動で岩石を避けていく。しかしおいかぜはサイホーンの向かい風となっており、そのジャンプ力や移動速度は、一目で分かるほど一段と遅くなっていた。

 

 再びエアームドが、羽をたたんでこちらへと急接近を図ってくる。それを迎え撃つべくアタシもすてみタックルを命じるのだが、繰り出した高威力の突進は、おいかぜに乗るエアームドに軽く避けられてしまうのだ。

 それどころか、反撃をもらってしまった。通りすがりに撒いてきたすなじごくの砂がサイホーンに掛かり、全身がそれに嵌って身動きが取れなくなってしまう。この隙を逃すまいとエアームドはおいかぜを利用した宙返りを行うと、その軌道でサイホーンへと迫って強力な一撃を繰り出してくるのだ。

 

「はがねのつばさ!!」

 

「サイホーン! メタルバースト!!」

 

 直撃と同時に発動した反撃技。そのタイミングは完璧で、エアームドに手痛い一撃を食らわせた。

 

 と、思われた。

 

「いえ! エアームド、エアスラッシュ!!」

 

 ――フェイクだ! サイホーンに突き刺さる鋭い一閃。それに反応したサイホーンの反撃が発動すると、その鋼の光は確実にエアームドへと襲い掛かり手痛い反撃を浴びせていく。

 しかし、エアスラッシュによるダメージをより増した反撃など、サイホーンが食らった元のダメージが低かったためにあまり効果をなさない。それどころか接近を許したこの状況、アタシははがねのつばさを恐れてサイホーンに攻撃を命じていく。

 

「すてみタックル!!」

 

「がんせきふうじで周囲を固めてください!」

 

 サイホーンのすてみタックルは、おいかぜを纏ったエアームドを空振りしていく。こちらの攻撃の合間にも岩石を並べてはヒットアンドアウェイを繰り返すエアームド。そのムーブに対応できないアタシは、内心にひどい焦りを抱えることになった。

 

 ……どうすればいいの、この状況。さっきのはがねのつばさも、アタシがメタルバーストで反撃してくることを見越しての行動だった。ああやってフェイクを織り交ぜることで、アタシにメタルバーストを撃たせるべきかどうかの判断に迷いを生じさせる戦略なのだ。

 

 そして、今回は来ないだろうと高を括ったところを、はがねのつばさのまま突っ込んでサイホーンを確実に仕留める。それがレミトリさんの作戦であることも分かっていた。こうしてがんせきふうじとすなじごくを撒いているのは、ドリルライナーによる回避をしにくいフィールドをつくるため。その機動力を活かせる広い空間に障害物を撒いていくことで、アタシはドリルライナーに頼れなくなり、メタルバーストをしない限りその攻撃を受け流せないという一択の状況をつくり出すためのものなのだ。

 

 今もサイホーンへと岩石が落とされていくこの光景。それに対して何もしないわけにはいかなく、アタシはロックブラストを命じていく。

 サイホーンはそれに従って、エアームドに向かって攻撃を放った。これでがんせきふうじの岩石は相殺できるのだが、おいかぜを駆使するエアームドはそれらを軽々と避けていくと、通りすがりにエアスラッシュとすなじごくをお見舞い。食らったそれらの攻撃でサイホーンが体勢を崩し、本格的に窮地へと追い込まれたことを自覚する。

 

 ……負ける。このままじゃあ、負けちゃう。

 脳裏によぎった敗北の文字。成す術も無いと思い、この気持ちは一瞬ばかりか諦めの境地へと至っていたものだ。

 

 ――いや、まだだ。おいかぜに乗ることでサイホーンに反撃を許さないエアームドの姿を眺める。それをよく観察した上で、アタシはある博打に賭けてみることにした。

 

 その時を見計らう。今もエアームドはがんせきふうじでサイホーンの周辺に岩石を撒いていくのだが、向こうがフィールドを整えている間にも、こちらはこちらでドリルライナーによる回転力ですなじごくを取り払いながら相手の行動をうかがうのだ。

 待っている間にも、アタシはサイホーンにすてみタックルを命じることで周囲の岩石を退けていく。だが、その時にもエアームドは再びこちらへと急降下して接近してきたのだ。

 

 なるほど。邪魔な岩石を退けるためにわざを繰り出したところを狙ってくる戦法なんだ。どうしてこのサイクルを繰り返すのだろうと謎に思っていたものだが、こうして相手が暇を持て余したことで行う除去作業を誘うために、こんな回りくどい立ち回りを繰り返していたということだ。

 

 そして、エアームドがはがねのつばさを繰り出してサイホーンへ突撃してきた。これに対してもメタルバーストを匂わせるのだが、同時にアタシはとある瞬間を狙っていた。

 

 メタルバースト。いつ来る。レミトリさんとの心理戦。はがねのつばさで迫るエアームドが、直にもサイホーンと接触する。

 アタシは、レミトリさんを見た。レミトリさんもアタシの視線に気付いたものだが、すぐに戦闘へと意識を向けて逸らしていく。……これで十分。匂わせただけで、効果はある――

 

「サイホーン!! ……」

 

「ッ……!」

 

 すれ違う――!!

 

「ドリルライナー!!」

 

「……!?」

 

 ギリギリまで引き付けた。どうやら本気ではがねのつばさを当てに来たらしいそれは、本来であれば確実にサイホーンへ叩き込んでいたことだろう。

 しかし、生じた技エネルギーに素直な反応を示すのが、ポケモンという生物の性質だ。あのゴーストだってそうだった。ふゆうという特性をもつ関係上、サイホーンのドリルライナーをふわっとした挙動で無意識に避けてしまうもの。今回はそれがタイプ相性で当て嵌まったというだけであり、特段変わったことなどは全く行っていない。

 

 だから、エアームドの真正面から加えられたじめんタイプの技エネルギーに、エアームドは無意識に宙へ羽ばたいてしまってドリルライナーを無効化してしまうことは、なにも可笑しな出来事ではなかった。そうしてあらぬ軌道を描きながらはがねのつばさを空振りしていったエアームドは、距離を取るためすぐさまおいかぜで高速の滑空を行っていく。

 

 そのおいかぜこそが、アタシが見計らっていた本来の目的だった。

 

「サイホーン! 真上に向かってドリルライナー!!」

 

 アタシの指示と共にして、回転力をまとったサイホーンはその勢いのまま上へと跳躍していく。

 回転力が合わさったこのジャンプは、先のペラップ戦でも繰り広げたものだ。しかし今回はそれに加えて、エアームドが展開するおいかぜの効果も乗る――!

 

 同じ方向へと飛ぶエアームドと、跳ぶサイホーン。相手の効果を逆手に利用した手段によって地上から離れた二匹がスタジアムの宙を舞うと、アタシはようやくと捉えたその背中へと向かってロックブラストを指示していった。

 

 エアームドとレミトリさんがあっと驚いている。その隙を突くように、サイホーンは生成した岩を連射してエアームドへと当てていった。それが数発と直撃したところでエアームドはロックブラストから抜け出し、同時にレミトリさんがエアームドへとその言葉をかけていった。

 

「エアームド! 決して気を緩めてはなりません! お相手は、タイプ相性の最悪となる部分を利用するだけでなく、我々の風に乗って上空まで追い掛けてくるほどの執念の持ち主です! 深追いは禁物であることを肝に銘じ、私の采配を信じて行動してください! サイホーンの向かい風となるよう、おいかぜ!!」

 

「いいや!! それだよレミトリさん!! サイホーン、すてみタックル!!」

 

 待っていた。そう言わんばかりに命じたアタシの指示を受けてサイホーンが回転力を利用した一直線の突進を繰り出していく。

 今もエアームドの起こしたおいかぜに乗っていくその行動。エアームドはすぐさまレミトリさんの指示通りにおいかぜを起こしていくのだが、その向かい風はかえって自身の首を絞めることになるのはあちらも想定外だったことだろう。

 

 空中で十分に距離を詰めたサイホーン。これはおいかぜによって一気に減速するのだが、そこからロックブラストを放つことでエアームドにまたしても痛手を負わせていく。

 そうしてエアームドはこの場から離脱しようとする。の、だが、その身体はうまく逃避することができなかったのだ。

 

 その向かった先が、サイホーンに背を向けた、自身の後ろ方向。おいかぜは自身の背から流れてくるため、今エアームドが向かおうとしたその方向は実質、エアームドにとっても向かい風となる。

 想定外との遭遇に、レミトリさんは若干の焦りを見せた。すぐさまエアームドへとその指示を送るのだが、アタシはアタシで命令を出してこの絶好の機会を逃すまいとサイホーンを動かしていく。

 

「く……! エアスラッシュでサイホーンを怯ませ、おいかぜに乗った勢いではがねのつばさを!!」

 

「ロックブラストを盾にして!!」

 

 エアームドが羽による空気の斬撃を繰り出すのだが、その頃には目の前でロックブラストを発射せずに待機していたサイホーンのそれによって、斬撃はロックブラストを砕くのみで終わる。この行動にエアームドが若干と硬直したことによって、サイホーンは残りのロックブラストを一気に放出して全弾をエアームドに当てたのだ。

 

 これにより、エアームドは体勢を崩しておいかぜに流され始めた。サイホーンはサイホーンで落下を始めていたため、その体重もあって地上にすぐ降り立ち、そこから再びドリルライナーの回転力で跳躍することで、今も流されるエアームドの下へと追い付いていく。

 

「エアームド!!」

 

「すてみタックル!!」

 

 鋼鉄の鎧に、サイホーンの闘志が直撃した。鎧に身を纏うエアームドは、こうかがいまひとつでありながらも表情を歪ませて空中でよろめき、その崩した姿勢でサイホーンに押され、地上へと落下を始めたのだ。

 

 この勢いで落ちれば、エアームドもひとたまりではない。着実と手繰り寄せていった勝利への栄光にアタシは手を伸ばすが、レミトリさんもレミトリさんで、その意地を最後まで貫き通していく。

 

「力を振り絞り、おいかぜを!! そして、今まで隠していた六つ目のわざで、この戦いにケリをつけましょう!!」

 

 その指示と共に、エアームドはすてみタックルを食らったその状態でおいかぜを捻り出していく。そうして発生した向かい風はサイホーンのすてみタックルの勢いを抑える効果をもたらし、そこから脱出したエアームドは絶体絶命の危機から一転、更なる逆転の機会を得ることになる。

 

 そして繰り出された、エアームド最後のわざ。レミトリさんが戦況を見極め、的確なそのタイミングで放たれたエアームド渾身の一撃がサイホーンへと炸裂する――!

 

「エアームド! ドリルくちばしッッ!!」

 

 サイホーンと同じような回転力を纏い始めたエアームド。それは鋼鉄の鎧という身体も相まって威力はより増していき、さらにはおいかぜという自身の勢いを増幅させる効果を背中に受けながら、エアームドは力を振り絞った必殺技をサイホーンへとぶちかました。

 

 回転するエアームドの全身。その鋭い頭部からなる回転を受けたサイホーンは白目を剥けながらそのわざに圧倒され、おいかぜに乗ったこの勢いで地上に叩き付けられたのだ。

 

 その先に存在していた、がんせきふうじの岩石。巻き上げた砂埃から、それに叩き付けられて項垂れたサイホーンの姿。そして、身動きの取れないサイホーンへと向けた、エアームドの最後の一撃――

 

「はがねのつばさッッ!! これで、おしまいですッ!!」

 

 レミトリさんは全力の掛け声をスタジアムに響かせる。力強く突き出したその手で命じると、エアームドは鋭利に光らせた鋼鉄のブレードで、岩石もろともサイホーンに三連撃からなるはがねのつばさを浴びせたのだ。

 

 ――勝負あり。砕ける岩石のあったところには、白目を剥いたサイホーンが、その場に残り続ける……。

 

 ……身体から、鋼の光を放ちながら――

 

「メタル、バーストォォォォオッッ!!!!!」

 

「なに――ッ」

 

 紅の眼光が、目の前の鋼鉄を捉えていく。

 

 この時を待っていたぞ。それを告げるかのような瞳を目にしたエアームドは、次の時にも自身の残像を視認できるほどの速度でその場から吹き飛び、主の横を通り過ぎるなりスタジアムの壁に強く叩き付けられていた。

 

 

 

 …………一転して、静寂に包まれたスタジアム。これまで響かせていた戦闘の音や僅かな歓声も、この場においては何一つと聞こえてくることはなかった。

 

 審判が何度も何度も双方を見遣っていく中で、その影がむくりと立ち上がる――

 

「……サイ、ホーン」

 

 アタシは、今までに無いほどズタボロになったその勇敢な背中を見て、自然と涙を流してしまっていた。

 この時に思い浮かべるべき言葉は、どれが正解だったのだろう。ありがとう? ごめんなさい? ……いや、どちらでもない。

 

「……お疲れ様、サイホーン。すごく、っ、っ……。すごく、カッコよかったよ……っ!!」

 

 息を引きつらせながら言葉をかけていくアタシ。その雄姿を見た審判も判断基準に達したのだろう、手に持つ旗を思い切り上げるなり、「エアームドのひんしを確認!! エアームド、戦闘不能!! ——ゲームセット!! 勝者、チャレンジャー!!!!」のセリフと共に、上げた旗をアタシへと向けて、勝敗の最終ジャッジを下したのであった――――

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