ポケモンと私   作:祐。

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ユノ・エクレール

 そのお店で一番高いメニューに留まらず、奢る本人から促されて美味しいクレープも買ってもらったオオチョウ山の山道。

 昼前の時刻ということで、この日も多くの登山客や観光客で賑わいを見せるこの広場。これだけの人達がいれば、万が一彼女に襲われたとしても、アタシは誰かに救われることだろう。

 

 今もアタシの横では、その女性が歩いていた。彼女は目についた屋台に端から興味を示し、高身長でクールビューティな雰囲気を醸し出しながらも、白色のポニーテールを犬の尻尾のように揺らしながら屋台へと駆け寄っていくのだ。

 

 そして、気さくに店員へと話し掛けていくフットワークの軽さ。オオチョウまんじゅうという食べ物が売っていればそこへ駆け寄って、シナノ岩石という観光名所が視界に入ればそこへ吸い寄せられて、次々と目撃した物へと呼び寄せられるようにフラフラと移動していく彼女に、気付けばアタシと抱いているラルトスが、彼女の付き添いをしているような感じになっていた。

 

「ヒイロちゃん! ラルトス! これ見てよ!! メガネにヒゲが付いてる!!!!」

 

 そう言って、彼女はヒゲメガネを着けながらこちらへ振り向いてきた。

 いやいやいや、恥ずかしいからやめてよ……。なんて内心が顔に表れていたのだろう。そんなアタシの様子も彼女は面白そうにしながら、ちょっと目を離した隙に違う屋台へと移ってまたなんか手に取ってる。

 

 ――彼女は、『ユノ・エクレール』と名乗っていた。レストランを出てからオオチョウ山を歩き、あらゆるものに興味を示していくユノさんについていくこと一時間。ようやくと好奇心が収まってきたのか急にクールな佇まいを始めた彼女は、ふと思いついたかのように、アタシへとそれを言ってきたのだ。

 

「それで、貴女を襲ってしまった理由よね。立ち話もなんだから、どこかで座りながら話しましょう? 美味しいものを食べながら!」

 

 と言ってから、オオチョウ山の溢れ出す湧き水で造られた噴水の、その近くのベンチで腰を下ろした。手に持つ棒付きの大きなお肉を食べながら……。

 

「アタシ、いつでもラルトスでテレポートできるようにしておくから。もぐもぐ……」

 

「えぇ、構わないわ。はむはむ……」

 

 シリアスなその空気の中、二人で肉を食べていくジューシーな光景。なんだかこの場にそぐわない行為ではあるものの、すぐにも話を始めてきたユノさんの言葉に耳を傾けていく。

 

「まず、釈明をするにあたって、貴女に訊ねたいことがあるの」

 

「何なの?」

 

「そんな身構えなくてもいいわ。ただ――貴女達がどれくらい知っているかを、ちょっと訊ねさせてもらうだけだから」

 

 そう言うなり、こちらへと身体を向けてくるユノさん。

 

「“ルイナーズ”って、聞いたことある?」

 

「るいなーず? なにそれ? 呪文?」

 

「ん、じゃあ次」

 

 肉に一口つけていくユノさん。彼女が食事をしていると、口元についたお肉の油でさえもなんだか艶めかしく見えてきて、アタシはどこか話に集中できない。

 

 ……ちょっとお茶目な感じもするこんな人が、本当にアタシを本気で襲ってくるもんなのだろうか。なんて、疑っていた今までの気持ちが、わずかながらも緩んできてしまっていることを自覚しながら話を聞いていく――

 

「“マサクル団”って、聞いたことあるかな?」

 

「まさくる団? それも知らないけど」

 

「そっか、じゃあ次」

 

 アタシのお肉に、ラルトスは手を伸ばしていく。食べたいのかな。それを思ってお肉をラルトスに与えると、ラルトスは小さな手で持ちながら、もぐもぐと食べ始めていくのだ。

 感情を読み取ることができるラルトスが、ユノさんを前にして食事も始めていった。ラルトスも今までずっと警戒をしていたというのに……。

 

「“ギンガ団”って、知ってる? シンオウ地方で一時有名になってたんだけど」

 

「ギンガ団? ううん、それも知らない」

 

「おっけー。……」

 

 一通りの質問は終わったのだろう。少し考え込み始めたユノさんの表情は、とても真剣で、まるで言葉を選んでいるみたい――

 

「正直、貴女の返答に私は驚いてる」

 

「何を驚いたの?」

 

「なおさら、私は貴女達に謝らないといけない。まさか全く無関係の女の子を、私は勝手に疑ってかかってしまったものだから。本当にごめんなさい。私はあの時、試されている、と思ったの。今までに何度も見てきた光景だったから、今回もきっとそうなんだろうと思って、貴女達の力量を測るために本気で攻撃した……」

 

「ちょっと待って。アタシ、話がよくわかってない。無関係って、何と?」

 

「それこそ、貴女達には無関係の話。これ以上のことを知ったら、貴女達は消されるわ」

 

 …………?

 もっと分かんなくなった。ユノさんの言葉が意味深すぎて理解に至らず、ただハテナマークばかりを浮かべるアタシの顔を見て、ユノさんはむしろ、安心したと言わんばかりに表情を緩めていくのだ。

 

「ごめんなさいね。でも、もう大丈夫。貴女達はこれからも今までのような旅を続けて、もっともっと、たくさんのいろんなものを見てきてね。――じゃあ、貴女には私と関わる意味も無くなったから、私はこれで行かせてもらうわ」

 

 と言って、ユノさんはおもむろに立ち上がってアタシから去ろうとしたのだ。

 ユノさんは食べ終えたお肉の棒をゴミ箱に捨てると、アタシに背を向けて足早に歩き出す。これでアタシも本来なら無言のまま見送れば良かったんだろうけれど――

 

「ねえ!! ちょっと待ってよ!!」

 

 アタシの言葉で振り返ってくるユノさん。こちらはこちらでラルトスを抱えながら立ち上がり、若干ムスッとしながらもアタシは言葉を続けていく。

 

「話が一方的すぎて、アタシ納得いかないんだけど。で、結局あなたはどうして、アタシを襲ったの? それを知りたくて、ここまで付き合ったんですけど!」

 

「いい、ヒイロちゃん。世の中には、知らなくても良いことがあるの」

 

「でも、襲われた本人がまだ納得してないんですけど。アタシが納得するような、もっと具体的な話をしてくれるのを待ってたんだけど? こちとら、死ぬかもしれないってくらいに怖い思いをしたんだから、加害者のあなたはその分、アタシが納得するような誠意を見せなきゃなんじゃないの?」

 

 こう見ると、アタシの考えはひねくれていたかもしれない。

 でも一方として、やっぱり彼女をこのまま行かせてはならないような気もして……。アタシは自分らしくもない調子でユノさんを見つめていくと、少しして彼女は観念したかのように息をつき、こちらに戻ってきた。

 

 そして、耳元でそれを口にしてきたのだ。

 

「私と長く関わると、貴女とポケモン達が命を狙われる。怖い大人達に目をつけられたくないでしょ? だから、手短に話すわ」

 

「話の内容次第、だけどね。アタシにとって、あなたの言う命を狙われるとかどうとかの話も疑ってんだから」

 

「分かったわ。話せる範囲でお話しするから、場所を変えましょう」

 

 アタシの背を押すように歩き出すユノさん。噴水という公共の談笑が交わるその環境から逃げるように立ち去ると、アタシらは何も無いし誰もいない広々とした山の空間で立ち止まった。

 

「ここで、小声で話しましょう。こうして周囲が開けていれば、隠れて盗み聞きされにくいし」

 

「どうしてそんなに周りを警戒するの?」

 

「私が、そういう立場に置かれているからよ」

 

 真顔で答えるユノさん。これまで一度も見せてこなかった、こちらを突き放すような冷たい調子にアタシは口を噤むことにした。

 

 ――木々が風で擦れて音を立てていく。ガサガサと環境音のみが響き渡るこの空間の中、しばらくと耳を澄ませていたユノさんは、周囲のそれらに他の存在がいないことを感じ取ると、腹部付近で腕を軽く組みながら、彼女はそんな話を始めてきたのだ。

 

「あの時、貴女達に覚悟があるのかを試したの。どんな局面に立たされても動じないような、いつ迎えるかも分からない死と向き合い、恐怖を凌駕することでどんなに敵わない相手が立ち塞がろうとも、決して諦めず食らいつけるような。自分やその仲間達が傷つき死んでいく現実に耐え切ることができるだけの力を持っているのかを、私はあの時に試していたの」

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