ポケモンと私   作:祐。

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ショウホンシティ

 オオチョウシティ地域に属する連峰、オオチョウ山。そこを出発したアタシは自転車を軽快に走らせて、二つ目のジムがある街『ショウホンシティ』を目指していた。

 

 ショウホンシティへ近付くにつれて増えてきた、古風で美しい景色の数々。山の国と言うには珍しく周囲に山が見られないこの一帯には、人工的に整えられた植林と、複数に渡る大きな池。それらを繋ぐ赤い架け橋は和風を思わせる造りとなっていて、この上を自転車で駆け抜けるだけでも爽快感マックスでめちゃくちゃ楽しい!

 

 さらに進んでいくと、一面の池という海と見間違えるほどの大規模な水域と、それらに浮かぶように点在する陸上という光景。陸上には街であったり観光用の古風な建物が並んでいたり、陸上に限らず水上にも鳥居や楼門に、沈んだ神社のような建物を足場にする人々といった様子が見られるのだ。

 

 遥か先へと続くこの景色だが、これは飽くまで一つの地域の、一部分。アタシが目指すジムはもっともっと奥にある陸上に存在しているため、この水域に満たされた歴史的かつ広大な光景も、通過点に過ぎないのだ。

 とはいえ、休憩も大事だ。アタシは走らせる自転車で橋の前の門をくぐって『ショウホンシティ』に到着すると共に、どこもかしこも池というこの空間の中で、休める場所を求めて街に入る。

 

 自転車のカゴに入っているラルトスも、初めてのショウホンシティの景色に興味津々といった具合で見渡していた。

 良かったね、ラルトス。ラルトスは意外といろんなものに興味を持つから、こういった新しい発見をものすごく楽しめる、感受性豊かな性格をしていたものだ。――それと、ポケモンではないけどもう一人、とても似たような反応をする人がアタシの後ろからついてきているものだが……。

 

「ヒイロちゃん!! すごいわ!! あの建物、縦長の円形をしていて大きいホールケーキみたいだわ!! 色合いも白色で、美味しそうね!! 内装は一体どうなっているのかしら!? ――あぁヒイロちゃん!! あのレストラン、船の上にあるわ!! 川や海の上でなら食事したことあるけれど、池の上でランチだなんて一度もしたことないわ!! ぜひとも寄ってみたいわね!! ……あぁぁ!! ラルトス! あれ見て!! なんて面白い形をした石碑なの!? おまもりこばんをそのまま石にしたような!!!!」

 

「分かったからユノさん落ち着いて!!!! 周りから注目されて恥ずかしいから!!」

 

 アタシの後を追従するように自転車を走らせるユノさん。辺りの景色に目を光らせながら歓喜のままにこちらへと報告してくるのだ。

 その好奇心はラルトスに負けず劣らず。だからなのかラルトスとは意外と仲良くやれていたものだが、それにしてもこの人、黙っていれば美人なのに……!!

 

「ユノさん聞こえる!? 水上レストランで休もっか!?」

 

「いいの!? 私は見張られてる関係で貴女についていくことしかできないから、貴女の判断に全て委ねているから無理強いできないから!!」

 

 と言いながらユノさん、よくぞ切り出してくれましたと言わんばかりのテンションで、口早にそれらを言ってくる。

 全くこの人は……。とんでもない拾い物をしちゃったな、なんて思いながらアタシは水上レストランへと方向を変え、今もうるさいユノさんを連れながらそこでランチをとったのだった。

 

 

 

 陽が暮れ始めた夕暮れの時刻。黄昏は池に照らされて、それが水面に映し出されると煌びやかに反射されるのだ。

 宿をとったアタシは、その屋上で景色を眺めていた。前のめりになりながら手すりに腕を乗せているアタシは、今も横にいるラルトスがボーッと眺めている姿と、足元でじっとしているサイホーンの二匹に囲まれて佇んでいる。

 

 ……やっと到着したショウホンシティ。どうやらこの地域、シナノ地方の中でも三本の指に入るくらいの広さを誇るため、今いるこの場所も、広大な土地のその一部に過ぎないということなのだ。

 移動距離が長くなる、なんて考え方をしたら途方が無さそうだけど、探検できる範囲が広い、と考えれば一気にやる気が漲ってくるというもの。もちろん二つ目のジムに挑戦はするけれど、その間にも観光くらいしても構わないよね、なんて思いながら、アタシはバッグからスマートフォンを取り出した。

 

 ――ピピッ、パシャッ。写真のセンスはパパ譲りで皆無に等しいけれど、こんなに綺麗な景色なのだ、いくら下手でも味のある写真としてしっかりと映えるハズ。

 そんなアタシが撮影した写真が、夕暮れの金色が若干と逆光になっている、光り輝いているハズの水面が少し黒くなっているのと、隅っこにはラルトスの角が半端に写っているというオマケ付き。うん。我ながら良いセンスだ。それを思って十分に納得しながらアタシはパパにそれを送り、元気にやってますアピールをしてボーッとした。

 

 ……ハクバビレッジに来る前も、遭難したりして大変な目に遭ったものだ。そして今回も、不思議な体験というか、不思議な出会いをして、なんだか世界の深淵をちょっとだけ覗いたかのような遭遇を果たしたものだ。

 

 旅をしていると、いろんなことがあるな。密度の濃い毎日にアタシは神経をすり減らしながらも、自分なりになんとかやっていけてると自分を褒めて頷いていき、アタシはラルトスを抱えて、サイホーンを連れながら個室へと戻っていった。

 

 

 

「ゾロアーク、状況は?」

 

 月の光が発展した街に映える、十四階建ての大きなビルの屋上。チラチラと灯る街並みの明かりも遠いその場所で、一つの人影は風に吹かれながら佇んでいた。

 宵闇から舞い降りた、人型のソレ。音も無く着地して彼女に近付くと、持っていた石を手渡していく。彼女もそれを受け取ると、月の光へとかざしながら言葉を口にした。

 

「さすが、カンが冴えてる。やっぱり、あるとしたらショウホンシティね。取り敢えず“此処”も同じで良かった。今回はどの地方も今までと異なる文化だったり建物の配置だったりで新しいことばかりだったから、『コレ』もいつものようにショウホンシティで見つかるなんて正直あまり期待していなかったの。……ゾロアークもそうだって? やっぱそうよね」

 

 お尻のポケットから取り出した、小ぶりのイヤリング。風に吹かせたポニーテールと赤いタテガミが見守る中、彼女はそのイヤリングに先ほどの石を嵌めて、慣れた手つきで耳に着けていった。

 

 ――キラリと光る、石の入ったイヤリング。その後にも、赤色と黄色のラインが豪華な印象を与えてくる黒色のモンスターボールを取り出すと、それを傍にいるポケモンと眺めながら、彼女は低い声音で呟いた。

 

「これで、前の場所で破損してしまったキーイヤリングは直った。メガシンカも使えるようになったから、あとは“彼”の痕跡を辿るだけ。――今回こそは、絶対に食い止めないといけないわ。これまでの中で“彼”も学んできているから、おそらく次は無いと考えた方がいいかもね。……たった一人の身勝手な行いで、目の前のあらゆるものが滅んでいく。しかも、“此処”もそれと同じ末路を辿ったその時は……ゾロアーク、私達も“彼”の世界の一部となるのよ。そうなってしまったら、もう私達でどうこうできる問題ではなくなってしまう。この最悪な末路に達したら、全てが無へと帰したその空間の中できっと、“彼”とアルセウスが最後を賭けた戦いを繰り広げるのかもね――」

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