「サイホーン!! ドリルライナー!!」
その回転力を移動に活かすことで、本来サイホーンには備わっていない豪快な機動力を実現していた。
ドリルライナーによって数多のポケモンバトルを制してきたアタシとサイホーン。その能力であったり性格であったりと、アタシはサイホーンと相性がすこぶる良いと思われてきた。
でも、アタシらの快進撃は、ここに来て雲行きが怪しくなってきたのだ。
昼前のショウホンシティ。池に囲われたお城が見えるという和風テイストの景色が魅力的な公園で、アタシはサイホーンにキズぐすりを使用していた。
ボロボロになったその身体を治してあげて、アタシはサイホーンを撫でていく。今までにあまり見なかったサイホーンの満身創痍なこの状態に、アタシは「今回もよく頑張ったね」と声を掛けながら接していくのだが、サイホーンは表情こそ変えないものの、なんだか機嫌が少し悪そうに見えていた。
撫でるアタシの手に構わないといった調子でプイッとするサイホーン。そのままどこかへと歩き出していって、アタシへと振り向くことなく公園の中を散歩し始めていったのだ。
アタシは分かっていた。どうしてサイホーンがどこか不機嫌そうにしていたのかを。なにも最近の出来事で落ち込んでいたのはアタシだけではなかったという話であり、これは、バトルをしてくれていたサイホーン自身にも言えたことでもあったのだ。
今日も、野良試合でサイホーンの負けが目立っていた。いつものような力強い突進は見られなくて、ドリルライナーの回転力も心なしか弱まっている。ロックブラストは外してしまうし、メタルバーストのタイミングもあれほどまで自信があったはずなのに、アタシとサイホーンはその感覚が分からなくなっていた。
スランプだった。アタシとサイホーン共にして、ポケモンバトルという争い事に自信を無くしてしまっていたのだ。――それを頭では理解しているし、だからアタシもこのままじゃあいけないと思って、練習試合を増やして現状からの脱却を試みていたものだが……。
……ラルトスが歩み寄ってきて、「抱っこー」といったカンジでアタシに手を伸ばしてくる。アタシはしゃがんでラルトスを抱えながら立ち上がり、こちらへと背を向けて歩いていくサイホーンの背を眺めながらも、今のままじゃあダメだ……なんて内心で何度も何度も呟きながらこの公園で過ごしていった。
ユノさん、何処へ行ったんだろう。いくら連絡をしても電話は繋がらないし、それも昨日のジムチャレンジの後から、彼女の姿を見かけていない……。
彼女のことだから、心配は要らなかったかもしれない。しかし、それが頭の中で巡り始めると、なぜだか自分のダメさを責め始めてしまい、「あーヤダ……」だとか、「あークソ……」ばかりの小言を口にしてしまう。
気付けば夜になったショウホンシティ。今日も特に何もないまま、自身の成長も見込めない時間を過ごしただなんて思いながら、アタシはラルトスを抱えながらサイホーンの下へと向かった。
今も、池に囲われたお城が見える公園で佇んでいたサイホーン。こちらの存在に気が付くとサイホーンは振り返ってくるのだが、その視線はすぐにもアタシから外して、自身が向く方向へと遣っていく。
……アタシ、呆れられちゃったのかな。やっぱりアタシ、ポケモントレーナー向いていないんだ。なんだか悲しくなってきた気持ちに心の中で泣き始める。どこか寂しい気持ちもあってアタシはラルトスを抱きしめるのだが、そんなラルトスも、アタシの服を引っ張って……。
……いや、この子は何かを伝えようとしていた。今もアタシの感情を読み取っているのだろう。そのツノをピカピカと光らせながら、アタシの服を引っ張って、あっち、あっちと指を差していく。
その方向を向いていくと、目にする光景はやはりサイホーンが公園でじっとしている姿。アタシはどうしたんだろうと思いながらもサイホーンに近付くと、サイホーンはまたこちらを見遣り、そして、再び先ほど向いていた方向へと向き直る。
「……お城?」
サイホーンが何度も何度も向いてくるそれを見て、アタシは呟いた。
「サイホーン、あのお城に行ってみたいの? ――あそこ確か、『ショウホン城』っていうかなり有名なお城なんだけど、なに、サイホーンって意外と観光を楽しんでたりするの?」
しゃがんでサイホーンと視線を合わせていくアタシ。抱えたラルトスもツノをピカピカと光らせてサイホーンへと向いていき、またアタシへと向いてきてはニコニコとした表情で「うんうん」と頷いていく。
「へぇ、そうだったんだ。……あなたの気持ちに気付けなくてごめんね。やっぱりアタシってダメ――ううん、サイホーン、教えてくれてありがと。明日、あのお城に行ってみよっか」
サイホーン、意外とアクティビティなところあるなぁ。
言われてみれば、アタシと初めて出会った時なんかからずっと、サイホーンは未知数な存在であるアタシらについてきたりと、その行動力なんかは最初から見受けられた。でも、この時になってサイホーンが観光を好きだったなんて気付けず、これを知ってからは、アタシは身内でも、自分が知らないことばっかりなんだなと思った。
……アタシはまだまだ、知らないことが多すぎる。アタシはこの、知らないことに圧倒されてしまって日和っていたのかもしれない。
それでも怖いことや苦しいことには代わりないけれど、でも、落ち込むだけで何もしないというのも自分の性分が許さないというか、何かこう、今朝もポケモンバトルをしたりと、何かしらの活動をしていないと落ち着いていられない自分もいるわけで……。
取り出したスマートフォンで、パパッと検索をかけていく。そこで得られた情報は、アタシの背中を押してくれたものだ。
「『ショウホン城』ってポケモンバトルは禁止なんだって。でもポケモンは連れて歩けるっていうからさ、明日はバトルのことを忘れて、アタシ達でゆっくりしようよ。それでさ、美味しい物を食べよ?」
アタシの言葉に、ラルトスが喜ぶ反応を示した。
それからアタシはラルトスの頬をフニフニしていき、そんなこちらの様子を見たサイホーンは城に背を向けて、その表情ひとつ変えないクールな様で静かにアタシに寄り添ってくれていた。