ポケモンと私   作:祐。

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血気盛んな者

 お昼を過ぎたショウホンシティ。ポケモンセンターから出てきたアタシは人が少ない場所を選び、枯れた木々が目立つ廃れた団地に足を踏み入れる。

 ……中々、雰囲気のある所だな。そんなことを思いながらも抱えるラルトスを、そこにあったドラム缶の上に乗せていく。次にサイホーンを出して自衛の準備を済ませると、アタシは追加でもう一個のモンスターボールを取り出して、それを投げていった。

 

「出てきて、マホミル!!」

 

 モンスターボールが開くと、そこから現れた液状で浮遊する一匹のポケモン。黄色くて可愛い顔を浮かべているそれが姿を現すと、この一帯は一気に、甘い香りが漂い始めた。

 ……流れで捕まえてしまった、マホミルというポケモン。マホミルはモンスターボールから出てくるなりアタシを捉え、とても勇ましい表情を見せながら何かを訴え掛けてくる。

 

「え? なに? ……ラルトス、マホミルが何を言ってるのか教えて――」

 

 と、その瞬間だった。

 

 視界を覆い尽くすマジカルシャイン。光の粒がアタシらに降りかかると、アタシは急いでラルトスを抱き抱えて範囲外へと飛び込んで回避した。

 うわ! 自分の瞬発力にビックリした! 驚く方面が違うとは思うが、アタシはすぐにも起き上がってマホミルへと向いていくと、その姿は既にそこから消えていることを確認する。

 

 と、次にも視界に入ってきたのは、数発もの岩だった。サイホーンのロックブラストだ。そちらへと向いて状況を把握すると、アタシはそれらに巻き込まれないよう咄嗟に距離を置いて様子をうかがった。

 

 どうやら、マホミルがサイホーンに襲い掛かったらしい。サイホーンは奇襲を受けながらも表情ひとつ変えずに応戦し、これに受けて立ったサイホーンの反応に、マホミルはとても楽しそうな顔を浮かべていた。

 

「って、いやいやいや!! 待ちなさい!! ちょっと、マホミル!! サイホーン!!」

 

 アタシは怒鳴るように声を上げたが、二人はすでに本能からなる闘争に支配されていた。

 ポケモンという生物は、戦うことが好きだと言う。今もサイホーンとマホミルは互いにわざをぶつけ合って、身内でボコスカと戦っていたのだ。

 

「こら、マホミルッ!! 勝手に戦うのはナシだから!! 戻りなさい!!」

 

 取り出したモンスターボール。アタシは急いでマホミルを戻すべくボールを起動するのだが、これを察したのか、マホミルはそこらに落ちていたコンクリートのオブジェかなんかを遮蔽物として、モンスターボールの戻す力から逃れ始めていたのだ。

 

 こいつ……っ。内心でイラッとしながらも、アタシは意外と周囲を見ているマホミルの戦闘能力に感心さえしてしまう。

 タイチさんが言うには、マホミルというポケモンは穏やかで大人しく、人懐っこくて可愛がられることを好むポケモンらしい。その見た目も可愛らしいことから、女子の間では特に人気を博しているポケモンだそう。こうして人前に姿を現すことも珍しくはないものの、捕まえるとなると、そのあまりにも小さな身体が捕獲の難易度を上げるとのこと。

 

 そこから、マホミルを捕まえるのはそれなりに難しいとされている。アタシが追い掛けられているあの状況でモンスターボールをしっかりと当てたことにタイチさんは感嘆していたが、捕まえた側としては、このあまりにもイレギュラーな存在を仲間にしてしまったことを後悔していたものだ。

 

 で、今もサイホーンとやり合っているこの状況。サイホーンも満更でもないといった様子で戦っているのがまた困る。

 ドリルライナーの戦法で圧巻の機動力を誇るサイホーンは、マホミルを圧倒していた。しかしマホミルは、その小さな液状の身体を分裂させながらサイホーンの攻撃を避けていくと、サイホーンに生じるわずかな隙にも反応して攻撃を仕掛けていくのだ。

 

 繰り出されるわざは、主にマジカルシャイン。マホミルの主力技なのだろう。とても自信を持っていると言わんばかりに繰り出していくその光は、サイホーンと対等に渡り合うのに十分な使い方をしている。

 それに加えて、とけるというわざでサイホーンのすてみタックルを真正面から受けていくのだ。そして、とけるでサイホーンの攻撃をいなしたところを――

 

 ――ズドンッ!! マジカルシャインとは異なる、マホミルから湧き上がった神秘的な光。それが、とけるによって身体を溶かした状態のマホミルから繰り出されると、あのサイホーンが遥か後方へと吹き飛ばされていったのだ。

 

「サイホーン!! ……マホミル?」

 

 あれ、この子……意外と強い?

 

 すぐさま戦線復帰したサイホーンも、仕返しのドリルライナーでマホミルを吹き飛ばしていく。その小さな身体に攻撃を当てることに苦戦していたサイホーンも、この戦いで感覚を掴んだのだろう、ロックブラストも着実に命中させていくようになった精密度で、マホミルが苦戦をし始めていた。

 

 しかし、マホミルも負けじとマジカルシャインでサイホーンを追い詰めていくのだ。

 互いに退かない互角の戦い。それは突然と始まった身内の問題ではあったものの、この五分五分な熱い戦いを目にして、アタシは思わずとその行方を見守ってしまっていた。

 

 そして、決着がつくことになる。

 倒れるマホミル。べちゃっと液状の身体が団地に落ちると、目をぐるぐるにしてひんしとなっていた。

 

 一方で、サイホーンもサイホーンで身体をボロボロにして、マホミルをただただ見遣っていた。元はと言えば襲われた身でもあるサイホーンだったが、戦闘しているその姿は、とても活き活きとしていて楽しそうではあったものだ。

 

 ……って。

 

「さっきポケモンセンターで診てもらったばっかりじゃん。……また行かなきゃ」

 

 アタシはあちゃーっと頭を抱えながらマホミルをモンスターボールに戻していく。そのままサイホーンもモンスターボールに入れて二人をバッグの中に入れていくのだが、アタシの気持ちはなぜだか上向きになっていたような気もしている。

 

 ――マホミルがアタシらと巡り会ったのも、何かの縁だと思っていたものだから。こんな展開など予想もできなかったハプニングに近しい出会いではあったものの、今思えばラルトスとの出会いだって、サイホーンとの出会いだって、どれもハプニングが起こったり、ハプニングと出くわしている中での出会いだったものだから。

 

 

 

 夜になり、宿屋の一室でアタシはモンスターボールを取り出していく。

 寝間着の姿で、アタシはマホミルを繰り出した。もう寝るというその時間帯ではあったものだが、最後にマホミルと話をしてみたかったからだ。

 

 ボールから出てくるなり、マホミルはアタシに襲い掛かってきた。……というよりは、アタシにのしかかってきた。アタシはアタシで、これを受けてベッドにドカッと押し倒されて、この甘い匂いがする液状の軽い身体に押しつぶされていたものだ。

 

 ラルトスが駆け寄ってくる。それでもって、ラルトスもアタシの身体に乗ってくるのだ。その加えられた体重に「ぐえッ」と声を出すアタシ。こんな様子を、サイホーンは静かに遠くから見守っていた。

 

 マホミルは、とても楽しそうな表情を見せていた。普段は可愛い顔をしているとかいうポケモンであるはずなのに、このマホミルは勇ましい顔ばかりを見せて、喧嘩っ早くて血気盛ん。

 タイチさんにも、こんなマホミルは見たことが無いと言わしめるほどの、なんともアクティブな個性だったものだ。だからこそ、この子はアタシと巡り会い、こうして仲間となったのかもしれない。でなければ、あんなに元気な状態で素直にモンスターボールに収まるとはとても思えなかったものだから。

 

 ――あの場所で、あの時、アタシと同じものを感じていたのかな。そんなことを思いながらもアタシは液状の身体に手を置きながら、液体のはずなのにクッションのように柔らかい不思議な感触でふにふにとマホミルを撫でて、それをボソッと呟いた。

 

「あなたも“変わってる”ね、マホミル」


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