ポケモンと私   作:祐。

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パッショニズム

「タイチさん。これ、差し入れ」

 

 相変わらず付けヒゲの変装が余計に目立つタイチさん。背後から投げ掛けられたその言葉に反応したタイチさんは振り向いてくると、飲み物のペットボトルを持っているアタシの気遣いに気が付いて「お、これはこれは。すごくありがたい!」と王子様スマイルを見せてくれる。

 

 マホミルを捕獲した翌日。昼前の時間帯である現在は太陽の日差しが強く、ショウホン城には木陰が無いため余計にその光が突き刺さる。

 周囲の警備員は、分厚い制服に身を包んでいて暑そうにしていた。それでもって、今日もショウホン城の様子を見ていたタイチさんも、変装のために帽子やら付けヒゲやらで、なんだか暑そうな見た目をしている。

 

 こんなんじゃあ、絶対に倒れるって。そう思ったアタシは善意の塊とも呼べる最高の気遣いを閃き、なんと、その場の全員分の飲み物を買ってくるという行動力の化身となった。

 しかも、これをマホミルという女子ウケの良いポケモンを連れている女子力あふれし乙女から手渡しで貰えるというのだ。おいおい、警備員さん達ツイてんじゃん?? なんて思いながらアタシは飲み物を差し入れに持ってきたのだが、その目論見はむしろ、アタシの無知を晒すことになるとは思いもしていなかった。

 

「あぁ、ありがとうねお嬢さん。でもね、我々警備員は差し入れを受け取ってはならないという決まりがあって……」

 

 アタシは、その場で思考停止した。

 え、マジ? アタシはタイチさんを見遣る。この視線を受けたタイチさんも、なんだか申し訳なさそうにしながら「そういうことなんだ、せっかくの気遣いだったのにごめんなヒイロちゃん」と言いながら、手に持つメロンソーダをしっかりと握りしめていた。

 

「そんなー! せっかくみんなの分も買ってきたのにー。ってか、だったらタイチさんもダメなんじゃないのそれ!!」

 

「おっと、俺は警備員じゃないから問題は無いさ」

 

「むーーーっ!!!!」

 

 頬を膨らませるアタシに、周囲の男性陣は微笑していた。なんだか微笑ましくも思っているみたいで、なんか、もう……!

 そんなこんなで、ラルトスを抱えたアタシは男性陣の休憩時間にも付き合うこととなった。入れ替わりでやってきた他の警備員や、ガーディやウインディといった忠誠心のあるポケモン達にその場を任せると、アタシがついていった面々はショウホン城の近くにある公園でベンチに腰を下ろし、弁当といった昼食をとっていく。

 

 うわぁ、この仕事も大変だなぁ……。なんて思いつつ、アタシもラルトスと一緒にパンを食べて軽く話をしていく和気藹々な空間。タイチさんも付けヒゲを取っておにぎりを食べており、チャンピオンになる前の旅の話なんかでその場を盛り上げていた。

 

 途中、警備員の一人の弁当が消失した。文からして訳が分からないが、本当に訳が分からない。しかしすぐにもタイチさんが、「きっと、この近くにカクレオンが居るな」と言い、タイチさんはおもむろに歩き出して何も無い空間に手を遣ったところ、その場に突然と緑色のポケモンが姿を現したのだ。

 

 カクレオンというポケモンは、驚きで口に入れていた弁当を落としながら、どこかへと去ってしまった。その地面にぶちまけられた弁当の残りをタイチさんと警備員が拾っていくその中で、アタシはカクレオンが他の警備員の休憩を台無しにしないよう見張っていたものだ。

 

 落ち着いたところで、アタシはタイチさんに訊ね掛けた。「どうして、カクレオンってやつの居場所が分かったの?」と。するとタイチさん、「んー、なんで分かったかと言うと……俺にも分かんないな」と答える。

 

「なんか、何となくというか。感覚で分かるんだよ。直感というか、ね。ま、とにかく、ヒイロちゃんも旅をしている内にそういうのが身に付いてくるよ。経験から来る勘ってやつをね」

 

「ふーん……」

 

 自分から聞いておいて、すごく興味無さそうに返事してしまった。

 そんな休憩時間が過ぎて、警備員たちが重い腰を上げながらアタシへと礼を言ってきた。お嬢さんと話ができて、とても良い気晴らしになった。その言葉を告げて皆が持ち場へと歩いていく背を見送るアタシとラルトス。

 

 ――と、タイチさん。

 

「タイチさんは行かないの?」

 

「あぁ、俺はこの後にも違う地域へ移動する予定だからね」

 

「へぇ。やっぱり、その悪党共ってやつの関係でだよね。タイチさんも大変だね」

 

「俺は好きでやっているというか、シナノ地方の未来のためにも、そして自分の生まれた地方のチャンピオンとしても、自分にやれることはやっておきたいという気持ちがあるから今回の件に関わっているようなものだしな」

 

「うわー、すごく立派。よっ、さすがアタシらのチャンピオン」

 

 とか言って、あのシナノチャンピオンのタイチ様に、アタシは肘でぐりぐりと横腹を抉っていた。きっとこの光景を彼のファンが目にしたら、アタシは殺される。

 と、アタシにそれをされながらも、タイチさんはふと呟くように、その言葉を口にしてきたのだ。

 

「……ま、ヒイロちゃんも――」

 

「ん? 呼んだ?」

 

「――いいや、なんでもないさ。俺がちょっと、未来への期待に思いを馳せただけさ」

 

「?? ふーん」

 

 なんかよく分からないことを言ってるけど、それがタイチさんなら謎に映える。アタシは適当に相槌を打ってタイチさんに合わせていくのだが、そんなことを二人でしていると、ふらっと姿を現したとある人物に声を掛けられることとなったのだ。

 

「あれ!! タイチ君、お取込み中だった??」

 

 健気で、元気いっぱいな声音。それが公園の中に染み渡るように響き渡ったものだから、この言葉を受けて周囲の人間やポケモン達が一斉に振り向いてくる。

 うわ、怖っ。アタシは受けた視線にヒヤヒヤしながら見つめられるものの、そこにいるのは変装した付けヒゲのタイチさんと、無難な見た目のアタシ。そして……サングラスが最高にイカしている、蜜柑色の髪を左耳の方で束ねたサイドテールの女性。

 

 ……アタシは、この人に見覚えがあった。いや、まずその声で分かった。周囲の人間達も彼女の声音に反応してヒソヒソと話していくのだが、サングラスが確たる証拠にならず、自然と興味は失せていったものだ。

 ましてや、タイチ君という人物がヒゲ面なものだから、即刻とその可能性を切り捨てたのだろう。言われても多分気付かないとも思えるほどの、変人じみた変装だ。とても、あの輝かしい栄光に祝福されしチャンピオンだとは、誰も思うまい。

 

 と、周囲の目も気にならなくなってきた辺りで、アタシは彼女を見遣っていく。彼女は終始「やっちゃったーーーーー」と言わんばかりに手に口を押さえていたものだが、すぐにも歩き出してこちらへと合流してきた。

 

 黒いタンクトップに、濃い赤色のジーンズ。清々しいファッションで外を出歩くこの女性の正体は、このショウホンシティのジムリーダーである『ラ・テュリプ』さんだ。

 

「ごめんねっ。別にバラそうだなんて思ってなくって……!!」

 

「ハハハ、分かっていますよテュリプさん。それどころか、俺達の中にあるパッションを呼び起こしてくださるような、この心に響く素敵なイイお声でしたよ」

 

「あら、まぁ、ちょっと!! タイチ君ってば、褒めるの上手くなった!? こんな今更なオバサンを褒めたって、なにも良いことないよーーっ!!」

 

「いやいや、今日も若々しい――というか、実際に十分若いじゃないですか」

 

「もう三十路になる手前なのに、もー!! これだからタイチ君のこと好きになっちゃう!!」

 

「ありがとうございます」

 

 ラ・テュリプさんにバシバシと肩を叩かれるタイチさん。それに動じることもなく、タイチさんは清々しい決め顔をしていたものだ。……え、てかテュリプさん、三十路になる前だったの――

 

「それでそれで、なになに? タイチ君、もしかして。あ、耳貸して! ――もしかして、ガールフレンドできちゃった??」

 

「ガールフレンド、ですか。ッハハハ、俺にはまだそういうの早いですって」

 

「タイチ君だってもう二十二とかじゃん!? ガールフレンドをつくって幸せな家庭を築くのに打ってつけなお年頃なんだから!! ほら若いんだからもっとガールフレンドとイチャイチャせんかい!! もー、けしからんぞコラぁ!」

 

「で、こちらはガールフレンドではありません」

 

「って、違うんかい!!!!」

 

 すごくテンションの高いテュリプさん。その言葉と共にタイチさんの肩をバシィッ!! と叩き、これにはタイチさんも「うぉ」と動じていく。

 そしてテュリプさんがアタシを見遣ってくるのだが、これで会うのは二回目なものだ。すぐにもテュリプさんはまじまじとした目をこちらへと向けてきて、それを訊ねてきたのだ。

 

「……あっれー。どこかで見たような?」

 

「アタシ? ……うん。あの時、ジムで――」

 

「あ、あー!! もしかして、ケッコン・スルゾウさんのところの娘さん!?」

 

「え、誰っっっっ」

 

 驚きのあまりに、タイチさんよりも低い声を出してしまった。

 そんな一連のやり取りを見ていたタイチさん。アタシへと手を向けながらテュリプさんに説明をしていく。

 

「こちらは、ヒイロちゃんですよ。ほら、俺が開会式の時に」

 

「あ、あー! あの、ね! へー。それじゃあつまり、次期チャンピオン候補として見ていいわけ??」

 

 え、えー……。無駄にプレッシャーになるその言葉にアタシは言葉を失うのだが、それに対してタイチさんはタイチさんで自信満々に頷くもんだから、もはやどうしようもない。

 とかなんとかしていたもんだが、ここでテュリプさん、ようやくとアタシのことに気が付く。

 

「あれ?? でも。あー……。あの時の」

 

「たぶん、そうかも。控え室で落ち込んでいたところ、あなたに声を掛けてもらったから」

 

「やっぱり、そうだよね。――うんうん、やっぱね、こうしていろんな経験をしていく中では、辛いこととか苦しいこととかあるからね。わたしも大変だった時期があるけれど、こうやっていろんなことを経験していく内に、自分が強くなっていってる実感とか湧いてくるから!! それにね、悪いのはチャレンジャーであるヒイロちゃんじゃなくって、マナーを守らないような人達なんだからね! だから、そんな輩を見返してやろうよ!! まあ、だからと言ってわたしは手加減してらんないんだけどさ!」

 

 アタシがネットで晒された件は、ジムリーダーにも届いていたようだ。

 タイチさんが不思議そうな顔をしてこちらの会話を聞いている中、アタシはテュリプさんに包み込まれるような、落ち着くことができる温もりを感じることができた。ジムリーダー本人からこうして言葉を掛けられるだけでも只事ではないものだが、こうして実力を持った人から温かい言葉を掛けられてしまうと、こう、自然と気持ちが前向きになるというか――

 

 というところで、タイチさんがふと思い出したかのようにそれを口にしてきたのだ。

 

「っと、俺はそろそろ行かせてもらいますよ」

 

「タイチ君。ラオちゃんから呼び出されているんだってね」

 

「例の団体のことで分かったことがあるらしいんだ。ここでひっ捕らえた連中が中々口を割らないもんで、今は専門家に任せている。その間にも行動をしておきたくってね」

 

「ありがとね、わたし達の代わりに色々とこなしてくれて。本来ならわたし達のお仕事なのに、タイチ君にばっかり任せきりになっちゃって」

 

「構いませんよ。むしろ、これこそがチャンピオンとしての在り方だと思っておりますし。――じゃ、俺はこの辺で。ヒイロちゃんも、また縁があったら会おうね」

 

「タイチさん前もそう言って、ここでアタシに声を掛けてきたよね。アタシらの縁って多分、ここで途切れるような関係じゃないと思うの」

 

 アタシの返答に、タイチさんは爽やかな笑みを見せていく。一方でテュリプさんは甘酸っぱいものを見るかのような表情でニヤニヤしており、それからアタシは何だか、やけに恥ずかしくなってきた…………。

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