ポケモンと私   作:祐。

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開花

「あぁ、こら! マホミル!! 他の人のポケモンに攻撃をしちゃダメだって!! ――あの、本当にごめんなさい!! キズぐすりあるから、今これで治します!!」

 

 ポケモンセンターの駐車場に迸ったマジカルシャインの光。質量をもった粒が見ず知らずのマグマラシに降りかかると、トレーナーは驚きのあまりに尻もちを着きながら、アタシに不審な目を向けて不機嫌そうにしていたものだ。

 

 ユノさんとのポケモンバトルを終えた正午。アタシはひんしになったマホミルをポケモンセンターに連れていったのだが、回復して元気になった矢先にもマホミルは活力が有り余ってしまい、その衝動のままに他人に襲い掛かってしまったのだ。

 ほんとにもう、手の掛かるポケモンだ。アタシは呆れに近いため息をつきながらマホミルをモンスターボールに戻し、トレーナーとマグマラシにとにかく謝ってから、逃げるようにこの場を後にしてショウホンシティの中を駆け巡っていく。

 

 ラルトスを抱えたこの疾走。アタシはつい先ほどにも、ユノさんとのバトルで散々と思い知らされたばかりだ。……であるからこそ色々と巡ってしまう思考を、まるでミュージックプレイヤーの音楽のように脳内で流しながら、アタシはただただ、体力が持つ限りこの足を走らせていくのだ。

 

 今こうしているアタシの駆け足に、これといった意味は無かった。ただ、こうして目の前に続く道をひたすらに走り続けていると、今までにアタシが辿ってきたこれまでの道のりを振り返っているような気がしてくるのは、アタシだけだろうか? 自身の成長や未熟な所とかを、客観的に見ることができる。こうして無意識の思考に身を任せた状態のアタシは、ある意味で無敵であると思う――

 

 ――今も、アタシの周囲には様々な記憶が巡っていた。和風テイストの石畳を辿るこの道のりの背景に浮かべた、ラルトスとの出会い。ポケモン嫌いだったアタシはラルトスに驚かされて、そのまま卒倒してしまったのももはや懐かしいとさえ思えてしまう。

 そこから始まったこの旅路。思い付きで臨んでしまったジムチャレンジも、今ではアタシをより高みへと導いてくれる試練となり、昨日の自分よりも着実と成長しているという実感を得られる機会となっていた。

 

 サイホーンとの出会い。マホミルとの出会い。まだまだ新鮮な記憶の中に現れた、とある場面。

 ハクバビレッジの宿屋にて、わずかな照明の中で行っていた技エネルギーの研究。その部屋に迸ったとも言えるでんきタイプのエネルギーが部屋の照明を落としていくと、アタシは気付けば、それをショウホンシティの宿屋の部屋の中で再現してしまっていた。

 

 手に持つ、シルフカンパニー製のボルトネジ。それをぐりぐりと擦り付けた跡が残る技エネルギー吸収石がテーブルに置かれていたものだが、再現できたことを告げる停電した真っ暗な部屋の中で、それが今どこにあるのかもよく見えない。

 

 視界が暗くなった部屋の中、ラルトスが角をピカピカと光らせていた。きっと、この暗くなった部屋を自分の力で明るくしようと頑張っていたのだろう。その努力こそは虚しいものの、なんだか可愛いその仕草に癒されながら、アタシは思考を巡らせていった。

 

 ……あの時の再現はできた。やっぱり、このボルトネジが関係ある。で、このボルトネジの性質とぶつかった技エネルギーの塊は、その衝撃を受けることによって周囲にエネルギーが分散――いや、放出? とにかく、そこに閉じ込めていたエネルギーを外部へと一気に流すというこの性質は、今後、何かに使えるかもしれない。

 

 同時にアタシは、技エネルギーを吸収する、というテーブルの上の石に興味を持ち始めた。……技エネルギーを吸収できるということは、つまり、そこに技エネルギーを留めることができるようになるということ。

 わざマシンという代物だって、そこに特定のわざを形成する技エネルギーが詰め込まれている……と思うんだよね。で、わざマシンを対象のポケモンにあてがい、その技エネルギーを対象へ刷り込むことによって、わざマシンの中で留まっていた技エネルギーがポケモンの中へと、流れ込む。

 

 ――つまり、アタシが今やった、この部屋の中にでんきタイプの技エネルギーを流す、というのと少なからずの関係がありそうだ。

 アタシは、自力で核心に近付いた気がした。ハクバビレッジの時には閃きもしなかった様々なこの思考達も、ラ・テュリプさんに敗北した後にフラッと立ち寄った、ショウホンシティのショウホン城のカラクリを知ったからこそのもの。

 

 ありがとう、ショウホン城。ありがとう、タイチさん。ありがとう、ラ・テュリプさん。……ありがとう、ユノさん。この日にも交えた彼女との一戦は、アタシに諦めないことの重要さと、ポケモンが新たなわざを覚える瞬間との立ち合いという大切な経験をもたらしてくれた。

 

 中央に穴が空いた円盤をバッグから取り出して、アタシは技エネルギー吸収石とボルトネジのセットを用いりながら、ほぼ夜通しでガラクタいじりに没頭した。――ベッドで横になるラルトスの寝息を聞きながら、直感に近い自身の性分を信じるがまま、理屈も根拠もアテにしない創作物を創り上げるために…………。

 

 

 

 三日は有したかもしれない。いや、三日で済んだと考えれば、上出来な方だと思える。

 朝方のショウホンシティ。まだ陽が昇る前の薄暗い時間帯に宿屋を抜け出したアタシは、目の下にクマを作りながら、前にユノさんとバトルした広場に訪れた。

 

 ヨーテリーと一緒に歩くお年寄りの夫婦と、ヤンヤンマを遊ばせている少年の横を通り過ぎる。――これから行うことは、周囲に人がいない方が好都合なのだ。アタシは人を避けるようにそれなりと歩いていくと、誰もいなさそうな場所を見つけてはバッグからモンスターボールを取り出し、そこからサイホーンを繰り出して頭を撫でていく。

 

「今から試すことはもしかしたら、あなたに大変な思いをさせてしまうかもしれない。でも、もしもこれが成功したら、アタシ達の戦略の幅はもっともっと広がると思うの。……同じ物を作れるかどうかは、微妙なところだけどね」

 

 力無くそんなことを口にしたアタシ。抱えるラルトスが見上げてアタシの顔を見てくるものだが、アタシはラルトスの頭も撫でて「大丈夫だよ」と言って落ち着かせ、それからバッグからごそごそと取り出した一つのケースを、パカッと開いていった。

 

 サイホーンも見守る、その手に持つ一枚の円盤。薄っぺらい上に今にも割れてしまいそうなボロボロのそれは、テープで補強された黄色のレコード。

 アタシはそれを、サイホーンの頭に乗せてみた。サイホーンはそれに抵抗することもなく素直に受け入れると、表情ひとつ変えずに、アタシの実験の結果を待ち続けるのだ。

 

「行くよ」

 

 アタシはそのレコードを、サイホーンに擦り付ける。

 ――瞬間、バチンッ!! と周囲に電流が迸った。目に見えたその現象にアタシは「ひっ!!」と思わず声を上げてしまい、サイホーンからレコードを離して様子を見た。

 

 ……じっと、こちらを見据えてくるサイホーン。さっさとしろとでも言いたげな何一つ変えない表情に、アタシは唾をゴクリと飲みながら再びレコードを近付けて、サイホーンの様子をうかがいながらもそのレコードを擦り続けていった。

 擦り出してから少しして、先ほども迸った電流は吸い込まれるようにサイホーンへと流れ始めていった。そして、サイホーンの身体は次第と電気を帯び始めていく。

 

 アタシは「大丈夫?」と声を掛けてサイホーンの容態に変異が無いことを確かめるのだが、そんなこちらの問い掛けに対しても、サイホーンはその表情のままじっとしているばかり。

 

 ――と、走る電流が次第と、既視感のあるものへと変化し始めていったのだ。それはアタシの目から見ても確かなものであり、言うなれば、わざを繰り出された際に発せられる“それ”と瓜二つであったものだから、この時にもアタシは、実験の成功を確信したのだ。

 

 ッパリン!! 強い電流が一気に流れ込んだことにより、サイホーンに擦り付けていたレコードが真っ二つに割れた。

 テープで補強していた部分を除いて、手からボロボロと零れ落ちていく変わり果てたその姿。アタシはこの破片を拾ってバッグに入れていきながらも、サイホーンの様子を見て異常が無いことをしっかりと確認する。

 

 サイホーンも、こちらをまじまじと見つめてきている。……うん、いつものサイホーンだ。それを確認してからアタシは周囲を見渡し、目についたポケモン用のサンドバックとも言えるカカシを見つけるなり、誰でも利用することができるその標的へと向けて、アタシはサイホーンに“それ”を命じていったのだ。

 

「サイホーン!! 10まんボルト!!」

 

 こちらの指示を受けて、サイホーンは内なるエネルギーのままに奮い立つ身体から、その鋭い光を繰り出した。

 バチバチッと流れる電流がサイホーンの身体から放たれると、それは流し込むように大気を伝っていって、標的のカカシへと直撃していく。

 

 そして、電撃を浴びせられたカカシ。その攻撃にしっかりと技エネルギーが込められていることを告げる黒焦げを見るなり、アタシは心からの達成感と共に「おっしゃあッ!!!!」とガッツポーズをしてみせた。

 

 この瞬間にも、アタシの研究まがいの創作の成果が、形として表れた。

 まさか、本当に上手くいくだなんて。未だに信じられないという気持ちでアタシは口元に手をあてがい、それからというものアタシはサイホーンを撫でまわしながら、この喜びのままに次なるステップへと進んだことを実感する。

 

 サイホーンは新しいわざを覚えた。それも、直感のままに組み立てたお手製の『わざレコード』が機能したことも証明することとなり、自分の秘めた才能の発見にも繋がったことで、アタシは自分に自信を持つことができたのだ。

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