ポケモンと私   作:祐。

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ジムチャレンジ ショウホンシティ

 アタシの番が来た。整地されたフィールドから「来てくれ」の合図を出され、それに従うようにアタシはこの足を踏み出していく。

 その一歩によって踏み入れた、既に知っているスタジアムの光景。まだまだ観客が少ない空席だらけの闘技場は、天井が吹き抜けとなっていながらも先ほどまでの試合による熱気が漂っており、これに触発されるかのようにアタシの身体は火照りを帯び始めていく。

 

 目の前の入場口から歩み寄ってくる、ラ・テュリプさんの姿。彼女は昨日までのラフな格好とは打って変わって、ジムチャレンジの正装なのだろういつもの見た目でアタシの前に存在していた。

 

 蜜柑色の髪を左側で束ねたサイドテール。軍服のような赤色の上着に、茶色のプリーツスカート。そんなテュリプさんと対峙してからというもの、アタシは「舞い戻ってきたんだからね」と言わんばかりのセリフを眼光で告げていき、相対する彼女もまた、リベンジに訪れたチャレンジャーに対する挑戦的な眼差しを向けていたものだ。

 

 

 

 がらりと空いた観客席が目立つショウホンシティジム。見るからに観戦者が少ないという実況し甲斐の無いそんな状況であろうとも、このスタジアムを見下ろすように設けられた実況解説席のブースには多くの関係者が行き交っていく。

 

 この日も例に漏れず二人の人間が居合わせており、本日も最初の試合から続投して数々の試合を盛り上げてきた。中には絶叫ともとれる大声をそのマイクに通してきたため、段々と枯れてきた喉を潤すためにペットボトルの水をガブ飲みしていく両者。それからヘッドセットの位置を直したり、この場のセッティングを任されたゴーリキーやカイリキーとのコミュニケーションを図ったり、二人のマネージャーであるストライクが眼鏡を掛けながら、鎌のような手で器用に紙を持っていて二人のスケジュールを管理していたりと、この席はこの席で独特な空気を醸し出していた。

 

 と、実況席についた男と、解説席についた男。その二人が慌てながらもテーブルに両腕を置いていくと、既に入場を始めていたチャレンジャーとジムリーダーの歩いていくその様子から、観客席へとその全容を余す事なく実況し始めていくのだ。

 

「はいはいはいお待たせしました! 私たちともあろう者がこの席に着かず何とする!! ではでは次の試合も続けて参るといたしましょう!! えー、皆さんもご覧の通りでございますが、チャレンジャーとジムリーダーの入場がすでに始まっております! さて、今日のショウホンシティで行われたジムバトルはですね、ご覧になられた方々を熱狂へと誘うどれもハイレベルな内容をお送りして参りました。が、ここで流れは新たに変わり、チャレンジャーの傾向はルーキー達によるフレッシュな熱い戦いという内容へと変化していきます。今も入場するルーキーズの先鋒は、ハクバビレッジジムのレミトリさんをサイホーン単騎で破った掟破りのルーキー。えー、今回このショウホンシティジムの挑戦は二回目となり、テュリプさんへのリベンジ戦とも言えるこの試合。チャレンジャーの前回の試合に立ち会えなかった我々としては、ハクバビレッジで魅せてくれたチャレンジャーのサイホーンに今回も期待で胸を膨らませております。ね、サカシロさん」

 

「そうですねー。ハクバビレッジでチャレンジャーが披露した、タイプ無効という相性の悪さを逆手に利用したあの戦術には、我々も思わず絶句してろくに実況解説もできなかったものですが、あれがまるで昨日のようにも思えてきますね。それくらい彼女が見せてくれたあの試合は、未だ鮮明と我々に思い出させてくれるくらいの、記憶に残る戦いでありましたし、正直、彼女がこちらのジムで一度敗北しているという事実が、ちょうどその場面に居合わせていなかった我々としては正直ちょっと信じられないくらいの、こう、チャレンジャーへの期待の高さがあるといいますか」

 

「えぇ、分かりますサカシロさん。おっと、両者共にスタジアムの中央に並びました! 期待のルーキーについて熱く語り合っていきたいところではありましたが、今もバチバチと火花を散らすお二人の対峙が、今にも始まるジムバトルを予感させます!! ――今回、我々が特に期待を寄せている新人のチャレンジャー対、ショウホンシティのジムリーダー、恋焦がれし淑女の二つ名を持つ、恋情の如き燃え滾る灼熱の覇者ラ・テュリプ!! チャレンジャーのリベンジマッチとも呼べる第二ラウンドが今、ここに来て幕を上げるーーーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 おおげさだな。わざわざアタシにも聞こえるような声でそんなプレッシャーになること言わないでよ。

 心の中で呟いたその言葉。これが表情に出ていたのか、スタジアムの中央で立ち止まってからというものこちらと対峙したテュリプさんは、クスッと笑ってきた。

 

「気になる?? 緊張しちゃう??」

 

「べ、別に……。ただ、買いかぶりというか、アタシに期待されても困るっていうか……」

 

「もー、ヒイロちゃん若いんだから、そんな遠慮とかしなくてもいいのに」

 

「遠慮とかそういうのじゃなくて、ホントにアタシがそんな、すごいバトルをするトレーナーみたいに言われるのがちょっと、いやそれは違うでしょって言いたくなるというか――」

 

「ヒイロちゃん」

 

 後ろで手を組んでいるテュリプさん。可憐な少女らしい仕草を交えながらアタシのことをまじまじと見てくると、次にもそのセリフを口にしてきたのだ。

 

「わたしも、実況解説と同じ気持ちだから。――だから、手加減はできないし、次も絶対に潰すつもりだから、よろしく」

 

「ッ…………」

 

 恋情のように熱い彼女。しかし、今こうして相対しているテュリプさんの目からは、まるで凍てつく大地の如き冷たい視線を送られていた。

 ……本気モードだ。気持ちはすでに、ショウホンシティジムのジムリーダーとしての心持ちになったのだろう。彼女は負けていられないのだ。負けが続けばジムリーダーという地位から格下げされ、目立つ機会が減ることで失踪してしまった彼氏に見つけてもらえなくなってしまうから。

 

 ――テュリプさんは負けてくれない。自分が愛した人のため、彼女は全力でこの試合も勝ちに来る。

 

 送られてきた視線にアタシは若干と怖気づきながらも、いやいや自分も負けてられないからとアタシも負けじと視線を返していく。そんなこちらの様子にテュリプさんは目が笑っていない笑みを浮かべていくと、それと共にして審判から握手を促され、次に立ち位置へ移動するよう指示された。

 

 互いに背を向けて自分のポジションへと歩いていくこの道のり。これで三回目ともなるこの足取りだが、今も背中から伝わってくるプレッシャーは、レミトリさんの時や一回目のテュリプさんとの戦いとは全く別物となる、完全なる殺意と捉えてしまえるほどの寒気を感じられた。

 

 テュリプさん。きっと、一回目の時よりも強い。しかも、アタシをここで完全に仕留めに掛かっている。タイチさんから期待されているからなのか、はたまた実況解説に煽られてなのか。彼女の抱く思いはまるで推測することができなかったが、それでもアタシがやるべきことは、たった一つのみ……。

 

「……絶対に、勝つ」

 

 立ち位置で振り返り、スタジアムの中央へと向いていく。タイミングもほぼ同じといった具合にテュリプさんも向いてくると、審判が旗を手に持ちながら、いつものように試合開始前の恒例行事を行っていくのだ。

 

「ルールは二体選出のシングルバトル! ただし事情がある場合、一匹のみの選出も可能とする! キズぐすりといったどうぐの使用は不可。使用が認められた場合、使用者を失格と見なす! ポケモンにどうぐを持たせることも不可とする。こちらも発覚した場合には失格と見なすが、事情がある場合のみ持ち込み可能とする! なお、ポケモンの交代は各選手につき一度のみ可能とする! ——では、両者、モンスターボールを!!」

 

 審判が厳ついその声を上げていくと、それを合図としてアタシとテュリプさんはモンスターボールに手を添えた。

 

「構え!!」

 

 審判の手に持つ旗が前に掲げられると共にして、アタシとテュリプさんはそれぞれバッグと軍服っぽい上着のポケットから、モンスターボールを取り出して構えていく。

 ……負けない。絶対に。今回の戦いは、アタシに味方してくれる仲間が一人増えているんだから――!!

 

「両者、ポケモンを!!」

 

 高々と上げられた審判の旗。吹き抜けの天井を指していくそれが振り上げられると、アタシとテュリプさんは燃え滾らせた闘志のままに思い切りモンスターボールを投げつけていくのだ。

 

「お願い!! マホミル!!」

 

「燃え盛っていくよ!! クイタラン!!」

 

 モンスターボールから飛び出していく二つの影。一匹はアタシのボールから出るや否や早速とマジカルシャインを放とうとしたため、アタシは「待って!! まだまだ!!」とすぐさま必死に呼び止めてマホミルを振り向かせていくというカッコ悪い出だし。

 一方で、テュリプさんが繰り出したのは、アリクイのような外見をした、頭部が尖ったポケモン。名前はクイタランというらしいが、アタシはそれを初めて見るため、初っ端から気持ち的に不利を背負ってしまった気がして少し唸ってしまう。

 

 今すぐにも開幕する、アタシのリベンジマッチ。今回は二体構えているという前回と大きく異なる第二試合に、アタシは次第とばくばく鳴り始めた心臓を抱えながらも、すぐにも戦いたいと闘志を滾らせるマホミルと共に、その試合へと臨んでいったのだ。

 

「これより、ショウホンシティのジムバトルを開始する!! 互いに能力を発揮し合い、正々堂々のバトルを行うように!! ——では、ジムバトル……始めェ!!!!」

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