ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・テュリプ その1

 モンスターボールから飛び出していく二つの影。一匹はアタシのボールから出るや否や早速とマジカルシャインを放とうとしたため、アタシは「待って!! まだまだ!!」とすぐさま必死に呼び止めてマホミルを振り向かせていくというカッコ悪い出だし。

 一方で、テュリプさんが繰り出したのは、アリクイのような外見をした、頭部が尖ったポケモン。名前はクイタランというらしいが、アタシはそれを初めて見るため、初っ端から気持ち的に不利を背負ってしまった気がして少し唸ってしまう。

 

「これより、ショウホンシティのジムバトルを開始する!! 互いに能力を発揮し合い、正々堂々のバトルを行うように!! ——では、ジムバトル……始めェ!!!!」

 

 この時にも開幕した、アタシのショウホンシティジムのリベンジマッチ。今回は二体構えという前回と大きく異なる第二試合に、アタシは次第とばくばく鳴り始めた心臓を抱えながら、すぐにも戦いたいと闘志を滾らせるマホミルと共にその試合へと臨んだ。

 

「マホミル!! マジカルシャイン!!」

 

 先手必勝!! アタシはマホミルの勢いに便乗するかのようスタートダッシュを決めていくと、その指示通りにマホミルは質量をもった光の粒を周囲へとばら撒き始め、クイタランの視界を一気にマジカルシャインで覆ってやったのだ。

 

 そのまま接近! マホミルお得意の真正面からの特攻。マジカルシャインで姿を隠したこの行動は相手から見えておらず、完全に有利な流れを掴んだアタシは一気に猛攻を仕掛けていくのだ。

 

「マホミル! とけるで分散して、そこからマジカルシャイン!!」

 

 クイタランの目の前に現れたマホミル。マジカルシャインから飛び出してきたそれにクイタランは身構えていくのだが、その眼前でマホミルは飛散するように分裂することで、その散り散りとなった姿をクイタランの周囲に配置していく。

 

 そして、そこからマジカルシャインが繰り出される。分散した身体にもマホミルの意思や感覚は通じており、それも身体の一部であるためわざを放つことができるのだ。

 クイタランを囲うように飛散したそれらから、広範囲のマジカルシャインがスタジアムに炸裂する。一気にマジカルシャインの光が増幅したこの現場は、間違いなく逃げ場などない八方塞がりをつくり出した。

 

 眩い妖精の明かりが、日が昇るスタジアムをより妖しく照らしていくのだ。その光は無数もの物理的な粒を解き放ち、それも相手を囲うように繰り出されたこの一撃によって、クイタランというポケモンはただでは済まない――

 

「――うそ、いない……!?」

 

 マジカルシャインが収まりかけたその視界。段々と光が薄くなってきて中の様子がうかがえるようになると、アタシは目撃した光景に、完璧だった出だしの作戦が敢え無く失敗で終わっていたことにようやくと気が付くこととなった。

 

 分散したマホミルがくっ付いて元の姿に戻ると、その足元にあった地面の穴を覗き込む。

 

 と、その瞬間———!!

 

「クイタラン! あなをほる!!」

 

 大気が揺らぐ震動。アタシは身体の前面で受けたそれに一瞬と理解が追い付かなかったこの時にも、マホミルがクイタランの頭に突き上げられて宙を舞っていた。

 あなをほる……!? 盲点だったと焦りを感じ始めたこちらに対し、テュリプさんは今が好機とクイタランに攻めを命じてくる。

 

「ほのおのうず!! そこから、ほのおのムチでいつものやつ!!」

 

 クイタランから繰り出されるほのおのうず。これは以前の敗北した試合でもテュリプさんのギャロップが行ってきたわざだ。

 この攻撃によって、マホミルとクイタランの周囲に渦巻き始めた灼熱の螺旋。燃え滾るそれに包み込まれたマホミルの姿が見えなくなってしまうため、アタシはスタジアムに取り付けられたモニターへと向いて状況を確認していくのだ。

 

 ……この目で直にポケモンを見られなくなってしまう。このわざは相手のポケモンを閉じ込めてボールに戻させなくするだけでなく、こうしてトレーナーの視界を遮ることでいつもの感覚で戦えなくするような、トレーナーにダイレクト攻撃を仕掛けることもできる厄介なわざだ。

 

 そして、テュリプさんはこのほのおのうずを扱うのがすごく上手い。次の時にも指示されたほのおのムチをクイタランが繰り出していくと、口から取り出した紅の鞭を両手に持ち、ほのおのうずに混ぜるなり渦巻く螺旋の勢いに乗せてバリケードをつくり出していく。

 

 もはや、ただの渦ではない。この灼熱は、マホミルを絶対に逃がすまいとした、このお手製リングの中で確実に仕留めるという死刑宣告そのもの。こうして自分に有利なフィールドをつくり出してきたテュリプさんは、続けてマホミルへと攻撃を仕掛けていくのだ。

 

「にほんばれ!!」

 

 クイタランが空を仰ぐと共に身体から放出される、ほのおタイプの技エネルギー。モヤモヤとなった赤いそれがスタジアムの吹き抜けに到達すると、その地点に遥か彼方の太陽と重なる、二重の太陽を生成していく。

 

 にほんばれ。ほのおタイプのわざの威力を上げるという効果を持つそれの影響により、この瞬間にもほのおのうずの勢いは更に増していく。しかもほのおのムチも増幅されたパワーによってほのおのうずを締め付けていくと、この地獄のような炎のリングは、縮小を始めていったのだ。

 

 これは、一刻も早くクイタランを倒さなければ脱出できない、デスマッチだ。それはもはやマホミルのとけるでは抜け出せないほどの燃え滾る竜巻であり、もしも縮小するこれに挟まれてしまったら最後、マホミルは生きて帰れるかさえも分からない。

 ……命の危険さえも感じてしまえる。目の前で引き起こされたテュリプさんの灼熱地獄を前に、アタシは届いてきているほのおのうずの熱で汗を流しながら、モニターへと指示を送っていく。

 

「聞いて、マホミル!! 自分の体力が無くなってきたと思ったら、じこさいせいで回復!! 突っ込むだけがバトルじゃないから!! ユノさんとの戦いでそれを学んだと思うの!」

 

「いいねー、ヒイロちゃん。イイ具合に焦ってる焦ってる。アタシのクイタランにどこまで食らいつけるのか、見物だね。ムッフフフ、以前よりも増し増しなわたしの燃え盛る闘志を、貴女のナイスファイトでもっともっと燃え上がらせてよ!!!」

 

 腕を組み、自信満々とこちらを見遣ってくるテュリプさん。その勝利を確信している顔がものすごく気に食わないと思えてくるけれども、アタシだってやればできるところを見せ付けてやるために、脳みそをフル回転させてこの状況からの脱し方を考えていく。

 

「クイタラン、れんごく!!」

 

 テュリプさんの命令は、容赦の無い無慈悲な鉄槌を予期させる。

 にほんばれに照らされたクイタランは、有り余る技エネルギーで全身から炎を噴き出していくと、それらを口元で収束させてマホミルへと吹きかけるように放ってくるのだ。

 

 れんごくというわざは、ほのおのうずやほのおのムチとは打って変わって、青色や紫色とも呼べる、深い青色が混じった怪しい紅で形成された炎だった。これに手を入れたらきっと、火傷した跡に永遠とこの怪しい炎が残り続けるんじゃないか。そんなじわじわと迫ってくる炎が初見であるアタシは、対処法も分からないまま取り敢えず避けるべくマホミルへと指示を送っていく。

 

「マホミル!! マジカルシャインで防ぎながら、にほんばれの太陽へと向かって!!」

 

 こちらの指示に、とても素直なマホミル。さすがにこの状況下ではいつもの特攻癖が発揮できないのだろうか、アタシの指示を受けるなりマホミルは恐ろしいほど言葉のままに従って行動していく。

 マジガルシャインを撃つなり、にほんばれへと飛んでいくマホミル。しかし放った眩い光はれんごくによって打ち消されてしまい、じわじわと迫ってきていた怪しい炎はにほんばれの影響を受けて、その炎をより一層とリング内に広げていくのだ。

 

 急いで飛んで行ったマホミルの行動も虚しく、あの小さな身体がれんごくの炎に呑み込まれてしまった。それからというもの周囲のほのおのうずと連鎖したれんごくは、さらなる火力で燃え広がってスタジアムの中に熱気を充満させていくのだ。

 

「マホミル!!!!」

 

 アタシは叫んだ。マホミルの身を案じる、精いっぱいの声音。こちらの様子にテュリプさんは得意げな顔を見せていくのだが、そこにアタシは、マホミルへとそれを命じていった。

 

「とける!!!! 溶けた身体でクイタランに降りかかって!!」

 

 命じたアタシの言葉に「え?」とテュリプさんが若干と眉を上げていく。

 と、アタシの命令と同時に、既に身体を溶かしていたマホミルは、分散した液状のそれをクイタラン目掛けて一斉に飛散させていったのだ。

 

 マホミル自体は、やけど状態を負った深刻な状態だ。誰がどう見てもマホミルの状態はろくに戦えそうなものではなく、今にもひんしになっても何ら可笑しくない絶体絶命の状況。

 それに加えての、灼熱のデスマッチをつくり出したほのおのうずが、マホミルを追撃する。もはやマホミルが助かる術は無い。誰もがそう思うだろうし、アタシだってそう思う。そしてきっと、マホミルだってそう思っていた。

 

 だからこそ、マホミルはアタシに全てを託してくれていた。いや、アタシを信じてくれていたとも言えるだろうか。ユノさんとの戦いでもマホミルは言う事も聞かず特攻をかまし続けていたものだったが、あの戦いの最後、吹っ飛んだマホミルを身体で受け止めたアタシの行動に何か思ったのだろう、あれ以来からマホミルは、ほんの少しだけアタシの言うことを聞いてくれるようになった。

 

 たぶん、アタシがマホミルといったパートナー達を心から信じられるようになったからだと思う。――ユノさんとの戦いで理解したからだ。あの時マホミルは負けると分かっていてもなお、最後まで諦めずに反撃を止めなかったその雄姿を見てから……。

 

「クイタランにくっ付いたら、じこさいせい!!」

 

 れんごくに包まれたやけど状態のマホミルは、クイタランの周囲にべちゃべちゃっと落下した瞬間に形成を始めた。

 じこさいせいによる、とける状態からの一瞬の復帰。分散した身体が一気に集束して形を成すという芸当は、マホミル自身がユノさんのゾロアーク戦でお披露目してくれたものだ。

 

 だから、アタシはそれを更に応用する!! マホミルがじこさいせいを繰り出したその時にも、クイタランの足元に落ちた身体の一部を軸にして、周囲に落ちていたマホミルをそこへ一気に集結させていく。

 

 軸の身体に引き寄せられたマホミルの身体は、クイタランの足元のそれへとどんどん集っていく。そして、それのすぐ近くにいたクイタランが移動しようと動いたその瞬間にも、集結したマホミルの身体がクイタランに覆い被さり始め、足元の軸へと引き寄せ、クイタランをじこさいせいによる再生に巻き込んでいったのだ。

 

 自身の身体に、液状であるマホミルがくっ付いてくる。それでいて、じこさいせいというノーマルタイプの技エネルギーが働くその力で足元の軸へと押されに押されたクイタランは身動きが取れなくなり、終いには、マホミルは自身のじこさいせいに巻き込むことによって、クイタランを完全に取り込んでしまったのだ。

 

 ほのおのうずの中に、プルプルとした質感のクイタランが必死にもがいている。このあまりにも予想外な反撃に目を見開いていたテュリプさんは、今クイタランに何が起こっているのかワケが分からないといった調子で、命令を出していく。

 

「ちょ、そんなのアリ!? クイタラン!! 急いで抜け出して!! れんごく!! れんごく!!」

 

「マホミル! アシストパワーでクイタランの攻撃を打ち消して!!」

 

 プルプルなクイタランかられんごくの炎が溢れ出す。それは直にも液状のコーティングを燃やし尽くすハズだったのだが、そこから繰り出されたアシストパワーは、とけるの防御力上昇によって威力が増えていたこともあってか、クイタランが何とか絞り出したれんごくの怪しい炎をことごとく相殺していってしまうのだ。

 

 そして、ほのおのムチによって縮小していくほのおのうずが、次第と二匹に迫ってくる光景。――にほんばれによって威力が跳ね上がったそれは、さすがに繰り出したクイタランであっても食らったらタダでは済まないことだろう。

 どうせ、このリングから抜け出すためにあなをほるを覚えさせているんでしょ。アタシはテュリプさんの心の中を読んで先読みし、ほぼ同時に繰り出された彼女の指示と被せていく形で、マホミルへと命令していく。

 

「クイタラン!! 急いで、あなをほる!! ――いや、ほのおのムチでマホミルを解いて!!」

 

「マジカルシャイン!! 今ならどんなにぶっ放してもいいから、とにかく今のあなたが繰り出せる全力のマジカルシャインでクイタランを制圧して!!」

 

 液状のコーティングを突き破るように繰り出されたほのおのムチ。しかしその鞭が見えなくなるほどの眩い光が視界の中央で煌めき始めると、質量をもった光の粒が周囲へと溢れ出し、中にいるクイタランを力づくで制圧していくのだ。

 

 そして、二匹と触れ合うところまで縮小したリング。ギリギリというところで完全な姿に戻ったマホミルは、あなをほるで最後の最後まで逃げ出そうとしたクイタランに対し、わざでもない普通の体当たりをかまして行動を妨害していく。

 

 ――リングに挟まれた二匹。ほのおのムチによってしぼむように長細くなっていったほのおのうず同士が接触すると、にほんばれという効果もあってか瞬間的に巨大な火柱を生成。

 

 ドゴォォオッッ!!!! この世のものとは思えない灼熱の炎がスタジアムの中央に現れ、そこから渦を巻くように周囲へと広がっていった熱風に、アタシは被っていたキャップを飛ばされそうになる。

 それを手で押さえながら、アタシは一切と目を逸らすことなく行く末を見守った。これに注目するのはテュリプさんも同じであり、想定外のアクシデントによって自身らの作戦が失敗で終わったこの結果を、ただただ待ち続けるばかり――

 

 ――広がっていく火柱が勢いを弱め、それは次第と散っていくようにスタジアムから姿を消していく。そして、この消えていく火柱の中からうっすらと見え始めた二匹の影は、火柱が完全に消え去った頃には共に倒れた姿でスタジアムの中を転がっていた。

 

「マホミル…………」

 

 死亡まではいかない負傷だったものの、マホミルはこの試合で大ダメージを受けた。その姿は小さくありながらも、命を焼き尽くす灼熱の渦に怖気づくこともなく最後の最後まで自身の使命を全うしたマホミルは、真っ黒に焦げてそこに横たわっていた。

 

 一方で、クイタランも黒焦げになった状態で目をぐるぐるとしていた。こちらもひんしの合図を目に見える形で示しており、マホミル同様に立ち上がることすらも困難だろう。

 自分らの作戦に溺れたことによる敗北。この試合の流れは大きくこちらに向いてきたのを実感すると共に、審判が「クイタランとマホミル、両者のひんしを確認!! クイタラン、マホミル、戦闘不能!!」のジャッジを言い渡すと同時にアタシはマホミルへと駆け出していった。

 

 ここでハーフタイムとなった。テュリプさんはジムリーダーとしての貫禄でその場からクイタランをボールへと戻していくのだが、アタシはわざわざマホミルへと駆け寄ってから、その無事を確認して抱きしめていく。

 

「ありがとう、マホミル……! 怖かったよね。あんなのが迫ってくる中で、相手を道連れにするなんて。ポケモンバトルだから怖いことは色々とあるかもしれないけれども……それでも最後まで、アタシのことを信じてくれてありがと……」

 

 ここで、アタシは顔を上げる。どうやらポケモンのレスキュー隊が数名掛かりで駆けつけてきたようであり、すぐにもポケモンセンターへと連れていってくれる彼らにアタシはマホミルを託し、その場で軽く診てもらった後にマホミルをモンスターボールに入れ、ボールを彼らに渡してからその背を見送った。

 

 ……マホミルの勇敢なる行動によってもたらされたこの引き分けを、絶対に無駄にはしたくはない。アタシはスタジアムの中央に立つその状態で、テュリプさんへと見遣っていった。

 

 ――空間が火照りを帯びた、薄ら赤いものが漂う熱気のフィールド。火の粉も舞っているショウホンシティジムのスタジアムにて、アタシはこちらを迎え撃ってくるテュリプさんと本気の表情で向かい合った。




 次話の投稿は、10/07の朝を予定しております。
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