ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・テュリプ その2

 クイタランとマホミルによる同時KOで、空席だらけのスタジアムではわずかながらのざわつきが聞こえてきていた。

 レスキュー隊にマホミルを預けたアタシはスタジアムの中央でテュリプさんと目を合わせ、互いに譲れないという勝利の争奪戦に双方の想いをぶつけ合いながらも、アタシはすぐにも踵を返して自身のポジションへと歩いていく。

 

 その間にも実況と解説は大いに盛り上がりを見せていたようで、見下ろす形で設けられている実況解説のブースで賑わう声や音が、二人のつけているマイク越しからしっかりと聞き取れてしまったものだ。

 

「さぁさぁさぁさぁ!! これはまたとんでもないバトルを我々は見せつけられてしまったもんですが! やはりテュリプさんというお方は恋情の如き灼熱の使い手。彼女が扱うほのおタイプのわざは、他のほのおタイプのわざと組み合わせることによる連係を得意とした、自分のペースを保ちつつ戦う継続力に評判があるだけあってか、今回もまたド派手なコンボを見せてくれましたね!! これまでにも我々はクイタランを見て参りましたが、わざ構成を丸々と変えてきているその大胆さと、総入れ替えによる勝手の違う状況でありながらも彼女のコンボをしっかりと決めていくクイタランの練度の高さがとても目を見張る試合となったと思われます。が!! しかし、そんなテュリプさんとクイタランに食らいついていく我らがチャレンジャー!! まず一手目がサイホーンではなかったことに驚いてしまったものですが、サカシロさん、マホミルという新たなメンツも期待を裏切らない大活躍で存在感をアピールいたしましたね」

 

「そうですねー。そもそもとして、マホミルというポケモンは決して戦いを好むようなポケモンではないはずなんですよ。しかし、チャレンジャーのマホミルはこう、目が違いましたね」

 

「目、ですか」

 

「目、です。あの目は今にもクイタランを食ってやろうという捕食者としての、ガツガツとした戦意溢れるものを感じられたといいますか。マホミル系統は強い攻撃技をあまり覚えないものなのですが、チャレンジャーのマホミルはその数少ないレパートリーの中で、より勝利に近付くための一手を適切に選択していったその判断力がまた、素晴らしかったと思いました」

 

「サカシロさんありがとうございます。これまた随分と細かいところまで見ていらっしゃっております。さて、マホミルが圧倒的な不利を背負っていたあの場面で、よりチャレンジャーが勝利へと近付くための最善の策が決まったとも言うべきでしょうか。結果は引き分けという形で終わりましたが、この試合はまだまだ続く! チャレンジャーが持ち場に戻った今、その手には握りしめられたモンスターボール。その中には果たして、例の、鬼のような機動力を誇る重戦車が今か今かと待ち受けているのでしょうか!? ――チャレンジャーのリベンジマッチ、第二試合でありラストバトルでございます。この試合は果たして、どちらの勝利で終わるのでしょうか。最後の戦い、我々でしかと見届けましょーーーーッッ!!!!」

 

「よろしくおねがいしまーす!」

 

 

 

 足元が落ち着かない。右足と左足で、地面を踏み付けるように何度も何度も擦っていく。

 ……緊張しているんだ。とても落ち着かない気持ちが身体にも現れているのだろう、それを幾度と行っていく中でバッグから二個目のモンスターボールを取り出して、未だ火の粉が待っている熱気のスタジアムへと向いてから、この中央へとただただ見遣って、その時を待ち続けたのだ。

 

 双方の準備が整ったことを確認した審判。次にも手に持つ旗は構えられ、「両者、ポケモンを!!」と促していく。

 

 投げの構えを行っていくアタシ。そして、視界の奥では同じく取り出したモンスターボールを手に持つテュリプさんが、とても複雑そうな顔をしながらもアタシのことをじっと見据えてくるのだ。

 ……せーの。心の中でカウントしたそのタイミングは、テュリプさんとバッチリ。ほぼ同時のタイミングで投げた二人のモンスターボールからは、スタジアムに降り立つ二匹のポケモンが姿を現した。

 

「お願い!! サイホーン!!」

 

 短くそれだけを告げて、アタシは意識を戦いへと集中させた。声を掛けたサイホーンもまた、いつもの如く表情をひとつも変えないクールな佇まいをしながら、そこにどっしりと構えて戦闘の合図を待ち望む。

 

 一方、テュリプさんが繰り出したポケモンは、姿を現すなり荒い鼻息で両手を強く打ち鳴らしてきた。拳で殴り合わせるように行ったそれは衝撃波が見えるほどの威力であることを思い知らされ、そこから繰り出されるほのおタイプのわざを想像するだけで、アタシはタイプ相性では勝っているサイホーンであっても黒焦げにされてしまうんじゃないのかと不安を煽られることとなる。

 

 だるまのような、丸い体型。荒々しい顔でゴリラのような筋骨隆々な身体を持つそれは、アタシらを眼光で仕留めんとばかりに鋭く睨みながらも、口を開いて歯を閉じている、まるで勝気のままに笑っているかのような顔をしていた。

 

 アタシと向き合うそれに対し、テュリプさんは身体の後ろに手を回しながら自身のポケモンへと声を掛けていく。

 

「いい、ヒヒダルマ。あのチャレンジャーに対して、様子見の加減は一切不要。最初から全力全開の、燃え盛る灼熱の炎のように暴れ回っていいから!! ――でも、油断だけは絶対にしないで。今はまだまだ発展途上のトレーナーだけれど、あのタイチ君に一目置かれているものだから、深追いは厳禁で行こ」

 

 そう言い、テュリプさんはヒヒダルマというポケモンに言葉を掛けていく。そしてヒヒダルマは了解するかのように再び両手を殴りつけるように打ち鳴らして、アタシらへと構えていくのだ。

 

 審判が、旗を上げるべく双方のポケモンを見遣っていく。……共に準備は万端。厳つい顔でしっかりと頷いていくと、次の時にも、「バトル……始めェ!!!!」の合図と同時に旗を振り上げて最終ラウンドの開幕を告げていったのだ。

 

 ――先手必勝。アタシとテュリプさんが同時に指示していく。

 

「サイホーン!! ドリルライナーで接近!! 途中でけん制技が飛んできたらロックブラストで対応!!」

 

「いつものように、開幕フレアドライブ!!」

 

 じめんタイプのわざエネルギーをまとったサイホーンは、自身の周囲に渦巻く砂の力で走り出すなり、その回転力を機動に活かしてサイホーンならぬ素早い速度でヒヒダルマへと接近する。

 ヒヒダルマも、溢れ出したほのおタイプのわざエネルギーが強すぎるのか、命令の直後にも自身の身体に爆発を引き起こし、爆炎から飛び出していくかのように炎を纏いながらサイホーンへと走り出していったのだ。

 

 ……速い!! ヒヒダルマというポケモン、ゴリゴリのアタッカーという見た目にそぐわず、素で俊敏な素早さの持ち主だ。サイホーンのような重戦車系かと思っていたアタシは、目の前のポケモンの正体を知るなり作戦変更でサイホーンへと指示を言い渡す。

 

「あのわざ、なんだかすごく自信を持っていてヤバい気がするッ! サイホーン! ロックブラストで迎撃!! 相手を近付けない立ち回り重視で!!」

 

「ヒヒダルマをただの特攻隊長だと思わないことだよ! サイコキネシス!!」

 

 え!? アタシが驚きで見開いた目は、想定外のわざによって一気にペースを崩された自身らの不利を目撃することとなる。

 

 サイホーンが生成したロックブラストが放たれると、次にもヒヒダルマは目を光らせて前方の標的を捉えていく。そうして対象を定めていくと目に見えないわざエネルギーが働き始めて、サイホーンの放ったロックブラストが宙で静止してしまうのだ。

 

 超能力。その一言に尽きる。サイホーンのロックブラストを止めてしまったヒヒダルマは、エスパータイプのわざエネルギーを駆使して次の展開へと運ばんとしてきた。

 ロックブラストが、サイホーンへと襲い掛かってきた。今も次の岩を生成していたサイホーンは急ぎでドリルライナーの機動力で横へ回避していくのだが、ヒヒダルマが捉えた標的が本体へと移ったことで、サイホーンの身体がわずかに浮かび上がり、サイホーンはとても苦しそうな表情を見せていく。

 

 幸いにも、サイホーンの体重が重かったことでそれ以上のことはできなかったようだ。ヒヒダルマはサイコキネシスを維持したままこちらの様子をうかがってくるのだが、あの見た目をしてこんな繊細な攻撃を仕掛けてくるだなんて、思いもしていなかった……!!

 

「サイホーン、メタルバースト!!」

 

「おわっと! その手で来たか!」

 

 テュリプさんの、あちゃーという表情。アタシのサイコキネシスから逃れるための一手は有効であったらしく、今も持続するそれの威力を利用した反撃の一撃が、ヒヒダルマに襲い掛かる。

 サイホーンが放った鋼の光が、ヒヒダルマに一直線と飛んでいった。それを避けることもできなかったヒヒダルマがメタルバーストの一撃でサイコキネシスを解いてしまうと、それを好機と見たサイホーンが攻めへと転じて一気にロックブラストを放出していくのだ。

 

 大丈夫。アタシらは有利だ。自分に言い聞かせながら、緊張で頭が真っ白になる事態を防いでいく。こうして内面のケアを行いながらも見据えた目の前の光景には、テュリプさんが次なる策を講じる様子が見て取れた。

 

「なら、これならどうかな! ヒヒダルマ、じしん!!」

 

 両手で殴りつけるように打ち鳴らし、気合いを入れた勢いでスタジアムを叩き付けていくヒヒダルマ。この一撃は大地と大気の両方に伝わり、放ったロックブラストを粉々に粉砕し、サイホーンへと襲い掛かってくる。

 

 それはまずいって!! すぐさまドリルライナーでの機動力で避けるよう命じてサイホーンを動かしていくのだが、完全に隙を晒したアタシらへと向かって、テュリプさんは目を細めてしっかりと好機をうかがっていく。

 

「サイコキネシスで接近!! からのフレアドライブでサイホーンにぶち当たってッ!!」

 

 瞬間、ヒヒダルマは自身にサイコキネシスをかけることで、宙を浮きながらサイホーンへと接近してきたのだ。

 そんなのあり!? ドリルライナーで回避していたこの隙を潰すかのように続けて放たれたフレアドライブが、自身の身体が爆発するほどの溢れた技エネルギーでサイホーンへと突撃してくる。

 

 まるで、大砲のような一撃だった。爆発によって発出されたヒヒダルマの丸い身体がサイホーンへと突っ込んできたからだ。この攻撃を避ける余裕が無く、ドリルライナーの着地に合わせる形で豪快にぶつかってきたド級の一撃。ヒヒダルマに突っ込まれたサイホーンは、こうかはいまひとつであるにも関わらず鳴き声を上げて、アタシのすぐ傍まで吹き飛んできたのだ。

 

 地面と水平になるように飛ばされてきたサイホーン。着地で引き起こされた砂埃でアタシがむせていく間にも、再びほのおが爆発する音を耳にしてアタシは急ぎで目を開けていく。

 ――迫るヒヒダルマ。大砲に手足が生えたかのような絵面で一直線と走ってくる光景は背筋に恐怖を覚え、一気に上ってくる悪寒で死すらも予期する。このあまりにも破天荒かつシンプルすぎるゴリ押しがとてつもなく厄介であると感じたアタシは、すぐにも思考を巡らせてサイホーンへと命じていくのだ。

 

「すてみタックル!! タイプ相性では勝ってる! だから、サイホーンも真正面からぶつかっていって!!」

 

 こちらの命令に、サイホーンもノーマルタイプの技エネルギーをまとって一直線と走り出していった。

 対峙する二つの軌跡。共に一切の戦術も思わせない肉体同士のぶつかり合いは、衝突の直後にも引き起こされた技エネルギー同士の接触による大爆発で、スタジアムには轟音が響き渡る。

 

 一体何事だ! そんな様子で慌ててスタジアムへと駆け付けてくる警備員やスタジアム関係者。でもそんなのもお構いなしとアタシとテュリプさんは戦況をまじまじと見つめながら戦闘に集中し、今も激しいぶつかり合いを何度も繰り返していく双方のポケモンに、再び指示を出していくのだ。

 

「サイホーン! ドリルライナーで突っ込んで!!」

 

「いいねいいね!! コンボなんか気にしない技と技のぶつかり合い! ヒヒダルマ! 受けて立ってあげて! じしん!!」

 

 大地を殴りつける、剛腕から繰り出される破壊の一撃。アタシの足元にも伝ってくる強大なじめんタイプのパワーがサイホーンへと襲い掛かると、サイホーンもまたじめんタイプの技エネルギーをまとってその衝撃へと突っ込んでいく。

 

 そして、じしんの衝撃に耐えながらも衝撃の波をドリルライナーで突っ切ったサイホーン。そのままヒヒダルマと接触すると、こうかはばつぐんのままに強引と押し出していってスタジアムを引き摺っていくのだ。

 

 ヒヒダルマは、とても効いていると言わんばかりに表情を歪めていた。――だが、テュリプさんはむしろ、この不利な状況であろうとも真正面から受けて立ってくる。

 

「アイアンヘッド!!」

 

 ゴチンッ!!!! 鉄の音が響き渡るその戦況にアタシが身を乗り出していくと、次の瞬間にもドリルライナーを受け止めたヒヒダルマの額が、サイホーンの勢いを弱めて押し返し始めていた。

 

 それどころか、剛腕でサイホーンの身体をがっちりと掴んでいくと、そのままアイアンヘッドを何度も何度も食らわせていく。

 ガン!! ガン!! ガン!! こうかはばつぐんである攻撃をひたすら叩き込まれていくサイホーンが痛々しい表情を見せていくその様が、如何にあのサイホーンを苦しませているのかがよく分かるだろう。

 

「サイホーン! このままじゃあヤバイ!! メタルバースト!!」

 

「サイコキネシス!!」

 

 硬直するサイホーン。メタルバーストの鋼の光を繰り出そうとした時にも自由が利かなくなったのだろう。目の前のヒヒダルマが目を光らせてその身体を制御し、次第と退けるように動かしていくなり、再び爆発を引き起こしたフレアドライブの一撃を浴びせてくるのだ。

 

 サイホーンが、吹き飛ばされてきた。地面にめり込むようにズザザーッと長距離を吹っ飛ばされると、すでに減った体力でボロボロとなった身体をなんとか持ち上げて佇んでいく。

 タイプ相性では有利のはずなのに、むしろサイホーンが劣勢となって不利を強いられていた。アタシはこの状況にひどく焦りを感じていたものだが、しかしこの焦燥は、今にも見るヒヒダルマのとある変化によって、より悪化してしまうこととなる。

 

 フレアドライブの一撃も、高威力である分ヒヒダルマ本体にも負担がかかるのだろう。反動によるダメージも響いてきているのか若干とフラついてきたヒヒダルマは、先ほどまでの勝気の表情とは打って変わって、どこか自信の無いような、なんとも情けない顔を見せていたものだ。

 

 と、その瞬間にも丸まって宙に浮き始めたヒヒダルマ。色も野生味にあふれながらもダルマのような赤色だったその体色を、まるで石のような色となって姿かたちを変えてくるというもの。

 ――何が起こっているの!? 不利を背負ったこの状況で、更なる新たな要素を目にしたアタシの目には絶望が浮かび上がる。そんなこちらを何とも言えない顔を見てきていたテュリプさんは、身体の後ろで手を組んだまま、アタシへと言葉を投げ掛けてきたのだ。

 

「言ったよね? 潰すって。残念だけど、ヒイロちゃん。貴女が思っているほどジムチャレンジっていうのは甘い世界ではなくって、むしろ今まで順調に来ていただけでもヒイロちゃんは相当特別だった、と思うべきだと思う。もちろん、それは褒められたことでもあって、わたしはヒイロちゃんの快進撃を素直にスゴいと思えるから。……でもね、現実を知ることも大事かな。ヒイロちゃんはまだまだ未熟。なにもね、わたしに一度負けてしまった人だなんてヒイロちゃんだけじゃなくて、むしろね、ジムリーダーに負けてしまった人達ってのは、数え切れないほどにいるの。――それも、一回だけの敗北だけでなく、何度も、何度も、何度も何度も何回でも何回でも負け続けて、それでも挫けずにずっとわたしに挑戦し続けたチャレンジャーもこの目で多く見てきた」

 

 石像のような姿となったヒヒダルマ。浮かび上がって神秘的なものさえも感じさせる光景を目の当たりにしながらも、アタシは立ち上がったサイホーンと共に、これからが本当のショウホンシティジムの戦いへと臨むこととなる。

 

「すごく厳しいことを言っているかもしれない。でも、わたしがこんなことを言うだなんて、珍しいことでもあるかな。それくらい、わたしはヒイロちゃんに期待を持ててしまっている。それが現状。……戦っていて、なんだかいつも以上に熱く燃え滾ってくる。今、自分でも不思議に思うくらい、この胸の中はわたしの闘志で燃え盛っている!! ――レミトリが負けたワケだ。これからはわたし達、マジでチャレンジャーを潰しに掛かるから、覚悟しておいてッ!!!!」




 【あとがき】

 本日中(10/07)には次話を投稿したいと思っております。
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