ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・テュリプ その3

 石像のような姿となった、これまでの野生味あふれる筋骨隆々な姿とは全く異なるヒヒダルマ。それが神秘的にもフワフワと浮いている光景の奥では、テュリプさんがマジの目つきとなってアタシらを鋭く捉えてきていた。

 

 ――テュリプさん、本気でアタシらを潰しに掛かってきている。今にもその眼光でアタシを降伏させようとする迫真の眼差しは、彼女もまたジムチャレンジで過酷な現実を見てきたのだろう証拠とも言えた。

 同時に、期待もしているからこの程度で挫けるんじゃない。そんなセリフも聞こえてきそうだった。タイチさんだけじゃなく、わたしも貴女のことを見ているんだからね。テュリプさんがその目でひしひしと伝えてくる言葉の数々に、アタシは圧倒されてしまいそうになるものの首を振って気分を変えていく。

 

 そして、自分の頬に強く両手を打ち付けた。あの変身前のヒヒダルマが両手を打ち鳴らすように打ち付けていたように、アタシも今、ヒヒダルマのように頬を両手で何度も叩き付け、痛々しく響き渡った肌の音と共に、真っ赤に染め上げた頬でアタシはテュリプさんを見遣っていった。

 

 ――痛みと、闘志で火照るように染めた頬。……ほら、気合い入れたんだからね。アタシだって、真正面から受けて立ってやる。挑戦的な目を向けてテュリプさんを煽っていくと、彼女はとても嬉しそうにニヤっと口元を吊り上げて、ヒヒダルマへと攻撃を命じていったのだ。

 

「サイコキネシスッ!!」

 

 ヒヒダルマの周囲に広がった、超能力の異空間。歪むとはまた異なる、形容し難い摩訶不思議な波が漂う空間をスタジアムに生成すると、これまでの超能力を遥かに凌駕する規模の力を披露すると共に、テュリプさんは次なる一手を繰り出していく。

 

「フレアドライブッ!!」

 

 ヒヒダルマが引き起こした爆発。それによってサイホーンへと突っ込んでいく物理のわざであるこれを繰り出すなり、ヒヒダルマはその爆発を超能力の異空間に残留させて、自身がまとっていたほのおタイプの技エネルギーを、サイコキネシスで操作し始めていったのだ。

 

 現状を説明するのならば、まずヒヒダルマはフレアドライブを繰り出した。しかし、そのフレアドライブを先ほどのサイコキネシスで操ることにより、自分とフレアドライブを切り離してきたのだ。

 切り離されたフレアドライブは、サイコキネシスが生み出した超能力の異空間に残留し始め、自分と分離したほのおタイプの技エネルギーを、ヒヒダルマはサイコキネシスによってラジコンカーのように操作することで、そのフレアドライブ単体を自由自在に操っている……というのが現状だ。

 

 そして、残留したフレアドライブは、ヒヒダルマが纏っていたその状態を維持したまま、なんと遠隔操作でサイホーンへと仕向けてくる。

 なんだ、それ! アタシはすぐさまロックブラストを命じ、サイホーンの攻撃でフレアドライブを打ち消して対応していく。しかし一方でヒヒダルマは再びフレアドライブを繰り出し、それを分離して操作し、サイホーンへと仕向けてくるのだ。

 

 どんどんと量産されるフレアドライブが次々と襲い掛かる状況に、アタシは内心で頭を抱えながらも状況の打破を考え始める。

 見るからに、ヒヒダルマがあの姿へと変化してからサイコキネシスが強くなった。逆にフレアドライブの威力が減っている気がすることから、どうやらヒヒダルマというポケモンは二つの姿を駆使して戦う種族であることが分かってくる。

 

 でもって、その二つの姿にはそれぞれ得意分野があって、どちらか片方が強力になり、もう片方は衰退する。今回の姿は、サイコキネシスのような特殊系のわざの威力が強まったように見えて、フレアドライブのような物理系のわざの威力が弱まっているように見て取れるから……。

 

「サイホーン! ヒヒダルマに接近して!!」

 

 こちらの指示にサイホーンはすぐ行動を起こし、ドリルライナーの回転力をまとって走り出すと、降りかかるフレアドライブを回転力による機動で避けていきながら着実とヒヒダルマへと迫っていく。そんなアタシらの様子に、テュリプさんは「さすがに分かるか……」と、小声で試すかのような言葉を漏らした。

 

 どうやら、アタシの推測は正しかったようだ。ヒヒダルマは接近してくるサイホーンを見るなり距離を離すように動き始め、しかも、こちらの接近を許さんとばかりに切り離したフレアドライブを仕向けて、進行の妨害に努めていくその姿。

 この戦い、アタシが詰めるか、テュリプさんが逃げ切るか。今もヒヒダルマの動向にしっかりと注目をしていきながら、アタシは勝利を掴むべくサイホーンの采配を執っていく。

 

「すてみタックル!! 飛んでくるフレアドライブはきっとタックルで相殺できる! あとはひたすら近付いて!!」

 

「ヒイロちゃん! それはちょっと安直すぎ! ヒヒダルマ、じしん!!」

 

 すてみタックルでサイコキネシスの超能力空間へと突っ込んだサイホーン。その行動を見るや否やヒヒダルマは全身から放ったじめんタイプの技エネルギーを異空間へと伝わらせ、地震という概念が覆る攻撃を行ってきたのだ。

 

 なんと、じしんさえも切り離したヒヒダルマ。その大地を揺るがす衝撃の一撃をサイコキネシスの異空間に残留させることによって、じめんタイプの高威力を有するその攻撃を空間に張り巡らせるという力業を可能としてきた。

 じしんというわざが、地面に伝わらず空間に残り続ける。すでに異空間へと突入していたサイホーンは残留したじしんをもろに受け、まさかじしんというわざを浴びることになったサイホーンが衝撃のあまりに空間の外へと弾き飛ばされていった。

 

 とんでもないはちゃめちゃな戦法にアタシは「うそっ!?」と声を上げて、頭が真っ白になってしまった。

 これじゃあ近付けないじゃん……!! じしんを防御壁として利用してくるヒヒダルマの破天荒な荒業に動揺する間にも、テュリプさんは容赦の無い策を講じてアタシらを追い詰めてくるのだ。

 

「サイコキネシス!! この異空間をどんどん広げてやる!!」

 

 ヒヒダルマから繰り出されるエスパータイプの技エネルギーが、着実と範囲を広げていく。

 このままスタジアムがサイコキネシスの空間に呑み込まれてしまったら、サイホーンは切り離されて残留するフレアドライブとじしんに袋叩きとされて、間違いなく一瞬でKOされてしまうだろう。

 

 ……どうする、この状況。この絶体絶命の窮地を、アタシはどうやって切り抜ける――!?

 

 ――いや、あるじゃん。アタシらには、重戦車ならぬ掟破りの切り札が。

 

「サイホーン!! サイコキネシスに突っ込んで!!」

 

 こちらの采配に、テュリプさんは目を丸くしてきた。

 あまりにも意外だったのだろう。まさか、通用しない策をもう一度試すだなんて。信じられないといった調子で驚きを見せてくるテュリプさんに構わず、アタシはサイホーンを走らせて好機を見計らうのだ。

 

 サイコキネシスで残留するフレアドライブが襲い掛かってくる。それに対してはすてみタックルでぶち破っていき、異空間へと突っ込んだサイホーンを確認するとすぐにも放たれる高威力のじしん攻撃。

 ヒヒダルマの身体から伝ったじめんタイプの技エネルギーが、サイホーンを包み込む。この空間に広がったこうかはばつぐんの技を食らって痛々しい顔を見せていくサイホーンだったが、その時にも鋼の光を放ちながら、反撃の一撃をお見舞いしていくのだ。

 

「メタルバースト!!」

 

 食らったダメージを、さらに増やして返してやる!! 身体を張った反撃の光が異空間を貫くなりヒヒダルマに直撃し、これを受けてよろけ始めたヒヒダルマへとサイホーンが一直線に駆けていく。

 だが、テュリプさんは更なるエグいわざを使用することでアタシらをより追い込み、加減を知らない猛攻を迎撃という形で行ってくる。

 

「出し惜しみはしていられないね! ヒヒダルマ! くさむすび!!」

 

 まずい――。弱点の中の弱点とも言える、相性最悪の必殺技。

 ここに来て、敗北が一気に濃厚となった。普段であればサイホーンの足元に生えることで絡まりながらもくさタイプの技エネルギーを与えていくそれであるが、今回はサイコキネシスの異空間へと伝わることで広範囲へと展開できる、もはや逃げ場の無い最強のわざへと変貌する。

 

 ヒヒダルマから切り離されたくさむすびが異空間に伝わることで、根っこの形となった技エネルギーがスタジアム全体へと広がった。

 今からこの空間を抜け出すこともできない。範囲外へ逃げようにも、くさむすびが伸びてくる速度の方がサイホーンのドリルライナーを上回っているため、あれを食らってしまったら最後、アタシの敗北が確定となる。

 

 あのくさむすびに対抗するには、あの攻撃よりももっと速い、迸るような一撃が必要となるだろう。

 しかし、アタシのサイホーンは重戦車。どっしりと構えて相手を撥ね飛ばす立ち回りには、そんな鋭利な攻撃を持ち合わせているわけもなく――

 

 ――いや、ある。

 

 見えた。

 絶望を凌駕した無心の域。すべての感覚が研ぎ澄まされたことで逆に何も感じられなくなったアタシは、悟りでもなく、降ってくるように見えた勝利への道筋をこの目で捉えながら、サイホーンへと“それ”を命じていくのだ――

 

「10まんボルトッッ!!!!」

 

 帯電するサイホーン。

 そんなまさか。後ろにやっていた手を口元に移してくるテュリプさんの視界にはきっと、次にも放たれる勝利への一手が迸ることだろう。

 

 重戦車から発出された雷撃。ツノの先端からバチバチと激しく大気を走ったそれは、くさむすびの根っこを上回る速度で突き進むなり本体のヒヒダルマを感電させた。

 予想外の攻撃が飛んできたことで、完全に油断していたのだろう。ヒヒダルマは攻撃を食らうと異空間を解除してしまい、しかも10まんボルトの追加効果でまひを発症したのか、痺れが取れないその身体は自由が利かなく、浮いていたそれはゴトンッと落ちて転がってしまった。

 

 逃してはならない。

 一気にもぎ取れ――ッッ!!!!!

 

「サイホーン!! すてみタックルーッ!!!!」

 

 腹から振り絞った、叫びの声音。回転力で機動力を得たサイホーンが一直線と進む光景に、テュリプさんも張り裂けんばかりの声を上げていく。

 

「暴れるよヒヒダルマッ!! 最後の最後までわたし達の闘志を燃やし続けてみせるよ!!! ダルマモードを解除して、フレアドライブッ!!」

 

 彼女の声を受けて、石のような身体から元の筋骨隆々な姿へと変化するヒヒダルマ。その顔に燃え滾る闘志を浮かばせて、痺れる身体で両手を打ち付ける気合いを入れながら、技エネルギーによる爆発を起こしながら真っ直ぐとサイホーンへと突っ込んでいく。

 

 もはや、意地と意地のぶつかり合いだった。勝利にこだわる戦略などを一かけらも思わせない脳筋の一手は、双方ともに衝突し合う力業での決着を渇望する光景でもあった。

 ぶつかり合った衝撃で、スタジアムの中央には爆発混じりの衝撃波が発生した。これは観客席に張り巡らされた、わざが飛んでこないようにするための透明の防壁にしっかりと伝わり、まるで台風の日の窓のようにガタゴトと音を立てていく。

 

 実況解説の声も音も聞こえない。今こうして耳に入る音は、スタジアムの中央で何度も何度もぶつかり合う二匹が起こす衝突音。すてみタックルとフレアドライブが同時に繰り出される力任せの景色をカメラがしっかりと捉えていく中で、今もサイホーンとヒヒダルマはただ眼前の相手を倒さんとばかりに己の身体をぶつけていくのだ。

 

 泥まみれの決闘。これは消耗戦だ。爆発と衝撃が繰り返されるスタジアムは地面が抉られ、伝わる衝撃波でアタシとテュリプさんはお互いに髪やスカートを揺らしていく。

 今もこの身体に全面的と浴び続ける、技エネルギーの猛々しい熱気。舞っていた火の粉は塵となって姿を消し、じきにもスタジアムには爆炎の黒い煙が漂い始めて視界も不良となる。

 

 それでも、サイホーンとヒヒダルマは魂を賭けてぶつかり合っていた。何度も打ち付け合うすてみタックルとフレアドライブ。共に体力が無い上に、わざの反動で更なるダメージを受け続ける決闘の名にふさわしい絵面。

 

 これほどまでに激しい撃ち合いを行ったのは初めてだ。もはや持久戦であるこれに、アタシは興奮のあまりに食いしばった歯から血を流しながら、この戦いの行く末を見守っていく。

 

 スタジアムのフィールドが、黒焦げとなって宙に舞い始めていた。それが二匹のぶつかり合いによる衝撃でより舞い上がり、噴き上がる爆炎も相まって、気付けばスタジアム内はむせかえるほどの黒煙に包まれた、火事も同然な灼熱の空間へと変貌を遂げていた。

 

 透明の防壁がある観客席からは、何も見えないだろう。実況と解説もなんだなんだと興奮のままに声を上げていくその音だけが聞こえてくる黒煙の視界の中、アタシは袖で口元を押さえながら、一切とその目を閉じることなく心眼で目の前の雄姿を捉えていく――

 

「サイホーン……ッ!!!!」

 

 大丈夫。アタシ達は勝てる。

 確信があった。こうして消耗戦に受けて立ったテュリプさんの痛恨のミスを、アタシは無意識にも理解することができていたから。

 

「あなたなら、絶対にやれるから……!!」

 

 わずかながらと見えた、二匹の姿。今も激しくぶつかり合ってわざを繰り出していく光景に、アタシは手を伸ばし、この広げた手の、指と指の間に見えた勝利への道筋を、しっかりと見据えていく――

 

「テュリプさん……。あなたの負けだよ……! 燃え滾る闘志が正々堂々の勝負を求めてしまったがあまりに、アタシのサイホーンが、あなたのヒヒダルマと同じ立場であると勝手に決めつけてしまったんでしょ――!!」

 

 ぶつかるサイホーンとヒヒダルマ。互いに限界を超えた、無我の境地へと辿り着いた悟りの顔を見せていく。

 意識による行動ではない。ポケモンという種族が生まれながらにして持つ、闘争を好む本能が織り成す衝突だった。

 

「どっちも、反動でダメージを受ける高威力のわざ……! それをお互いにぶつけ合っているんだから、二匹とも倒れていても何らおかしくないハズ……! ――でもね! アタシ達の勝ちなの、テュリプさん。なぜなら……アタシのサイホーンは、いしあたま、なんだから……ッッ!!!!!」

 

 見開く眼光。紅の瞳が捉えた、真正面の相手。

 纏う炎が爆炎を起こして自身と衝突する。それによって己の体力の限界を悟るのだが、トレーナーの勝利なんて関係ないと言わんばかりの、この戦いは自分の勝利で終わらなければ気が済まないと、そんな己の本能による主張とも言える渾身の一撃が相手に繰り出されると、その衝突を受けた相手は次にも揺らぎ、身に纏っていた爆炎を一気に解放してしまったことで、相手は背中から抜けるように炎を噴き出してしまうのだ。

 

 すてみタックルの一撃によって、黒煙が振り払われた。それと同時に見えた、サイホーンが渾身のすてみタックルを繰り出していく光景。アタシとテュリプさんが最後の最後まで見守る中、振り絞るかのような捨て身のタックルを受けたヒヒダルマはサイホーンに撥ね飛ばされ、その筋骨隆々な姿がスタジアムの宙に放り出されていった。

 

 丸い身体が空を舞って、華麗に吹き飛びながら回っていく。それが地面に落ちるとものすごい衝撃波と音を周囲に放ち、ゴロッ、ごろっ、と転がると、次にも意識不明とも呼べる深刻な状態となって、スタジアムの中で倒れ込んだのだ。

 

 ――沈黙が走るスタジアム。この状況に既視感がありながらもアタシは静かに唾を飲み、ジャッジを見遣る。

 ……こちらの視線に気が付いたジャッジ。ジャッジもまた目の前の光景にひどく困惑していたらしく、ハッとするなりサイホーンの根性で佇む様子を見てから、最終的な判断の下で手に持つ旗を力強く振り上げていったのだった――

 

「ヒヒダルマのひんしを確認!! ヒヒダルマ、戦闘不能!! ――ゲームセット!! 勝者、チャレンジャー!!!! ……レスキュー! 急げ! 至急、二匹の搬送を!!!!」

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