ポケモンと私   作:祐。

56 / 104
ゲテモノ

「こんにちは。ヒイロです。その――そう! あの時の、ヒイロ。ポケモンセンターで入院しているスリープのお見舞いに来たの」

 

 ショウホンシティのポケモンセンターで、一人のおじさまポケモントレーナーと会話するアタシ。申し訳なさそうに話し掛けるこちらの顔を覚えていたのだろうおじさまは、「あぁ、あの時の」と晴れやかな表情で迎え入れてくれた。

 

 本当であれば、この日にもショウホンシティを出発する予定だった。そのつもりで昨日は省エネモードの完全オフデーを設けてみんなでまったりしていたというのに、あの後にも起こってしまったある出来事によって、アタシはもう一日とこの街に残ることにしたのだ。

 

 その出来事というのが、昨日にもユノさんが眠った後に起きたものであり、それでいて悪者が誰一人としていない、あまりにも不測の事態であったものだから——

 

 

 

 ……ユノさん、まだ眠ってる。

 スマートフォンで確認する現在の時刻。刻々と太陽が傾き、夕方へと向かっていく時間の流れだったが、ユノさんが眠ってから気付けば早三時間が経過していた。

 

 アタシはアタシで、よくずっとそこに座っていられたと思う。こうして肩を枕にされている間にも公園の周囲ではトレーナーやポケモンが触れ合っていて、そこではまだ見たことがなかったポケモン、デンリュウとかフシデ、ダンゴロやビブラーバといった初見のメンツを眺めることができて、しかもポケモンバトル用のコートも設けられていたことから、新たな発見やポケモンバトルの参考なんかでそれらを見ていて、暇に感じることが一切無かったというものだ。

 

 特にこの場で一番の大発見とも言えたのが、リージョンフォームと呼ばれる、地方によってその姿や生態を変えて生きているとされる、亜種のようなポケモンをお目にかかれたこと。なんだか見たことがあるようで、でもその面影を残しながらも全く目新しい姿でそこに存在していたライチュウ。アタシがハクバビレッジで見たライチュウは、尻尾をサーフボードのようにしながら乗ってなんかいなかったし、それも宙に浮いてはいるわ、なんだかフワフワとお菓子みたいな色合いをしていて愛らしいわで、アタシは「近くで見たい……!」と思いながらも、そのライチュウを遠くから眺めたりしていた。

 

 ラルトスも、アタシとユノさんに挟まれることに飽きたらしくゴソゴソと出てくるなり、アタシの膝の上にいたマホミルを誘ってサイホーンの上に乗っていく。マホミルもポケモンバトルやらで疲れたのかやけに大人しく、ラルトスに誘われるままサイホーンに乗っかっていくと、サイホーンはアタシを見遣り、そのままプイッと向いて公園の中を歩き始めていったのだ。

 

 サイホーンは、動けないアタシの代わりに二匹を遊ばせてくれていた。内心で「ありがとう……!!」なんて連呼しながらも、その三匹の背がまた愛くるしくて目に焼き付けていくアタシ。

 こうして、完全にユノさんと二人きりになった空間で、今も静かに女の子らしい寝息を立てているユノさんを起こさないようにじっとしていた。

 

 ……のだが、それから少しして、アタシはこちらにのそのそと歩いてくる一匹のポケモンと目が合う。

 

 黄色と茶色の、二足歩行のバクのようなポケモン。細い目と、如何にもエスパータイプと言わんばかりの雰囲気。ちょっと横に広い身体と色合いが相まって、なんだかデザートのプリンみたいなポケモンだなぁと思うアタシは、それを図鑑で見たことがあるのを思い出して声を掛けていく。

 

「……スリープ、だよね? どうしたの?」

 

 こちらの問い掛けに、スリープはもう少しだけのそのそと歩いてきてじっと見てくる。

 エスパータイプは、超能力を有する関係上、人間の言葉を理解する知能がより発達している……と、ラルトスと一緒に過ごしてきたアタシは勝手に思っていたのだが、どうやらアタシの言葉をしっかりと理解していたようで、アタシの問い掛けに答えるかのように、スリープは近付くなり指を差して、訴え掛けてきたのだ。

 

 指を差したのは、今も眠っているユノさんの、頭部。

 

 ――あぁ、なるほど。

 

「図鑑で読んだことあるよ。夢を食べるだなんて信じられない、って思いながら読んでたから、しっかりと覚えてる。……夢、食べる? 人の夢だから、アタシが許可していいのか分かんないけど」

 

 そんなこちらに、スリープはすごく物欲しそうな顔を向けてくるものだから、アタシはその瞳に負けて、「いいよ」と答えていった。

 すると、なんだか嬉しそうにするスリープ。すごい、人の言葉をこんなにもハッキリ理解しているんだ。なんてスリープの知能の高さに驚かされていると、その間にもスリープはユノさんに近付き、黄色の長い鼻を上げて、口を開けて夢を吸い込み始めていく。

 

 ……もしゃもしゃしてる。スリープが夢を食べていく様子をまじまじと観察するアタシ。ここから動けない以上、特にやることもない。それを抜きにしても、とても興味深いお食事シーンだったものだから、アタシはひたすらとジーッと眺めて、スリープが本当に夢を食べて生きているんだなと思っ――

 

 ――いや、待って。なんか、スリープの様子が変。

 

「スリープ……?」

 

 喉元を抑え始めたスリープ。表情もとても苦しそうにしており、更には白目を剥き始める……!

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫!? ……あの、すみません!! こちらのスリープのトレーナーさんおられますか!!? なんか様子が変なんです!! こちらのスリープ……え、野生?? 違うよね!? あの、どなたか!!! どなたか、レスキューの方を呼べませんか!!? ――あ、スリープのトレーナーさん!? なんか急に、スリープの様子が――!!!!」

 

 

 

 

 

 ポケモンセンターから出たアタシは、待ち合わせをしていた宿屋へと赴く。

 自分の用事が済んだため、明日からどのような旅路を辿っていくのかを話し合うためだった。一昨日にもショウホンシティジムのジムバッジを手に入れた以上、観光とかはまだまだやり残したことはあるけれど、ジムチャレンジにも期間が設けられているためにあまり同じ場所に長居することはできないものだったから。

 

 そうしていつも宿泊していた宿屋の前まで来ると、そのすぐ近くにあった赤い布の敷かれた長椅子こと縁台に腰を掛けていたユノさん。

 ……と、アタシのサイホーンとマホミル。すぐに戻るからということでお留守番してもらっていた二匹は、ユノさんにじゃれてもらっていたらしい。

 

「ありがと、ユノさん。マホミルとか、なんか暴れたりしなかった?」

 

「いいえ、貴女が言うほどの心配はしなくてもいいくらい、この子はすごく素直で落ち着きを払っていたわ。目についたポケモンには一切と襲い掛からないし、私の前ではとてもえらいのかもしれないわね」

 

 それ、単にアタシがなめられているだけなのでは?

 マホミルを見る。そんなこちらの視線に気が付いたマホミルは、すごく明るい顔をしながらユノさんに抱えられており、それもマホミル側がべったりとくっ付いていて、火照った頬でとても落ち着いてそこに存在していた。

 

 ――は? おいおいマジかよ。お前……本当にアタシのマホミル……?

 

「ヒイロちゃん。用事は済んだのかしら」

 

「え? あ、うん! 用のあったおじさまともお話してきて、スリープの容態も安定していて何とも無さそうだったから大丈夫。一日待ってくれてありがとユノさん」

 

「私はいいの。これはヒイロちゃんの旅なのだから、ヒイロちゃんが考えて、ヒイロちゃんが決断しながら進んでいく冒険であるべきよ」

 

 ニコッと笑みを見せていくユノさん。目の下にあったクマも今ではすっかりと消えており、十分な睡眠をとれたようでひとまず安心……。

 

「それで、ヒイロちゃん。スリープのお見舞いに行くと聞いていたけれど、何かあったの?」

 

「えっ?? あ……」

 

 痛い所を突かれた。思わぬ質問にアタシは一瞬と躊躇いを見せていくのだが、少し視線を逸らしたりと理由を考えて、ふと、そう答えてしまった。

 

「じ、実は昨日、ユノさんが寝た後にもアタシも寝ちゃって。で、二人で寝ていたところにスリープがやってきて、アタシ達の夢を食べていたみたいなんだけどー……。そこで、食べすぎちゃったのかな?? ほら、二人分の夢だったし?? それで、スリープはお腹を壊しちゃったみたいでー……」

 

「あら、そう。珍しいこともあるのね。そのスリープ、とても面白くて興味深いわ。もしもあそこで起きていられたのなら、ぜひともお近づきになって観察してみたかったものね」

 

 と、新発見が大好物であるユノさんは途端に目を光らせながらもそんなことを言い出したものだから、アタシはただただ苦笑いをしながら誤魔化すことしかできずにいた。

 

 ……この事態の真相はと言うと、スリープが夢を食べ過ぎたというおっちょこちょいによるものではなく、スリープがたまたま食べたその夢が、スリープといった夢を食べるポケモンにとって、とてつもなく身体に悪い成分を含んでいたからというものだったのだ。

 

 夢にも好き嫌いがあるとされる、夢を食らうことで生きているポケモン達。そんなポケモン達も健康的に過ごすためには、なるべく良い夢を食べる必要があるという。

 つまり、その夢を見ている対象が楽しいと思えたり、幸せだと思える、幸福に満ちた感情で溢れる夢なんかが良い夢に分類されるというものなのだが。

 

 一方で、悪い夢というのが、それを見ている対象が苦しいと思えたり、辛いと思えたりする、その対象にとって不幸とも言える、悪夢とも呼べるようなうなされる夢なんかを指しているらしい。で、夢を食べるポケモンというのは、そういった夢を見ている対象の感情によって分泌される夢の成分を重視しているということで、夢を食らうポケモン達は、より良い夢を見ている対象を選んでその夢を食べるというのだ。

 

 今回の何が問題になったのかって、その夢を食べるスリープはどうやらあまりにも腹を空かせていたらしく、取り敢えず目についた睡眠中のユノさんの夢を食べようと、成分を確認することなく一気に夢を取り込んだことが原因らしい。

 で、そうして念願の食にありついたスリープであったのだが、そこで食べたユノさんの夢がまさかの、白目を剥き出すほどのゲテモノだったとは知らず……。

 

 終いには、泡を吹いて意識不明にまで陥っていたスリープ。そのあまりもの尋常ではない様子に、トレーナーさんと慌てながらレスキュー隊を呼んでポケモンセンターに運んでもらったものだが、現在はその容態は安定していてスリープも無事であることが分かっていた。

 

 ただ、今回のことで何が一番分かったのかって、それは別に夢を食べたスリープが悪いとか、悪い夢を見ていたユノさんが悪いとか、まぁ、アタシが勝手に食べるのを勧めたのがちょっと悪いかもしれないけど……。

 とにかく、今回のことで何が分かったかって、あの時のユノさんが、夢を食べるポケモンを意識不明の重体にまで追い込むほどの、悪夢を超えた最強最悪のおぞましいゲテモノ夢を見ていたということだ。

 

 ポケモンセンターの担当医師は、今までに夢食いでこんな症状は診たことがないと言っており、どうしたら、こうまでなる夢を見るのだろうと、その場にいなかったユノさんの身を案じるほどのものだった。

 

「……この人、ホントに何を見てきたんだろ」

 

 マホミルがデレデレになってくっ付いているユノさんを、アタシはまじまじと見ていた。今も液状のマホミルを抱えていては、液体なのに弾力があるという不思議なその身体をビヨーンと伸ばしたりして戯れているクールビューティの横顔。長いポニーテールで掻き上げた耳元が見えるそれと、その耳についている小ぶりのイヤリングがキラキラと揺れているその光景。

 

 ――この人、一体何なんだろ。まだまだしばらくと解けないままの疑問を抱えながら、アタシは明日からの旅の予定をユノさんと話し合うことにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。