ポケモンと私   作:祐。

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オンタケ山

 地中に存在する膨大なエネルギーが震え出すと、それはたちまちと遥か上空を目指した爆発的な噴火となってマグマを噴き出していく。

 

 『オンタケ山』。試練の地として、シナノ地方屈指の過酷な環境と呼ばれる地域に足を踏み入れたアタシ達。今もヒラキタ高原から出発してオンタケ山の区域に入るなり、背景として視界の奥に雄大と存在していた山脈からは、自然の力が織り成す豪快な火山の活力を目撃することとなる。

 

 って、ちょっと!!!! あれヤバいんじゃないの!!? 大空の雲を突き破るマグマの噴出に、アタシは驚くあまりに隣を歩いていたランヴェールさんへと飛び付いてしまった。それに対してランヴェールさんは、抱擁するように「産まれたてのか弱いシキジカのように震えているね。でも、心配には及ばないよ」とアタシを腕で包みながら、指を差して噴火の様子を見るよう促してくる。

 

 立ち上るマグマは、噴出した上空で、分解されるように溶けていったのだ。それはドロドロとした花火のように散り散りとなると、次第と消えていく煮え滾った液体。どうやら大気中に存在する技エネルギーが、マグマという灼熱の火柱を打ち消してくれるようなのだ。

 

 このような現象が見られるのは、オンタケ山のみらしい。どうやら噴火の頻度が多い活性化火山であるオンタケ山だが、神の加護なのか、自然の摂理なのか、この地域一帯の上空に広がる大気中には豊富なみずタイプの技エネルギーが充満しているとのことで、そこへ突っ込んでいった噴火のマグマはたちまちと、大地へ落ちる前に技エネルギーによって分解されるのだそう。

 

 へー、おもしろ。ランヴェールさんの解説だったそれにアタシは感嘆の声を零し、「ランヴェールさん博識ー!!」とおだてて彼を喜ばせる。

 そんなこちらの様子に、後ろを歩いていたユノさんは複雑な表情を見せていた。……なんだか、アタシらの動向を警戒するような、難しい顔をしながら――

 

 

 

 オンタケ山の山脈付近にまで迫ると、辺りの空気は次第と、森林や大地から醸し出されているのだろう、何とも言えない神秘的な霧が漂い始める。

 自然から発生する、手で掴める不思議なエネルギー。それを握ろうとすると、手の間から抜けていくこの霧だが、掴めなかったと思って手を開くと、残っていたのだろう霧が解放されるようにアタシの手から飛んでいくのだ。

 

 この現象には、初見であるラルトスも大興奮。抱えるアタシの胸元でキャッキャと小さな手を振っているラルトスと共に、アタシは上り坂になってきた山道をヒーヒー言いながら登っていくのだ。

 道中にも、ジムチャレンジのスタッフさんが「オウロウビレッジはこちらですよー」とアタシ達を案内してくれた。手を向けられた方向を見遣りながら「ありがとー!」なんてお礼を言ってその道のりを辿っていくのだが、こうしてオンタケ山の山道を歩いていく中でも目にした光景の数々に、アタシは山だけではない自然の雄大な姿を目の当たりにすることとなる。

 

 この地域の四割を占めるとされる、湖の一帯に出てきた。山道が途切れる形で開けた目の前の空間には、潜ったら最後、名状し難い腕に引っ張られて奥深くへ連れていかれてしまうんじゃないかと思われる、エメラルドグリーンの大きな湖とご対面。湖には多くの大木や岩が突き出すように存在しており、湖を泳ぐニョロゾやシザリガーといったポケモン達、湖の上の木々といった足場には、戦っているケンホロウとアメモースの姿が見られたものだ。

 

 特に目を見張った光景として、なんとこの湖には、ラグラージが野生で生息していた。ミズゴロウ系統であるそのポケモンは、普段は野性として滅多に見られない、珍しいポケモンである。元々は、ポケモン研究所や育て屋といった、人工的な場所で飼育されることで繁殖するという、人との接点が強い系統のポケモンであるその最終進化が、今は野性という在るべき自由の姿で、この湖の中央の平たい岩場に存在しているのだ。

 

 それも、ラグラージが野生で生息する場合、その多くは海辺に出現するとされている。そんな個体が、どうしてこのような湖に? きっと、山に囲まれた独特な自然環境を持つシナノ地方ならではの発展で、海と対面する機会が非常に少ないことから湖を住処にする習性が根付いたのではないだろうか。と、ランヴェールさんはその人として怪しい雰囲気からはまるで想像もつかない博識さで、そんなことを考察し始めていく。

 

「へー。ランヴェールさん、いろんなことに詳しいね」

 

「そりゃあね。ボクはこう見えて、いろんな世界を渡り歩いている、生粋の旅人でもあるのさ。それはきっと、あちらの美しき月夜の踊り子にも同じことは言えるんじゃないのかな?」

 

 ……月夜の踊り子? ランヴェールさんの視線に沿っていくと、そこでは難しい顔をして佇むユノさんの姿。彼から向けられたその卑しい目に、彼女はより嫌悪感を出していく。

 んー、やっぱりユノさん、“そういう日”なのかな。普段のユノさんとは全く違う様子だし……。

 

「ユノさん。休みたくなったら言ってね? そんな辛い状態でこの山を登るなんて、たぶんアタシだったら絶対無理だし」

 

「……ありがとう、ヒイロちゃん」

 

 ぎゅ……。すごく大事にされるかのように抱擁されたアタシ。

 え、どうしたの?? 守られるかのような安堵に包まれる、ユノさんの優しいハグ。しかもイイ匂いも伝ってくるそれに困惑を隠しきれないアタシはなぜかドキドキしてしまい、頭の中が真っ白になってしまった。

 

 ――そして、そんなこちらの様子に、世界の真理とも呼べる神秘的なものを見るかのような目を向けてくるランヴェールさん。……何なんだろう。今日という日から、今までのような雰囲気ではなくなったこの冒険。抱えたラルトスが角を赤くピカピカと光らせていくその中で、アタシを抱きしめるユノさんの腕には、少しずつ力が加えられていったような気がした。

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