「着いたー!! 『オウロウビレッジ』だーーーッ!!!」
抱えたラルトスと喜び合いながら駆け出すアタシは、村の入り口となる門の前まで走っていってピョンピョンと跳ねていった。
オンタケ山という試練の地に苦戦することなく、たった二日という日にちで過酷の山脈を乗り越えたアタシ。それもこれもすべて、旅人として豊富な経験を持つユノさんとランヴェールさんが同行していてくれたからこそのもの。
到着した目的地を指差しながら、「早く行こー!!」と声を上げていくアタシ。そんなこちらに落ち着いた足取りで追い付いてきた、ユノさんとランヴェールさん。
今アタシ達が立っているこの場所は、オンタケ山と『オウロウビレッジ』の境界線となる橋の上だった。この隣で轟々と音を立てて飛沫を上げる大きな滝がお出迎えとなるこの村は、大地に根を張る緑の自然から醸し出されたマイナスイオンに包まれる、緑豊かな森林地帯に築かれた人間の住処とも言えるだろうか。
自然との共存と言うより、神様が創り出した実りの地を、人間とポケモンが借りている……という表現が正しいような気がする、木漏れ日を照明とした段差だらけの小さな村。段々と積み重なるような地形に建てられた建物は、オンタケ山から採れた木材を使用しているのだろう木造建築が多く見られ、その段々の地形にも穏やかな川や池、そんな自然の姿をしっかりと残しておきながらも、村の奥へと続く道には人の手によって造られたレンガの通路が、オウロウビレッジの商店街へと伸びている。
立っている橋を渡り、遥々と訪れた旅人を迎える門をくぐって目的地に到着。後ろからついてくる二人を置いていくようにアタシは走り出すと、オウロウビレッジの中を巡るように村を見て回ったのだ。
目についた、小さな滝。近寄っても危険ではないミニマムなそれの傍では、このオウロウビレッジで取れた天然水を売っているのだろう。簡易的な造りの営業所で天然水を売っている娘さんが、ニョロモとニョロトノというメンツと並んでそれをアピールしている様子がうかがえた。
それから、オウロウビレッジの周辺でとれたという、ひかりのねんどという名前のどうぐを販売する営業所もあり、アタシはどうぐというソウルワードにつられてそのまま入っていく。そこに並んでいたのは、普通の粘土とは異なる色合いの、こねこねすると、その触れた部分が発光して指の形をつくり出すという一見何に使うのかも分からない代物が売られていた。
……どうぐとしての使用用途はまるで分からないけれど、値段的には十分買えるな。お財布と相談し始めるアタシの様子に、ラルトスがちょい、ちょいと手を伸ばしていくと、やはりとも言うべきか、その先にはラルトスの大好きな食べ物も取り扱われていたのを発見する。
オウロウサラダという、この神秘的な地域で採れた野菜をふんだんに使ったとされる料理が、袋に詰められて売られている。見るからにみずみずしくて、かつ食べると寿命が伸びそうなほどに大きくてハリとツヤがある緑色の野菜達。うわー、食欲がそそられるー!! なんて腹を空かせながらも一旦お店から出たアタシは、冒険心をくすぐられるまま飛び出すように走り出して、オウロウビレッジを余すことなく見て回ってきた。
……そして、アタシは見つけることとなるのだ。段々となっている大地をどんどんと上へ上っていくと、次第と増えてきた人とポケモンの集団。それでいて、彼らが見据え、人によってはパートナー達と共に、揺ぎ無い足取りでその施設へと向かっていくその光景――
――オウロウビレッジジム。現在も熱狂的な試合が行われているのだろう、白熱とした実況解説の声と、飛び交うわざ同士のぶつかり合う音を響かせるそのスタジアム。もちろんそれを目的にしてきたアタシであったものだけど、改めて自身の目でしっかりと見据えていくと、自分は次にも、三つ目のバッジを手に入れるべく、このジムで今までのような死闘を繰り広げていくんだなという実感を覚えていく。
……オウロウビレッジのジムリーダーは、こおりタイプの使い手だと聞いている。聞くとか以前にもインターネットで情報を仕入れており、アタシはしっかりと、こおりタイプの対策として色々なことを考えてきていたものだ。
あと、もう一つ重要な情報として、ジムバッジを二つ入手しているチャレンジャーは、三つ目のジムバッジから三対三のポケモンバトルになることを念頭に置いておかなければならない。今までは二対二の戦いだった今までのルールから、戦闘するポケモンを一匹増やした戦いへと移り変わっていくのだ。
そのため、アタシは新たな仲間も増やしていきたいとも思っていた。もちろん、今のアタシの手持ちはちょうど三匹だ。ラルトスにもそろそろ戦えるような工夫を凝らしていきたいと思っていたから、ちょうどいい機会になるかもしれない――
――という、アタシがラルトスを戦わせたいと考えている感情が伝わってきたのだろうか。この時にも抱えているラルトスは、やけに角をピカピカと光らせながら、この場からアタシを動かそうと必死に腕を引っ張る様子を見せていく。
……うーん。やっぱりまだ、ラルトスには戦う意思が無さそうだ。
となれば、さっそく新しい仲間を捕まえに行くか――
――ドンッ!!
「ひぁッ!!!」
「ぐえェ!!!!」
突然生じた、ぶつかったような衝撃。その感覚は正しいものであり、どうやらアタシは、誰かに衝突されたみたいだった。
ぶつかられたことで倒れ込みそうになったアタシは、ラルトスが咄嗟にテレポートを行ったことで、付近にあった草地の茂みにドシャッと倒れることになる。その地点がとても柔らかい地面であったため、アタシはナイスナイスとラルトスを褒めながらも起き上がっていった。
一方で、アタシにぶつかったのだろう男の子は、ドシャァーーー!! っと盛大に倒れ込んでいて、今も片足を上げたその状態で、そこから急いで起き上がってこちらを見遣ってくるのだ。
……ちょうど、アタシと同じくらいの年齢の子だろうか。ヴィジュアル系の黒色のショートヘアーである彼は、左目が黄色で、右目が青色というオッドアイの持ち主。ピンク色の大きなパーカーを、両肩を出すようにだらしなく着こなしており、七分丈のズボンと、黒色とピンク色の運動靴。それと、パーカーの下には直でインナーを着ており、それは黒色で、全身タイツのような要領でパーカーとズボンから顔を出している――
「わ、わりぃーーーーッッ!!!! あれ、どこにいる? あ、いた。いやーー! どこの誰だか分からないけど、大丈夫かーー!?!? てか、怪我してないか!!!? あれ、ぶつかったのオマエだよな!? うん、だな。いやホントごめんなーー!!!!」
大慌てで起き上がる男の子。ぶつかった痛みとかを全く感じさせない身軽な様子で、すぐさまアタシへと駆け寄ってきて両肩に触れてくるのだ。
そして、無事を訴え掛けるような目で、すごくアタシの顔を見てくる。心から心配をしているようで、とにかくこちらの身を案じている彼。だが、近付いてからようやく気が付いたのか、アタシが抱えるラルトスを見るなり彼は、子供のように輝く表情でラルトスを撫でまわしてきたのだ。
「わっ!!!! すげ!! ラルトスじゃん!!!! オレ初めて見るよ!! ねね! オマエのラルトス触っていい!? え、すごいなー!! ラルトスってこんな感触するんだなーー!!! うわカワイイーーーーッッ!!」
「え。え。ちょ、待って。待って」
暴風のように迫る彼。ラルトスを撫でまわす彼の勢いに圧倒されて何も言えないアタシは、ただそこから一歩ずつ退いていくことしかできなかった。
しかし、それについてくる彼。すげーーー!! とラルトスをあまりにも撫でまわすものだから、アタシの感情を読み取ったラルトスは、あろうことか彼にテレポートをかけてしまったのだ。
「ねね、オマエさ! ラルトスってどこで捕まえッ――――」
パッ。
…………あ。プツリと途絶えた彼の声。角を真っ赤にピカピカ光らせるラルトスを、アタシは撫でてなだめていく。
と、次の瞬間にも真上から降ってくる彼――
「ぐほァッッ!!!! っはッハーーーー!! なんだこれーーー!! 面白いなーーー!! ねね、もう一回やってよ!! 今の、ラルトスがやったテレポートなんだろ!? 次はもっと高い位置で頼むよ!!! ね、お願い!! この通り!!!!」
両膝をついて、両手で必死の懇願をしてくる彼。
……え、なにこの人――
「おいてめェ、“クルミ”ッ!! んなとこで何やってんだ!!!」
ドスを利かせた低い男の怒号が響く。それを聞くなり彼は飛び上がるように立ち上がり、そちらへと向いていく。
ズカズカと向かってくる、見るからにおっかない一人の男。彼もまたアタシと同じくらいの年齢に見えてくるし、背もアタシと似たか寄ったかで、とても親近感が湧いてくる。
だが一方で、乱暴な茶髪のショートヘアーと、目の下の黒色。オレンジと黄色の上着と黒色のシャツで、濃い緑色のカーゴパンツと黒色の靴という、荒々しい声音でバンギラスよりもおっかない顔をした、まるでヤクザのような男の子が歩いてくるのだ。
「おーーー、グレン!! あれ、先に待ち合わせ場所に行ってたんじゃないの!?? てか、見てよ!! ラルトスだよ、ラルトス!!! オレ、本物のラルトスなんて初めて見た――」
「んなこと聞いてんじゃねェんだよッッ!! おら、さっさと行くぞッ!! カナタもてめェ待ちなんだよッ!!!」
「ねぇ待ってグレンっ。痛い痛い痛いイタイ引っ張らないで!! あ! ねーねーラルトスのねーちゃん!!! また今度オレにラルトス見せてねーーーっ!!!」
「よそ様に迷惑かけんじゃねェ、この馬鹿ッッ!!!!」
ずるずると引き摺られていく、ぶっ飛んだ彼。そんな彼を力ずくで引っ張っていくヤクザのような彼が荒々しい声を上げていくと、引っ張られる彼は「だって、ラルトス見るの初めてなんだし!!」と謎の反抗で答えていく。
……何だったんだろ。周囲もこの勢いで困惑混じりの目を向けていたものだが、アタシはそう遠くない内にも再び彼らと会うことになるとは、この時にはまるで思いもしなかった。
オウロウビレッジに到着してから早々と出くわした邂逅。巡り会いというものは本当に不思議なものだなと改めて感じるのも、既に時間の問題であったものだ。