森林の道を抜けると、そこに広がる陰鬱とした山脈と湖の光景。見慣れたようで全くの見知らぬオンタケ山にアタシは圧倒されている間にも、マリルリを筆頭とした周囲のポケモン達は、アタシを追い越すように次々と前へ前へとなだれ込んでいく。
アタシが行進する正面からは、今もバルキーやヒマナッツといったポケモン達が、無惨にも負傷してしまったドジョッチやデリバードという多種多様なポケモンをあの一軒家へと運び続けていく。刻一刻と被害者が増えていく目の前のそれからは、アタシがショウホンシティで見たインターネットのニュースの、倒れたポケモンで一帯を埋め尽くされた惨状の写真を想起させた。
いや、まさにあれと同じことが今、このオンタケ山で起こっているのだ。中には目も当てられない姿となったポケモンも運ばれる光景や、運んでいるポケモンも重傷を負っている凄惨な状況であったりと、まるで戦時中かと思わせるくらいの生々しいものにアタシは深く心を痛めながらも、相対してしまった現実に未だ戦慄を感じる恐怖に心臓の鼓動を速めていき、段々と迫ってきた目標の地に対して、生きている心地さえしなくなってくる。
森の奥から、わざが飛び交う激しい音が聞こえてきた。この坂を上ったら、きっと元凶がポケモン達を蹂躙している。アタシはマリルリと共に急ぎで坂を駆け上がって身を乗り出していくと、そこで目にしたのは、薙ぎ倒された木々と、様々なわざがぶつかり合うことで生じたエネルギーが地面に刻まれている光景、それと……。
……流れていたのだろう川が、倒れたポケモン達で塞がっている。ヌオーやゴーリキー、エテボースやミネズミ達。皆が痛めつけられ、最悪のケースも考えられるほどに傷付いたその姿で森に倒れ込んでいて、川をせき止めてしまっていたのだ。
そして、援軍に気が付いた二名の男達。黒色の分厚いコートに身を包み、ゴーグルのようなサングラスと靴底の厚いブーツを履いている凶悪な姿でこちらを見遣ってくる。
「こいつらァ、性懲りもなく追加で連れてきましたよ兄貴ィっ!!! 獲物が自分からどんどん舞い込んできてェ、俺らまるで快楽のバイキングを堪能しているって感じですよねェっ!!! 注文もしていねェ追加オーダーを端っから処理していくこの感じ、なんだか生きてるって実感がして、すっげェ楽しいことこの上ないって感じですよねェッ!!! ――ェ? あれ、兄貴、なんか人間の女が混じってねェっすか?」
男を上回る大きさのドでかいパイプを担ぐその男。パイプ男がそれを言うと、彼の後ろにいた、巨大な筒を担ぐ筒男がアタシをまじまじと眺めてくるのだ。
「女だ。見間違えるハズがねェ。バケモンがあんな律儀に服を着ているハズがねェ。見たところ学生ってところからするに、なんとかなんとかとかいう祭典に出ている愚か者ってところかねェ。……ま、何だっていいさ。俺らの標的はあくまでバケモンなもんだが、現場を見られてしまっては、人間の女だろうが口封じをしなければならねェ」
「っつーーーーーか、女で俺らを見つけてくるって、もしかしてあの女、“JUNO”ってヤツじゃない感じですかァっ!!? 俺らの行く先々に現れては任務を妨害してくる害虫野郎っ!!!! 間違いねェですよ兄貴ィっ!!! あの女こそがJUNOって感じですよォっ!!! なら、ヤっちゃいましょうよォっ!!!!」
「もう少し肉がついていた方が俺の好みだったんだが、まァいい。人間は始末の対象には入っていねェが、今まで俺らの邪魔をしてくれたツケを払ってもらわなきゃあならねェからな」
男達は担いでいた武器をアタシへと向けてくると、男達の後ろからは、二体のポケモンが飛び出してくる。
それぞれ、筒男が従えているのだろうアサナンとパイプ男が従えているのだろうベイリーフが、この残虐で非道な人間共の相方としてアタシらへと立ち塞がってくるのだ。……ポケモンという生物は主人によく懐く生き物ではあるものの、まさかこんな、同じような種族であるポケモンに対してひどい行為を働ける人間達にも加担することができるなんて――
――いや、待って。あの二匹、何か雰囲気が違う……。
「マリルリ!! みんな! あの二匹から、“黒いモヤ”が出てる……! 気を付けて!! 何かが変……!」
アタシには、この目でハッキリと見えていた。
アサナンとベイリーフの周囲に漂う、そのポケモン達から醸し出されるように空間を漂うドス黒い邪悪な何か。それは言うなればゴースの身体であるガスに若干と似ているとは言えるが、見るからに彼らはゴースではないし、二匹の目は正気を保っていないというか、洗脳されたかのように禍々しい目をしてこちらを見遣る、明らかに正常ではないその様子。
周囲のポケモン達がざわついて緊張を走らせていく中で、その男共もアタシの言葉に、意外そうな反応を示していったのだ。
「ッあの女!!! やっぱりそうかっ!!! 兄貴ィっ!! こいつァJUNOで間違いないですぜェっ!!? “そんな目”を持つ人間なんて、JUNOって憎たらしいクソ女と、タイチっつー忌々しいクソ男なだけなもんさァっ!!!! ――確定だ!! おい生物兵器っ!!! 半殺しなんかじゃァ生ぬるい、九割殺しであの女をひっ捕らえろォっ!!!!」
「やはり、JUNOで間違いなさそうだ。となれば、俺らは“ボス”に良い手土産ができたことになるな。“ボス”は人間にァ興味も持たねェバケモン絶対殺戮主義者なもんだが、年頃も近いだろうあの女で快楽を覚えりゃァ、もっと幅広い活動ができるようになるかもしれねェしな」
「ハっハーーーーーーっ!!!! 兄貴ィ、下心丸出しっすねェ!!! バケモンをヤりまくる慈善活動に留まらねェ人道に反するその考え、俺マジ、リスペクトって感じですわっ!!!! さ、俺らの活動範囲を広げるためにも――おいJUNOっ!!!! ここであったが数分目って感じですゎっ!!! 自慢のバケモン引っ提げて、俺ら“マサクル団”にヤられちまいなァっっっ!!!! 行くぜ、レッツ・マサクルぅぅぅうううううっっっっーーーーー!!!!!」
……何なの、こいつら。
心の奥底から、吐き気を催した。口にする言葉の全てが同じ人間とは思えない、まるで違う次元を生きているような、人の形をした何か。
これほどまでに不快な思いをしたことなんか一度もなく、学校なんかで見てきた醜悪な連中とは比較にもならないほどの胸糞悪さ。“マサクル団”と名乗るヤツらは担いでいた武器で飛び付いてきていたポケモン達を吹き飛ばしていくと、従えるポケモンのアサナンとベイリーフをアタシへと差し向け、完全に戦闘態勢へと移行してきたのだ。
――やるしかない。いや、こればかりは恐怖を感じている場合ではない。
「……マリルリ。みんな。――アタシもやるよ。アタシも……あいつらを許せないッ!!!」
こみ上げてくる怒りで、顔を歪ませるアタシ。この闘志で士気が上がったのだろう森のポケモン達が一斉に声を上げながら一気に前進を始め、襲い掛かってくるマサクル団の連中へとなだれ込んでいく。
これは、命を懸けた戦だ。ポケモンバトルとかいうフェアな壇上で行われるスポーツでも決闘でもなんでもない。今、こうして相対している現場は間違いなく、歴史の闇として屠られたハズの、掘り返してはならない禁忌の戦争――
――怒れる感情のままに踏み出していくアタシ。ラルトスやサイホーン、マホミルといったいつものメンバーがいない状況でありながらも、命の恩人であるマリルリを始めとした、ポポッコとポワルン、ミネズミの団体やウパーといった多くのポケモンを従えるアタシは、今この時にも、これまでにも培ってきた、ポケモントレーナーとしての実力で殴るかの如く、対峙した悪の組織との戦争へと洒落込んでいく。