ポケモンと私   作:祐。

7 / 104
冒険の幕上げ

 正直な話、アタシは今でもポケモンのことを怖いと思っている。それぞれが異形な姿を持ちながら命を宿していて、そのほとんどが人間を容易くひねりつぶせる能力を宿している。アタシはきっと、そんな人間ならざる脅威の未知に、ひどい恐怖を抱いていたのだろう。

 

 けれど、今だから色々と分かることもある。今までの自分を顧みて、アタシはその恐怖心も、曖昧なものから、確かなものとして認めることができたから。

 今でも、ポケモンのことが怖いさ。これはもう、アタシの中で覆しようのない常識だ。でも! 最近になって、それだけじゃないこともアタシは知ることができた。これは立派な成長であると自負できる。

 

 

 

 そもそもとして、ポケモントレーナーになろうと思い立ったのは、あのラルトスを他の人に渡したくなかったからだった。アタシと同じ境遇であるあの子との出会いには運命を感じていて、だからこそ、ほとんどはアタシとは異なる境遇にあるだろう他のトレーナーに、良き理解者であるラルトスを渡したくなかったのだ。我ながら、動機が人間のエゴそのものである。

 

 そう思い立ってから、アタシはもう一つの野望を抱えた。いや、思い出した、とも言うべきか。

 それは、『どうぐ』を集めたい、という幼い頃からずっと何となく思い続けていたもの。これまでもそれをしてきたし、じゃあ既に目的は達成されているじゃん、と問われれば、否、とアタシは答える。

 

 アタシはもっと、広い世界の中で『どうぐ』をコレクトしていきたいと思えた。ジョウダシティの中だけでは満足できなくなっていたアタシの欲求は、このシナノ地方という広大な大地に興味を持ち始めていたのだ。

 更に言ってしまえば、このシナノ地方の近くには、カントー地方とジョウト地方がある。その更に遠くには、ホウエン地方と、シンオウ地方。いや、その先にもいろんな地方が……!!

 

 そう、こんなにも広い世界なのだ。こんなにも世界は広いのだから、その分『どうぐ』も数えきれないほどの種類が存在しているだろう。

 それを考えただけで、アタシは今にも家を飛び出したい気持ちに駆られた。既にある『どうぐ』を、もっと各地で見つけていきたい。アタシの欲求をくすぐる未だ出会ったことのない『どうぐ』を、この手に収めてみたい。アタシにとっての『どうぐ』は、ただポケモンに使ってあげるだけの代物ではない。アタシは『どうぐ』という何気無い小物を、愛でたいのだ。

 

 冒険に出たいという動機は、『どうぐ』によるものだった。しかし、それを動機とする出来事としては、アタシはラルトスというポケモンという未だ知らない広い世界を知ったからだと思っている。

 

 

 

 朝の日差しが射す自室。シャワーあがりでバスタオル一枚という、冒険を控えたポケモントレーナーとは思えない緊張感の無さで自室をひたひたと歩いていく。

 それをバッと取り払い、素っ裸になって仁王立ちしてみた。……うむ、今日もワシ、絶好調ナリ……。そんなことを思い、アタシは着実と準備を進めていく。

 

 腰まである、茶髪のロングヘアー。切ろう切ろうと思って、結局ここまで来てしまった。ならいっそ、このまま伸ばしてみようかとも考えているくらい。

 黄色のシャツと、青色のスカートという快活な色合いに身を包み、ふくらはぎまでの丈がある白色のジャンパーを着てみて動きの具合を確かめてみる。何故かは知らないけどサイズを間違えて買ってしまった割には、冒険者としての雰囲気はあるものだから何だかんだで気に入った。

 

 そして、白色のロングブーツ。膝あたりまであって若干と歩きにくいものの、慣れれば別に問題ないでしょとアタシは気にしない。

 一通りのコーデは完了したため、あとは白色のキャップと、ベージュのバッグを身に着けて支度は完璧! 持ち物も一通りと揃えてあるし、お守りとしてアタシのコレクションの中からいくつかの『どうぐ』も入れておいた――

 

「……そうだ」

 

 ふと思い出して、アタシは勉強机のコレクションへと手を伸ばす。

 その手に取ったのは、進化の石コレクションの内の一つ。青緑色に光を放つ、透き通ったその石。中心部にトゲトゲした何かが入っており、それがまた神秘的で、アタシのお気に入りの一つだった。

 

 『めざめいし』。パパがそう言っていた。めざめいしは、進化の石の中でも特に希少価値があると言って、パパがぜひとも研究に使いたいとアタシに土下座しながら懇願してきたくらいだ。そんなに価値があるんだ、ということで、アタシは納得しながらノーの返事を言い渡した記憶がある。

 

 この石を、ラルトスがとても気に入ってくれていた。ラルトスを捕まえたあと、初めて自室にラルトスを放った時に真っ先にこの石に吸い寄せられていったくらい。

 そんなラルトスのお気に入りを、旅のお守りとして持って行こう。めざめいしをバッグの中に入れて準備完了となったアタシは、とうとうと迎えた旅立ちの時にようやくと緊張感を帯びながら、その足を軽快に走らせて研究所の玄関へと向かっていった。

 

 

 

 これは、ポケモントレーナーのヒイロという十五歳の娘の物語。変わった個性を持つラルトスを相棒にしたヒイロの、『どうぐ』とポケモンが織り成す一つの冒険譚である。

 この時、シナノ地方に蔓延る邪悪な気配のことを、誰もが知る由もなかった。後にもヒイロはその運命に大きく関わり、シナノ地方に深く関わりを持つこととなる。

 

 平穏が続く冒険の中でも、ヒイロはたくさんの出会いを経験する。様々な出来事が起こり、ヒイロはそれに臨んでいくのだ。

 『どうぐ』コレクターとして挑む、偉大なる挑戦の数々。ヒイロはそれらによる荒波に呑まれながらも、『どうぐ』を愛する純粋な心持ちで着実と前に進んでいくのである。

 

 幕は上がった。ヒイロとラルトスによるシナノ地方の冒険が、今、始まる――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。