こいつら、何だか許せない。
沸々と湧き上がる、怒りの感情。非道な思考を持つ危険人物と相対してもなお、むしろ煮え滾って煮え滾って仕方の無い衝動のまま力強く歩き出していくアタシ。
薙ぎ倒された木々の枝を踏んでいくその様子に、周囲のポケモン達もまた十分な士気で闘志を奮い立たせ、アタシと共に一斉となって眼前の脅威へとなだれ込んでいく。傍から見れば尋常ではないその空気から、第三者からすれば今にも起こる出来事は、戦争、とでも例えられることもあるかもしれない。
アタシは、この行進を止めることはなかった。後ろにいた森のポケモン達がアタシを追い越して攻め込んでいくその最中にも、こちらへと襲い掛かってきたマサクル団のアサナンとベイリーフ。そのどちらもが禍々しいオーラを放つ異質なものであり、明らかに正気ではない二匹の姿にも、アタシは心をひどく痛めてしまった。
ヤツらに何をされたのかは分からない。だが、ヤツらの考えを理解できないアタシにはきっと、二匹が目の当たりにしてきた光景は想像を絶するものなのかもしれないと予想がつく。
立ち向かってくるいたいけな少女に、全く恐れを為さないマサクル団の二人。人間としての素の戦闘能力も高いようで、自分よりも大きなパイプや筒を担いでいながらもポケモン達の攻撃を避けていき、巨大なそれを振り回して殴打していくのだ。
一方、アタシが率いるマリルリ、ポポッコ、ポワルン、ミネズミの集団、ウパーというメンツに対しては、アサナンとベイリーフを仕向けて攻撃させていく。今にも技エネルギーを溜め込み始めた二匹に対してパイプ男が、「生物兵器の分際でしくるんじゃねェぞっ!!!! 負けた時には、分かってるよなァっ!!?」と脅していくと、その二匹はより力を溜め、通常の個体を凌駕する爆発的なエネルギーを以てしてアタシらへとわざを繰り出してきた。
ベイリーフのはっぱカッター。効果範囲の広い物理の攻撃だが、禍々しいオーラがよりエネルギーを増幅させたのか、発射された葉っぱが通常の五倍近くの大きさであり、アタシを含めた周囲のポケモン達を一気に倒していく、強力な攻撃となっていた……!
アサナンも、ねんりきを繰り出した。それは限られた対象に与える攻撃である本来の効果範囲を、アサナンはその視界全体に拡張させたとんでもないものへと化けさせる。アタシはそれによって宙へ浮かせられると、そこに加えられた超能力で内部を圧迫され、中身を吐き出しそうな感覚を覚えながら遠くへと吹っ飛ばされてしまうのだ。
――生い茂る木に衝突して、葉っぱを散らしながら草地に落下するアタシ。攻撃を食らった他のポケモンもねんりきによって吹っ飛ばされる光景の中、マリルリはそれを避けていたのだろう俊敏な動きでアサナンへと接近し、みずタイプの技エネルギーをまとって高速の突進を食らわせてやったのだ。
アクアジェットだ。アサナンもまた吹っ飛ばされるのだが、その攻撃を隙と見たベイリーフがマリルリへとのしかかりを繰り出していく。
あの子だけじゃ不利だ……! 誰か、周囲に……!
「ポポッコ!! なんか、ひこうタイプのわざをベイリーフへ!!」
こちらの指示を受けて、飛び出していったポポッコ。迷いの無いその動きは、野生の中で戦う時よりも機敏であり、こうした指示があることでよりポケモンはパフォーマンスを発揮できるんだなとアタシは実感させられる。
そして、繰り出したわざはアクロバットのようだった。左右に残像をつくりながらベイリーフへと突撃したポポッコは、目に見えない反復で攻撃することでベイリーフの弱点を突いて確実に退かせる。
そこへ、アタシは次に命令を出していく。
「ポポッコは引き続き、ベイリーフにアクロバット!! アサナンの攻撃が来たら、回避することを最優先して! アサナンへの反撃は、くさタイプの強いわざ!! くさタイプのエネルギーを溜めたままアクロバットで突撃していってもいいから! とにかく、ポポッコは遊撃隊として動き回って!!」
再びマリルリへと襲い掛かったベイリーフを食い止めるポポッコ。やるべきことがしっかりと定まったからなのか、より動きが良くなったポポッコは相性の有利もあってかベイリーフを圧倒していくのだ。
いいね、その調子。アタシはすぐにも周囲のウパーとミネズミの集団へと指示を出す。
「ウパーとミネズミ達は、あの人間共をこの戦いに邪魔させないよう、遠くから攻撃! その際に距離を置きながら攻撃できる特殊技があるのなら、それを優先的に使っていって! ウパーはマッドショットとか、じめんタイプのわざでヤツらの足を奪う感じで!」
歩き出しながら早口で指示していくこちらの命令に、ウパーとミネズミ達もきびきびと動き出してヤツらへの攻撃を開始していく。突然と降りかかった特殊技の雨に、生身の人間であるヤツらはどうすることもできずに慌てだすのだ。
「て、てめェらっ!!! 全員でタコ殴りとか、同じ生き物として恥ずかしくねェのかよっ!!! 人間様を痛めつける罰当たりな下等生物共めェっ!!! こいつでも食らってろっ!!!」
パイプ男が担いでいるパイプを向けてくる、あからさまな予備動作。
――なんか、やばい気がする。すぐさまポワルンへと呼び掛けたアタシは、指を差しながらわざを指示していく。
「みんなを守れるわざって無い!? もし無いのなら、ウェザーボールをクッションのようにできない!?」
自信の無さそうな表情をしたポワルン。だが、それでも精いっぱいにヤツらの下へと駆け付けるとウェザーボールを生成して周囲に放ち始め、次の瞬間にも放たれた非道的な武装の攻撃の威力を、少しだけでも和らげてくれたのだ。
パイプかと思っていたその先端からは、持ち手の空洞から反動が抜けていく小さな砲弾が発射された。
そんな兵器まで持っているの!? ポケモンへの殺意の高さがうかがえる殺傷武器の所持に驚いた頃には炸裂していた、周囲一帯を吹き飛ばす高威力の砲撃。しかもヤツらは砲撃には巻き込まれていないという、前方に広がるカラクリで難を逃れていくのだ。
砲撃を受けたポケモン達が、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。しかし、ポワルンが生成していたウェザーボールが壁となったことで、皆はなんとか大事に至らない怪我で済んだ。
「チっ!!! JUNOさんよォ!! 俺らの邪魔をするだけあって、余計なことだけは思いつく悪知恵はついているみたいじゃないのォっ!!? そういうところが気に食わねェんだよっ!!! 人が嫌がることを平然とやってのける性格の悪さが滲み出ていてよォっ!!!! そういうの、イケねェと思うんだけどォッ!!? ねェ、どうよォ……っ!!!!」
「どの口が言ってんのさ……!」
ヤツらの作戦に気が付いていたアタシは、こうして向けられた挑発に乗りながらも、この意識はしっかりと戦況へと向けて周囲を見遣っていく。
アサナンが、アタシのことを狙ってきていた。物陰からコソコソと忍び寄るそれに対し、アタシはマリルリへと指示を送っていくのだ。
「マリルリ! アクアジェットでアタシの下へ! そこからみずタイプの強力なわざと、確か、じゃれつく……だったかで生じるフェアリータイプの技エネルギーで、アサナンの攻撃を凌いで!!」
命令を受けてすぐにも馳せ参じたマリルリ。ちょうどタイミングよく攻撃を仕掛けてきたアサナンのとびひざげりをマリルリは受け止めると、そこからじゃれつくのボコスカ殴る攻撃でアサナンに一歩退かせ、さらには追撃を指示してアサナンに思うようさせないことを徹底していく。
この意識は、機械の中を巡るコンピュータのように、あらゆる場所へと移り変わっていた。
「ウパー! マッドショット!! ミネズミ達は引き続きヤツらの足止め!! ポポッコ、その調子でベイリーフを食い止めながら、遠くへ誘導!! 誰か、マリルリのところに加勢して!! 常にアサナンの背後を取るような立ち回りを意識! ――ワンリキーとエイパム、来てくれてありがと! 負傷したみんなを連れていって! ねぇ、もし傷付いているけどまだ動けるって子がいるのなら、ミネズミ達のところに加わって、ヤツらの武器を取り上げる隙をつくってほしいの!!」
吹き抜ける風が、長髪をなびかせる。この言葉も風のようにアタシの肺と意思から周囲へと流していくと、自身の腕は指揮棒の如く全体を統率する采配となって仲間達を動かし、歩きながらの動作から自然と繰り出される数々の指示は、破滅の運命にあった森林の生命体たちを生かす道しるべとなっていく。
風をまとったかのような全身の感覚。戦況を見る目も、勝敗を聞く耳も、作戦を考える頭も、傷付く仲間達を思いやる感情も、その全てが日常から遠くかけ離れた状態にあり、ありとあらゆる感覚が拡張されたかのような身体の軽さが、より一層もの隙の無い采配を可能とする。
戦況は、確実にこちらが押していた。兵器を使用することで野生のポケモン達を散々と蹴散らしてきたのだろうマサクル団のヤツらも、表情を歪ませるぐらいには劣勢を背負っていたことを自覚してきたようだ。
「っくそォ!!! 何なんだよこのクソ雑魚共ォっ!!! てめェら如き、束にでもならねェと俺らに勝てねェくせに生意気だなァっ!!! あァ、俺らをいじめてそんなに楽しいのかっ!? 被害者の身にもなれってんだこの卑怯者っ!!! ……さすがにブチ切れたぜェ……。やられたら、数千倍返しが俺らのモットーでよォ……! ――兄貴ィ!! 俺らの合わせ技、ぶちかましてやりましょうよ!! あの生物兵器たちもJUNOも巻き込む火の海地獄の絶景スーパーバズーカ、今こそ使う時でしょぅ!!!」
「背に腹は代えられねェな。食べ頃の女も一緒に焼き払うのは少々気が引けるが、これもバケモンを撲滅するための致し方の無い犠牲ということで、納得するしかねェなぁ。――いくぞ! スーパーバズーカの用意!!」
「らじゃァっ!!!」
なんか、ヤバそう……!!
二人が担いでいたパイプと筒を合体させた、二人で抱える巨大な大砲。あのパイプから繰り出された砲撃でさえも、一部を焼き払う威力を誇っていたというのに、それらが合わさることで一回り大きくなったそれは、技エネルギーを蓄えるのだろうタンクが取り付けられ、今も砲撃のためのパワーを溜め込んでいる様子がうかがえる。
あれを放たれたら、オンタケ山自体がまずい……! もはやポケモンの生態系だけの問題ではなくなる由々しき事態に、アタシはマサクル団を止めるべく駆け出しながら周囲へと指示を送った。
「みんな!! ヤツらを集中砲火!!! マリルリはアサナンを、ポポッコはベイリーフを食い止めて――」
「おっとォ、このスーパーバズーカにァ隙があるってこと、俺らが一番分かっているってもんでよォ……! 生物兵器! 例のアレ、卑怯者共にぶちかましてやりなァっ!! ――ダークラッシュ!!!!」
「俺の生物兵器も、なに出し惜しみしていやがる。さっさとダークラッシュとやらでこの場の愚か者共を蹴散らしてやれ!!」
ダークラッシュ。それを命令されるや否や、マリルリを相手取っていたアサナンと、ポポッコを相手取っていたベイリーフの身体が邪悪のオーラで満たされ始める――
――と、次の瞬間にも、二匹は張り裂けんばかりの悲鳴を上げると共に繰り出した突撃。マリルリとポポッコはそれを食らうと、同時に生じたオーラが飛散するように瞬く間と周囲へ広がり、他のポケモン達を呑み込むように巻き込んでいったのだ。
やば、食らう……!! アタシも間に合わず、広がってきたオーラがこの身に降りかかる。――ハズだった。
だが、その直前にも背後から聞こえてきた風切り音を耳にした時にも、アタシは何かに引っ掛けられると共に身体が宙に浮き出して、襲ってきたオーラを紙一重で回避することができたのだ。
ぶぶぶ、ぶぶぶ。三度目となる音に聞き慣れた感覚を覚えながらも、次第と降り出したあられの景色と共に、真下で展開されていた凄惨な光景を目の当たりにする。
……今まで戦っていたポケモン達がみんな、禍々しいオーラに侵食されるように倒れ込んでいた。マサクル団の二人がいる場所を除いて、地上は邪悪のモヤが一帯に広がり出しており、それに巻き込まれたみんなは苦しみもがきながら、中には堪え切れずにひんしとなってしまう個体も続出していく地獄のようなその光景。
攻撃に直撃したマリルリとポポッコも、口元を押さえたり白目を剥いてもがいていたりと、いつ命が絶たれてしまっても何らおかしくない状態となってしまっていた。直撃してしまったその二匹も例外に漏れず、この場の皆に降りかかった悪夢に侵される被害者であることは確かではあったのだが、しかし、この光景の中でも一番惨い有様であったのは、あのわざを放ってきた、アサナンとベイリーフ――
――もう、助からないか。あのわざの衝撃が、ポケモンという生命体が耐えきれるようなものではなかったのだろう。攻撃を食らわせたのを最後に、跳ね返ってきた衝撃波で倒れ込んでから、ピクリとも動かなくなった二匹の姿。侵食された地上の中で、助けることもできずに最後を遂げた二匹を見て、アタシはもう、はらわたが煮えくり返るとか、そんなレベルじゃない怒りを覚え――
――――……ッ。
「…………蜂の子ちゃん。頃合いを見て、アタシを下ろして。それと――急に降り出したこのあられ、蜂の子ちゃんに乗っている“あなた”の特性だよね」
向けた視線は、今もオーラが漂わない安全地帯で大砲のエネルギーを溜めていく二人へと投げ掛けたままだった。……アタシはもう、彼らから一切と目を背けることはできない。言葉にならない感情が、それを許さないからだ。
そして、こちらの低い訊ね掛けに答えてきた、この場にそぐわないとても可愛らしい鳴き声。それは弱弱しくありながらも、怪我を負っている自身の身も顧みずに助っ人として駆け付けてくれた、侵食されていない残る最後の希望となった唯一の戦力。
アタシは、その子に攻撃技を命じた。おそらく上空にいるこちらの存在に気が付いていない二人に対して、真っ直ぐと捉えたこの視線で攻撃地点を指示するように、とても低く、抑えた声音でアタシはそれを命令していくのだ――!
「ロコン。ふぶき……!!」
降り始めたあられに気が付いたのだろう二人は、それを不思議がって周囲を見渡していく。
そんな、ちんたらとした様を上空から見遣りながら命じたアタシの指示と共に、蜂の子ちゃんの上に乗っていた真っ白いロコンがこおりタイプの技エネルギーを蓄え始める。――空気がやけに冷え込んだことで察したのだろうか。周囲に見えないことから上空へと向けられた、二つの憎たらしいヤツらの視線。と、それを更に睨みつけるアタシ……!
ロコンが蜂の子ちゃんから飛び出していくと共に、その小さな身体から解き放たれた膨大な技エネルギーによって、あられの天候で一気に勢いを増した超広範囲のふぶきが地上に襲いかかった。その威力は絶大であったらしく、森林は一瞬にして霜をつくり、地上を覆っていた禍々しいオーラは振り払われ、そして……!
「ぐぁっ!!! なんだ、そりゃァっ!! どんだけ俺らを痛めつければ気が済むんだ、この無能共っ……!!! 自分達がやってることが、どれだけ俺らを傷付けてるのか分かんねェのか単細胞共ォっ!!!!」
「うるせェッッ!!!! ぶっ潰すッッッ!!!!」
蜂の子ちゃんからもがくように、宙へと身を投げ出したアタシ。
捻挫では済まない高さであることは分かっていた。だが、頭では理解していても、狂うように燃え滾っていた感情に逆らうことも敵わず。思い切りのままに身体を投げ出したアタシはそのままどちゃっと地上に降りていくと、身体が受けた衝撃で痛み始めた全身の痛覚も引き連れて二人へと駆け出していく。
そして、ふぶきによって怯んでいたパイプ男へと飛び込んで、全身全霊の飛び蹴りを食らわせてやった。
ポケモントレーナーたるもの、その決着はまさかの武闘派。「ぐえェェエっ!!!!」と悲鳴を上げるパイプ男を見た筒男もまた、上空から突撃してきた蜂の子ちゃんにぶつかられて吹き飛ばされると、二人が持っていた大砲は手放されてガタンッと地面に落ち、その動作は急停止。だが、アタシはそれの確認をすることなくパイプ男に跨るなり、昂った感情のままにその憎き顔面を殴打し続けていった。
両手でボコボコにしていくこの光景。傍から見たらどちらがマサクル団かも分からない暴力的な行為に、思わず周囲のポケモンがアタシを止めに入る始末。
しかし、アタシはそれを振り切ってパイプ男をひたすら殴り続けていった。今思えば、つい先ほどまで侵食されていたというのに、頭に血が上ったアタシを必死に止めるべく身を挺して引き剥がそうとしてくれたマリルリには、とんだ迷惑を掛けてしまったものだ。
……しばらくして落ち着きを取り戻したアタシは、ポケモン達がマサクル団の二人をひっ捕らえ、虫の糸でぐるぐるにして拘束した光景を目にしていく。
そして、完全に無力化した二人を見下ろしながら、アタシはその場のポケモン達と勝利を確信して、喜び合ったのだった。