「マリルリー、みんなー。やっほー、お菓子とかいっぱい持ってきたから、みんなで食べよー」
十字路の迷路を越えた先に佇む、木材建築の一軒家。傷付いた野生のポケモン達がひっそりと暮らすアジトに顔を出したアタシは、抱えるように持ってきた箱を家の前にドカッと置きながら、それを呼び掛けていくのだ。
すると、マリルリやポポッコ、ウパーやミネズミの集団といった面々はもちろんのこと、マサクル団の襲撃で一緒に戦ったワンリキーやエイパムといった色んなポケモン達が、歓喜の鳴き声を上げながらアタシへと集り始めてくる。
同じような傷を負ってきた仲間達として、弱りながらもなんとか生き延びる力強いポケモン達の顔を見て、アタシはすごく、その子達を愛らしくも思えてきた。「よーしよし!」と顔を出してくるミネズミやウパーの頭を撫でていくと、箱の中からポケモンのフードやモモンのみ、ポフィンからオウロウようかんまで、ポケモンも人間も楽しめるたくさんの食べ物を取り出して、この場のみんなや、今ここに居合わせていない子達のための食べ物を分け与えていくのだ。
そして今回、アタシはパートナーもつれてきた。ラルトスやサイホーン、マホミルをモンスターボールから繰り出していくと、アタシのパートナー達も野生ポケモン達と和気藹々としながら、この場に馴染んでいく。
特に意外だったのが、マホミルの様子だった。血の気が多い性格なものだから、正直この判断は間違っていたかなと思って監視するように眺めていくその光景。しかし予想とは裏腹にマホミルは非常に大人しく、誰かに攻撃を仕掛けることもなくポポッコとそこら辺を飛び回っていたものだ。
ポケモンという同じ種族だからこそ、心も体も傷付いている雰囲気を何となく感じ取れるのかもしれない。マホミルが血気盛んとなって攻撃を仕掛けていく相手はどれも元気な子達が多くて、この光景から見るにマホミルは、相手を選んで勝負を挑んでいることが見て取れる。
なんだ、思ったより良い子じゃん。見直したアタシは息をひとつ吐いて眺めていると、家の中から遅れて出てきた二匹のポケモン達を目にして、その存在へと視線を向けていく。
蜂の子ちゃんと、真っ白なロコンだった。まだまだ怪我が癒えていないロコンをつれて飛んできた蜂の子ちゃんがアタシへと突撃してくると、アタシもまたそれを受け止めるように抱き抱え、二匹をよしよしと撫でていくのだ。
「おーおー! あなた、いつでも元気ねー! ずっと蜂の子ちゃんって呼んでたけど、あなたには“ミツハニー”って名前がついていたのを昨日知ってさ! でも、ビークインってポケモンに仕えるポケモンなんだよね? ここに居ても大丈夫なの?」
と、それを訊ね掛けた瞬間にも、ぶぶぶと鳴らしていた羽音が弱まっていく。
……そして、それぞれが異なる顔をしていた三つの顔が、みんな悲しい表情へと変わっていったのだ。
――もしかして。
「……ごめん。あなたの居場所も“あいつら”のせいで――!」
ミツハニーをぎゅっと抱きしめるアタシ。脇に移動していたロコンもまた悲しげな顔でこちらを見遣ってくる中、この胸で再びと活性化したミツハニーがアタシにすごくくっ付いてきて、その顔を擦り付けてくるのだ。
「ぉ、待って待って! アッハハハ、くすぐったい! ねぇちょっと、ミツハ、ミツ、もー蜂の子ちゃん!! 蜂の子ち――ッだー!! そこ胸!! 胸だってちょっとくすぐったいーーー!!!」
どてーっ!! っと転がるアタシにくっ付いてくるミツハニー。特に左の顔はアタシのことをものすごく気に入ってくれていたらしく、羽をバチバチと叩き付けるようにアタシの肩に当てながら、ひたすらとそのハチの巣のような身体で、アタシの服の中に入ろうとしてくるのだ。
そして、なんだか戯れている様子にマリルリやワンリキーといったポケモン達も寄ってくる。アタシが持ってきた美味しい食べ物を片手にこんな光景を皆が笑ってくれていて、それを肌身で感じると、アタシもまた嬉しくなってくるような感じがして、よりみんなに寄り添えるようになりたいと願えてくるのだ。
――でもって、アタシは“ある想い”をひしひしと感じ取っていた。きっと、それをアピールするための戯れでもあったのだろう。
ガバッ! アタシは勢いよく起き上がって目の前のそれを抱き抱えると、それを掲げるようにして木漏れ日に照らしながら、それを訊ね掛けていったのだ。
「なぁに、ミツハニー! もしかして、アタシと一緒に居たいの?」
ぶぶぶ、ぶぶぶ。再びアタシに突撃してくるその身体。ぐしゃっと顔面にめり込むと、ハチの巣のような身体に突っ込んだ顔からは、あまいミツの香りが鼻の中に充満し始めるのだ。
「っ!! 分かった分かった! いいよ! 一緒に行こ! アタシは、あなたが仕えてきたビークインのような、強くて立派なご主人様にはなれないかもしれないけど。でも、あなたに広い世界を見せてあげることなら、きっとできる! ――よろしく、ミツハニー!!」
あまいミツというどうぐがもたらしてくれた、新たなる出会い。この時にも、あまいミツのように甘い、甘えん坊さんなパートナーがまた一匹、アタシの下に加わってくれた!
木の葉で遮られた太陽へと掲げるその身体。周囲のみんなも拍手をしたりしてアタシ達を祝福すると共に、新たなメンツが加わったことでラルトスやサイホーン、特にマホミルなんかはミツハニーの周りをぐるぐると飛んで歓迎してくれていたものだ。
――と、その瞬間にも、ふと脇腹に突っ込んできたもう一つの衝撃。
「ぐほッ!! ……え、なに?」
揺らぐ身体でミツハニーが飛び立つと、空っぽになった両手に緊張感を走らせながらも衝撃の正体へと見遣っていくアタシ。
……真白で小さな身体。こちらをじっと見つめ続け、なんだか不安げな顔をして尻尾を振っているその存在。
「……ロコン、どうしたの?」
アタシが問い掛ける間にも、同じく小さな身体でトコトコと歩いてきたラルトス。ラルトスがロコンに触れて少しすると、ラルトスの角からは、怒りともとれる赤い光がピカピカと灯り始めたのだ。
だが、同時にしてアタシへとすがってくるロコン。それも、自身のにおいをつけるようにアタシの身体へと擦り付けてくると、次にもその頭を、アタシの身体に打ち付けるように激しくぶつけてくる。
……居ても立っても居られない。此処でじっとしてはいられないといった、精神的に落ち着かないその気持ちの中で、拠り所を探そうとする、二つの感情。アタシは、その子に迸る昂った感情をなんとなく感じ取ると、ステイステイと手で止めるようにしながら、それを言う――
「ロコン、落ち着いて! ……憎いんだよね、マサクル団のことが。でも、待ってほしいの。気持ちはアタシも分かるし、でも、アタシが思っている以上に傷付いたあなた達の方が、アタシの気持ちなんかよりもずっと、あいつらに対して強い感情を持っていることも分かってる。ただね、ロコン。アタシは確かに旅をしているけれども、この旅は、あいつらとは何も関係の無い、人として、ポケモンとしての高みを目指す冒険なの。だから、アタシはあなたが思っているようなことはしていない――」
すり、すりすり……。
身体を擦り付けてくるロコン。ロコンが持つ感情はきっと、マリルリやポポッコといった周りの子達も抱いている、皆が同じ立場で経験したからこその憎悪にまみれている。
だが、それでも周りがアタシにこれ以上もの期待をしないのは、アタシという人間は“ヤツら”を退治することに長けた専門家ではないことを理解していたからだ。
アタシが思っている以上に、ポケモンという生き物はとても賢い。きっとみんなは、“ヤツら”に出くわした際の対応なんかがアタシ自身にとってもイレギュラーなものであったことを把握しながらも、それでもなおポケモン達のために一緒に戦ってくれたことに、感謝をしていたのだろう。
そして、だからこそ周りのポケモン達は、アタシについてこようとはしなかった。ただ、ミツハニーだけは例外であり、この子は純粋にミツハニーというポケモンの種が持ち合わせた本能に従うまま、新たなご主人様、又は、心から安心できる拠り所をアタシに見出しただけの話。
だから、アタシはロコンの憎悪に沿うことはできない。今もロコンの生きる動力源ともなっているのだろう、“ヤツら”に対する憎きその想いは決して、アタシの往く道を共にすることはできないのだ。
ロコンは、必死に訴え掛けるような目でアタシのことをじっと見てきていた。それでもアタシは「アタシは、あなたが思っているような人間じゃない。道端で“あいつら”と出くわしたら、そりゃあ今度こそひっ捕らえるために全力を尽くすけれど。でもね、“あいつら”をひっ捕らえることは、アタシ達からすれば寄り道に過ぎないの」と、真白な身体に手を添えながら向き合っていく。
……しばらくして、ロコンは悲しい顔をしながら一軒家へと戻っていった。トボトボと歩いていくその足取りも寂しいものであり、許せないという気持ちを抑え切れずに先走りするロコンの気持ちを理解しながらも、だからこそ諭した自分の言葉に、アタシは心苦しく思えてしまう。
ごめんなさい、ロコン。今にもマサクル団を駆逐するための本部もつくられるだろうから、その時にはあなたを、そこに連れていってあげる。
「……みんなも、ごめん。分かっているとは思うけれど、アタシは“ヤツら”を追うような人間じゃないの。でもね、“ヤツら”を懲らしめている、強くて頼れるカッコいいお姉さんをアタシ知っていてさ! で、きっとこれからにも、そんなお姉さんのような人達が増えてくると思うから。だから、絶対に“ヤツら”の勝ちで終わらせない! “ヤツら”の正義を貫かせない! 最後に勝つのはアタシ達なんだから!! だから、今はいっぱい食べて元気を出そ!! 腹が減っては戦ができぬ。まずはたくさん食べて、十分戦えるだけの力をつけていこうよ!!」
グッと拳を握り締めながら言うアタシの言葉に、みんなは力強く頷きながら食べ物を口にしていく。
……アタシも、みんなの仇を討てるように、もっと強くなるから! 心の中で決心する、どうぐ集めとジムチャレンジに次ぐ三つ目の目標を掲げたアタシ。それと共に新しく加入したミツハニーという仲間を引き連れて、アタシは再び、オウロウジムの攻略を目指すのだ――