オウロウビレッジに設けられた、ジムチャレンジに挑むチャレンジャーのための公共施設。それはジムチャレンジのための役所でありながらも、図書館と言われても何ら不思議でもない、立ち並んだ本棚と大量の本がずらりとお出迎え。入口から奥へと続くそれらを通り抜けていくと、その先には、試練の地をくぐり抜けたトレーナー達が身を休めるカフェとなっていた。
自慢のポケモン達を連れながら、和気藹々と交流を深めていくトレーナー達。ここで知り合ったのだろう男女のトレーナーはなんだかイイ雰囲気を醸し出しながら本を眺めており、そんな主人たちの傍で良い子にしているガラガラとエレザード。カフェの前にはミルタンクが自らモーモーミルクを売りに出ており、それをブリーダーの格好をした人と一緒に取り扱っていくのだ。
この施設へとやってきたアタシは、とてもヘトヘトといった具合に真っ直ぐにも歩けない疲労のまま訪れていた。外はジムチャレンジの熱気でムンムンとしているし、しかもこの前のマサクル団の件で、飛び付いてきたメディアなんかが余計にオンタケ山とオウロウビレッジを行き来しているものだから、ざわついた忙しない外の空気で身も心も休まらない。
で、アタシは安らぎを求めてここに訪れたということだった。ラルトスを抱えて本棚を通り抜けてきたアタシは、そこに広がっていた穏やかな照明のカフェを目にするなりホッと一息をついていく。
ユノさんはマサクル団の件でまたどこかへ行っちゃったものだし、ランヴェールさんもその姿が見えないから合流できないし。あの二人の傍にいる時が一番安心できるものだからくっ付いていたかったが、二人の姿が見えない以上、こうして一人で過ごすしかないものだ。
……ま、アタシにはパートナー達がいるから、そんな気にならないけど。ミツハニーという新たな仲間も増えたことだし。
るんるん。建物の壁に沿うように並んだ出店の数々。甘いあまーいスイーツを扱うお店から、がっつり食べられるお肉を扱うお店まで。その種類は様々であり、どのお店にしようかとラインナップを眺めているだけでも幸せになってくる。
で、アタシのラルトスもウキウキとしていた。美味しいものを食べられる予感に、歓喜で心が跳ねていた様子。「何にしよっかー」なんてラルトスに話し掛けながら遠目でお店を眺めていると、次の時にも掛けられたその声で、アタシはハッとラインナップから意識を逸らすことになる――
「ああーーーー!!! ラルトスのネーちゃんじゃんッ!!! おーーーい!!」
「おい馬鹿!! 声がでけェんだよ!! よそ様の迷惑になるだろッ!」
「ああ、ごめんごめん! おーーーーい!!!」
聞き覚えのある、男の子の声。その独特な呼び名にも心当たりがあったアタシはそちらへと向いていくと、そこではカフェの丸テーブルを囲う三人のポケモントレーナーが座っていた。
ヴィジュアル系の、黒色のショートヘアー。左目が黄色で、右目が青色というオッドアイの持ち主である彼は、両肩をだらしなく曝け出したピンク色の大きなパーカーと、七分丈のズボン。黒色とピンク色の運動靴を履いていて、パーカーの下に直で着用している黒色のインナーが、全身タイツのような要領でパーカーとズボンから顔を出している。
そんな彼に、「だから、いちいち声がでけェんだよ!!!」と声を荒げながら力ずくで座らせる、ヤクザのような雰囲気の男の子。乱暴な茶髪のショートヘアーと、目の下の黒色。オレンジと黄色の上着と黒色のシャツで、濃い緑色のカーゴパンツと黒色の靴という、荒々しい声音でバンギラスよりもおっかない顔をしており、雰囲気からして相反する二人の男子がワイワイとやっているその様子を見て、アタシは記憶をフラッシュバックさせていった。
……オウロウビレッジに到着してすぐの頃、オウロウジムの前まで来てその建物を眺めていたら、突如とぶつかられた強い衝撃。
起き上がるアタシへと、心配する声を投げ掛けたその男の子。しかし、アタシが抱えていたラルトスを見るなり、男の子はぶつかった痛みなんかを忘れた夢中な様子で、こちらへとぐいぐい寄ってくるのだ――
『わっ!!!! すげ!! ラルトスじゃん!!!! オレ初めて見るよ!! ねね! オマエのラルトス触っていい!? え、すごいなー!! ラルトスってこんな感触するんだなーー!!! うわカワイイーーーーッッ!!』
『え。え。ちょ、待って。待って』
「ラルトスのネーちゃん!!! なんか調べもの!? それとも何か食べるの!? んまー、どっちでもいいからさ! こっちに来てなんか話しよーぜーーーー!!!」
「おいてめェ、“クルミ”ッ!! 大声を出すなって怒られただろッ!!! どうしててめェは、いつもそんなんでいられるんだッ!!」
「おっととと! そうだった、そうだった! 周りのみんな、うるさくしてごめんなーーー!!!」
「だから、それがうるせェって言ってんだよッッ!!!! いい加減にしろッ!!」
「ぐェ――」
ヤクザのような男の子に、ヘッドロックで首を絞められる彼。実力行使で彼を無理やりと黙らせていく光景に歩み寄るアタシであったものだが、こちらが近付くのを感じ取るなり、ヤクザのような男の子は目の下につくったクマのような黒色からなる眼光でアタシを見遣りながら、それを口にしてくるのだ。
「悪ぃなッ! こいつのことは忘れてくれ! 一度でも何かに興味を持っちまうと、ちと手に付けられなくなる野郎なんだ――おい、クルミッ、動くんじゃねェ!!」
「もが、もが!!! ラル、ラル、ス、もぎぃーーーー!!!」
「ポケモンみてェな鳴き声出しながら暴れるんじゃねェ!!!」
――今も十分うるさい……。
内心でそんなことを呟くアタシ。ラルトスも「うわぁ……」みたいな顔で二人を眺めていくのだが、ふと、なにか突き刺さるような視線を受けていることに気が付いたアタシは、そちらへと向いていく……。
……彼らと席を共にしていた、もう一人のポケモントレーナー。その子もまたアタシと同年代くらいの女の子であることが分かるのだが、向けられた視線は、まるでアタシを排除せんとばかりに刺突してくる鋭利なもの――
腰辺りにまで伸ばした黒髪のロングヘアーで、ピンク色の瞳を妖しく光らせている。紺色の学生服を着用してジムチャレンジに臨んでいるのだろう彼女は、焦げ茶の歩きやすそうな靴と、大人な雰囲気を醸し出す黒色のストッキングという大人びた印象を与えてくるその外見。
で、彼女はやけに、アタシのことを睨んでいた。それも、心の声がダダ洩れとも言えるほど「気に食わない……」の一言がよく伝わってくる。
えぇ、アタシなんかしたっけな……。見なかったことにするかのようにアタシは視線をずらしていくのだが、そのずらした先では未だにヘッドロックをかけながらジタバタとしている二人の姿が視界に入る。
……何なんだこれ。一つの視界の中に情報量が多すぎる――
「その、アタシさ……今日はオフの日というか、今日だけジムチャレンジを忘れて休憩しようって思っていたから、お話くらいならできるけど……?」
「ホントッ!!??」
ヘッドロックを上半身でくぐり抜けてきたその勢い。彼が眩しいほどの笑顔でアタシへと飛び付いていくそれに対し、ヤクザのような子が「おい、待てッ!!」と椅子を倒しながら慌てて彼をひっ捕らえていく。
「アタシは大丈夫だから。……それに、少しでも話をしないと多分、ずっとこの調子でしょ?」
「やったーッ!!! オレ、ずっとラルトスのネーちゃんと話してみたかったんだーッ!!! ささ! 席に座って座って!! なにか食べたいものある!? 飲みたいものも!! オレ、ネーちゃんの代わりに取ってくるからッ!!!」
「おいクルミ、お前さんのために時間を割いてくれたっつーのに、話したがってた当の本人が席を外してどうする。それは俺かカナタの役目でいいだろ。――すまねェな、お前さん。先日にも迷惑を掛けた礼として、この場は奢らせてくれ。高いもんでも何でもいいからよ、お前さんの好きなもんを注文してくれれば俺らが取りに行く」
「あー……ありがと。なんかアタシ、そんな接待を受けるようなことなんてしてないんだけど……」
と、ヤクザのような男の子と話しているところに顔を突っ込んできた、とても元気な彼。「ねね!! ずっと気になってたんだけどさ! オマエって、ラルトスをどこで捕まえたの!!?」から始まるウキウキな質問攻めに、アタシは困惑しながら答えていくその最中にも、ヤクザのような男の子から差し出されたお店のメニューに指を差して料理を希望していき、それを確認してから出店へと向かっていく男の子。
粗暴な見た目に反して、とてもしっかりしている……。そこに驚きながら次々と降りかかる質問にアタシはあたふたとしながらも答えていくのだが、そうしてアタシと彼が会話していたこの光景を、二人に同行していた女の子は睨むように終始それを眺めていたものだ――